軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-19 準備/忍

さて、仁とエルザは蓬莱島に戻り、セルロア王国の建国記念式典への出席準備を整えることにした。

『 御主人様(マイロード) 、どうせなら『崑崙式』の服を誂えたらいかがでしょう?』

「『崑崙式』?」

『はい。やり過ぎない程度に、独自色を出して』

「あら、それいいわね」

仁の後ろから声がした。

「ステアリーナ?」

「ええ、さっきこっちへ来たんだけど、面白そうな話をしてるみたいね」

『ステアリーナさんもそう思われますか。…… 御主人様(マイロード) 、羽織袴とは言いませんので、何かお決めになっては?』

老君からの再度、提案がなされた。仁も少しは考えたことがあったので、その意見には基本的に賛成である。

「あー……。それはいいと思う。じゃあ、どんな服にするか、なんだけどな」

「お父さま、基本は背広、というものでよろしいのでは?」

「背広か……」

仁も、就職活動の時は背広を着ていたし、先輩の結婚式に呼ばれたときはレンタルの礼服を着たこともある。

思うのはそういう服だ。さすがに燕尾服は着たくない。

「わかった。そっちの方向で考えようか」

「うん、手伝う」

「くふ、材質も吟味だね!」

そこへサキもやって来た。

「色も工夫したいね。蓬莱島の主で『崑崙君』のジンは黒。奥方のエルザは紺。他は青とか緑とかかな?」

「お、奥方、って」

サキの軽口にエルザが赤面する。

結局、仁、エルザ、サキ、ステアリーナの4人が相談し、工夫を凝らして、蓬莱島仕様の礼服が出来上がったのはその日の夜だった。

「うんうん、ジン、なかなか格好いいよ」

「エルザさんもよく似合ってるわ」

それは一言でいうと『三つ揃え(スリーピース)』。

仁はスーツジャケット、スラックス、それにベスト。エルザ用はスラックスの代わりにタイトスカートである。

色は、仁は黒、エルザは紺となっている。また、ネクタイは白とした。

全体的に、現代地球よりはゆとりのある、ややだぶついたとも言えるシルエットになっているのは、こちらアルス世界の標準に近づけたのである。いわばルーズフィット。

素材は、表地には 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の革を極限まで薄く引き延ばしたもの。それでも、魔力を流せば剣で傷付けることさえ出来ないはずだ。

