軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03-16 決勝戦スタート

翌日も晴天、絶好の競技日和であった。

朝食後、競技会場前で仁とマルシアは最後の打ち合わせを行う。

「船の方は出来る限りメンテナンスフリーに仕上げてあるから、調子は変わってないと思う」

「うん、そこはジンを信じてるよ」

「で、作戦とかあるのか?」

「ああ。今年のコースを見た限りでは、湾から出たあたりがテクニカルなステージだ。だからそこを通過するまでは抑えていこうと思う」

双胴船はどうしても機敏な運動性に欠けるきらいがある。そこが操船者の腕の見せ所でもあるのだが。

「そうだな。スタートしてしまえば後はマルシア次第だ、好きにやってくれてかまわない」

仁がそう言うとマルシアは右手を差し出し、

「ジン、あたしの我が儘に付き合ってくれてありがとう。あの日、あんたに会えて良かったよ」

仁はその手を握り返す。もう仁に出来る事は何も無い。

「ああ、頑張れ」

「それじゃあ、行ってくる」

そしてマルシアは仁に背を向け、2、3歩歩いたかと思うと不意に立ち止まって振り向き、

「この水着は余計だったけどな」

そう言ってマルシアは港へと向かった。

仁は昨日と同じように、スタッフ用の席へ。

因みに、ラインハルトや気障男バレンティノは貴族のため、特別に設えられたいわゆる貴賓席である。一方でスタッフ用の席はあまり埋まっておらず、がらがらだ。

「なんで空いてるんだろうな」

混んでるよりはいいけど、と言いながら仁は適当に席を選んで腰を下ろす。隣には礼子。

「さーて、楽しみだな」

そう呟く仁に、

「うちのチームが勝つに決まっています」

礼子が言う。が、仁は、

「いや、勝負は時の運とも言うし、何が起こるか分からない。だから面白いんだ」

そう言って椅子の背もたれに寄りかかった。

* * *

「さあ、待ちに待った決勝戦がやってまいりました!」

時間となり、実況の声が響いた。観客席も昨日以上の入りである。

「本日の決勝戦、わがポトロックのあるエリアス王国南部ザウス州領主、ドミニク・ド・フィレンツィアーノ様もお見えになっています!」

その実況の直後、女性領主は一番高い貴賓席から手を振った。

「今年も、いずれ劣らぬ14隻の快速艇が揃っています。勝つのは誰か? 決勝レース、まもなくです!」

14隻は競技専用のドックから出て、ゆっくりと湾内を進み、決められたスタート地点へ結集しつつあった。

「色とりどりの水着に身を包んだ美女が操るゴーレム艇。その頂点に立つのはどの船か? それは皆さんの目でお確かめ下さい!」

一際歓声が高くなる。

「いやあ、お客さんも盛り上がってますねえ」

「そうですね。今年の水着のデザインにより、観客数が2割増しになったという報告も届いています」

これ以降、ワンピース水着はこの大会の定番となるのだが。

「全隻、スタート準備が整ったようです。今、スタートへのカウントダウンが始まりました!」

水を打ったように静まる観客席、そんな中、カウントダウンの声だけが静かに響く。

「……5。4。3。2。1。スタート!」

割れんばかりの歓声に送られて、14隻はスタートした。

真っ先に飛び出したのはゼッケン1、『エリアスの栄光』。続くのはゼッケン3、『 青い海(ブルーマリン) 』。そしてゼッケン28『 海鳥(シーバード) 』。

マルシアの乗る シグナス(白鳥) は現在7番手である。

「ちょっと出遅れたな」

ぼそりと仁が呟く。スタート時に、隣の船を避けるのに手間取り、やや遅れてしまったのである。

「混戦になると双胴船はやや不利かもな」

すり抜けが若干苦手な双胴船である シグナス(白鳥) は、艇体をぶつけたりしたくないために速度を落とさざるを得なかったので、現在7位に甘んじている。

「ベルナルドさん、予想通り、1番と3番が抜け出してますね」

解説者は昨日と同じである。

「そうですね、予選を見る限り順当です。3位に付けているのは28番、うまくスタート時の混乱を抜けたようですね」

「ゼッケン35が遅れていますが?」

「昨日の追い上げを見る限り、この先の追い上げがあると思います。これからが楽しみでしょう」

その解説の予想通り、港のある湾から出て広い水域に出ると、マルシアは速度を上げた。

「おっ、ゼッケン35、スパートをかけたか?」

6位、5位をゴボウ抜きにして、4位のゼッケン10番に肉薄していくマルシア。

