軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-24 進水式

そして昼過ぎ、首都ロイザートからの熱気球が到着した。

乗っていたのは宰相のユング・フォウルス・フォン・ケブスラーと魔法技術相であり、今回の新造船に関する総責任者のデガウズ・フルト・フォン・マニシュラスであった。

朝6時前にロイザートを発ち、急行してきたらしい。食事は空の上で携帯食を摂ったようだ。なかなかハードスケジュールである。

「ほほう、これが新造船か。なかなか見応えがあるではないか」

宰相の感想。到着早々、船を見て回る2人である。

「名前は『ベルンシュタイン』、琥珀か。見た目からの命名だな。気負いが無く、なかなか良いではないか」

魔法技術相も感心している。

「これなら問題なく進水式が行えるな。式次第は例の?」

「はい。以前打ち合わせたやりかたです」

「うむ、今後の規範になるのだから、きっちり執り行おう」

* * *

予定通りの午後2時、いよいよ進水式である。

列席しているのは、宰相、魔法技術相をはじめ、製作に携わった面々、下請けの 工夫(こうふ) 、警護の騎士、兵士。宿舎となったホテルの支配人と副支配人。シモス町の町長、合わせて51名。そして見物人多数。

豪華なドレスに身を包んだエルザが、真っ先にタラップを登り、船の舳先に立つ。そして良く通る声で宣言を行った。

「本日ただ今を以て、この船を『ベルンシュタイン』と名付けます!」

そして手にした銀の短剣で1本の綱を切断。その綱は、船の側面に掛かる垂れ幕の綱。

綱が切られた垂れ幕が落下、その下からは『BERNSTEIN』の文字が。

参加者全員が拍手する中、宰相、魔法技術相、町長、ラインハルト、ゼネロス、クレイア、クーバルトの7人が乗り込む。

現場責任者のクリストフや、仁、ロドリゴは乗船しない。クリストフは別として、基本的にショウロ皇国の人間だけが乗り込んだのである。

また、クリストフにはもう一つ、重要な役目があった。

「それでは、進水式を執り行う!」

鳴り止まない拍手の中、船を支える固定ロープが1本また1本と外されていく。

そして最後の1本が外され、クリストフは作業用ゴーレムに命令を出す。

「船を押せ!」

丈夫な台車の上で組み立てられたベルンシュタインは、建造ドックからワス湖まで付けられた緩い傾斜の道を、そのまま押されていくはずであった。

だが、予想外のことが起きた。

ベルンシュタインの重さで、台車の 橇(そり) 部分が地面にめり込んでしまい、動き出さないのである。

「押せ!」

再度指示を出すクリストフ。だが、船は動き出さない。

押している作業用ゴーレムは、 黒騎士(シュバルツリッター) をベースに作られた身長2メートルの量産型、それが3体。

さすがに力不足であった。

巨大ゴーレムであるゴリアスなら動かせるかもしれないが、そんな精密な動作はできないため、まかり間違えば船を壊してしまうだろう。

クリストフの額には冷や汗が浮かび、顔色は真っ青だ。最後の最後で進水式が上手くいかないとなると、国の威信にも関わってくる。

(礼子、手伝ってやってくれ)

(はい、お父さま)

