軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-17 和気あいあい/宴会

礼子が言ったようにエルザは厨房にいた。一番年長のソニアも一緒である。

「あ、ジン兄」

「ジン様」

「やあ。……ソニアはエルザに料理を習っているのか?」

ソニアが頷く。

「はい。朝いただいたご飯が美味しかったので、作り方を習っていました」

「そうか。エルザもご苦労さん」

見れば、作っているのはお粥とシチュー。

トポポの調理法を中心に、エルザは教え込んでいた。

初めの頃はトポポを『 悪魔の芋(デビル・バルブ) 』と呼んで恐がっていたエルザのことを思うと、成長したなあ、と仁も感慨深いものがあった。

「エルザ様、できました! これでいいでしょうか?」

ソニアは、シチューの味見をエルザに頼んだ。一口飲んでエルザは頷く。

「美味しい。これなら大丈夫」

「よかった……!」

ちょうどお昼時なので、他の少女たちに食べさせるつもりだったようだ。

朝と同じ献立でいいのか、と仁は思ったが、彼女たちは気にしないらしい。

「あ……ソニア姉?」

「いい匂い」

客間で眠っていた少女たちも目が覚めたらしく、匂いに惹かれてぞろぞろと厨房を覗きに来た。

「もうできるから、朝と同じ場所へ行っていて」

仕切りで区切られた大広間。

そこに、お粥とシチューが運ばれてきた。

「エルザ様に教わって、私が作ったのよ」

とソニアが言えば、少女たちは感心したような声をあげる。

そして和気藹々とした昼食が。

そんな最中、ソニアが仁に尋ねる。

「……あの、こんなに良くしていただいているのに、こんなこと言っていいのかなとは思うんですけど」

「ん? 何かな?」

「……私たちと一緒に売られてきた子がもう1人いるんです」

仁はすぐに思い当たった。

「ああ、わかってる。リタ、という子だな? エルザの兄さんが保護しているよ。近々連れてくるから安心していい」

それを聞いて、ソニアや他の少女たちの顔が明るくなった。

「そうだったんですか! わかりました、ありがとうございます!」

やはり気になっていたようだ。仁はもっと早く伝えてやれば良かった、と反省した。

「食べながら聞いてくれ。今日の夕方、この場所で宴会がある。その時に君たちも村の人たちに紹介するからな」

「……は、はい」

「で、お昼を食べ終わったら温泉に連れて行くから。タオルと替えの下着をゴーレムメイドから受け取っていってくれ」

魔絹(マギシルク) 製の新しい下着が用意されている。サイズ違いもあるので、確認してから受け取るように、と念を押す仁であった。

二堂城の浴室では全員がいっぺんに入れないので、外の公衆浴場に連れて行くことにしたのである。

冬とはいえ、昼下がりなのでそれなりに暖かく、お腹いっぱい食べ物を食べたことも手伝って、少女たちも朝のように寒がることはなかった。

「ここが温泉ですよ」

案内役のルビー101が言い、扉を開ける。

「わあ……」

脱衣所にも湯気が籠もり、暖かい。

「ここで服を脱いで下さい。浴室ではまず掛け湯をして、身体の汚れを取ってから入浴を願います」

簡単な利用上の注意を聞かされた後、少女たちは入浴。

「ふわあ……」

「あったかくて気持ちいい……」

彼女たちの出身地、ラリオ村では水浴の習慣はあったが、主に燃料代の関係で温水浴つまり風呂に入る習慣はなかったのだ。

「こんなに沢山のお湯、沸かすのが大変そう」

ソニアはそんなことを考えていたが、

「これは温泉といって、地中から湧き出してくるお湯なんですよ」

とルビー101に言われ、

「ええっ? そうなんですか!」

と、驚いている。ルビー101は簡単に説明してやる。

「ええ、地面の奥深くには温かい場所があるんです。そういうところを通った湧き水がお湯になるんですよ」

「へえ、お湯が地面から湧くんだ……」

「村でも湧くのかな?」

等と、他の少女たちも興味深そうに話を聞いていた。

