軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-23 動き出す諸々

時間は戻るが、3457年11月半ば、ショウロ皇国は5体の巨大ゴーレム『ゴリアス』により、10トンの乾燥剤をクライン王国に輸出している。

『ゴリアス』5体は街道を進み、途中いくらかの紆余曲折を経て、12月末にクライン王国に達していた。

10トンの乾燥剤を受け取ったクライン王国では、さっそく倉庫に配備したのは言うまでもない。

ところで、この『ゴリアス』の運用のもう一つの目的は、街道の整地にあった。5トンという重さの巨人が5体歩いたおかげで、地面は踏み固められ、凹凸は均されてしまっていた。

つまり、馬車などの通過がより一層楽になったと言うことである。

このゴリアス5体を率いてきた責任者はフリッツ・ランドル・フォン・グロッシュ少佐、エルザの兄である。

彼にとっての人生の転機が訪れようとしていた。

3458年1月1日。

新年を迎えての参賀の儀がクライン王国王城でも行われた。

「皆の者、新たな年を迎え、我がクライン王国も生まれ変わるつもりで政策を進めていきたい」

お定まりの挨拶が終わった後の、クライン国王アロイス3世はそう切り出した。最早顔色は健康そうで、まだ痩せてはいるものの、病気の影は見えない。

「まずは昨年から計画してきた、旧レナード王国の調査を行いたいと思う。かの国が滅亡しているというのは、信頼できる筋からの情報で明らか。となれば、隣接する我が国としては、その国土を維持管理する義務を負う」

実も蓋もないが、要は、この機会に何か役に立つものが無いか探しに行こう、という話である。

「かの国はハチミツや果実が採れると聞く。また、エルラドライトをはじめとする鉱物資源が豊富らしい。まずはその調査、そして確保を目指す」

とはいえ、崖っぷちに立たされたクライン王国である。

ショウロ皇国、エゲレア王国、エリアス王国はそれを認めていた。

そしてフランツ王国とセルロア王国にも、話だけは通してある。

「ショウロ皇国からやって来た巨大ゴーレム5体にも協力して貰えるよう話はついている」

少々の荒れ地やブッシュなどは、『ゴリアス』が先に立って歩くことでどうにでもなる。また、野獣などの脅威にも対応できる。

『ゴリアス』は、可能ならそのままエゲレア王国まで進み、セルロア王国を介さない、クライン—エゲレア街道を切り開くことになっていた。

「整列!」

2日朝、王城前広場に凛とした声が響き渡った。

『旧レナード王国調査隊』のメンバーである。

隊長はベルナルド・ネフラ・フォスター子爵。クライン王国第2騎士団団長である。焦茶色の髪、薄い茶色の瞳。身長180センチ、体重は72キロ。39歳。なかなか有能だと言われている。

より抜きの部下5名が付いている。

副隊長はグロリア・オールスタット。言わずとしれた近衛女性騎士隊副隊長であり、剣の達人でもある。部下3名を率いて参加。

案内人として、民間人からラグラン商会のローランドが参加している。行商人として旧レナード王国に行った経験を買われたのである。また、それなりに護身術を使えることも選ばれた要因だ。

