軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-22 1年の目標

1月2日朝、仁は蓬莱島時間8時に起きた。

カイナ村とは2時間20分ほどの時差があるので、ハンナに会っていく時間は十分取れる。

眠そうな目を擦りながら起きてきたエルザと共に、礼子が作った朝食を食べる。

献立は白いご飯、油揚げとおからの味噌汁、梅干し、それにアジ(に似た魚)の干物を焼いたもの、そしてほうじ茶である。

「申し訳ないのですが、もち米が見つからないので、お雑煮を作れませんでした」

正月と言えば雑煮、であるが、それに欠かせない餅は、仁たちが食べているうるち米ではなく、もち米でないと作れない。

もち米のデンプンは調理時に強い粘性を生じるという特性を持つため、あの『餅』を作るには必須であった。

因みに、もち米の『もち』とは、『糯』と書かれ、『糯』はアミロース(デンプンの一種)を全くあるいはほとんど含まない性質を持つ作物を指すそうだ。

「いや、これはこれで大好物だから」

と言いながら、仁は味噌汁を美味そうに飲んだ。

「ジン兄、私もこれ、好き」

エルザもおからの味噌汁は気に入っていた。

「そりゃあ良かった。おからは食物繊維たっぷりで美容にもいい……らしい」

仁がそう言うと、若干エルザの食べるペースが早くなったようだった。

そんな2人の食べっぷりを、調理した礼子は嬉しそうに眺めていた。

* * *

『 御主人様(マイロード) 、一つ思いついた事があります』

朝食後、まだ少し時間があったので、昨日『700672号』から貰った転送装置の解析具合を老君に聞きに行くと、面白そうな提案がなされた。

「うん、聞かせてくれ」

『はい。転送機でマーカーを送り出し、転送装置を使い、転送機ごとそこへ転移する。これは、『ワープ機関』と言えませんか?』

「なるほど……」

仁が作り上げた魔導頭脳、老君は、時に仁が思いつかないようなアイデアさえ思いつくことがある。それは、取りも直さず、作り上げた仁の非凡さの証明でもあった。

「確かにな。擬似的に『ワープ機関』を実現していると言えるな」

『はい。但し、転送機は、方位測定のため、あまり小型化できないのが欠点です』

転送機の要とも言える方位測定器は、『 魔力探知機(マギレーダー) 』と同じである。つまり三角測量を用いているため、2つの測定器の距離が離れているほど、遠方での精度が向上する。

「待てよ? そのマーカーだが、『 魔導監視眼(マジックアイ) 』の機能を持たせれば、転移先の様子がわかるな」

転移先が間違っていないかどうか、また、危険がないかどうかがわかる、これは安全性という点では有効だ。

「これを、実験的に何かに積んでみるというのも面白いな」

『大型の航空機、コンドル4でも作ってみましょうか?』

「ああ、そうだな。実験的にやってみてくれ」

『わかりました』

ワープ機関が出来れば、移動が更に楽になる。仁は、擬似とはいえ、この方法も面白い、と思ったのである。

* * *

予定していた時間になったので、仁、礼子、エルザ、エドガーはカイナ村に移動した。

2日のカイナ村は、元旦の浮かれ気分もどこへやら、通常の生活に戻っていた。

(現代日本が休み過ぎなのかなあ……)

