作品タイトル不明
23-01 世界地図/出席指示
3458年、春まだきの2月10日、蓬莱島にて。
『 御主人様(マイロード) 、世界地図がほぼ完成しました』
老君から仁に報告がもたらされた。
「おお、そうか! 結構時間が掛かったなあ」
『はい。特に南半球、 自由魔力素(エーテル) が少ないため、万が一の事がないよう慎重に進めましたので』
「うん、それは構わない。それで、どんな感じだ?」
『はい、ご覧下さい』
まずは 魔導投影窓(マジックスクリーン) に投影される世界地図。
似非メルカトルなので南北極地に近付くほど東西が伸ばされているが雰囲気は伝わりやすい。
「ふうん、南の方が海は多い、か。そしてやっぱり極地に大陸はないんだな」
『はい。ここローレン大陸、北のゴンドア大陸。この離れたところに1つ、そして地峡で繋がっている南西の大陸。それにこの群島ですね』
「うん、面白い配置だな。それで、他に分かったことは?」
『はい。原住民……人間は他の大陸にはいないようです』
「何だって?」
驚きの報告結果であった。
『その調査確認もあり、時間が掛かりました。少なくとも文明は見あたりません。植物が茂り、動物が繁殖しているだけです』
「お父さま、今から思えば、わたくしがお父さまを捜しにあちらこちらへ転移した時も、人の住む土地は少なかったですね」
礼子も老君の言を裏付ける。
「ふうむ……」
仁は地球の歴史を思い出してみた。
グレートマザーと呼ばれる、ホモ・サピエンス(現生人類)はルーツを辿っていくと、アフリカの1女性に辿り着くとかいう話だった。
「現住の人類発祥の地がミツホ族の居住地のどこかだとして、そこに『天翔る船』でやって来た一族の干渉があれば……」
『地球とは異なる発展をしているのも頷けますね』
老君が引き取って続けた。
「ああ。世界中に広がる前に文明化し、定住した可能性があるな。ま、俺は歴史学者でも考古学者でも民俗学者でもないから、そっちの線での確認はあまり必要無いが」
この推測が当たっているかどうかは、700672号に確認すればおおよその事はわかるだろうとも思われた。
※1つだけ注釈を入れておくと、『グレートマザー』が人類のルーツというのは聞きかじった者が陥りやすい間違いで、単に『ミトコンドリア』の遺伝子を遡れるのが母親側だけで、ゆえに母系を遡ると1人の女性に到達するという学説である。
決して1人の女性から人類が発祥したと言うことを示すものではないことを書き添えておく。
「と、するとだ」
仕切り直す仁。
「他の大陸は今後……ずっと遠い将来、人類が広がっていくんだろうな」
『でしょうね』
「まあさすがにその頃俺はもういないだろうが、蓬莱島と俺の子孫はきっとまだ存続しているだろうし」
子孫、と口にしたところで仁はふとエルザの顔を思い浮かべ、人知れず顔を赤らめた。
「と、とにかく、今のうちに簡単な調査を進め、有益な資源の所在だけは確認しよう」
『わかりました』
「あ、地下資源には手を付けるなよ? 植物関係なら種や苗の確保はOKだ」
『了解です』
こうして、航空機の開発と同時に調査を開始してからほぼ1年。アルス世界は少しずつ仁たちの前にその全貌を現しつつあった。
『それから、 御主人様(マイロード) 。あの国……セルロア王国が、2月22日に建国記念式典を開催するそうで、各国に通達が行っています』
「ふうん。それで?」
『『崑崙君』である 御主人様(マイロード) にも出席を促したいようですが、居場所を知らないため、各国に伝言を頼んでいるようですね』
魔族領で 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) の抜け殻を見つけてきてからというもの、仁は蓬莱島にいたのでそういった報せを受け取ることができなかったのだ。
「そうだな。近いうちにショウロ皇国へ行って、そちらから知らせてもらうことにするよ」
『それがいいでしょうね』
「だが、セルロア王国の建国記念式典か……どうせあの国のことだ。いろいろ企んでいるんだろうな」
『ええ、自国の技術を見せつけるつもりらしいですよ。飛行船や大型船を建造したりしているようですから』
