軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-22 完成

翌日、朝の会議でロドリゴが救命艇の話を出すと、やはり雰囲気は悪くなった。

今までは救命艇が必要になるような大型船は無かった上、外洋にも出なかったので、そういった緊急用の意識が低いのである。

「ですが、外洋に出た場合、何が起きるかわかりません。一考の必要はあると思います」

「人命は、何にもまして、尊重しなければなりません。それにはこうした可能性に、目を瞑るべきでは、ないでしょう」

ラインハルトとエルザが後背援護として主張することで、他の面々も少し考える気になったようだ。

「救命胴衣だけは乗組員全員が着けた方がいいと思います。加えて浮き輪も装備すればいいでしょう」

そして仁の発言。

「きゅうめいどうい?」

「うきわ?」

ここで、仁はその2つについて説明した。

「救命胴衣は、それを着ていれば何もしなくても水に浮けるような衣服。ベストのようなデザインですね。浮き輪はその名の通り、浮くように作られた輪っかで、その中にすっぽり入れば沈む心配がありません」

ここで、またしても仁は魔導樹脂を用いて人形と浮き輪を作って見せた。

「こうして、こう。……両脇で浮き輪にもたれるようにして救助を待つ、という感じですかね」

この浮き輪に関しては、模型を目にして、全員納得できたようだ。

「なるほど! 木で作っておけばいいな!」

「簡単だし、嵩張らないし、重くない。緊急用として申し分無い!」

救命艇には二の足を踏んだ面々も、浮き輪には諸手を挙げて賛成した。

「俺が思うに、救命艇と考えなければいいんですよ。港が整備されていない場所や、遠浅の陸地に立ち寄る場合のため、上陸用に浅底の小型艇を用意する必要があると思うんです」

