軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-31 エゲレア王国にて

エゲレア王国では、仁の到着を待ち構えていたようだ。

熱気球2機が仁を出迎え、王城内の外宮広場に誘導してくれた。

そこにはアーネスト王子が待ち構えており、仁の顔を見るなり、駆け寄ってきたのである。

「ジン! 久しぶりだね! エルザも、ラインハルトも! 元気そうで何よりだよ!」

「殿下もお変わりなく」

「こんにちは」

「ご無沙汰しております」

口頭で簡単な挨拶を交わす。お互いに、こんな型破りな挨拶も、アーネストが成人前だから許されている。

まだ年が明けたばかりであるが、来年には15歳となり、成人の儀が執り行われるそうだ。

(……そうなったらリースヒェン王女との婚姻もあるだろうな……)

などと仁は考えている。

* * *

型破りな歓迎も終わり、仁たちは王の執務室へと通された。

「『崑崙君』ジン・ニドー卿、久しいな。レーコ媛も相変わらず愛くるしい」

変わらぬエゲレア国王、ハロルド・ルアン・オートクレースが、開口一番、仁を『崑崙君』と呼んだ。礼子が従騎士であることも認識しているようだ。

「はい、陛下にもお変わりなく」

「うむ。……ラインハルト・ランドル卿、しばらくであった。そちらはエルザ嬢……いや、今はエルザ・ランドル媛と呼ぼう。元気そうであるな」

エゲレア国王はラインハルトとエルザにも声を掛けた。

王の方から声を掛けたと言うことは、この来客を殊の外重要視しているということである。

一通りの挨拶を済ませると、宰相、ボイド・ノルス・ガルエリ侯爵も笑みを浮かべながら挨拶をし、会談の目的を口にする。

「『崑崙君』、今、我が国の調査隊が旧レナード王国に派遣されていることはご存知ですな?」

「はい、聞いています」

「彼等は、最近開発された魔導具を持って行っておりましてな。……いや、開発と言うより『再現』ですかな?……その魔導具について御意見をうかがいたいのです」

身分は名誉士爵であるが、『崑崙君』として、ごく小さいながらも領主となった仁に、宰相はそれなりに敬意を払った話し方を用いた。

魔導具、というところで仁は興味を惹かれる。ラインハルトとエルザも同様だ。

「第2は、輸送力としての船の話、第3に……」

ラインハルトもいるため、外交関連の話もある。仁は『崑崙君』ということで、中立の立場を貫こうと考えてはいるのだが、なかなか難しそうである。

会談は、まず仁が持って来た世界地図のお披露目から始まった。

「さすがジン殿。空からの観察とは畏れ入る」

ここエゲレア王国でもエリアス王国同様、地図の精密さには皆驚いている。

都市の位置、河川の流れかた、国境線などが一目でわかる。

縮尺が大きいので、村や集落などの細部はわからないが、主要な街道まではそれとわかるため、経緯線が無くとも十分、いや、十二分に実用的であった。

宰相はその地図を押し頂くと頭を下げた。

「この地図の礼は、このあとの相談事も含め、まとめてさせていただくことにしたい」

仁もそれでいい、と言った。

その次は船の話、ということになった。この時点で一同は宰相の執務室へと移動している。

「我が国でも、海運という点から、大型船を造ることを計画中だ。今、ナールネッカに専用のドックを建造している。それに、河川用の小型船を」

ナールネッカは、『ベルンシュタイン』を歓迎した港である。小さな湾となっており、波が穏やかなのでドックには適している。

「それで、ジン殿には……」

「推進器ですね」

言いにくそうにしている宰相の言葉を先取りして仁が口にした。

「……そのとおりだ」

そこで仁は、まず自分の構想を説明することにした。

「その話をする前に、聞いていただきたいことがあるのです」

「ふむ、聞かせて貰おう」

「ナウダリア川は、川幅こそ広いですが、水深は浅いですよね?」

第5列(クインタ) の調査結果なので間違いないと思うが、一応確認しておく仁。

「うむ、深いところでも5メートルくらいと聞いている」

これを確認したところで、仁の構想がまとまる。

「わかりました。それで、船ですが、川舟と大型船を分けて考えると言うことでよろしいでしょうか?」

「当然だろうな」

「そうしますと、川舟には『棹』を使うことをお勧めします」

「『棹』?」

「ええ、棹です」

そこで仁は説明する。

「船頭……船を操る担当が、水深よりも長い棹を持って川底を突くんです。その反動で船は進みます。簡単でしょう?」

仁が手真似で棹を突く仕草をやって見せた。その原理は単純明快、絵を描く必要すらなく、全員理解してくれたようだ。

