軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-11 足止め/夜の町へ

一方、グロリアとシンシア、そしてフリッツの一行は、10日にアスントを発ち、セルロア王国を目指していた。

かつて、仁がラインハルトたちと馬車で通った道ではなく、1本北側に寄った脇街道である。

アスントを出てペアン町を経てノココツ泊。

このままウナナ、フットーナ、ココツヤ、トヒツ、タフツと来てコオルズ町、そしてイカサナートという予定だ。

これは、『ゴリアス』という巨体と共に進むため、本街道を避けたというのが1つ。もう1つは、本街道はエゲレア王国の使節団が使うだろうという気遣いからである。

11日はフットーナ泊の予定。

荷物は全て『ゴリアス』が運ぶため、空身に近い状態で馬に乗っており、非常に楽な旅となっていた。1日に50キロ以上進むことができる。

「フリッツ殿、やはり助かる。『ゴリアス』は凄いものだな」

馬上から振り返ったグロリアは、 殿(しんがり) を行くフリッツを見返り、言葉を投げかけた。

今回、フリッツは1人である。一緒に来ていた兵士たちは身分上、セルロア王国建国記念式典には出られないのだった。

「ああ、凄いだろう。とはいえ、俺が作ったわけではないからあまり威張れたものではないが」

『ゴリアス』5体が歩くと、まず1体目の足跡がめり込んで付く。それを踏まないように2体目が歩き、同様に3体目が……となり、5体目が歩く頃には、路面は元の状態に比べ5センチほど沈み込み、固く踏み固められた状態になるのだ。この路面は、荷物を満載した馬車が通っても轍の跡が付かないほどである。

「でも、道の整備には足形ではなく、幅の広い車輪みたいなものがいいのではないでしょうか?」

シンシアの意見。奇しくも、ロードローラーのようなものを想像したようだ。

「うむ、それはいいな! シンシア殿はなかなか想像力がある!」

「き、恐縮です」

フリッツの称賛にシンシアは頬を染めた。

そんな彼等の道中は平穏だった。

……エゲレア王国内にいるうちは。

2月14日、彼等はセルロア王国に入り、テルルスに泊まった。

往路すなわちクライン王国への道中でもここに泊まっていたため、『ゴリアス』はすんなりと受け入れられた。とはいえ、町外れ、トーレス川ほとりに駐機することになったが。

「さて、いつになったらトーレス川を渡れるやら」

フリッツのその呟きを、グロリアが聞きつけた。

「フリッツ殿、それはどういう意味だ?」

「ああ、グロリア殿たちはセルロア王国に来たことがないのだな?」

「うむ、そのとおりだが」

「セルロア王国の首都、エサイアはトーレス川とアスール川に挟まれていてだな、川が天然の堀割になっているのだ。そして橋がない。ということは必然的に船を使うのだが……」