そのあたりで、肉眼での確認は難しくなり、 魔導投影窓(マジックスクリーン) に映し出される映像が頼りとなる。

「ベルナルドさんの予想通りやはり出てきましたね」

「ええ、やはり35番は速いですね。外海に出た事で障害物が減り、実力発揮といったところでしょう」

そのまま シグナス(白鳥) はゼッケン10番を抜き去り、4位に浮上した。そしてレースは第2ステージへと突入する。

第2ステージは、折り返し地点のある無人島『イオ』までの間にある岩礁地帯である。

「今、ゼッケン1がトップで岩礁地帯へと突入! 続くはゼッケン3、そしてゼッケン28、35、10、18と続いています」

「あそこは暗礁もありますので、機敏な操船が重要ですよ」

岩礁を迂回し、暗礁を避けて進まねばならないため、最高速には程遠い。

ゼッケン1はベテラン操船者のリーチェではあるが、強力なゴーレムの推進力を生かし切れていない。

ゼッケン3、エルザは危なげなく船を操り、ローレライも良くそれに応えている。

ゼッケン28はその4本腕のオールと舵の組み合わせによる機動性を生かし、うまく岩礁地帯を進んでいる。

そしてゼッケン35、マルシアは、ゴーレムアローの速度加減が思い通りに出来る事に歓喜していた。

「さすがジンだね! これなら行けるよ!」

自律性のあるゴーレム、その 隷属(マスタースレーブ) による意思疎通は、微妙な加減をうまく伝えることが出来ていた。

これは、船体に仁が施した 表面処理(サフ・トリートメント) による魔力伝導の効果によるもの。

誰でも持っている微少な魔力、マルシアのそれが船体を通してアローに伝わっているのである。

微妙な加減速が可能ならば、機動性の低さを補ってくれる。

だが、全員がそううまくいくとは限らない。

「ああっと、ゼッケン34、岩礁に接触! 艇体が破損したようです。どうやら棄権する模様」

岩礁を避けきれなかった船が何隻か出た。中には沈没するものも。

「まただ! ゼッケン16、岩礁を避けきれず、艇体をぶつけました! ああっ、沈没です! 操船者は大丈夫か?」

現場に待機していた大会役員の船が急行、操船者を助け出した。

「水着が無残に破れています! 操船者、無事か!?」

魔導投影窓(マジックスクリーン) に救助シーンが大映しになる。その際、水着の破れた操船者も映され、観客席の男性達が歓声を上げていたのはどこの世界でも変わらない光景だった。

「先頭グループは今、岩礁地帯を突破しました! トップはゼッケン1、そしてゼッケン3! ゼッケン28、35と続きます!」

「最初の順位は覆らなかったようですね。まあ、あの地帯では追い抜きは難しいので、当然の結果です。が、ゼッケン28、35がゼッケン1、3らとの差を詰めていますね」

結局、第2ステージである岩礁地帯ではゼッケン34、2、16、12の4隻が棄権することとなった。

第3ステージは外海、遮るもののないスピードステージである。

全隻、持てる最高速度を発揮できる。目指すは無人島の『イオ』。そこが折り返し地点だ。

「ゼッケン3、スパートをかけた! 速い速い! ゼッケン1に並ぶか? ああっと、ゼッケン1もさらにスピードを上げる!」

エルザが抜くかと思われたが、リーチェもゴーレムを更に加速させ、トップを保ちつつ海上を疾走していく。

「ゼッケン28、35もスピードを上げました!」

それは観客席からも 魔導投影窓(マジックスクリーン) を通して見ることが出来ていた。

「マルシア、やるな」

「はい。アローとの魔力的な繋がりをうまく利用しています」

仁と礼子は安心感を持ってそれを見ていた。

「いよいよ、外海だな」

「はい、若干ですが波もありますね」

「その辺は双胴船だから問題ないだろう。マルシアはここからスパートをかけるかな?」

東へ向かって疾駆するゴーレム艇達。白い波を残し、水平線の彼方へと消えていく。その速度はおよそ時速30キロ。因みにこの世界ではノットは使わない。

そしてまた別の 魔導監視眼(マジックアイ) に切り代わったようで、今度は 魔導投影窓(マジックスクリーン) 目指して進んでくるトップグループが見えた。

「おっ、マルシアが3位に上がりそうだぞ」

画面では シグナス(白鳥) とそれを操縦する水着姿のマルシアが大映しになっていた。仁は、競技後マルシアはきっと男共からのアプローチが増えるに違いないなどと考えていた。

「お父さま!」

仁がそんな益体もない事を考えていたら、礼子が突然緊張した声を出す。

「ん、どうした、礼子?」

「……魔力を感じます」