「ゴーレムを船頭とすれば、夜も進めますしね」

「なるほど、川には向いているな」

「ええ、浅くて川幅の広いところは棹で。深いところは推進器を使うんですよ」

そして仁は、小型船なら 水魔法推進器(アクアスラスター) の方がいいだろうと説明する。

「ふむ、藻などの心配も少ない川であるし、小型ゆえに、詰まってもすぐ掃除できるしな」

宰相にも理解して貰えたようだ。

「浅底の船は、ショウロ皇国トスモ湖で多く使われています」

船体についてはラインハルトが説明を受け持った。

「馬車を運ぶ物は20メートルくらいありますが、基本形は10メートルです。渡し船として人間や小荷物を積んで運びます」

「ふむ、まずは基本形で行くのが無難だろうな」

最初は基本を押さえ、その後応用、発展させていくというしっかりした考えの元、船体についても話が詰められていった。

「ジン殿の推進方法と浅底船を組み合わせるなら、専用のドックを別に作った方がいいかもしれぬな」

宰相は、浅底船で海を進む際の危険性に気が付いたようだ。

浅底船は波の影響を受けやすい。ゴーレム艇競技で使ったような、4メートル程度ならいいが、10メートルあると、船底の強度に問題が出てくるだろう。

競技艇ならばふんだんに高級素材を使えるだろうが、量産される商業用船では、製造費用も考慮する必要があるわけだから。

「海は大型船で運び、ナウダリア川河口で積み替える、というのが現実的か」

「そうですね、そう思います」

仁も賛成した。

「ふむ、そうなると大型船とは別のドックをオコソソの町に作る必要があるな」

オコソソはナウダリア川河口にあり、セルロア王国との国境に近い町である。これを切っ掛けに発展していくことになるだろう。

「積み替えを前提にするなら、荷物の大きさも規定した方が何かと便利では?」

ここでも仁は、

灯台を沿岸に建設する必要性。

荷物を入れるコンテナの規格化。

旗や信号による情報の伝達、その際の国際規格化。

航路の設定と港の整備。

海難救助の体制確立。

と、エリアス王国で提案したことと同じ内容を口にした。

その後、細部を説明し、援助内容を取り決めて、船については終了。

そしてショウロ皇国大使としての話し合いも行われ、その日の打ち合わせは無事終了した。

* * *

「結局、再現したとかいう魔導具は明日か……」

久しぶりに泊まった迎賓館。あの『ゴーレム 園遊会(パーティー) 』以来である。

王城にある貴賓室にどうぞ、と言われたのだが、仁が肩肘の張らないこちらがいいと主張したためだ。

「しかしジン、『棹』か。気が付かなかったよ。流れの緩い川なら、ゴーレムの力で十分に船を操れるだろうからな」

仁とラインハルトは風呂でのんびりしつつ、いろいろな話をしていた。

「ラインハルトは謝礼貰えないのに俺だけ貰って悪いなあ……」

「はは、僕は完全に公務のうちだからな。ジンは任意……と言うか、好意で付いてきてくれているんだし、今や『崑崙君』、独立したわけだからな」

そう、先日のエリアス王国における助力により、仁は500万トールという謝礼を貰っていたのである。

仁としては、お金ばかり増えても使い切れないという、実に贅沢な悩みを抱えていたりする。

かといって、無駄遣いすることもできない仁なのだった。

「お父さま」

入浴を終えた仁が外に出ると、礼子が待っていた。

ラインハルトと一緒に入浴したので、礼子は外にいたのだ。

「あ、エルザ」

「ジン兄」

同じく、ちょうど女性用浴室から出てきたエルザと廊下で出会う。

そのまま並んで部屋へ戻る。まだ部屋は別々なのだが、仁は自室にエルザを誘った。

「ん」

素直に付いてくるエルザ。

「何か飲むか?」

「ん、それじゃシトランジュース」

仁の部屋で椅子に座り、風呂上がりに冷たい飲み物を飲む2人。

「あれからもう1年近く経ったんだな。前回ここに泊まった時は、エルザと婚約するなんて思わなかったよ」

「ん、私も」

「あの頃俺は、エルザのことを、『少し危なっかしい妹』、と思っていたんだ」

今夜の仁はやけに口が軽い。風呂に入るため、解毒の魔導具を外してそのままだから、入浴前にラインハルトと飲んだワインの酔いが回って来ているらしい。

「……今は?」

少し頬を染めたエルザが、上目遣いに仁に尋ねた。

「……大事な、家族。……いや、それも失礼だな。大事な『女性』だ」

その言葉に、『少し』ではなく真っ赤になったエルザは椅子を蹴って立ち上がった。

「……もう、寝る。おやすみなさい」

そして、急ぎ足で部屋を出て行ったのである。

「……ありがとう」

という言葉を残して。