作品タイトル不明
21-24 仁の計画
3458年1月3日、エゲレア王国。
首都アスント、その王城中庭に集合した一団があった。
旧レナード王国調査団である。
隊長は、近衛騎士隊副長のブルーノ・タレス・ブライト。
近衛騎士を派遣するあたり、エゲレア王国がこの調査団に力を入れていることがわかる。
隊員は騎士5名に加え、 魔法工作士(マギクラフトマン) のジェード・ネフロイも同行。遺跡や遺物の調査に役立つだろうとの判断からだ。
また、秘密裏に開発された、とある魔導具の実用試験も兼ねているのである。
「良いか、成果を期待しているぞ」
「はっ!」
宰相であるボイド・ノルス・ガルエリ侯爵の檄に、一斉に敬礼を行った。
彼等は、首都アスントを発ち、ブルーランドを経由し、海岸沿いの街道に出、東の端ファイストという村から国境を越え、旧レナード王国に入る事になる。
まず目指すはニューレア集落。
そこはハチミツで有名な土地であり、友好的な者たちが住んでいるので、そこで案内を募る予定であった。
「その後は出たとこ勝負だな。国境山脈沿いに北上していけば、どこかでクライン王国の調査隊と出会うはずだ」
この調査行は、熱気球でバックアップ、サポートすることになっている。
ファイストと同様、国境にあるヨークジャム鉱山に熱気球を待機させ、必要に応じて飛ばし、進路を指示することになっていた。
* * *
「……というのが計画だそうよ」
「なるほど……」
1月3日の朝。
仁、エルザ、ラインハルトらは、迎賓館でフィレンツィアーノ侯爵の説明を聞いていた。
「両国の調査隊がうまく出会えるかどうか、は熱気球に掛かっていますね」
「そういう事ね。我が国は、この調査行が上手くいくよう、祈るしかないわ」
侯爵は一息つくと、クゥヘを一口飲んだ。
「それで、昨日の夕方、鳩で返事が届いたわ」
これは仁ではなく、正大使であるラインハルトに向かっての言葉。
「ラインハルト・ランドル卿の要望は全て受け入れられたわ」
「そうですか、安心しました」
大使としての使命を果たせ、心底ほっとした様子のラインハルト。
「加えて、クライン王国から要望があった際には、トポポの援助は惜しまないわ。調理法のレシピも付けて、ね」
「ありがとうございます」
これは仁。一応、クライン王国の関係者でもあるわけだ。
「侯爵に、一つお願いがあるんですが」
話が一段落したところを見計らって、仁が切り出した。
「何かしら?」
「俺を首都ボルジアへ……いえ、王様に会わせて下さい」
横で聞いていたエルザとラインハルトも驚く。そんな話は聞いていなかったからだ。だが、付き合いの長い2人は、すぐにその意図に気が付いた。
「……もしかして、熱気球をいただけるのかしら?」
フィレンツィアーノ侯爵もそれに気付いた。
「ええ、よろしければ」
「嬉しいわ! すぐに連絡を取ります。鳩でのやり取りですから、明日……いえ、早ければ今日の夕方には返事が届くかもしれませんね」
鳩の飛ぶ速度は、分速1000メートル以上(分速で表すのは慣例)。平均時速で80キロは出る。
ポトロックと首都ボルジアの距離は120キロ程度。往復だけなら半日も掛からない。
「よろしくお願いします」
それで仁たちは退出。侯爵は早速手紙を書き、鳩で送ってくれるそうだ。
「ジン、いきなりだったから驚いたよ」
「私も」
3人だけになると、エルザとラインハルトが仁に向かって言う。非難めいた口調ではない。
「すまん。事前に伝えておくべきだった」
「ああ、まあいいさ。でも、なんか急いでるみたいだな? 何か思うところがあるのかい?」
「うん。実は、崑崙島を、俺の所有地だと認めさせたい、と思っているんだ」
「えっ?」
「ああ、あれ」
ラインハルトの顔には疑問符が浮かび、エルザは納得がいったという顔。
「ああ、順を追って説明するよ。礼子、お茶を淹れてくれるか?」
