作品タイトル不明
20-03 超音速
さすがにその日のうちにできることはもう無さそうなので、仁と礼子は着陸し、研究所へと戻った。
そして仁は、礼子の協力を得て、3次元機動の基礎データを作成する。
他のゴーレムや航空機に応用する際、1からデータを取り直さずとも済むはずだ。
老君の記憶バンクに記憶させて作業は終了した。
更に仁は礼子の改造を行う。
「うーん、今の方式だと多分、礼子でなければどうにかなってしまうだろうな……」
急発進、急制動、急旋回。どれも、凄まじい加速度が発生しているはずである。
「数十Gどころか数百……あれ? 加速度?」
ふと、仁は 力場発生器(フォースジェネレーター) の動作方式を思い返してみた。
「力は結局、質量に及ぼす加速度とイコールだ。つまり……」
うまく使えば、Gと呼ばれる加速圧は発生しない可能性が出てきた。
「『 変形(フォーミング) 』がそうだよな……必要な物体だけに力を及ぼしているわけだから……」
今の 力場発生器(フォースジェネレーター) は、点に力を及ぼしている。これを、物体全体に及ぼせないか、というのが仁の発想。
「できるよな」
そこで、その考えに基づき、 力場発生器(フォースジェネレーター) を改良していく。
「この方式なら、回転も直線移動も自由自在なはずだ」
礼子と言う『物体』を判定して効果を及ぼすように改良した。礼子が手に持っているもの(一定以下の大きさに限る)や身に着けているものも含まれる。
こうすると、礼子を構成している素材の原子一つ一つに同じ力を及ぼすため、慣性の影響が無くなるという利点がある。
先程までの3次元機動は、礼子の強靱な身体だったからできていたのだ。同じ事を生物がやれば、慣性でぺしゃんこになってしまうだろう。
1時間ほど掛かって、改造は完了した。
魔力反応炉(マギリアクター) も専用のものを追加された。
こういった、独立したエネルギー源を持つということは、信頼性の向上に繋がるからである。
加えて、恒例の全体見直しと整備・調整も行う。さらに拘る仁は、材質を変更することで、強度を5パーセントアップさせつつも、礼子の体重を元々の30キロに戻すことに成功した。
「よし、礼子、『起動』」
「はい、お父さま」
起き上がった礼子は、調子が変わらないどころか、更に向上していることを告げた。
「動作テストを頼む」
「わかりました。行きます!」
研究所の外に出た礼子はゆっくりと上昇し、薄暮の空を自由自在に飛び回った。
「お父さま、すごいです。身体が羽のように軽いです。なのに力が溢れています!」
「そうか、大成功だな」
着地した礼子がやや興奮気味に言う。礼子としても初めての感覚だったのだろう。
「これを使うと、たとえば重い物を押すときにも体重負けしないだろうな」
「ああ、そうですね」
体重が30キロしかない礼子では、300キロの物を押すには、足が地面をしっかりと捉えていないと力学的に不可能だったのだ。
それが、これからは 力場発生器(フォースジェネレーター) がサポートしてくれる。
更に強力になった礼子であった。
「よし、今日の作業は終わり。夕食にしよう」
気の早い星が瞬き始めた空の下、仁と礼子はソレイユとルーナが守る家へと向かった。
ソレイユが作った夕食は白米のご飯、ワカメの味噌汁、肉トポポ(肉じゃが)、玉子焼き、ヒジキと油揚げの煮物、そして白菜もどきの漬け物。
好物ばかりなので、腹一杯食べた仁であった。
今日は、家にいるのは珍しく仁だけである。ハンナもエルザもいない。礼子やソレイユ、ルーナたちは基本、仁が喋らなければ黙っているので家の中はしん、としていた。
聞こえてくるのは虫の声ばかり、そんな状態を少し寂しく思う仁である。
「……風呂でも入るか」
外はもう真っ暗、月が昇ってきている。仁は露天風呂の方に向かった。
「あー、のんびりするな」
手足を伸ばし、温泉でのんびりくつろぐ仁。礼子も一緒である。
「お父さまはこのところお忙しかったですからね」
礼子は仁と2人、水入らずで機嫌が良いようだ。
(昔を思い出します……)
仁がまだ、ブルーランドやポトロックを訪問していた頃、仁のサポートをしていたのは礼子だった。
今も、仁からの信頼は変わっていない。仁に一番信頼されている 自動人形(オートマタ) は礼子である。
「明日は、 力場発生器(フォースジェネレーター) をエンジンに応用させたいもんだ」
