軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-07 女王蟻

超巨大蟻(ギガアント) は、フィリップとドーナまであと5メートルに迫った。

「もう駄目か……」

観念したフィリップが目を閉じた、その時。

閉じた目にも眩しい光を感じ、もう一度目を開けた彼が見たものは。

頭部に穴を空けられて倒れ伏す 超巨大蟻(ギガアント) であった。

そして、不思議な形の魔導具を構えた少女。

「君は……」

以前、エゲレア王国、ブルーランドで出会った 自動人形(オートマタ) 。

「レーコ、と言ったか。……助かった、ありがとう」

「早く逃げなさい」

礼子は振り返らずに短く言った。そして手にした魔導具が再び光を放つ。

追って来た 超巨大蟻(ギガアント) が2匹、穴を穿たれて転倒し、そのまま動かなくなった。

「あ、あれは魔法? それとも魔導具か?」

「マスター、今はそれどころでは……」

超巨大蟻(ギガアント) を食い止めている礼子の姿が、フィリップの視界から次第に小さくなっていった。

そして、必死に逃げていくエゲレア王国第3騎士隊の面々も、ただ必死に馬を走らせるだけで、誰が救いに来てくれたのか確認する余裕すらなかったのである。

「……そろそろ本気を出してもいいでしょうかね」

もう人間の視力では何が起きたかわからないだろうと判断した礼子は、 光束(レーザー) 銃(ガン) の出力を上げた。

射線上にいる 超巨大蟻(ギガアント) が3匹4匹まとまって穴を空けられ、動かなくなる。

危険を察した 超巨大蟻(ギガアント) が礼子目掛けて腐食液を吐きかけるが、 物理障壁(ソリッドバリア) を破ることは出来ない。

一方で礼子は 物理障壁(ソリッドバリア) を通過する唯一の武器、 光束(レーザー) 銃(ガン) を撃ちまくっていた。

10分ほどで、視界の中に動くものはいなくなる。だが油断は出来ない。 超巨大蟻(ギガアント) であるゆえに、地面を掘って潜んでいる可能性もあるからだ。

『礼子、遺跡方面に進め。そっちに10匹ほど残っている』

上空で観察している仁から連絡があったので、 物理障壁(ソリッドバリア) を張ったまま、礼子はゆっくりと歩き出した。

多少歩きにくいが、それは仕方がない。数分で遺跡前に到着。11匹の 超巨大蟻(ギガアント) を 屠(ほふ) っておく。

周囲に誰もいない事を確認した仁は、老君に連絡した。

「老君、今のうちに、ランド隊を派遣してくれ。それから、 超巨大蟻(ギガアント) のサンプルを採取しておきたい」

『わかりました。では早速に』

1分ほどで、50体の 陸軍(アーミー) ゴーレムと40体の 職人(スミス) ゴーレムが転送されてきた。

ランド隊は、 物理障壁(ソリッドバリア) を張りつつ、 光束(レーザー) 銃(ガン) で、散らばった 超巨大蟻(ギガアント) を倒していく。

そして 職人(スミス) は、礼子が倒した 超巨大蟻(ギガアント) を慎重に調べていった。

まずは、体内に残っていた腐食液の性質を調べる。強力な酸性の液体の混合物らしいということがわかった。

酸化ケイ素系の岩も溶かすところから、フッ化水素酸に似た性質も持つらしい。

『金属も溶かされるようですね。鉄も駄目ですか』

500体のゴーレムは鉄製。遺跡前に取り残された500体も大半が溶かされたり壊されたりしており、無傷なのは1体もなかった。

『壊れてはいますが、程度の良いものを数体回収しておきますか。何かの役に立つかもしれませんし』

老君は、遺跡にあったゴーレムも併せて回収することにした。

あとでゆっくりと解析することになる。

『それから内部の 魔導装置(マギデバイス) は悪用されないよう壊しておきましょう』

効率は悪いが、 魔素変換器(エーテルコンバーター) など、今の技術では作れない 魔導装置(マギデバイス) は、もったいないが解析できない程度に壊しておくことにした。

