軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03-12 ワンピース

「おーい、ジン」

漁師達が出払っていて閑散とした港にマルシアの声が響いた。

「そこじゃない。もう少し向こう」

その指示に従って移動する。

移動先の桟橋には2人乗りくらいの小さなボートがもやってあった。

「そう、それだ。それに乗っていいから」

沖合からマルシアが言ってくるので、仁はもやい綱を解いて船に乗り込んだ。礼子も続く。漁の手伝いに使っていただけあって、若干魚臭い。

「先に行っててくれ、後からゆっくり行く」

そうマルシアへ声を掛けておき、

「 消臭(デオドラント) 」

工学魔法の1つ、 消臭(デオドラント) で臭いを消した。

それから仁は礼子に持たせた青銅の塊を加工する。

「 変形(フォーミング) 。 硬化(ハードニング) ……」

青銅がまるで見えない手で粘土をこねるように形作られていく。

作り上げたのは小さな水車2つ。クランク状のハンドルが付いている。

「後は軸受け、か」

ボールベアリングは今は無理なので、普通の平軸受けにしたからすぐに出来上がった。

「よし、これを取り付けて、っと」

仁が作ったのは要するに外輪船だ。船体の両側に水車を取り付け、左右別々にハンドルで駆動する。

もちろん駆動するのは仁。……のわけはなくて礼子である。

「よし、礼子、済まないがこれを回して船を動かしてくれ」

そして仁は礼子に説明をする。左右の水車を独立にしたわけは、舵を省くためである。水車の回転速度を変えることで、船は自由自在に操ることが出来るわけだ。

だがこれは礼子だから出来る事で、並のゴーレムでは効率が悪すぎる。ゴーレムといえど、腕の力より足の力の方が強いのが当たり前だからである。

「はい、おまかせ下さい」

だが、 超・自動人形(スーパー・オートマタ) である礼子なら、手で回すだけでも十分な推力を得ることが出来るのだ。左右の回転を変えれば舵いらずで方向も変えられるのが利点。

初めはゆっくり、そして慣れてくるに連れ次第に速く。礼子は自在に小船を操り、沖合へと出て行った。

練習のための海域もいくつかあり、マルシア達は港の東エリアであった。

この季節、この地方の海はおだやかである。それで競技が行われるわけだ。

その凪いだ海の上では、何隻もの船が走り回っていた。その中の1隻が シグナス(白鳥) である。

「おー、ジン、来たな。……何だい、それは?」

外輪船を見たマルシアが驚いて尋ねた。

「ああ、オールよりこっちの方がいいと思ってな。足こぎよりは効率悪いが、礼子なら十分だ」

仁がそう言うと、マルシアは顔を 顰(しか) め、

「なあジン、余計な事かもしれないが、いくらレーコちゃんが助手で、身体強化魔法が得意だと言っても、そうこき使うのはあまり褒められたものじゃないぞ?」

「え?」

何を言われたのか一瞬判らなかった仁だが、すぐにその言わんとすることを察した。

「ああ、そうか。マルシアには言ってなかったっけ」

「何をだい?」

「礼子は、俺が造った 自動人形(オートマタ) なんだよ」

「え?」

今度はマルシアが呆気にとられる番だった。

「会ったばかりの時は黙っていたけど、もう打ち明けとかないとな。チームメイトだもんな」

「…………」

「マルシア?」

「遅いんだよ、ばか!」

どうやら怒ってしまったようだ。

「ごめん。だけど、会ったばかりの時に本当のこと言ってたら、ややこしい事になりそうだったんでさ」

それからしばし、仁はマルシアを懸命に宥めたのである。

「……まあ、確かに、ジンの実力を知った今だから、この程度の驚きで済んだとは思うから、ジンの懸念もわからないじゃないんだけどさ」

そう言ってマルシアは、

「ま、まあ、とにかく、競技に出られるのもジンのおかげだからな、……この話はここまでにしよう」

前向きに、競技のために取り組もう、とマルシアは言った。ほっとする仁。

と同時に、マルシアが狙われているかも知れない、と言う話は競技が終わるまで黙っていようと決心した。

本当に狙われているのか不確かであるし、今は競技に専念させてやりたい。その代わり、マルシアの安全には出来る限り注意を払うと決めた。

(昨日の侵入者を尋問出来てたら何か分かったかも知れないが)

礼子が捨ててきてしまった。

それで、以降は競技に備えた取り組みとする。

今回のようなゴーレムボートでは、推進受け持ちのゴーレムと、操縦者の連携が大事である。たとえて言えば、馬車における御者と馬の関係と言えばいいか。

ゴーレムのアローとマルシアの連携は時間を追う毎に向上していた。そして仁はそれを観察しながら、不具合がないか検討し、小休止の度に細かな修正をする。

このサイクルで午前中は終わった。

「昼食べたら、競技用の水着を取りに行ってくるよ」

マルシアが言う。仁は、

「競技用の水着?」

「ああ。参加料にはその分も入っているんだ」

10000トール、約10万円という高い参加料には運営費だけでなくそんな物の分も入っていたようだ。

「わかった。じゃあその間に俺はアローの整備をしておこう」

「うん、頼む」

それで、昼食の後、マルシアは町役場内の競技窓口へと向かった。

仁はアローの点検という名の 魔改造(チューンアップ) である。

「やっぱりあれだけ動かすと青銅に硬化かけただけじゃあ関節がすり減るよな」

ということで、蓬莱島から持ってきたアダマンタイトで摺動部にコーティングを施す。別にルール違反ではない。

「 魔結晶(マギクリスタル) も少し劣化しているから新しい物と取り替えておこう」

加えて、

「青銅は腐食に強いからな、表面に薄くミスリルメッキしておくだけにしておくか」

趣味の世界であるが止める者はいない。

魔改造(チューンアップ) が終わった頃。

「……ジン、今戻った」

マルシアが帰ってきた……が、その格好を見た仁は噴き出しそうになった。

「な……!」

マルシアが着ていたのは紺色のワンピース水着であった。しかも登録審査の際、仁が作ったフィギュアそっくり。というか、フィギュアを見た委員長が決めたのだが。

「なんか今年はこのデザインになったとかでさ。……ジン、何か言うことは?」

「あー……なんかすまん」

まずはそう謝る仁であった。

「で、でも、似合ってるぞ、すごく!」

そう言われたマルシアはジト目で、

「なんか取って付けたようなセリフだ……」

「い、いや、そんなことはないぞ! マルシアはスタイルいいからな、似合ってるって、ホント」

そう言われたマルシアは少し頬を赤らめ。

「そうかあ? ……ジンがいうなら、まあいいか」

マルシアは出るところは出、くびれるところはくびれているから、港付近にいる男共はみんなその水着姿に釘付けになっている。だが当の本人は鬱陶しいと思うだけ、

「それじゃあ、午後の練習、始めるか!」

そう言って シグナス(白鳥) に乗り込んだ。

その日は、夕方まで練習と調整を繰り返し、あとは明日の予選を待つだけとなったのである。

* * *

「まずい! そういえば宿の宿泊延長しなきゃな」

海鳴亭への帰路、思い出したように仁が叫んだ。

「大丈夫ですお父さま、今朝出てくる時にあと3泊延長してきました」

役に立つ礼子であった。