作品タイトル不明
21-17 カイナ村の年越し
12月30日。3457年最後の日である。
仁はエルザを連れてカイナ村に戻って来ていた。
「考えて見たら、年末年始を意識して過ごすのって初めてなんだな」
そう、昨年から今年にかけての仁は、あのワルター伯爵のせいで、カイナ村から蓬莱島へ避難した後、ゴーレムメイドの配下を作ったり、グライダーゴーレムを作って島の地図を作製したりしているうちに年が明けていたのである。
「今年はちゃんと年越しできるだろう」
ここカイナ村では、年末の行事として、村長宅に村民が代わる代わる1年を締めくくる挨拶をしに来る、というのが今までの行事だったようだ。
今年は、領主である仁のところに挨拶に来る事になるというので、仁はいろいろと工夫をすることにした。
二堂城で宴会の準備を進めたのである。
ロイザートの屋敷からバロウとベーレも呼び寄せた。
仁ファミリーにも声を掛けたが、ラインハルトは愛妻ベルチェと過ごすことを選び、トアとステアリーナも2人でいることを希望。ヴィヴィアンはショウロ皇国の年末年始に興味を持ったらしく、新しくできた知り合いの家へ泊まり込みするそうだ。
サキは来るかな、と思ったのだが、祖父であるテオデリック侯爵の元で過ごすことになったようである。
ということで、ファミリーでは仁とエルザ、それにミーネの3人がカイナ村で年越しをすることになる。
「ジン様、用意できました」
「ああ、ご苦労」
そろそろ薄暗くなってくる時刻、二堂城の大広間には、コタツが多数並べられていた。ヒーター部分は魔石コンロと同じような構造の魔導具である。
掘りごたつにするには仁と言えども時間が足りなかった。
コタツの上には籠に入ったシトランが。『コタツでみかん』をなんとか再現したかった仁の拘りである。
猫ゴーレムもやって来て丸くなっていた。
あとは、仁がその潤沢な財源をフル活用し、小群国各地から買い集めた食材と酒が所狭しと並んでいる。
来た人たちに好き勝手に飲み食いしてもらおうというのである。
さすがに年越しソバまで押しつける気はないが、麺類も用意はしてある。
蓬莱島から呼び寄せた5色ゴーレムメイド達がきびきび働いてくれたおかげで、短時間で準備が整ったのだ。
空に星が瞬き始め、カイナ村の人たちが三々五々、集まり始めた。
「おー! ジン、久しぶりだな!」
「なかなか忙しそうだな! 今夜は楽しませてもらうぜ!」
「ジン、それにエルザちゃん、仲良さそうで何より!」
二堂城入口にいる仁に、時にはエルザにも声を掛け、村人たちがやって来る。
真っ暗になる頃には、ほぼ全員が集まってきていた。
ほぼ、というのは、新生児を抱える家の奥さんたちが来ていないからである。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
そろそろ頃合いと、集まった村人達に向かい、広間奥の壇に登り、仁は話し始めた。
ざわついていた人々も、水を打ったように静まりかえって耳を傾けてくれている。
「本日は、年越しの宴会ということで、いろいろなものを用意しました。家に家族を残している人にはお土産もありますし、少しなら料理を持ち帰ってもらっても構いませんので」
仁がそう言うと拍手が巻き起こった。
「さすがジンだぜ!」
「気前いいな!」
が、もう一度仁が口を開くと、軽口はぴたりと止む。
「それでは、長ったらしい話はやめにして。皆さん、今年1年、お疲れ様でした。来年もよろしくお願いします」
それだけ言うと、仁は壇上から降りた。
拍手と歓声が起こり、皆口々に、『お疲れー!』とか、『よろしくなー!』などと叫んでいる。
そして酒や料理に舌鼓を打つ時間。
「おおー! この酒、美味え」
「この肉、何とも言えないいい味付けだな」
「この果物、甘くて美味しいわあ」
当の仁は、マーサやミーネ、ハンナたちとコタツを囲んでいた。
仁の膝の上にハンナ、右隣にエルザ、左隣にミーネ、正面にマーサ、という位置取りである。礼子とエドガーはそれぞれ仁とエルザの真後ろに座っている。
「ジン、今年1年、お疲れ様」
マーサからの労いの言葉が掛けられた。
「ありがとうございます。でも実際は礼子とかエルザとか、俺の周りに随分手伝ってもらいましたけどね」
それは偽らざる仁の本音であった。仁1人では到底実行しきれなかったであろうから。
「ふふ、それでいいんだよ。人なんて皆、1人では大した事できやしないんだから」
マーサはそう言って、仁に笑いかけた。
「それよりも、何か言うことがあるんじゃないのかい?」
仁とエルザの顔を交互に見比べながら、探るような目をするマーサである。