抜き取ってしまうことも考えたが、それを誰がやったか、と考えればすぐに分かってしまうので、今回は壊すことにしたわけである。

『おや? あれは……』

地面に転がっていたもの。腐食液が掛かって壊れているが、 魔導監視装置(マギモニタ) の撮影側魔導具である。

逃げるときにかなぐり捨てていったらしい。

『偶然とはいえ、これなら 御主人様(マイロード) が到着した時間が特定されずに済みますね……』

転移を使えるということは最高機密の1つだからだ。

仁は空の上から 超巨大蟻(ギガアント) の生き残りを探していた。

「うーん、精度や範囲は狭くていいから、『 魔力探知機(マギレーダー) 』を搭載しておこうかな……」

一方、礼子は内蔵された『 魔力探知装置(マギディテクター) 』で、おおよその方向を感知し、 超巨大蟻(ギガアント) を 屠(ほふ) っていく。

散らばった 超巨大蟻(ギガアント) はランド隊が担当する。

そして、更に12匹の 超巨大蟻(ギガアント) を倒したあとのこと。

ふいに頭の上から黒い影が襲ってきた。

「!?」

余裕を持って礼子は躱すが、思い掛けないものを見た、と驚きに目を見張る。

黒い影は羽蟻であった。

超巨大蟻(ギガアント) の背中に羽が生えており、空を飛んでいるのだ。心なしか、体型も二回りほど大きい。

「雄蟻!?」

仁から授けられた知識の中に、蟻の生態もいくらかあった。

地中に巣を作る蟻には、女王と呼ばれる、卵を産む役目の蟻がいる。そして、一定期間ごとに、新たな女王蟻と雄蟻が生まれ、それらは元の巣を出て結婚し、女王は別の場所に巣を作る……。

「とすると、どこかに女王蟻も!?」

その推測は正しかった。他の蟻が黒色なのに対し、銀色の個体が一段高い所を舞っていたのである。

「……女王に間違いないようですね」

同じ物を仁たちも確認していた。そして同じ結論に達する。

「そうか、遺跡内部のゴーレム500体は、繁殖期の……新しい女王を退治するのが目的だったんだな」

「その可能性が高い」

エルザも賛成した。

「だが、働き蟻まで出てくるとはな……」

ミツバチの類と異なり、蟻は分封(ぶんぽう、分蜂とも)はしないはずだが、そこは地球と異なるのだろう、と仁は思った。

あるいは、500体のゴーレムがいなくなったからかもしれない。

そんな事を考えていた矢先。

「ジン兄、前!」

エルザの声にはっと気が付き、窓から正面を見ると、銀色の羽蟻が迫って来ていたのである。

「ぶつかる!?」

* * *

礼子は、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』で空を飛びつつ、雄蟻を撃墜していったが、女王蟻が仁の乗る『コンロン2』を目指しているのに気が付き、撃ち落とそうと 光束(レーザー) 銃(ガン) を構え……。

「……ここからでは!」

射線上に『コンロン2』があることに気が付いた。このまま撃ったら、女王蟻を貫いた 光束(レーザー) 光が仁たちを襲う可能性がある。

「ならば!」

コンマ数秒の逡巡の後、礼子は 光束(レーザー) 銃(ガン) をエプロンのポケットにしまい、代わりにプラズマソードを手に取った。

5メートルに伸びた光の剣を振るい、礼子は背後から女王蟻を斬り裂くことに成功した。だが、それだけで終わらせる礼子ではない。

「お父さまを狙った報いです」

真っ二つにしただけではなく、更にプラズマソードを振るい、女王蟻を細かく斬り裂いていく礼子。

女王蟻は体液を撒き散らしながら墜落していくのであった。

『礼子、助かったよ』

仁から連絡が入った。

「いいえ、お父さまなら、何らかの方法で対処されたかとは思いますが」

謙遜する礼子に仁は苦笑する。

『生き残りの気配はどうだ?』

「今のところ、 魔力探知装置(マギディテクター) には感じません」

『そうか、わかった』

礼子が感知できないというので、仁は『コンロン2』の高度を下げた。

「礼子、怪我人は?」

直接仁が尋ねると、礼子は首を横に振った。

「……いません。全滅です」

「そう、か」

眼下に横たわっている者たちは、全て事切れていた。

「仕方ない。迷惑料として、使えそうなものだけ回収させよう」

ランドとスミスが立ち回り、そういったものは回収していた。

しばらく礼子は周辺を探って、 超巨大蟻(ギガアント) の生き残りがいないかどうか調べていたが見つからず、どうやらこれで危機は去ったと判断した。

「残るは出て来た穴だな」

遺跡の奥、である。

「まずは調査か……」

仁がそんなことを考えていた時、エゲレア王国第3騎士隊が戻って来た。

「おお! やっぱり、ジン・ニドー卿! それにレーコ殿!」

隊長のポウルである。

「この度は、危急を救っていただき、誠にかたじけなく」

最敬礼をするポウルと騎士隊の面々。

それが済むと、当然の質問が。

「どうしてジン殿はここへ……?」

仁の答えは決まっている。

「『 魔導監視装置(マギモニタ) 』を見ていたケリヒドーレ殿の要請があったんですよ。ちょうど新しい飛行船のお披露目でクライン王国にいたもので」

仁が上を指差すと、そこには『コンロン2』がある。

「ははあ、凄いものですね……ありがとうございました!」

皆、空を見上げて感心することしきり。そんな中から、歩み出てきたのはフィリップ・ティーフォと、その 自動人形(オートマタ) 、ドーナ。

「ジン殿、一別以来じゃが、お変わりなく。……いや、今は『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』じゃから、変わったわけじゃな」

一行は、緊張と恐怖から解放され、ほっとしたのか、しばらくの間は他愛もない話をする。

仁もそれに気づいていたので、特に指摘せずに雑談に付き合うのだった。