「ローランド殿、まずはゼオ村を目指す、でよいのだな?」

「はい、隊長」

最後に、ショウロ皇国軍属、フリッツ・ランドル少佐と部下2名。彼等は探検成功後もクライン王国には戻らず、エゲレア王国に抜けることになる。

ほぼ同時に、エゲレア王国からも旧レナード王国の調査隊が出されることは3国間で打ち合わせ済みであった。

「ランドル少佐、よろしくお願いする」

「フォスター子爵、こちらこそよろしく」

5体の『ゴリアス』に、食糧をはじめとする装備を運ばせることができるので、隊員たちはかなり身軽だ。

帰路には自分たちで装備を運ぶことになるが、食糧は半分に減っているし、『ゴリアス』が歩いて整地された道を戻ればいいので、往路とは比べものにならない。

「隊長、準備整いました!」

「よし、出発する!」

「『ゴリアス』、出発!」

こうして、ショウロ皇国・クライン王国混成の調査隊は2日朝、首都アルバンを発ったのである。

* * *

仁と礼子、エルザ、エドガーは、まず 転移門(ワープゲート) でカルツ村へ行った。

「ラインハルト、明けましておめでとう」

「おめでとう、ジン。……ジンのところの挨拶だっけ?」

小群国やショウロ皇国では、『新年を迎え、今年もよろしく』というような言い方が普通なのである。

「ジン様、エルザさん、明けましておめでとうございます」

ベルチェがにこやかに仁たちを出迎えた。

「おかげさまで、夫と水入らずの数日を過ごせましたわ」

「それは良かった」

幸せそうなベルチェの顔を見て、仁も嬉しくなる。

一同は、ラインハルトの『 蔦の館(ランケンハオス) 』、その居間へと移動した。

「もう、移動について誤魔化さなくてもいいようにしたいものだなあ……」

出されたお茶を飲みながら、仁が呟く。

「ジン兄、それには 転移門(ワープゲート) を一般公開する必要がある」

「ああ、わかってる」

これが一般化したら、今回開発した船や熱気球、飛行船などが用無しになる可能性がある。

それは酷く歪な文化になるだろう。

さすがに仁にもそれくらいは推測できる。故に一般公開せずにいるのである。

「だけど、魔導大戦前は今より普及していたのでしょう?」

ベルチェの疑問。

「ああ、それでも、国の管理下にあって、勝手に使うことはできなかったらしい」

アンから得た知識である。

1000年前、先代の頃はもっと一般的だったらしいのに、その間に何があったのか、は今のところ不明である。

「おそらくだが、エネルギーの問題では?」

ラインハルトが思いついた事を口にした。

「 魔素暴走(エーテル・スタンピード) で 自由魔力素(エーテル) が少なくなったから……ああ、それでも説明できないか」

そう、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 前の世界でも、既に 転移門(ワープゲート) は国の管理下であったのだから。

「……軍事的な問題、とするのが良さそうな気がする」

エルザの意見。

転移門(ワープゲート) は軍事目的に使えるため、国から軍に管理が移ったという推測。

そこにいた全員、その可能性が高そうだ、と、一応の納得をし、話題を変えることにした。

「明日朝一番でポトロックに着くようにするつもりだが、前日どこ発とすればいいかな?」

「ちょっと待て、ジン。朝一番で着く、というのはどう考えてもおかしい」

「あ、そうか」

夜中も飛んでいられるというのは、この世界の常識では有り得ない。

「むしろ、今日の夕方着いた方が説明しやすい」

「と言ってもな……」

今はカルツ村ではまだ昼時、ポトロックではおおよそ午後3時。

「そうするか?」

仁はラインハルトの意向に沿うつもりになった。

「ああ、それでいいと思う。な、ベルチェ?」

「ええ、あなた。本来なら、こうしてお帰りになることも出来ないはずでしたもの」

ベルチェもそれでいいという。

「わかった。……礼子、老君に連絡してくれ」

「はい、お父さま」

飛行船はスチュワードが操縦し、蓬莱島に戻って来ていたので、転送機を使いポトロック近くに転移させ、そこに 転移門(ワープゲート) で乗り込む、という手順を取る必要がある。

ややこしいが、これも技術隠蔽のため、ひいては世界平穏のためである。

「準備が整ったようです」

10分後、礼子を通じて連絡が入る。

「よし、じゃあ行くか」

「あなた、行ってらっしゃいませ。無事のお帰りをお待ちしておりますわ」

「うん、ベルチェ、留守は頼んだ」

抱擁し、軽くキスを交わすおしどり夫婦を横目に、仁、礼子、エルザ、エドガーは次々に 転移門(ワープゲート) をくぐって飛行船へと移動した。

「カイナ村からなら、なんとか8時間で着けるといってもおかしくないだろう」

実際の距離を把握している者などいないので、朝カイナ村を出発したことにする。

「さあ、ポトロックだ」

1月2日午後4時、仁たち一行は再びポトロックの土を踏んだのである。