「絶対数が足りないのですね?」

シンシアがフリッツのセリフを先取りした。

「そのとおり。まずは予約を取りに行かねばな」

宿に荷物を置いたフリッツたちである。

「ああ、予約は俺1人でいい。お2人は寛いでいるといい」

フリッツはそう言うが、シンシアは従わなかった

「いえ、後学のため、お供させてください」

「そうか? それでは付いてくるがいい」

後学のため、と言われてはフリッツもそれ以上強くは言えなかった。

「グロリア様、それでは行ってまいります。荷物の方はお任せしてよろしいでしょうか?」

「ああ、任せておけ」

3人とも、国元からの公式な式典参加証明書を持っていないため、迎賓館に泊まれない上、渡し船も優先的に回ってくることはない。

おまけに取れた宿も、荷物番として誰かが残っていた方がいいような中の下といったところであったのだ。

「ええと、4日先になりますね」

「そうか。それで頼む」

今日は14日、4日先でも18日。記念式典は22日。

「記念式典には十分間に合うぞ。これで一安心だな」

フリッツはそう言って背伸びをした。日程に余裕があるので気が楽になったようだ。

「シンシア殿、俺もそれほど詳しいわけではないが、ここテルルスを案内しようか?」

後学のため、と言っていたのでフリッツはシンシアを気遣った。

「はっ、はい! こ、光栄ですっ!」

当のシンシアは思い掛けないセリフに喜びを隠しきれなかった。

「よし、では行こう」

そう言ってフリッツは足早に街中へと歩き始める。シンシアは慌ててその後を追うのであった。

「このあたりが1番賑やかな……繁華街だな。色々な店が並んでいるだろう?」

「はい、珍しいものも多いですね」

クライン王国とセルロア王国では文化的に異なるから、必然的に商品の毛色も変わってくるわけだ。

「この服、珍しいですね……というか、こういう陳列の仕方っていいなあ……」

半ば独り言的に店を眺めていくシンシア。

騎士とはいえやはり女性だな、とフリッツは内心苦笑した。

長くなりそうなので釘を刺しておくことにする。

「シンシア殿、宿でグロリア殿が待っているだろうから、そろそろ戻ろうではないか」

フリッツにそう言われたシンシアは残念そうな顔で頷いた。

「仰る通りですね。戻りましょう」

2月15日。

フリッツ、グロリア、シンシアらは前日に続きまだテルルスに足止めされている。

1つだけましになったのは宿。中の下から中の上になった。つまり少しましな宿に移れたのである。

「ふむ、ここには風呂がついているだけましだな」

「ああ、何が不満と言って、風呂がない宿だったからな」

「ですね」

トーレス川という大河のそばにあるわけだから、水事情は良いわけだ。中くらいの宿なら、風呂が付いていて当たり前であった。

今度の宿は3人部屋。大部屋に3つの寝室が付いているもの。

居間で3つの寝室が繋がっている。

フリッツとしては個室3つの方が良かったのだが、空いていなかったのである。

対してシンシアは心中密かに快哉を叫んでいたようだ。

グロリアはというと特に何とも思っていなかったようである。

さて、することとて特にない3人。

フリッツは、『休暇の延長と思ってのんびりするよ』と言って朝から酒を飲み始めていた。

シンシアはそんなフリッツに何か言いたそうだったが、グロリアに誘われて渋々観光に出掛けたのである。

グロリアとシンシアは午前中は2人で観光。午後は別行動とした。

シンシアはセルロア王国風のデザインがされた服を何着か買ってきていた。帰路は『ゴリアス』を当てにはできないが、重いものではないので何とかなるだろうという算段だ。

そしてグロリアは武器屋を探して歩き回っていたようだったが、がっかりした様子で帰ってきた。

「どうした、グロリア殿?」

一目でそれとわかる落ち込みように、フリッツが声を掛けた。少し息が酒臭い。

「え、ああ……。気に入った剣があったのだが、高くて手が出なかった」

「グロリア様……」

「なるほどな」

呆れるシンシアと納得するフリッツ。10日を超す付き合いのおかげで、フリッツにもグロリアの性癖が見えてきていた。

「ま、この町は何でも高い。足元を見ているのさ。買い物なら川を渡ってからの方が同じ物でも安く買えるぞ」

「え……」

「それはいいことを聞いた」

フリッツの話を聞くと、シンシアは少し凹み、グロリアは元の快活さを取り戻したのである。

「さて、俺もちょっと出掛けてくるか」

ちらと窓の外を見、夕闇が迫っていることを確認すると、フリッツは寝転んでいたソファから立ち上がった。

「フリッツ殿、これからお出掛けですか?」

シンシアが驚いたような顔で問いかけてくる。もうすぐ宿の夕食時間なのだ。

「ああ。俺は外で食べてくる」

ひらひらと右手を振りながらぶっきらぼうにそう言うと、フリッツは振り返りもせずに部屋を出ていった。