軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-24 サム

「アコニータ……ですか?」

「うん、山に生えている草なんだけどね、春の山菜採りのときなんかはまだ小さくて、食べられる山菜と間違えて採ることもあってね」

間違って口にすると、手足の痺れ、嘔吐、呼吸困難などを引き起こす、とマーサは説明した。

「確かに似ていますね」

「だろう? このあたりの山にも生えているからね。夏になれば大きく育って、特徴的な紫色の花を咲かせるから間違えようもないんだけどね」

話を聞く限り、地球でいうトリカブトに近いのではないか、と仁は思った。それなら写真で見かけたことがあったのだ。

「……でも、死ぬなんていうほど強い毒じゃないんだけどねえ」

「え?」

「せいぜい数時間痺れるくらいでね。死んだって話は聞いたことがないねえ」

仁の知るトリカブトよりは毒性が弱いようである。

そうなると、マーサの話通りにあの毒がアコニータの葉だとすると、そんな弱い毒を使った意味がわからなくなってくる。

仁は少し考え込んだが、今はエルザの所に帰る時だと、思考を切り替えた。

「ありがとうございます。参考になりました」

「もう行っちゃうのかい?」

「ええ、エルザも心配ですから」

「おにーちゃん、きをつけてね。エルザおねーちゃんもまもってあげてね! レーコおねーちゃん、おにーちゃんをおねがい!」

「はい、ハンナちゃん」

礼子はハンナに微笑みかけ、仁はハンナの頭を撫で、2人は身を翻した。

「それじゃあ、行ってきます」

蓬莱島に戻った仁は、飛行船のチェックと改造が終わっているのを確認した。

『 御主人様(マイロード) 、ご指示の通り、小型の 転移門(ワープゲート) を設置しておきました。その分の重量増加は、構造の見直しによる全体的な軽量化で対応しています』