各国首脳が集まったところで、魔法技術の高さを見せつける。いかにもあの国がやりそうなことだ。
「空と海……水か。陸……ゴーレムもなにかあるのかな?」
『そちらも何やら企んでいるようですが、まだはっきり掴めてはおりません。ですが、今現在エゲレア王国にいる『ゴリアス』と、フリッツ殿は参加されるようですよ』
「ふうん、と、すると『ゴリアス』以上のゴーレムがあることはかなり確実だな」
『引き続き調査を進めておきます』
「うん、頼んだ」
* * *
クライン王国近衛女性騎士隊副隊長のグロリア・オールスタットは、エゲレア王国で休暇を取っていた。付き添っているのは副官のシンシアのみ。
他の女性騎士たちは、男性騎士たちと共に、来た道、つまり旧レナード王国を通ってクライン王国に帰っていった。
大怪我を負ったグロリアは、久しぶりに長期休暇を許されたのである。副官のシンシアはそのおこぼれに与かったと言えるだろう。
そんな彼女等に、本国から指示が届いたのは2月7日のことであった。
「グロリア様、そろそろ休暇も終わりのようです」
迎賓館のある外宮庭園で、鈍った身体を鍛え直すべく、剣の素振りをしていたグロリアのところへシンシアがやって来た。
「うん、そろそろだろうとは思っていた。何か命令が入ったのか? それとも帰国しろと?」
シンシアは手にしたメモに目をやってから答えた。
「はい。2月22日に、セルロア王国のダリで建国記念式典が行われるそうです。それに出席せよとのことです」
「ふむ、ダリか。ここからなら、1週間もあれば着くな」
「はい。セルロア王国に着くまでは休暇の延長のようなものです。ここにもそう書いてあります」
『 魔素通話器(マナフォン) 』による定期通話の中で伝えられた命令であった。
「えーと、費用はエゲレア王国から受け取ってくれとのことですね」
「なるほど、立て替えてもらうわけか」
「本国からはおそらく宰相と、王族のどなたかがお見えになるでしょうね。その警護ということでしょう」
「ここから直接向かった方が早いからな」
エゲレア王国から直接クライン王国に行く街道はないので、旧レナード王国を通ってクライン王国に戻り、改めてセルロア王国に向かうには日数が足りない。
「日程を調整してみてくれ」
「はい、わかりました」
グロリアは副官であるシンシアに日程管理を任せた。
「おう、グロリア殿、シンシア殿」
そこにやって来たのはショウロ皇国国外駐留軍中佐、フリッツ・ランドル。彼はエルザの実の兄である。
「フリッツ殿、『ゴリアス』はもう修理完了したのですか?」
そう、彼が率いてきた5体の巨大ゴーレム『ゴリアス』は、旧レナード王国で、過去の遺物である『もどき』との戦闘で浅からぬダメージを負ってしまい、エゲレア王国 魔法工作士(マギクラフトマン) の力を借りて修復中だったのである。
国家機密クラスの『ゴリアス』ではあるが、修復する箇所の大半が外装なので、ショウロ皇国としても依頼を出したというわけである。
「うむ、明後日には終わるそうだ。これでやっと国に帰れる」
その言葉を聞いたシンシアの顔が暗くなった。だが、まだフリッツのセリフは続いた。
「……と言いたいところだが、今度はセルロア王国のダリへ行くことになった。やれやれだ」
「え? もしかしてセルロア王国建国記念式典ですか?」
シンシアの顔に喜色が戻った。
「ん? 貴公たちにもそんな話が?」
「ええ、そうなんです。私とグロリア様はここからダリへ向かうことになります」
それを聞いたフリッツは少し考え込んだ。
「ふうむ、それならば共に行くか? 荷物は全部『ゴリアス』が持ってやれるが」
「はい! 是非!」
グロリアが返事する前にシンシアが答えてしまった。上官を差し置いて決めてしまったことに気が付き、シンシアはグロリアに向かって頭を下げた。
「す、済みません!」
だが、グロリアは笑って許した。
「何、構わん。日程の調整はシアに任せたのだからな」
フリッツはそんな2人のやり取りを見ていたが、
「話はついたようだな。それじゃあ 明明後日(しあさって) ……2月10日に出立するとしようか」
「は、はい、そうですね!」
シンシアは少し浮き足立って返事をし、
「フリッツ殿、またしばらくの間、よろしく頼む」
グロリアはフリッツと握手を交わしたのである。