「はい、かしこまりました」
そして、礼子が淹れてくれたクゥヘを飲みながら、仁は説明を開始した。
「きっかけは大型船の建造だ。これから、船はますます発展し、外洋へ出て行くことになるだろう。そうなったら、蓬莱島はともかく、崑崙島は近いうちに見つかる可能性が高い」
「まあ、そうだなあ」
ラインハルトも仁の見通しに同意した。エルザも無言で頷く。
「で、それならいっそ、崑崙島を俺のもの、と国際的に認めさせたい。小さな島だし、不可能じゃないと思ってる」
蓬莱島がおおよそ栃木県や群馬県と同じくらいの面積で、崑崙島は伊豆大島くらいである。
以前、蓬莱島が四国くらいの大きさと思っていたが、空からの正確な観測でそれは勘違いだとわかっていた。
「元々、崑崙島は蓬莱島のダミーだったわけだしな」
ここへ来てようやく、本来の用途に使えそうだ、と仁は苦笑気味に言った。
「崑崙島を東の外れと認識してくれれば、蓬莱島の存在を隠しやすくなる。まあ、その頃には幻影結界も完成しているだろうしな」
「なるほど。ジンもいろいろ考えていたんだな」
「ああ。そして出来れば、特定の 転移門(ワープゲート) の存在は明らかにできたらいいなと思ってる」
「だが、それは……」
難しい顔になるラインハルト。先日も少し話題になったが、彼も、その持つ意味を十分に知っているのだ。
「言いたいことはわかる。だが、昨日だっけ、ちょっと話をしたろう? 国の管理下に置かれるなどの条件さえ満たせば、交通技術の発達を歪めなくて済むかもしれない」
「……条件は良く考える必要があるぞ」
「ああ。だけど、ここポトロックにも 転移門(ワープゲート) はあるし、何より、ブルーランド郊外のものは、クズマ伯爵とビーナも知っている。いやビーナは使ったことがあるんだ」
「確かに……」
「だから俺は、崑崙島と 転移門(ワープゲート) 、この2つをなんとか穏便に世の中に知らしめたいと思っているのさ」
ラインハルトとエルザは黙り込んだ。どうやったらそれが出来るか、考えているのだろう。
『お父さま、老君からの提案です。……使用する 魔力素(マナ) は、通常の 魔力貯蔵庫(マナタンク) では賄いきれないそうです』
「ああ、そうか、それがあったな」
転移門(ワープゲート) が消費する 自由魔力素(エーテル) は膨大である。
空間を繋げるのだから当たり前であるが、1回の使用で、おおよそ10の12乗ジュール、TNT火薬1キロトン分の爆発のエネルギーを必要とする。
逆に、空間に穴を開けるには少なすぎるとも言えるのだが、そこは魔法の効果、というしかない。
かなり大きな 魔素変換器(エーテルコンバーター) もしくは 魔力反応炉(マギリアクター) がなければ、恒常的な使用はできない。
つまり、今の世界の魔法技術から見たら、対費用効果が悪すぎるのである。
魔素暴走(エーテル・スタンピード) 前なら採算が取れていたのかもしれないが。
閑話休題。
であるから、もし 転移門(ワープゲート) が各国に配備されたとしても、軽々しく使用できるものにはならないだろうと思われた。
「うーん、その線ならなんとかなるかもな」
考えた末、ラインハルトが呟くように言った。
「まだすぐに公表するつもりもないし、もっと良い方法もあるかもしれない。だから、協力して欲しい」
纏めるように仁が言った。ラインハルトとエルザは大きく頷く。
今すぐではなく、世界に影響を与えないやり方がないか、よく考えてから。
それで仁たちの意見は一致した。
「それはもちろんさ。僕だって 転移門(ワープゲート) にはお世話になっているしね」
「私はいつでもジン兄を、お手伝いする」
「お父さま、わたくしも老君も、もっと情報を集め、お手伝い致します」
「ありがとう、みんな」
仁は、いい仲間を持った、と、心から思うのであった。