「うん、よくやってくれた」

『こちらが諜報用超小型ゴーレムです』

身長5センチのゴーレム10体が並べられていた。

『簡単な工学魔法、初級の攻撃魔法、バリア、それに麻痺系の魔法が使えます。もちろん 不可視化(インビジブル) 装備済みです』

「それなら十分だな。よし、後は任せろ」

仁はそれらに、必要な 制御核(コントロールコア) などをセットしていく。

「よし、『起動』」

「ハイ、ゴシュジンサマ」

わかりやすく、胸と背中に1から10までの番号が書かれている。

「おまえたちは……『サム』だ」

「ハイ」

親指トムからの連想だが、トムという名前の男がカイナ村の住民にいるため、親指を意味する『thumb』を名前に付けたのであった。

「よし、行こう」

仁は飛行船に乗り込み、転送機でアルバン上空へ。そして降下、再び王城前広場に着陸したのである。

* * *

「ジン兄、お帰りなさい」

若干緊張した感じのエルザが仁を出迎えた。エドガーや護衛の騎士も一緒である。

エルザは仁の顔を見て、あきらかにほっとした様子だ。

「どうした、何かあったか?」

「うん。……とにかく部屋へ」

仁たちは王城内の部屋へと移動した。飛行船にはスチュワードを残してある。

荷物検査をされると面倒なので、『サム』たちはそのまま飛行船に残しておいた。周囲に人影が無くなったら動き出すだろう。

「で、何があったんだ?」

部屋の扉を閉めた仁は改めてエルザに尋ねた。

「……使用人が1人、遺体となって発見された」

「何だって!?」

「話によると、離宮の部屋の備品の管理担当。今朝、自室で冷たくなっているのが同僚に発見された、らしい」

口封じではないか、とエルザは自分の意見を述べた。仁も同感である。

「で、エルザは大丈夫なんだろうな?」

「ん。お昼ごはんにも毒は入っていなかった」

「『おそらく、同じ手は使ってこないのではないでしょうか』、と老君が言っております」

礼子が口を開いた。

「老君の推測では、直接狙われているのはエルザさん。その理由は、王様を治されては困るからです」

「陰謀だ、というのか……」

今回は老君とゆっくり話し合う時間が無かったため、こうして礼子を通じて連絡してきたのである。

「はい。更に老君は、『王様が崩御して一番得をする者が怪しい』とも言っています」

「……」

それは王位継承権を持つ者、ということになろう。仁は難しい顔になった。

「アーサー王子か、エドモンド王子、という、こと?」

エルザも顔を顰めている。己の利益のために親を害しようという考えが理解できないのだろう。

「いえ、そのお2人とは限らない、そうです」

老君とやり取りをしている礼子は説明を続ける。

「そのお2人のどちらかが王になった場合に得をする者、という可能性もある、と老君は言っています」

「なるほど……」

仁はかつて見た、時代劇のお家騒動を思い出す。城代家老とか次席家老が若君を担ぎ出し、お家乗っ取りを企むような筋立てだ。

「そんなとばっちりを受けたらたまらないな」

吐き捨てるように仁は言った。

「ん。でも、だからこそ、そんなことを企む人を許せない」

エルザも、かつて兄を催眠魔法で操られ、また、父は魔族に唆され、国の不利益になるような行動を取らされてしまったという過去がある。

家族を他人の野望のためにいいようにされてしまうことへの憤りは人一倍強かった。

仁も薄々察しており、この陰謀は絶対にあばいてやろうと決心していた。

「そういえば、ハーブティーに入っていた毒草だけどな」

仁は、カイナ村でマーサから聞いた情報をエルザに伝えることにした。

「えーと、アコニータ、って言う毒草じゃないか、というんだ。マーサさんによると、それほど強い毒じゃないってことなんだが」

「アコニータ……うん、その可能性は高い。あの時は突然で焦ったけど、今思い返してみると、デライト産業相の容態はそれほど切羽詰まっていなかった気もする」

毒を盛られた、ということであの場にいた全員が慌てていたのだから、それは仕方ない。

「そんな毒をどうやって入手したのか、が手がかりになるかと思ったんだが、難しいな」

仁とエルザはそれからもいろいろと推測を出しては検討したが、あまり進展はなかった。情報が少なすぎるのである。

「そういえば、デライトさんはどうしたろう?」

「それなら、さっき診察してきたけど、大分よくなっていた。明日には起きられると思う。やはり毒性が弱かったこともあると思う」

「それはよかった。とばっちりを受けたようなものだしな……」

* * *

一方、仁の飛行船。

しっかりと係留され、仮覆いが被せられ、少々の風にはびくともしないようになっている。

スチュワードが付いており、警備に当たっている。

そのため、特別な警護は付けられておらず、定期的に兵士の巡回が回ってくるだけ。

その空白期間を利用して、『サム』ゴーレムたちは王城に散らばったのであった。

そんなこんなで、その日は特に呼び出されることもなく暮れていった。

そして翌11日。リースヒェン王女の話では、王と似た症状の病人を捜している所らしい。見つかったなら、診察後、治療してみせることになる。

「しかし暇じゃのう……。ハンナもおらんし……」

退屈したリースヒェンは仁たちの部屋に来ておしゃべりに興じていたが、それにも飽きたようだ。

「しりとりでもするか?」

仁が言うと、リースヒェンはなぜか少し顔を赤くした。

「し、尻取りじゃと? な、なんじゃ、それは?」

王女が何かおかしな方への想像をしている気がした仁は、すぐに説明を始める。

「えーと、順番に単語を一つずつ言っていくんだが、条件があってな。前の人が言った単語の最後の文字を頭に付けることが条件なんだ」

それで納得がいったらしいリースヒェンは何度も何度も頷いた。

「うんうん、なるほど、なるほど、だから『しり』とりと言うんじゃな!」

「そう。で、同じ単語は駄目。新しい単語が出てこなくなったら負け、だ」

「ほうほう、なるほど、面白そうじゃな」

「他にも、厳しい『縛り』を付けたりすることもあるんだけど、まあ最初はややこしいこと無しでいいだろう」

「よ、よし、やってみよう。ジン、始めてよいぞ」

「よし、じゃあ……そうだな、俺が『 ゴーレム化(ごーれむか) (GOLEMATIC)』というだろう? そうすると、次は『か(C)』で始まる言葉になる。……もう一度だけ俺が例を挙げると……『 掛け合わせ(CROSS) 』かな。次は『せ(S)』で始まる言葉だ。リース、言えるかい?」

リースヒェン王女は少し考えてから答える。

「そうじゃな、せ……せ……『 正道(せいどう) (STRAIGHTROAD)』」

「 梅干し(うめぼし) (DRIEDPLUM)」

エルザの答えに、リースヒェン王女が疑問を投げかけた。

「何じゃ? そのうめぼし、というのは?」

「……ウメ、という木の実を干した食べ物です」

「甘いのか?」

だがエルザは顔を顰め、首を横に振った。

「酸っぱくてしょっぱいです」

「……」

それを聞いたリースヒェン王女の顔は何ともいえないものであった。