仁は村人たちを見てそんな事を思ったりしている。

そもそも休日という概念を持たないカイナ村、いつも通りの生活が一番、と、皆思っていたりする。

「おにーちゃーん!」

ハンナが駆け寄ってきた。

但し、子供たちは別。

生活が楽になった分、家の手伝いからもかなり解放され、遊びと勉強に時間を取れるようになったのである。

勉強会は4日から、ということで、いわゆる3が日は冬休みとしているので、みんな楽しそうに遊んでいた。

「雪だるま作っていたのか」

「うん! 見て見て!」

ハンナが作った雪だるまは日本式、つまり大小2つの雪玉を重ねたもの。黒い石などで顔をつくってある。

「おお、上手くできたな」

「あのね、これがおばあちゃんで、これがおにーちゃん。これがレーコおねーちゃんで、こっちがエルザおねーちゃん。これはミーネおばちゃん。それで、これがあたし」

少しずつ大きさの違う雪だるまが6体、輪になって立っていた。仁はハンナの頭を撫で、

「お疲れさん。寒いんじゃないのか?」

と労う。

「ううん、だいじょうぶ。おにーちゃんにもらったてぶくろがあるもん」

岩氷ウサギの毛皮でできた手袋は冷たさや水分をかなりシャットアウトしてくれるのだ。

因みに、足元には 雪虎(スノータイガー) の革でできたブーツを履いている。

元々寒さには強いハンナたちカイナ村の子供は、みんな元気いっぱいで飛び回っていた。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

昼を回り、そろそろ仁たちも出掛けなければならない時間だ。

「おにーちゃん、行ってらっしゃい」

にこやかに仁を送ってくれるハンナ。

仁は、この笑顔を守るため、今年も頑張ろうと心に誓うのであった。

* * *

「うむむ、40メートル級の船だと!」

セルロア王国国王、リシャール・ヴァロア・ド・セルロアは、報告を聞いて憤慨した。

去る12月12日、セルロア王国クゥプ沖で、ショウロ皇国の『ベルンシュタイン』と、商人エカルト・テクレスの『ブリジット』がすれ違った話が届いたのである。

「我がセルロア王国国軍も持っていない、そのような巨大な船が実用化されているのか!」

首都エサイアの東西には、大河アスール川とトーレス川が流れ、北方には巨大湖アスール湖がある。

そうした国家であるセルロア王国が造船において他国に負けるのは、国王としての誇りが許さなかった。

「すぐさま、巨大船建造の国家的計画を立てるように。今年は我がセルロアが諸国の上に君臨する年にするのだ」

セルロア王国において、国王の命令は絶対である。第一内政長官ランブローはすぐさまプロジェクトを立ち上げんと会議を開いた。

「予算はどうするのか!」

「人員は?」

「建造は……アスール湖だろうか」

「いや、そうしたらどうやって海へ運ぶのだ?」

「アスール川、そしてナウダリア川があるではないか!」

議論を戦わせた末、アスール湖にドックを建造、優秀な 魔法工作士(マギクラフトマン) と 造船工(シップライト) を徴収することになった。

臨時の税も徴収され、民の不満は増していく。

だが、王の勘気に触れることを恐れ、諫言するものは誰もいなかった。

そんな中。

「父上、今回の計画、拙速に過ぎます!」

第一王子、つまり王太子だけが苦言を呈したのである。

「セザールか。何か不服があるのか?」

セルロア王、リシャールは玉座から王子を見下ろしながら口を開いた。

「計画そのものに不満はございません。ですが、あまりにも急ぎすぎてはおりませぬか? 焦りは見落としを生み、見落としは事故を誘発します」

だが、王は鼻で笑い飛ばす。

「ふん、我が国の魔法技術がそんなに信じられんのか?」

「信じる信じないではございません。不安は少しでも少ない方がいいと存じます」

「一理ある。が、良く考えて見ろ。漠然とした不安よりも、国の威信の方が大切なのだ。ショウロ皇国に後れを取ったのはともかく、民間に負けたままでいられると思うか?」

王太子は俯いたが、すぐに顔を上げて反論する。

「いえ、負けた、というよりも、民間にさえこれだけの技術があるのだ、ということを喧伝すればよろしいのではないでしょうか?」

「ほほう、面白いことを考えたな。……クゥプは我が弟の治める地域であったな。よし、アランに申し伝え、そのエカルトとかいう商人の船を徴発することにしよう」

徴発。すなわち、国が召し上げる、ということである。

「父上! それでは民の不満が!」

「何を言っておる。この国土は王家のもの。そこに住んでいる者は王家のものだ。自分のものを自分の手元に持ってくる事の何が悪い?」

「父上……」

「セザール、お前も次の王になるなら覚えておけ。民は生かさず殺さず、それを見極めることが国を富ますコツだ」

「……失礼します」

王太子セザールは項垂れて王の前から下がったのである。