裏地は『 地底蜘蛛絹(GSS) 』。軽くて丈夫、しわにならず、汚れもつきにくい。

ワイシャツは白。これも『 地底蜘蛛絹(GSS) 』製だ。

「サキ、悪いな。この前作ってもらったベストが没になりそうだ」

古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) 素材で出来たベストのことである。

「でもな、あっちはあっちで、礼服ではなしに普段着みたいな意味合いにしようと思うから」

フォローを入れる仁。

仁としても、公の場以外でこの礼服を着る気にはなれないから、その点では無駄にはならないだろう。

「ところで、ハンナ用は?」

と、仁が尋ねたところ、ステアリーナが驚いた顔をした。

「え? まさかジン君、ハンナちゃんを式典に連れて行こうというの!?」

そして勢い込んで確認された。

「……ええ」

「何考えてるの? 絶対駄目! 小さな子を、あんな危険で殺伐とした街へ連れて行くなんて、教育上良くないわ!!」

ものすごい剣幕である。

「えーっと。……そんなに?」

「ジン君やエルザさんは、もう世の中を知っているからいいとして、ハンナちゃんは駄目。少なくとも14、5歳になるまで、あんな街に連れて行っちゃ駄目よ!」

ステアリーナの説明によると、彼女が住んでいた地方都市ゴゥアに比べ、ダリという街は王家の権限が強くて、町中に監視の目が光っているそうだ。

「ゴゥアでもあの『我が儘兄妹』と出会ってしまったくらいですもの、ダリになんてハンナちゃん連れて行っちゃ駄目!!」

「は、はあ……」

いつにないステアリーナの剣幕に押されっぱなしの仁である。

「……ジン兄、ステアリーナさんがここまで言うのはよほどのこと。今回は忠告を聞いた方がいい」

「……だな」

エルザにも忠告された仁は、ハンナを連れていくことを断念した。

「あー……近々埋め合わせしないとな」

ハンナには大甘な仁である。

最後に、礼子とエドガーの服も新調した。 地底蜘蛛絹(GSS) 製とはいえ、大分着古したので、この機会に新調しようと仁が言いだしたからだ。

とはいえ、デザインは同じ。

これは、特に礼子が、

『お父さまから最初にいただいたこの服がいいのです』

と主張したためである。

ただし、従騎士としての紋章——丸に二つ引き——入りのマントを新調したが。

「あとは、防具か」

行き先がセルロア王国であるから、万が一、億が一の事態にも対応できるように考える。

一番気になるのは防御、つまり 障壁(バリア) 発動のタイミングである。

これには、サキがアイデアを出してくれた。

「ジン、老君に監視してもらって、危なかったら 障壁(バリア) を張る、というのはどうだい?」

「ああ、そうか……」

監視の『目』をどうするかはさておいて、発動のスイッチを老君にも渡す、と言うのはいいかもしれないと仁は思った。

どうしても、何かに気を取られていたりすると反応が遅れることがあるからだ。

「どうせなら、ファミリーの証になるようにして、 魔素通信機(マナカム) 機能も付けたいな」

「そうなると、指輪じゃちょっと無理だね」

「……腕輪?」

エルザの発言。仁は頷く。

「そうだな。ちょうどいいかも」

仁の脳裏には、腕時計が通信機になっているシーンが思い浮かんでいたのかもしれない。

こうして、仁ファミリー用の腕輪が作られた。

本体は軽銀。地球で言うチタンなので、(今までそう言う症例をこちらの世界では聞いた事がないが)金属アレルギーがあっても安心だ。

そこに 魔結晶(マギクリスタル) をセットし、 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込んで、 魔導回路(マギサーキット) を形成するわけだ。

これらの書き込みは全て内部に施されるため、本体が欠損などの大規模な損傷をしない限り、動作不良を起こすことはない。

「どうせだからハンナ用も作っておこうか」

連れて行けないお詫びと、今後のことを考えて、である。

仁のものは漆黒、エルザのものは水色、ハンナ用は黄色、サキ用は薄紫色、ステアリーナは 銅(あかがね) 色……と色分けしていく。

「非常ライトにもなるようにした」

要するに懐中電灯である。目眩ましにも使える。

「これはいいね」

早速腕に着けたサキはにこにこ顔だ。エルザも左腕に嵌め、ためつすがめつ眺めている。

「さて、老君側の監視装置は……」

「超小型のゴーレム。できれば飛べるといい」

仁が考えていたこととほぼ同じことをエルザが言い出した。

「うん、それでいいだろう。大きさは体長5センチ。フィンガーやサムと同型だ」

力場発生器(フォースジェネレーター) 内蔵、もちろん『 不可視化(インビジブル) 』、『 障壁(バリア) 』機能搭載。

「武器を付けるより、どんな場合でも逃げられるよう、転送装置を内蔵させたいな」

移動距離が50メートル程度であれば、何とか内蔵することができそうである。それだけの距離を一瞬で移動できれば、大抵の危険からは逃げられるだろう。

「最悪の場合は……自己破壊、か」

悲しいことであるが、最悪のケースの場合、主要な 魔導装置(マギデバイス) を破壊し、蓬莱島の秘密を守るようにする。

「できれば後で回収して、直してやれたらなおいいな」

仁らしい気づかいであった。

動力源は 魔力反応炉(マギリアクター) とエーテノール。

通常動作は 魔力反応炉(マギリアクター) で賄えるのだが、 力場発生器(フォースジェネレーター) で飛行するには間に合わず、エーテノールを使うことになる。

そのため、飛行可能時間はおよそ2時間。常時飛び回っているというわけにはいかない。

「まあ、天井に張り付いていればいいだけだしな」

『はい、見つかる心配を考えれば、妥当な性能でしょう』

こうして、老君直属の監視部隊『 忍(しのび) 部隊』が誕生した。まずは全部で10体。

『 隠密機動部隊(SP) 』を別名『忍者部隊』と呼ぼうとしていた仁であったが、『SP』の方が呼びやすかったため、結局定着せずじまい。

ここで『 忍(しのび) 部隊』として名称だけ復活したのであった。

『名前は 忍(しのび) 壱、 忍(しのび) 弐……でいいですね』

老君もちょっとだけ拘っていた。

「で、ジン兄、贈り物は決めたの?」

各国の悩みどころである『贈り物』。エルザも何がいいかいろいろ考えたのだが、なかなかいい案が思い浮かばなかったのである。

「ああ。俺の考えでは、魔導具はまずいと思う」

仁の見立てでは、セルロア王国では、魔導具を受け取ったら、まず分解し、危険性を見極めると共に、機能を解析し、有用な技術はコピーされるだろうと思われる。

「ティアなんか、ばらばらにされていただろうな」

「……そう考えると、ジン兄はいいことを、した」

「まあな。そんなわけで、魔導具は却下。素材系も止めておいた方がいいな」

「ジン、というと?」

「美術品系がいいと思っているんだよ」

「ははあ、そうか。バラしたら価値が無くなるし、見栄えもいいからね。でも具体的には何を作るつもりだい?」

「そりゃあ、俺の作るものといえば……」

「……ふぃぎゅあ?」

かつてポトロックで作ったマルシアフィギュアのことを聞いて知っているエルザが、少し冷たい声で言った。

「……まあ、近いけどな」

「じゃあ、何?」

「芸術品だよ」

仁が脳裏に思い描いていたのは『ミロのヴィーナス』であったのだ。