「え、ええ、まあ。……えーと、あのですね。俺、エルザと、婚約……しまして」
それを聞いたマーサはあまり驚いていない。
「やっとなんだねえ。おめでとう、ジン、エルザちゃん」
「ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
少し赤くなりながらお礼を言う仁とエルザである。
「えー、おにーちゃんとエルザおねーちゃん、けっこんするのー?」
これはハンナである。
「おにーちゃんのおよめさんになってあげる、ってやくそくしたのにな……」
少ししょんぼりするハンナを見て、エルザが爆弾発言をした。
「ハンナちゃん、ごめんね。……でも、ジン兄は領主で貴族だから、何人お嫁さんがいても大丈夫」
それは本心なのか、天然なのか。いずれにせよ、ハンナの顔に笑顔が戻った。
仁の方は引き攣った笑顔を浮かべているが、膝に乗っているハンナからは見えていない。
「ほんと? じゃあ、おねーちゃんとあたし、2人ともおにーちゃんのおよめさんになれるの?」
「ん」
仁とマーサはその言葉を、ハンナを慰めるためのものだと思って微笑んでいるが、実の母であるミーネは、それが本心のものだとわかるだけに苦笑を浮かべるしかなかった。
(この子は……まあ本人同士がいいならかまわないでしょうけれどね……)
仁もエルザも、そういうことに拘らない、というよりも淡泊なため、意外とうまくいくのかもしれない、とも思い、ミーネは内心で溜め息を1つ吐いたのである。
そして礼子も、エルザの言葉を聞き、そういう考え方もあるのか、と認識を新たにしていたのであった。
* * *
夜も更け、集まった村人も、家に帰る者、酔いつぶれてコタツで眠る者、しみじみと飲み続ける者、など、さまざまである。
そして午前0時、日が変わったその瞬間に、二堂城に備え付けられている『時の鐘』が1回、高らかに鳴らされた。
試験的に朝、正午、夕方の3回鳴らされているのだが、今回だけ、午前0時にも鳴らされたのである。
鐘の音を聞いた者は、日付が変わった事を知ったであろう。
「そういえば、日付の変更って、午前0時なんだな」
鐘の音を聞きながら、仁はそんなとりとめもないことを考えていた。
「どういう意味?」
隣にいたエルザが訪ねる。ハンナはとっくに眠ってしまい、マーサが負ぶって家に連れ帰っていた。
「え? ああ、俺のいた世界では、昔は日の出とか日の入りを日付の変更にしていた事もあるらしくてな」
「確かに、目に見えるから、わからなくもない」
「だけど、夏と冬で微妙に変わるからな。その点、南中時刻、つまり正午は1年中変わらない。その正反対である午前0時も、だ」
「納得。暦をきちんと計算するなら、それが合理的」
おおよそ色気とは無縁の会話を延々と続けている2人を見て、欠伸をしながらミーネが告げた。
「私はもう寝ます。ジン様、エルザ、お休みなさい」
「あ、お休みなさい」
「お休みなさい」
気が付けば、大広間には仁とエルザ、それに礼子とエドガーだけになっていた。
もう夜明けが近い時刻である。
仁はエルザを促してコタツを出ると、天守閣最上階に上がった。
礼子とエドガーは気を利かせて1階下に待機している。
「今年……いや、もう去年か。いろいろあったな」
「ん。ジン兄と出会って、レースをして、旅をして……攫われて、助けてもらって」
「俺は……ビーナに会って、マルシアに会って、エルザに会って、ラインハルトに会って……いろいろな人と出会ったな」
「……最初にビーナの名前を呼んだのはなぜ?」
少し拗ねたようなエルザの物言い。見れば、少し顔が赤い。酔っているようだ。
そういえば、解毒の魔導具の動作を切っていたな、と今更ながら思い出した仁である。
「ん? 単なる時系列順だよ」
本当のことだから仕方ない。エルザもそう言われては黙るしかなかった。
「わかった。でも、今年は、私を一番に、見て」
酔いも手伝って、普段なら絶対に言わない、大胆な言葉を口にするエルザである。
「ああ、そうだな。エルザは俺にとって一番の女性だよ」
言ってから赤面する仁。エルザは満足そうに頷いて、目を閉じた。
仁はそんなエルザに口付けしようと顔を寄せていく。
2人の横顔を、曙光が照らした。
「明けましておめでとうございます、お父さま、エルザさん」
初日の出を見て、礼子がやって来て新年の挨拶をした。ぱっと離れる仁とエルザ。
「あ、ああ、明けましておめでとう、礼子。今年もよろしくな」
「はい、もちろんです、お父さま」
「おめでとう、レーコちゃん」
3458年は仁にとって、どんな年になるのだろうか。