見かねた仁は、小声で礼子に指示を出した。

幸い、式典の列席者はほとんどが船の上で手を振る面々を見つめ、手を振り返している。

が、このまま船が動き出さなければ、あと数秒でおかしいと思い始めるだろう。

仁が礼子に指示を出したのはそんなタイミングであった。

礼子は『 不可視化(インビジブル) 』を展開し、姿を消したままベルンシュタインに接近した。

そして必死に台車を押す3体のゴーレムの間を縫って、台車の下に潜り込む。

「 力場発生器(フォースジェネレーター) 、作動」

台車を持ち上げる方向に力を発生させた。

ベルンシュタインの排水量はおよそ300トン。礼子はその半分を肩代わりした。

「おお、動いた!」

重量が半分になったことで、めり込んでいた 橇(そり) もなんとか滑り始めたのである。同時に歓声が上がる。

そのまま、次第に勢いが付いてくる。とはいえ、時速は4〜5キロ、人が歩くくらいの速度だ。

礼子は 力場発生器(フォースジェネレーター) の出力を徐々に下げてみる。

勢いはやや衰えたものの、ワス湖へと向かう斜面もその斜度を増し、もう止まることもなさそうである。

その証拠に、押していた3体のゴーレムも、もう手を放し、見送っている。

「よし、あと40メートル、30メートル、20メートル……」

斜路の両脇には、付近の住民や観光客なども立ち並び、新造船を見守っていた。

ベルンシュタインはそんな観客の間を抜け、ついにワス湖へと突入。

大きな水飛沫が上がったかと思うと、外れた台車が浮かび上がり、その先にはベルンシュタインが琥珀色の船体を青いワス湖の湖面に浮かべていた。

観客から一際大きな歓声と拍手が上がる。

(お父さま、あれで良かったでしょうか?)

そんな中、仁の隣に礼子がそっと戻って来た。

(ああ、上出来だ。凄いぞ、礼子。ご苦労さん)

仁はそんな礼子の頭を優しく撫でた。

「水漏れ、無し」

「船体歪み、基準内」

クーバルトが水漏れのチェックを行い、クレイアは船体の異常が無いか確認。

ワス湖の湖面に浮かぶベルンシュタイン内では、臨時乗員たちが各部チェックに大忙しであった。

「よし、動力チェック。微速前進だ」

「了解」

臨時船長となった宰相の言葉に応じ、ラインハルトが臨時機関士となり、 噴射式推進器(ジェットスラスター) を起動した。

「おお、動いたぞ!」

「このまま、前進。岸から100メートルほど離れる」

「了解」

操縦桿を握り、臨時航海士をしているのはゼネロス。

ベルンシュタインは大きな弧を描いて、ゆっくりと岸から離れていった。

「動かしやすいですよ!」

操縦桿は、ゴーレム技術の応用により、パワーアシストされていて、舵の操作も軽く出来るようになっている。

「よし、十分岸から離れたろう。機関出力をゆっくりと上げろ」

「了解」

これらの指示は、船内に張り巡らされた伝声管によって各所へ伝えられる。

ラインハルトは船内中央部の 魔力貯蔵庫(マナタンク) を管理し、船の両舷側に取り付けられた 噴射式推進器(ジェットスラスター) へと送り込まれる 魔力素(マナ) の監視を行っている。

「さすがジンだな、まったく異常は無い」

非常時を除き、両側舷の 噴射式推進器(ジェットスラスター) は、航海士の操縦桿横にある『スロットルレバー』で操作される。

臨時航海士のゼネロスは、ゆっくりと 噴射式推進器(ジェットスラスター) の出力を上げていった。

「……速い。ゴーレム艇に迫る速さ」

船首にいたエルザは、頬に当たる風の強さから、現在の速度を推測していた。

「おおっ!」

岸で見物している観客から声が上がる。ベルンシュタインが徐々に速度を上げ始めたのだ。

「うん、予定通りの動作をしているな」

仁も満足そうに眺めている。

そしてベルンシュタインはますますその速度を上げていった。

「ほほう、これはすごい!」

「やりましたね、ジン殿!」

クリストフは岸辺に設けられた安全用の手すりから身を乗り出すようにして新造船の航跡を見つめている。

ロドリゴは興奮気味に仁の肩を叩いてきた。

そんな中、岸には、ベルンシュタインが起こしたかなり大きな波が打ち寄せてきている。

「ううむ、これは……他の船を引き上げさせておいて良かったな……」

安定の悪い小型船では、波を受けて転覆する物が出た可能性もある。

そして、ベルンシュタインは今、時速20キロ近くで航行していた。

「大成功だ!」

クリストフが感極まったように叫んだ。

仁も、皆で苦労した甲斐があった、と、柄にもなく胸を熱くしていたのである。