作品タイトル不明
23-03 星の探索/まとまらぬ議論
「この星について……ですか」
オウム返しに、礼子は仁の言った言葉を繰り返した。今一つ、意図がつかめなかったのだろう。
「うん。いくつか考えていることがあるんだ」
そこまで話したとき、エルザがやって来た。お昼ご飯の時間だ。
「ジン兄、ごはん」
ということで、仁、エルザ、サキの3人は食堂へ向かう。
天ぷら蕎麦であった。鰹出汁の利いた蕎麦つゆと、二八そばと言われる、ソバ粉8に小麦粉(中力粉)2の割合で打った蕎麦。
車海老(によく似たエビ)とカボチャ(そっくりの野菜)の天ぷらが載っている。
蕎麦つゆは、ペリドリーダー苦心の作。蕎麦を打ったのも同じくペリドリーダー。
エルザは天ぷらを揚げたのである。とはいえ、それはそれでなかなか難しい。
「うん、天ぷらもうまく揚がってる」
天ぷらの衣は、卵と小麦粉(薄力粉)を混ぜすぎてはいけないのである。
初めのうちは、執拗にかき回してしまい失敗したこともあったエルザだが、最近は上達し、いろいろな料理にも挑戦している。
「……よかった」
「エルザも料理上手になったな。いつでもお嫁に行けるよ」
サキまでが冗談交じりに褒める始末。
「……サキ姉も料理くらい覚えないと、お嫁の貰い手がない」
今日のエルザは少し辛辣である。
「くふ、ボクはお嫁に行く気はないからね。独り身の方が気楽でいいのさ」
飄々と受け流すサキ。だが、その横顔が少し寂しそうであったことに仁もエルザも気が付かなかった。
「で、何を話していたの?」
食後の蕎麦茶を飲みながらエルザが尋ねた。
仁も、エルザをのけ者にする気はないので、出来上がった世界地図の話から始めて、サキが作った物性表、そしてこの星の話をする。
「……で、いろいろ考えた結果だが、監視衛星を打ち上げようかと思うんだ」
「監視衛星?」
「ああ。地表の色々なものを観察し、情報を送ってくる衛星だ。例えば、雲の画像があれば、天気予報もできる」
仁は用途について説明した。
「でも以前、打ち上げ失敗したって……」
エルザの指摘に仁は頭を掻いた。
「ああ。あの時は重力魔法を使えるようになった事に浮かれて、いきなり静止衛星を打ち上げようとしたからな」
「と、いうと今回は違うの?」
その質問に、仁は大きく頷く。
「もちろん。高度は1000キロから2000キロにし、赤道上を周回させる。最低4機打ち上げれば、極地はともかく、中緯度地域までは十分カバーできるだろう」
人類の生存圏がカバーできればいいと言うのである。
「ジャイロスタビライザーも積むし、 力場発生器(フォースジェネレーター) を使うから、今度こそ成功すると思う」
「……ん、確かに」
仁とて詳しいわけではないが、エルザの宇宙工学知識は仁より遙かに少ない。この点においては信用するしかない。
「それから」
「まだ、あるの?」
仁が次の計画を話し出したので驚くエルザ。
「ああ。むしろこっちが先だな」
そう前置いてから仁は話し始めた。
「世界地図ができたので、転移マーカーだけは設置しておきたいなと思っているんだ。いずれ……といっても何年、何十年後になるか分からないが、人類みんなが利用できるといいな」
「くふ、ジンらしいね。ボクもそういうのいいなあと思うよ」
サキが微笑みながら賛成した。
「高い山や大きな湖、大陸の突端みたいな場所をピックアップしてな、そこに特殊なマーカーを埋め込もうと思ってる」
「特殊って?」
エルザの疑問はもっともである。
「うん、普通の 魔結晶(マギクリスタル) を埋めたのでは、掘り返されたりしそうだからな。できるだけ微弱で、できるだけ変わった波形にしたいんだ」
「そんなことできるのかい?」
サキが驚いた顔で言った。
「何言ってんだ。魔法の属性と周波数の関係を言い出したのはサキじゃないか」
昨年の9月初めのことである。
「くふ、そうだったね。お恥ずかしい。……つまり、普通の人間には感知できないほど高いか低いか、そんな周波数の魔力波を使おうというんだね」
「ご名答」
魔力波は電波と違い、電離層で反射されることはないらしい。また、通常の物質は透過してしまうので、岩山・水中など影響はしないことがわかっている。
「と、いうことで、土属性の 魔結晶(マギクリスタル) を使ってマーカーを作ろうと思ってるんだ」
「確かに、地中から土属性の魔力波が出ていてもおかしくないからね」
「そういうことさ」
更に言えば、自然に存在する土属性の魔力波よりも更に周波数を低くし、普通の人間には感知できなくすることで発見されるリスクを減らすわけだ。
「ジンはいろいろ考えてるねえ」
「これも平穏のためさ」
「じゃあ、まずはマーカーの設置?」
確認するように尋ねるエルザ。仁は頷いた。
「ああ。ランド隊に指示するつもりだ」
こうして、まずは地上にマーカーを設置するところから開始することになったのである。
* * *
クライン王国では、セルロア王国で開催される建国記念式典に参加するにあたり、参加者と交通手段について議論が戦わされていた。
「無難に馬車で、ということでしょうな」
「いや、それは我が国の魔法技術力がないことを喧伝するようなものだ」
「だからといって、熱気球で行くのか?」
「今や我が国が保有する熱気球は6機。うち4機を使うことは悪いことではあるまい」
クライン王国首都アルバンからセルロア王国のダリまでは320キロ。クライン王国内、国境付近の町からなら230キロほどである。
時速30キロの熱気球なら早朝に出発すれば夕刻には着ける計算になる。
「だが、危険が伴うことも忘れてはならないぞ」
「なれば、馬車と熱気球、どちらも使えばよい」
この結論が出るまでに2日掛かっている。
「では、参加者だが」
「王族からは、私が行くことにします」
そう発言したのは第2王子のアーサー。
「リオネスもいますし」
専属家庭教師のリオネス・アシュフォードはセルロア王国の出身なのである。
「これは昨夜、父王、兄、妹らと話して決めたことです」
第2王子が出席するということであれば、対外的には申し分無いと言える。
「では、護衛としては近衛騎士を付ける必要がありますな」
そしてまた議論、議論、議論である。
結局、護衛には近衛第2騎士団団長のロデスト・フォーメスと、厳選した配下5名。
そして、顕微の魔眼を持つボールトン・オールスタット。彼の持つ魔眼が役に立つ場合もあるだろうとの人選である。
「グロリア・オールスタットと、その副官、シンシア・カークマンがエゲレア王国におりまして、彼女たちも向かわせております」
「うむ、それはよい。ならば、ジェシカ・ノートンも加えよう」
こうして、ようやく参加人員が決まる。だが、それで終わりではない。
建国記念式典に呼ばれたからには、祝いの贈り物を持っていく必要があるのだ。主に国の体面を保つために。
「……とはいえ、予算を削りに削っている今……」
「だが、フランツ王国の使者も来るであろうその場で恥をかくわけにもいくまい……」
「ならばどうすればいいと言うのか!」
クライン王国の悩みは尽きないようである。