航空機に応用すれば、真空中でも飛べるようになる。仁はいろいろと空想をしながらお湯に浸かっていた。
「でもなあ……空気抵抗が問題になるなあ」
思考を巡らせていく仁。お湯の中で手を動かし、抵抗を掌で受け、いろいろと試していく。
やがてそれにも飽き、頭に乗せた手拭いをお湯につけた。マナー違反、と言う者はいない。ここのお湯は底から湧いてきてどんどんと更新されていくため、汚れが溜まらないのも特徴なのである。
仁は手拭いで『タコ入道』という遊びを行ってみた。幼い頃にして以来、十何年ぶりかの遊びだ。
手拭いに包まれた空気が泡になり、しゅわあ、というような音を立てて泡となり弾けて消える様を眺めていた仁は、ふと閃くものを感じた。
「……ん? 待てよ?」
マンガで読んだ未来の技術に、『スーパーキャビテーション』というものがあったことを思い出す。
魚雷や潜水艦などを空気の泡で包むことで、水の抵抗を減らし、水中で時速数百キロを出す……というようなうろ覚えの知識でしかないが、それでも今の仁には天啓であった。
「 力場発生器(フォースジェネレーター) 推進なら無関係じゃないか!」
「お父さま?」
思わず大声を出してしまった仁を、礼子が怪訝そうな顔で見つめてきた。
「ん、あ、ああ。いやな、空気や水の抵抗を無くすいい考えが浮かんだんだよ」
「さすが、お父さまです! どんな方法ですか?」
「うん、風避けの結界を使えば、空気抵抗を減らせるのはわかっていた。だけど、 魔法型噴流推進機関(マギジェットエンジン) は空気を吸い込んで噴射する関係上、それはするわけにいかなかった。だが……」
「 力場発生器(フォースジェネレーター) 推進なら、関係ないということですね! さすがです。そうしますと、 魔法型水流推進機関(マギウォータージェット) にも言えますよね?」
「その通りだ。たとえばマーメイドたちにも、な」
水中での機動力がそれこそ二桁三桁違ってくるだろう。
「明日が楽しみだ」
幸せそうに呟く仁の横顔を見て、礼子も嬉しそうに微笑んだのであった。
* * *
翌21日、仁はさっそくペガサス1に 力場発生器(フォースジェネレーター) を搭載することにした。
風避けの結界を張っていると、当然空力的な舵取りができなくなるので、方向を変えるのも 力場発生器(フォースジェネレーター) を使うことになる。
そのあたりの調整がやや手間取り、仁としては珍しく、午前中一杯掛かってしまったのであった。新型の風避け結界ももちろん搭載した。
「よし。昼飯前の試運転と行くか」
「お父さま、危険もありますので、ここは私にお任せください」
仁が乗り込もうとすると礼子がそれを遮った。
「うーん、まあ、仕方ないか」
仁も素直に礼子の申し出を受ける。大丈夫だと思っているし、その方が結局早く自分も乗れるからだ。
「それでは、行ってきます」
ペガサス1に乗り込んだ礼子は、まずは通常の 魔法型噴流推進機関(マギジェットエンジン) で離陸した。
仁は研究所の 魔素映像通信機(マナ・テレカム) に急ぎ、礼子との回線を繋いだ。
「礼子、調子はどうだ?」
『はい、お父さま。これより 力場発生器(フォースジェネレーター) を起動します』
そして礼子はスイッチを入れた。
魔素映像通信機(マナ・テレカム) で見る礼子の様子は変わらない。
『お父さま、凄い速度です。これより風避けの結界を作動させます』
そして礼子はもう一つのスイッチを入れた。
やはり 魔素映像通信機(マナ・テレカム) では様子が分からない。が、老君が報告を入れてきた。
『 御主人様(マイロード) 、 魔力探知機(マギレーダー) で計測した限りでは、およそ時速2500キロは出ています』
およそマッハ2。超音速の壁を易々と破ってしまった。しかもソニックブーム無しで。
「礼子、操縦性に異常は無いか?」
『はい、大丈夫です。操縦系統にも異常なし。これより操縦性のテストを行います』
そして、相変わらず 魔素映像通信機(マナ・テレカム) ではわからないものの、操縦桿を操る礼子の姿がしばらく見え、改めて礼子が報告を入れてきた。
『急上昇、急降下、旋回、宙返り、ロールなど試してみましたが問題無し。これより戻ります』
「よし、ご苦労だった。早く戻って来いよ」
早く自分も乗ってみたい仁は息せき切って礼子に帰投命令を出すのであった。