作品タイトル不明
23-04 水没水車/資格
時間は少し戻って、2月1日。ショウロ皇国で『グラナート』が進水した日。
場所はエリアス王国、ポトロックである。
「マルシア! 凄い発見をしたぞ!!」
マルシアの父、ロドリゴがものすごい勢いで店に駆け込んできた。
「と、父さん? いったいどうしたのさ?」
何が何だか分からないと言う顔のマルシアだが、ロドリゴはその手を取って引っ張る。
「まあ、来てみろ! お前もきっと驚くから!」
そのままマルシアを引きずるようにしてロドリゴは店を出て行った。
「バッカルス、ジェレミー、後を頼むよ……」
辛うじてそれだけを言えたマルシアであった。
「……で、何なのさ、父さん」
並んで歩きながら、マルシアは父に尋ねた。
「ああ。私が、水没水車の研究をしていたのは知っているだろう?」
水没水車、というのは、推進方式としての水車を、これまでのように半分以上水上に出すのではなく、全部水中に入れて推進力を得ようという、その方式の仮名称である。
「うん。今までの水車駆動は無駄が多いから、それを無くして、大型船の駆動に使えないか、だったよね?」
「そうだ。そしてな、画期的な方法が見つかったんだよ!」
「へえ……凄いじゃないか!」
マルシアも、父ロドリゴに天才的な閃きがあることを知っている。それゆえにかつて『双胴船』を設計できたのだ。
「さあ着いた」
そこは最近ロドリゴが船の試作を色々試している船着き場だった。今は2人の他に誰もいない。
全長3メートルほどの試作船が浮かんでいる。船尾には、文字通り水没した水車が取り付けられていた。
「うん、父さんがこの船でいろいろやっているのは知っているよ。だけど、見たところ何も変わっていないようだけど」
以前マルシアがゴーレム艇競技で優勝した際の船、『 白鳥(シグナス) 』に取り付けられていたものと同じ型の水車を、そのまま水中に入れて回転させてみたのが始まりだった。
もちろん、そんな状態では満足に推力を得ることなどできはしなかった。
それで、ロドリゴは水車の形……フィン部分の曲げ方や大きさ等を変え、実験を繰り返していたのである。
「まあ見ていろ」
ロドリゴはマルシアを船着き場に残し、試作船に乗り込んだ。そして水車を回転させる……。
「ああ!?」
マルシアは目を見開いた。水車が回転するにつれ、試作船が、前でなく横に動き始めたのである。
正確には、水車が横に動き出したので、船尾がそれにつれて横に動き、結果として、試作船は船首方向を中心にぐるぐると『尻振り』し始めたのである。
「な、何で?」
前か後ろに動くなら分かる。だが、横に動くとは……。と、マルシアは、水車に目を留めた。
「……変な風に曲がっている?」
水車のフィン部分がねじれるように曲がっていたのである。
「気が付いたか。……いやな、色々試しながら走っていたら、岩礁があったらしくて、水車を引っ掛けてしまったんだ。そうしたらいきなり船尾が横に振れるようになってな」
8枚付いているフィンがねじれ、あたかもスクリューのようになっていたのだ。
「このままだと横に動く。だったら、水車を直角に曲げて取り付ければ、前後に動かせるわけだね!」
その有効性に気が付いたマルシアが叫んだ。
「そのとおりさ」
得意げな笑みを浮かべながらロドリゴが大きく頷いた。
こうして、彼等は『新型水没水車』、すなわちスクリューの開発にとりかかることとなった。
「ふむ、フィンの枚数は少なくていいようだ」
「うん、多いとバランスが取りにくいね」
それから数日、マルシアとロドリゴは、新しい『水没水車』の開発に勤しんでいた。仁が改良してくれたアローが初級とは言え工学魔法を使えるようになっていたことが大いに役に立っている。
「曲げ方も少しでいいみたいだね」
「うむ。曲げが多いと水の抵抗も大きいし、小さいと推力が低いな」
こうして、苦労に苦労を重ねた彼等は、2月6日、ついに『スクリュー』と同じ物を開発したのである。
早速、それを試作船に取り付けてみることにするマルシアとロドリゴであるが。
「ふむ、軸が片持ちになるのか。強度を考えて少し太くするか」
「父さん、軸受けが難しそうだね」
「うむ、ここをこうすると……駄目か!」
それはかなり難航することになる。
「ああ……ここにジンがいてくれたら!」
つい、ぼやきが口から出てしまうマルシア。
無理もない。試作スクリューが完成してから、既に3日が経っているのだ。
それだけ、船に取り付けるのが難しいということである。
何せ、スクリューの軸と軸受けの間には、摩擦低減のため必ず隙間が必要であり、その隙間からは水が船内に入ってくるのである。
つまり、船底に穴が空いているのと同じなわけだ。ここをどうにかする方法を考案できずにいたのである。
それに悩み続けて3日。仁なら何とかしてくれるのに、と、ついマルシアが口にしてしまうのも無理からぬことである。
「マルシア、気持ちは分かる。多分彼は、この方式も知っているんじゃないかとさえ思う。だが、だからこそ、試作を完成させるまでは我々だけでやろうじゃないか」
ロドリゴに窘められたマルシアは顔を赤くして俯いた。
「うん……そう、だね。ごめん、父さん。弱音を吐いて」
そして更に2日が経過した、2月11日。
「これだ!」
ついにロドリゴの執念が実る日が来た。
「父さん、やったね!」
それは現代地球では『船外機』と呼ばれるものに近い。
すなわち、スクリュー及びそれを回転させるゴーレム駆動機を1つのユニットにし、船の船尾に取り付けることとしたのである。
この『船外機』の耐水性については、材質と構造を吟味すれば問題ない。かのゴーレム艇競技にも、ラインハルトの『ローレライ』や、水中ゴーレムなどが存在している。
ただし、その使い方は現代地球と異なっていた。
現代地球では船外機そのものの向きを変えることで船の進行方向を変えているのに対し、船外機を船尾に固定し、舵取りは普通に操縦席で行う方式であった。
船外機というか、動力ユニット的な使い方である。
それでも、短期間かつ独力でここまで漕ぎつけたロドリゴとマルシアの才は際立っていると言えよう。
* * *
『 御主人様(マイロード) 、ロドリゴさんがスクリューの原理に気が付いたようです』
蓬莱島では、アルス各地へのマーカー設置を開始した日である。
「何だって?」
『偶然ですが、水車のフィンを岩に引っ掛けて曲げてしまい、それによって横方向の推力が発生することに気が付いたとか』
「はは、なるほど。確かにな」
地球では、螺旋状のポンプの一部を切り取って……とかいう始まりだったかな、と考える仁である。
「彼等もファミリーに加えたいんだよな……」
『あのお2人でしたら資格十分でしょう』
「そうだな。時間は……午後6時過ぎ、か。ポトロックは3時半になるかならず、だな」
そこで仁は、さっそくポトロックへ向かうことにした。
「エルザ、2人を連れてくるから、他のメンバーにも声を掛けておいてくれ。来られる人だけでいいから」
「ん、了解」
「礼子、行こう」
こうして、仁と礼子は 転移門(ワープゲート) でポトロックへと飛んだのである。