軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-32 抱擁

「貴様……どうしてここに!? ゴーレムはどうした!」

「ああ、あの木偶の坊か? 廊下でスクラップになってるよ。なあ、礼子?」

「はい、お父さま」

礼子はドアの開口部越しに大きな鉄の塊を投げ込んだ。デライトは慌てて避けたが、大きな音を立てて床に転がったそれを見て驚く。

「何!?」

それはグレーンと同じ型のゴーレムの頭部だったからである。

「貴様……どうやってこいつを壊した!?」

「どうやって……ってなあ、礼子?」

「はい。わざわざ答えるようなことはしていませんよ?」

「……何だと?」

その時、リースヒェン王女が口を開いた。

「のうデライト、もう諦めよ。お前の言葉は全て聞いた。そしてジンが動いた以上、もはやお前に勝ち目はない。大人しく罪を認めるのじゃ」

だがデライトは聞く耳を持たないようだ。

「うるさい! もはやこれまで。レカー! 脱出準備! グレーン! その女を捕まえろ!」

汎用型のレカーは窓を破り、バルコニーへと飛び出した。そこに置かれていた大きな木箱に気球が隠されていたらしい。

一方、重作業用ゴーレムのグレーンは、エルザが盾にしたテーブルを粉砕し、迫ってくる。エルザを人質にするつもりのようだ。

だが、その前にエドガーが立ちはだかった。

「……エドガー……」

「エルザ様、ここはお任せを」

「うん」

グレーンの一撃をエドガーは躱さずに受け止めた。避ければエルザに当たる可能性があったからだ。

「エドガー、大丈夫?」

「はい」

* * *

扉近くではデライトが礼子に取り押さえられていた。

「諦めろ。逃がしはしないぞ」

「ぐうう! まだ手は尽きたわけではないぞ。 ラクター! キサー! クラーロ!」

「う、わわ! ……ジ、ジン!」

慌てるリースヒェン王女。

デライトの声に応じて、隣室の壁を突き破り、3体の重作業用ゴーレム……いや、戦闘用ゴーレムが姿を現したのである。

「そいつらを皆殺しにしろ!」

なりふり構わないデライトの言葉。3体のゴーレムが襲いかかってきた。

「危ない、お父さま」

その1体が仁とリースヒェン王女目掛けて拳を振り下ろしたので、礼子は仁とゴーレムの間に立ち塞がったのである。当然デライトは自由になり、窓からバルコニーへと飛び移るべく、窓辺目指して駆けていく。

「逃がすな!」

「ぎゃっ!?」

仁の声に応じ 隠密機動部隊(SP) の誰かが、姿を消したまま『 麻痺(スタン) 』を浴びせたようだ。デライトはもんどりうって転がり、そのまま動かなくなった。

が、命令を受けた戦闘用ゴーレムは止まらない。

「礼子、ここは王城内だ、あまり派手なことはするな!」

「わかりました」

下の階にも騎士や侍女などがいる。万が一床が抜けたりしたら彼等に大怪我をさせることもあり得るので、仁が注意を促したのである。その点ではエルザよりも余裕があった。

礼子としては、桃花があればあっという間に切り裂いて終わりなのだが、生憎と王城内には武器を持ち込めなかった。

片や、戦闘用ゴーレムたちはそんな遠慮も何も無く、全力で仁たちを攻撃に掛かる。

だが、そんな程度のハンデなど、礼子には関係なかった。むしろ、どんな手段にするか悩むほどである。

(転送銃……は人前では使わない方がいいですね。 光束(レーザー) ……も派手ですし、 電磁誘導(インダクション) ……は少々時間が掛かります)

こんなことを0.2秒くらいの間に検討している礼子である。

そして結論。

「『 魔法無効器(マジックキャンセラー) 』」

魔力素(マナ) を強制的に 自由魔力素(エーテル) に戻してしまう兵器だ。その効果と裏腹に、見ている者には何が起きたのかわかりにくい。

魔力反応炉(マギリアクター) どころか 魔素変換器(エーテルコンバーター) すら持たないゴーレムである。

魔力貯蔵庫(マナタンク) 内の 魔力素(マナ) が無くなれば、動作することはできなくなる。

「お父さま、 制御核(コントロールコア) を取り出してしまいましょう」

「よくやった、礼子」

動きの止まった戦闘用ゴーレム3体から、 制御核(コントロールコア) を取り出してしまえばゴーレムはただの案山子である。仁はあっという間に3体から 制御核(コントロールコア) を抜き取ってしまった。

「……」

何か起きたのか、礼子がどうやってゴーレムを無力化したのか理解できず、リースヒェン王女は言葉を失っていた。

* * *

一方、改良強化されたエドガーは、5倍以上の体格差をものともしなかった。

拳を受け止めたのみならず、前に進み出て、前蹴りを繰り出した。

やや上方へ向けての蹴りなので、体重差はあれど、相手を浮かし気味にし、転倒させることに成功。

が、床石にヒビが入ったのを見たエルザの顔が青ざめる。

「エ、エドガー、気を付けないと床が抜ける」

「は、はい」

グレーンの重量は500キロ近くはありそうだ。床を踏み抜いてもおかしくはない。

エドガーは攻撃方法を変えることにした。

備え付けられたナイフを取り出す。 巨大百足(ギガントピーダー) の甲殻で作ったナイフで、鋼鉄をも切り裂く性能を持つ。

エドガーの力で投げられたそれは、容易くグレーンの装甲を貫いた。

2本が視覚を司る 魔結晶(マギクリスタル) を破壊。元々鈍重だった動きが更に鈍る。

その隙を突いて、手にしたナイフを使い、エドガーはグレーンの胸部装甲板を切り裂いた。

大きな音を立てて鉄板が床に落ちる。更に床のヒビが広がった。

が、それで終了。

装甲板の無くなったグレーンは、内部の 魔導装置(マギデバイス) が剥き出しになり、エドガーによって 制御核(コントロールコア) を掴み出され、グレーンは完全に動作を停止した。

「エルザ様、終わりました」

「……エドガー、ご苦労様。……『 強靱化(タフン) 』『 融合(フュージョン) 』」

エルザはヒビの入っていた床部分を強化し、ヒビを接合したのである。

「……ふう、これで一安心」

「エルザ!」

床が抜ける事故を回避してほっと息をついたエルザを、いきなり抱きしめた者がいた。

はっと身体を硬くしたエルザだったが、それが仁だと気づき、今度は顔を真っ赤にする。

「あ、う、ジン、兄?」

「無事か? 何ともないか? 何もされてないな?」

「……う、うん」

「そうか。……よかった」

そう言いながらも仁はエルザを抱きしめたままである。

「……ジン、兄、ちょっと、苦しい」

さすがに、身体を強化した今の仁に思い切り抱きしめられると少々辛いものがある。

「す、済まん」

言われた仁は慌てて手を放した。仁の顔も茹で上げたように真っ赤である。

「……あ」

仁の腕から解放されたエルザは苦しさが無くなってほっとしながらも、その温もりが無くなってがっかりもしたのであった。

「ジン、あのゴーレムが逃げるぞ!」

赤くなっていた仁とエルザは、リースヒェンの声に我に返る。

バルコニーでは、熱気球がまさに離陸するところであった。