軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03-17 礼子、出動

「魔力? どこからだ?」

礼子は少しの間、探知に専念していたが、

「はい。この感じですと、折り返し地点の近くです」

それを聞いた仁の頭をよぎったのは、マルシアが狙われているかも知れないということ。だが、

「まさかとは思うが、何か競技の邪魔をするような奴がいるのか?」

「それはここからではわかりません」

「これもマルシアを狙っている可能性もある、か」

仁は腕を組み、しばらく考えていたが、たまたま出会ってチームを組んだとはいえ、マルシアには勝ってもらいたい。自分の作った船が優勝するところを見たい。

「よし、その海域へ向かうぞ」

そしてフェアな競技を邪魔する奴は気にくわない。

「大会役員だって近くにいるだろう。もし妨害者だったら見つけ出して突き出してやろう」

意気込んでそう言った。

「はい、お父さま。お手伝い致します」

当然礼子はそれに従う。

「よし、それじゃあ、マルシアから借りた船で行こう」

おととい借りた外輪船もどきは桟橋にもやってある。仁と礼子は席を離れそこへ急いだ。

「おや? ジンとレーコ嬢、どこへ行くんだ?」

最上段の貴賓席から見ていたラインハルトは2人が席を立つのを見た。そして桟橋の方へ歩いて行くのも。

「ん、面白い船だな。水車が両側に付いているのか。……行ってみたいが ここ(貴賓席) にいたのでは無理か」

貴賓席は貴族毎に個室のように区切られており、出入り口には警備員が立っているので、むやみやたらと席を立つ事が出来ない。

ラインハルトは己の両脇後ろに立つ侍女2人をちらりと見やると、あきらめの溜め息をついた。

そうしてラインハルトがそのまま見ていると、2人はその船で港を出て行くようだ。

「お? おおお? は、速い!」

思わず声が出てしまう。それもその筈で、礼子が回す外輪は高々と飛沫を上げ、あっという間に港を出て行ってしまったのだから。

ほとんどの者が競技を観戦していたので、それを見ていたのはラインハルトと、桟橋にいた数名だけであった。

「よーし、いいぞ、礼子、その調子だ」

競技のため、ほとんど自分達に注意が払われないと知った仁は、最初から飛ばしていた。

そして、自分の目では観客席が見えなくなったのを確認すると、

「礼子、20パーセントまで出していいぞ」

「はい、お父さま」

礼子には余裕があったが、これ以上はあり合わせの材料でこしらえた外輪が耐えきれないだろう。

華奢な礼子の腕が、目に見えないほどの速さで外輪を回す。水飛沫は数メートルも高く上がり、船は矢のように進んでいく。

その速度は時速60キロを超えているだろう。競技トップを走る船の倍以上という速さである。

「は、速いな」

双胴船でなく普通のボートなので安定が悪い。それでも礼子はうまく操り、危険を感じるほどの揺れは起こしてはいなかった。

「おいおい、ありゃなんだ?」

魔導監視眼(マジックアイ) で競技を中継する役目の船、それに乗り込んだ船員の1人が目を見張った。

カヌー程度の大きさの船が、考えられないほどの速度で横を通り過ぎていく。

乗っているのは小柄な男と、あろうことか水色のワンピースにエプロンドレスを着た少女に見える。

「俺の目がおかしくなったんかな……」

目を擦ってもう一度見てみると、その船は白い航跡を残して水平線に消えていくところであった。

競技ではないので岩礁地帯を通ることなく、仁と礼子は外海へ出た。

そのまま、礼子が探知する魔力を目指す。

「礼子、どうだ? 相手のこと、何か分かったか?」

「……」

礼子は答えない。漕ぎながら、懸命に魔力探知をしているのだ。

そして、ついに口を開いた礼子は申し訳なさそうに、

「お父さま、これは人間ではありません。魔力が強くなってきました。間違いなく 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) です。その数、約40」

「何だって?」

礼子とラインハルトが退治したという魔物である。

「向こうもかなりの速度でこちらへ向かってきています。こちらも向かっているので、急速に接近中」

「 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) って、お前がこの前相手したっていう魔物だな?」

確認するように仁が尋ねた。

「はい、お父さま」

「で? 倒せそうか?」

その問いに肯く礼子。

「はい、問題なく」

「問題ないのか……」

「強いて問題点を挙げるとすれば、やや時間が掛かるということでしょうか」

相手は40匹、こちらは1隻である。時間が掛かるということは、それだけ競技への影響も増す。

「もうここで引き返すわけにもいかないか……」

ここは競技折り返し地点の無人島『イオ』から10キロほど離れた海上。あたりに船影は無かった。

外輪が消耗してきた今、最早先ほどまでの速度は出せそうもない。ここで引き返しても帰り着く前に背後から襲われる可能性もある。

大分外輪の軸受けがすり減っていた。それを応急修理しながら、

「やるしかないな」

と仁は自分に言い聞かせるように呟いた。

少し慌てて出て来すぎたな、と仁は苦笑しながらも、聞き及んでいる 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) の特性から、対処法を考えることにする。

礼子の実力を信じ、自分に出来る事は。そして時間が過ぎていった。

* * *

「あと数分で接敵します」

礼子が敵を感知した事を告げる。仁は、最後の最後に、わずかな希望を込めて、

「礼子、 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) だが、襲ってこないという可能性はないのか?」

と聞いてみる。だが礼子は、

「それはありません。伝わってくる魔力の波動は、凶暴で、破壊衝動に満ちています。加えて 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) は肉食です」

そう聞いた仁も心を決めた。

「わかった。礼子、出来るだけ遠距離で仕留めるぞ」

「了解しました」

そしてその数分が過ぎ、北東の海面が波立ってきた。

「来ました」

仁より遙かに目のいい礼子が発見。仁は即座に指示を出す。

「よし、やれ!」