この提案の必要性には、全員が思い当たったようだ。

「おお!」

「確かに! 大型船が立ち寄れない浜というのも必ずあるからな。水や食糧の確保でそういう場所にも上陸することがある可能性は否定できない」

こうして、救命艇としても使える小型艇を装備する、という案も受け入れられることとなった。

ゴム製の浮き輪は、いずれクライン王国との折衝で手に入れることになるだろう。

新造船の最終仕上げが行われている脇で、小型艇の製作が始まった。

担当はロドリゴとクーバルト。

3メートルほどの小型艇を2艘、5メートルのものを2艘。それが今回用意されることになったのである。

「あとは積み下ろしですね」

これだけの大きさであるから、荷物の積み下ろしを人力でやるというのは効率が悪すぎるし、船のバランスを崩すことにも繋がる。

「そこはやはり大型ゴーレムを作ろうと思う」

クリストフもそれは考えていたようだ。

クレーンの代わりに大型ゴーレム。当面はゴリアスで代用し、使い勝手を見極めたなら専用のもの、という流れになるだろう、とクリストフは言った。

船内には、人夫代わりの汎用ゴーレムを1体配備し、夜間の警備や、力仕事に当たらせる、とも。

それについて仁は特に言うことは無かった。

* * *

そして同日夕刻、ついに新造船は完成した。

表面には『軟質魔導樹脂』が塗られた。これは、中級ゴーレムの中身としても使われる素材で、いわば魔力を帯びた松ヤニである。

つまり、少々の傷や穴ならば、『 変形(フォーミング) 』を利用して短時間で塞ぐことができるのだ。 魔法技術者(マギエンジニア) が乗船している必要があるが。

このアイデアには、仁も素直に感心したもの。

今、仁たちの前に、軟質魔導樹脂の色すなわち琥珀色の輝きを放って、新造船が聳え立っていた。

「できたな!」

「ああ、やった!」

「感無量だな……」

「うれしいわね」

全員、それぞれの想いを込めて、船を見上げている。

「この船に携わった者全員の名前を刻んだプレートを船尾に掲げようと思う」

責任者のクリストフが宣言したことで、歓声が上がった。

「今夜は無礼講で大いに盛り上がって欲しい」

その言葉に更にテンションが上がる面々。ホテル側も、今夜は腕によりをかけて美味しい料理を作ってくれるようだ。

この新造船が成功し、そのスタッフが利用したホテル、ともなれば宣伝効果も抜群だろう。

* * *

「乾杯!」

「かんぱーい!」

クリストフの声に応じてグラスが合わされ、微かな音を立てた。

そして次の瞬間には賑やかな談笑が始まる。

「いやあ、ジン殿、貴方と一緒に仕事ができて光栄でした!」

仁の隣でワインを飲んでいるのはクーバルト。

「 造船工(シップライト) として、未熟だと感じましたよ。そういう意味では、ロドリゴさんにも勉強させていただきました」

そのロドリゴはというと、

「今回の仕事はいろいろ勉強になった。ジン殿、ラインハルト殿、エルザ殿、感謝します」

ラインハルトとエルザに向かって話をしていた。

「ロドリゴさん、お身体の、具合は?」

乾杯したあと、ワインに口を付けず、ジュースを飲んでいるロドリゴを見て、エルザは心配そうに声を掛ける。

「はい、今日明日に倒れるようなことはないのでご心配なく」

笑っているがその顔色は冴えない。

「……『 治せ(ビハントラン) 』」

「え?」

見かねたエルザは、ロドリゴに治癒魔法を掛ける。内科・外科両用の初級魔法だ。初級とはいえ、両用というところがポイントで、内臓が出血している時にも効果がある。

「……随分と楽になりました」

見るからに顔色がよくなったロドリゴ。

「お酒の飲み過ぎ、と言ってましたから、胃がお悪いのでは?」

ガリガリの体型から、胃が悪いのではないかとエルザは判断したのだ。ちゃんとした診察をしていないので半ば当てずっぽうに近いが、治癒魔法は別に害になるものではない。

むしろ大当たりだったようだ。

暴飲暴食による胃潰瘍ならば、内科的な治癒魔法だけでは効果が薄い。胃粘膜が破れて出血しているときは外科的な治癒魔法も併用すべきなのである。

だが、そういう判断ができる治癒師は、エルザを除けば、カイナ村にいるサリィ・ミレスハンくらいのものであろう。

まして、ロドリゴが今までかかった治癒師は、皆腕が悪かったと見え、誰一人として外科的治癒魔法を掛けてみようとしなかったようだ。

また、ロドリゴも、費用の安い=はやっていない治癒師にしか診てもらっていないということもあった。

「完全に治ったわけではないですから、あとでちゃんと診察させて、ください」

「……エルザさん、貴方という人は……」

ロドリゴの目が潤んできた。

「治癒師という人種は皆、高いお金を要求するくせにちゃんと治してくれないものだとばかり思っていましたよ」

「……それは……」

エルザは、そんな治癒師が多いことをサリィから少しだけ聞いて知っていただけに何も言えなかった。

「……これで、いつか家族に謝ることもできるかもしれません」

「ご家族?」

エルザは仁やラインハルトと違って、風呂で彼の身の上話を聞いていなかったのだ。

「ええ。エリアス王国のポトロック市にいるはずです」

「ポトロック……」

懐かしい地名であった。仁と初めて出会った町。それがポトロック市のポトロック町だったのだから。

「おや、ご存知でしたか」

「はい。今年の初め、旅行で訪れました」

「そうでしたか……」

ロドリゴは故郷を想い、懐かしむような目をした。

「だーかーらー、船というのは、安全性第一なの!」

「違う! 船も道具である以上、安全性を考慮しつつ、他の機能を考えなきゃならないんだ!」

「人が乗り、人が使うんだから、安全性は最優先されるべきなのよ!」

「それでは大きな進歩は望めない。技術というものは時には冒険もしなくちゃいけないんだ!」

大声で言い合う声が聞こえてきたと思ったら、クレイアとゼネロスであった。最後までこの2人はそりが合わなかったらしい。

仲良く喧嘩している、という雰囲気なので誰も止めに入らない。

「あの議論も興味深いよな」

仁も、横で議論を聞き、そんなことをぼそりと呟いた。

「ジン兄の意見は?」

すぐ横にいたエルザが聞きつけ、すかさず質問をする。

「どんな技術だって100パーセント確実なものなんてないさ。でもだからこそ、技術者は完全を求めるものだ」

「ん。わかる」

そこにラインハルトも加わった。

「だなあ。ジンや僕の場合、少し危険そうなら、ゴーレムに代わってもらうという手が使えるからいいが」

「まったくだ」

答えながら仁は後ろに控える礼子をちらと見た。新しい技術のテストの時にいつも率先して試してくれる愛しい娘を。

そんな仁の気持ちが通じたのか、礼子は仁を見てにっこりと微笑んだのである。