軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03-13 予選開始直前

明けて翌日。晴れ。ゴーレム艇競技予選日である。

港は朝から活気に包まれていた。参加者達もそれぞれ、

「あー、なんだか緊張してきたわ」

「あたい、ゆうべよく寝られなかったよ」

「ふふふ、今日はやるわよ!」

「なんかみんな凄そう。棄権したくなった」

緊張する者、意気込む者、不安な者。様々な顔を見せている。そんな中、仁達は極めて平常通りであった。

「いやー、いろんな船があるなあ。ゴーレムもいろいろだ。でもほとんどが腕力特化型かあ、発想が貧困だね」

「お父さまと比較すること自体無理があるかと」

そんな仁と礼子のやり取りを聞いているとマルシアも気負いが取れてくる。

「おーい、ジン!」

「あ、ラインハルト」

駆け寄ってきたのはラインハルト。その後ろには黄色いワンピース水着の少女が。

「ジンたちは初めてだったな。こいつは俺の従妹で、操船者のエルザだ」

「エルザ・ランドル。よろしく」

ラインハルトに似ているが、より艶のあるプラチナブロンドのセミショート、水色の瞳の美少女である。色白で日に焼けていない。

「仁です。これは俺のチームメイトで操船者のマルシア。これは礼子」

「マルシアです」

「よろしく」

操船者同士、握手を交わす。そこへラインハルトが茶々を入れた。

「はっはっはっ、エルザ、胸は既にお前の負けだな。……おわっ!」

セクハラ紛いの物言いをしたラインハルトは、無言で繰り出されたエルザの蹴りで海に落ちた。

「まったく。ライ兄はデリカシーという物を憶えた方がいい」

そんな彼等のところへ近づいて来た者がいる。

「やあ、ラインハルト殿、エルザ嬢。それにそこにいるのはマルシアと……誰だったか」

気障(きざ) 男、バレンティノであった。

「これはバレンティノ殿。彼はジン殿ですよ」

水を滴らせながら海から上がってきたラインハルトが仁の名を呼ぶ。

「ああ、そんな名前だったね、失礼。さて、エルザ嬢、それにマルシア、今日の調子はいかがかな?」

男は眼中にないとばかりに、エルザとマルシアにばかり視線を注ぐバレンティノ。礼子は幼なすぎて眼中にないようだ。

マルシアはそんな彼の視線を鬱陶しそうに、

「あたしの方は上々ですよ。早く予選が始まらないか楽しみです」

そしてエルザは視線など感じないかのように、

「まあまあの仕上がり。……バレンティノ様の方は?」

バレンティノは筋肉の無い薄い胸を反らせて、

「完璧さ! 予選一位はいただくよ」

そう豪語した。そんなバレンティノの後ろから現れたのは、

「バレンティノ様、そろそろ予選が始まりますよ」

赤いワンピース水着を着た小柄な美女だった。こちらはグラマラスである。

「おお、リーチェか。わかった、今行く」

そして 気障(きざ) な一礼をし、

「では諸君、健闘を祈る」

そう言ってその場を立ち去ったのである。

「あいかわらず、バレンティノ様は」

半ば呆れたようなエルザ。

「ああ。だが、あの自信も根拠がないわけではない」

いつになく真剣なラインハルト。

そして港に 拡声の魔導具(ラウドスピーカー) による声が響く。

「ただいまより、第10回、ゴーレム艇競技予選を開始します。参加者は速やかに乗船、準備して下さい」

「それじゃあ行ってくる」

仁にそう声を掛けるマルシア。

「お互い、最善を尽くそう」

そう言ってエルザと共に立ち去るラインハルト。

3人を見送った仁は、

「競技が始まれば、もう俺に出来る事は何も無い。マルシアとアローを信じて見守るだけだ」

「はい、そしてお父さまの腕を」

そして仁と礼子は、スタッフ専用席へと向かった。

* * *

「さて、記念すべき第10回ゴーレム艇競技、過去最大の参加者、そして国外からの参加者も交えて、空前の盛り上がりを見せております」

実況は 拡声の魔導具(ラウドスピーカー) を使っているので、会場である港内の隅々まで声が響いている。

「解説は我が国が誇る若手 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ベルナルドさんにお願いしております」

「ベルナルドです、今日は、様々なゴーレム艇を見ることが出来るので非常に楽しみです」

「さてベルナルドさん、国外から観光で見えたお客さまもいらっしゃいますから、簡単に競技の説明をしていただけますか?」

港に設けられた有料の観客席は半分以上観光客、残りが地元民という割合で埋まっていた。

「そうですね。端的に言いますと、船の速さを競う競技、なのですが、特殊なのが、船を推進するのがゴーレムであること、操縦するのが人間の女性であること、でしょうか」

「この場合、ゴーレムの性能が物を言う、ということですね」

「はい。それはもちろんですが、操縦も無視できません。今日の予選は単なる速さ比べですが、明日の本戦は、いくつかのチェックポイントを経由するため、操船技術も必要になってきます」