「リタの実でもいいですけど、これを少量使うと汚れが良く落ちますよ」

ルビー101が示したのは 米糠(こめぬか) である。

それまで使われていたリタ(ムクロジ)の実を使うより、ずっと肌に優しいのだ。

因みに今現在、カイナ村特産の重曹を使って、米糠石鹸ができないか、試行錯誤中である。

「リタ……」

「元気かなあ……」

同じ名を持つ少女のことを思い出し、数名の少女がちょっと寂しそうな顔をした。

「大丈夫よ。あの子、あれでしっかりしてるところもあるから」

リタというのは大木になる木であり、日射しの強い頃は、その葉陰が人々の憩いの場所となる。そして、秋に熟した実の果肉が洗剤に使われるのである。

そんな会話を聞いたルビー101は、内蔵 魔素通信機(マナカム) で老君と連絡を取った。その結果、

「ええ、大丈夫ですよ。保護されたフリッツという方はエルザ様のお兄さまであると同時に、ショウロ皇国の軍人で、しっかりした方ですからね」

という情報を知らせることで、より安心させることができたのである。

* * *

夕方、午後5時少し前。

二堂城大広間には村人が集まっていた。

「今日は村長の披露宴だって?」

「あと、何か発表があるらしいぞ?」

がやがや、ざわざわと賑やかである。

そしてちょうど5時の鐘と同時に、仁が演壇に立った。

「皆さん、お集まりくださってありがとうございます。本日は、村長ギーベックさんと、診療所のサリィ先生の結婚披露宴と言うことで、急遽設定しました。お二人を祝福して差し上げて下さい」

そして、演壇の袖から2人が登場する。2人とも、仁が用意した豪華な服を身に着けている。

ギーベックは黒を基調として、貴族も着るようなデザインの服だ。

サリィの方は白を基調とし、レースをあしらったイブニングドレス。純白のウェディングドレスにしようと仁が言ったら、真っ赤になって拒否されたのだった。

「うぉー! 村長、おめでとうー!」

「サリィ先生、これからもずっとよろしくー!」

等という歓声がそこかしこから上がる。

そして仁は、もう一つの報せをここで行うことにした。酒が入ってしまうと、まともに聞いてもらえないだろうからだ。

「そして、もう一つ、お知らせがあります」

エルザに合図すると、10人の少女が壇上に上がってきた。

「えー、この子たちは、事情があって、しばらくカイナ村で預かることになりました」

10人の少女たちは一斉にお辞儀をする。

「出身はセルロア王国の東部、リーバス地方のラリオ村です。この冬、向こうは不作のため、食糧難となっているようなんです。それで、春の終わりくらいまでここにいてもらうことになりました」

少女たちの代表として、ソニアが進み出、挨拶をする。

「あっ、あのっ、ソニアと言います。……いろいろご迷惑をお掛けするかと思いますが、どうかよろしくお願い致します」

そして深々とお辞儀。それに合わせ、他の子たちももう一度お辞儀をした。今度は、事情を察したのか、軽口は発せられなかった。

「ということだ。みんな、優しくしてやってくれ。彼女たちには、我々とは違う生活の知恵もあるだろう。そういうことは教えてもらい、また、村のことも色々と覚えてもらって、短い間とはいえ、仲良くやっていきたいと思う」

ギーベックも言葉を添えたのである。

それからは賑やかな宴会になった。

「村長さん、おめでとう!」

「サリィ先生には幸せになっていただきたいですよ」

村長とサリィを祝福する者たちがいる。

「ソニアちゃんたち、こっちおいで!」

遠慮がちな少女たちには、マーサが声を掛けてくれた。

「おねーちゃんたち、とおくから来たんだね」

人見知りしないハンナも話し掛け、一番年若い子と仲良く話をし始めた。

「……これで一安心だな」

ちょっと離れたところで宴会の全体像を眺めていた仁がほっとしたように呟いた。

「……ん。この村は、ここの人たちは、とても、素敵」

仁の隣にいたエルザも、笑顔で頷いたのである。