「なるほど、そうすると操船者とゴーレムの連携、ということでしょうか」

「その通りです。御者と馬が一体になって馬車を動かすように、操船者がゴーレムをどう制御するか、も重要なポイントですね」

「ありがとうございます。さて、そろそろ港では、参加者とその船のお披露目が始まったようです」

その言葉通り、参加申し込み順に船が並び、案内船に従ってゆっくりと港湾内を巡っていた。

そしてメインとなる司会席前には大型の 魔導投影窓(マジックスクリーン) が備えられており、観客席からも良く見えるようになっている。

「今年は、特別誂えの水着ということで、操船者の方々は惜しげもなくその肢体を観客に見せてくれています」

「なかなか斬新なデザインの水着ですね」

仁が戯れに作ったフィギュアがこれほど受けるとは当の仁も思わなかったであろう。

「ベルナルドさん、特にこれはというチームを挙げていただけますか」

「そうですね、まずは1番の『エリアスの栄光』チーム。ハドソン侯爵の3男で、領主補佐であるバレンティノ様のチームですが、前回準優勝したリーチェ嬢を操船者に据え、ゴーレムはかのヴァレリオ卿の作です。優勝候補の一角と言っていいでしょう」

「そうですね、あの巨大な上半身を持ったゴーレム、見ただけで強さが想像できます。あの腕でオールを振るったら、ものすごい速度が出せそうです」

魔導投影窓(マジックスクリーン) に映し出される映像が変わる。

「今回の招待チームである、3番の『 青い海(ブルーマリン) 』チーム、ランドル伯爵家4男で、優秀な 魔法工作士(マギクラフトマン) でもあるラインハルト様のチームも見逃せませんね」

魔導投影窓(マジックスクリーン) にその船が大映しになる。

「浅底の艇体を推進しているのは人魚型のゴーレム、『ローレライ』ですね」

手元の資料を見ながら、司会者が説明。

「操船者はラインハルト様の従妹で、子爵令嬢のエルザ様。エルザ様はご自身が魔導士でもあります」

そう説明すると一際大きな歓声が上がった。

「へえ、ラインハルトって伯爵家だったんだ」

「なんだか伯爵という身分とは縁がありますね」

それからも選手の紹介が続くが、仁としては特に目新しい物はない。が、

「なんだ、あれ」

それはゼッケン27。なんとゴーレムの背に巨大な羽が生えている。

「ベルナルドさん、面白いゴーレムですね」

「そうですね。水鳥が飛び立つ際には水面を滑走しますが、それを参考にしたといったところでしょうか」

「確かに、船の幅は4メートル以下と規定されていますが、ゴーレムについては制限ありませんでしたしね」

「はい、しかしあれだけの翼だと重量も相当なものになりますよ」

全金属製のそのゴーレム、船を見れば、かなり沈んでおり、その重量が想像できた。

「ん? あれ、は」

仁がちょっと面白そうな顔をした。

ゼッケン28、チーム『 海鳥(シーバード) 』。その艇体は、ほっそりしたカヌータイプだが、両脇にアウトリガーと呼ばれる補助船体が取り付けられていた。

「面白い形ですね」

礼子が言うが、

「いや、あれは、波が穏やかならいいが、波が荒い時、両側の浮子が波で持ち上げられたりすると、真ん中の艇体の重さが腕木に掛かって折れてしまう可能性がある」

と仁が解説する。

「なるほど、うちのチームの双胴船ではその心配はありませんね」

納得する礼子。

「ああ。だが、ここの穏やかな海では有効だろう。それに、あのゴーレム」

仁が気になったそれは4本腕のゴーレム。当然、オールを4本持っている。明らかに短いオールの柄を見て、

「アウトリガーがあるんで長いオールを持てない苦肉の策かもな、だが悪くない」

「そして、ダークホースと言いましょうか、異色のチーム、ゼッケン35、『MJR』です」

仁達のチームが最後に紹介される。

「船の形が違いますね」

「そうですね。細い船を2つ並べた形です。これは安定性を重視したと言えましょう。そして注目すべきは推進方式です」

「なんでしょう? 水車のようですが」

大映しになる シグナス(白鳥) 。その突飛な形状に、観客席がざわつく。

「水の流れで回るのが水車ですが、これはその逆ですね。水車を回して水を蹴っているわけです。これは面白そうです」

35台目の シグナス(白鳥) を最後に、参加チーム紹介は終了した。まもなく予選開始である。