軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-29 時差

首都ロイザート、皇帝の住まう 宮城(きゅうじょう) 。

その中庭には巨大なゴーレムが聳え立っている。

まだ動かないそのゴーレムの周りに、仮屋根の建設が進められていた。

「おーい、そっちをもう少し引っ張ってくれ」

「そこの足場は不安定だから気を付けろよ!」

「よーし、ゆっくり持ち上げてくれ」

工学魔法を併用しながら行われる工事は、 魔法技術者(マギエンジニア) 、マルカス・グリンバルトが現場監督をしていた。

彼が作った大型ゴーレムも使っているので作業は早い。1日で形が出来、2日目には完成まで漕ぎつけたのである。

「ご苦労でした、マルカス」

仕上がりを見に来た女皇帝がマルカスを労った。

「なかなかしっかりしたものができましたね。……しかし、操縦装置が無いというのが残念です。動くところを見たかったですね……」

その時、どこかでかちり、という音がしたのだが、誰もそれに注意を払った者はいなかった。

* * *

「わあ、ここがおにーちゃんのおうち?」

転移門(ワープゲート) で連れてきたハンナははしゃいでいた。

バロウとベーレは、仁がどうやってハンナをカイナ村から連れてきたのか首を傾げていたものの、仁の規格外さには慣れていたし、いずれ仁から説明してもらえるだろうと疑問を飲み込んで口にすることはなかった。

「でも、こっちはまだあかるいんだね。どうして?」

カイナ村を出た時は午後5時を過ぎていたというのに、ここはまだ午後2時である。ハンナはその不思議さに首を傾げた。

「うーん、そうだなあ……」

この機会に、仁はハンナに時差を説明することにした。同時に、バロウとベーレにも。

まずは工学魔法で地球儀……いや、『アルス儀』を作る。陸地を簡略化した簡単なものである。が、ちゃんと支えを付けて、回転させられるようにしてある。

そしてもう一つ、太陽の役目をする魔導ランプを用意して準備完了。

「いいかい、我々がいるこの世界『アルス』は、ものすごく大きな丸い塊なんだ。これについてはそういうものだ、と受け入れて欲しい」

そして仁は先を続ける。

「これが太陽とする。『アルス』はこんな風にゆっくり回っている。だから光が当たり出すと朝、真上近くで昼、ぐるっと回って光が当たらなくなると夜、だ」

バロウとベーレも興味津々で聞いている。

「で、『時間』……正確には『時刻』だな。時刻は、太陽の位置で決めている。真上を正午つまり12時、反対側が真夜中、午前0時。間を等分して時刻が決まる」

ハンナも内容的には少し難しいものの、生まれ持った理解力があり、普段から勉強もしているので何とかついてきているようだ。

「そこで、この地点と……この地点の時刻はそれぞれ違うことになる」

仁はアルス儀上の2点を指で指し示した。片方は正午、もう片方は日没……午後6時頃ということになる。

「これが時差さ。縦……『経線』っていうんだが、経線方向、つまり南北方向の移動では時刻は変わらない。だけど横……『緯線』方向、つまり東西方向の移動では時刻も変わる。わかったかい?」

「はい、わかりました!」

「とてもよくわかりました。こういう模型っていうんですか? それで教えていただけるとよくわかりますね」

バロウとベーレは理解してくれたようだ。

「うん、おにーちゃん、2かしょでじかんがちがうわけ、わかったよ」

ハンナも、少なくとも概念は理解してくれたようだ。

仁はハンナを連れてロイザート見物に出掛けることにした。

「なら、私も行く。案内、してあげる」

ということで、仁、エルザ、ハンナ、礼子、エドガーが出掛けることになる。バロウとベーレは留守番がてら屋敷内の細部を整えることにする。

「 職人(スミス) に指示出していいからな」

「は、はい」

9割方は終了していたが、細かい調度などが不十分であったりするので、館内の確認を兼ねてバロウとベーレは見回りを開始した。

「あ、ここのドアに隙間があります、 職人(スミス) さん、お願いします」

「了解」

「階段のこの部分が欠けていて危ないです、直していただけますか?」

「了解」

こうして、バロウとベーレも館に慣れると共に、細部の見直しも進んでいくのである。

「ここが中央広場」

「すごーい!」

買い物よりも観光中心にハンナを連れて歩く仁たち。

ショウロ皇国は建国されて300年ほど、他の小群国に比べ歴史が浅い。その分、都市の造りは合理的である。

デザイン的には角張った感じのものが多く、装飾過多なセルロア王国とは一線を画している。

「人が多いな……」

時刻は午後4時を過ぎたところ。買い物客が増えてきた感じがする。

「あっ」

歩いていたハンナが、肩をぶつけてしまった。

「危ないな」

仁はハンナを担ぎ上げ、肩に乗せる。

「おにーちゃん?」

人波の中、仁に肩車をして貰ったハンナは少し戸惑ったが、すぐに慣れ、はしゃぎだした。

「わあ、よくみえる! ありがとう、おにーちゃん!」

「……」

隣を歩くエルザはそれを羨ましそうに見つめていた。

「……?」

その時、エルザの右手が取られた。

「はぐれないようにしろよ」

エルザの手を取ったのは仁。エルザは半歩、仁に近付いた。

礼子とエドガーはすぐ後ろからその様子を眺めながら3人に付いていくのだった。

* * *

ロイザート観光は少し早めに切り上げて帰ってきた仁たち。

お風呂に入り、汗と埃を流してさっぱりすれば夕食である。

ところで、ハンナは既にカイナ村で夕食を済ませている。時間的に言えば、もうそろそろ床に入る時間なのだ。

仁たちの夕食時、ハンナには果物を中心に食べさせる。ハンナも夕食を済ませたという意識があるので、聞き分けていた。

3時間程度だから大きな時差ボケは起こさないだろうが、大事を取った仁は、その晩は早めに就寝することにした。

ハンナは、『もう、1人でねられるよ?』と言って、仁を驚かせた。

まあ、ハンナ専用 隠密機動部隊(SP) 、イリスとアザレアが付いているので心配は無いのだが。

仁も、朝から女皇帝陛下に謁見したり、マギルーツ村を往復したりと疲れていたので早めに寝ることにしたのである。

その夜、 宮城(きゅうじょう) から使者がやって来ていたのだが、早く寝た仁たちがその内容を知るのは翌朝になる。

* * *

「えええ!?」

前夜、 宮城(きゅうじょう) から来た使者が置いていったという手紙を 職人(スミス) から受け取り、さっそく読んだ仁は仰天した。

「ジン兄、どうしたの?」

仁は無言でエルザに手紙を見せた。

「……女皇帝陛下がいらっしゃるの!?」

「そうらしい」

仁に下賜した屋敷に不備がないか確認のため、と理由が書いてあるが、どう考えてもこじつけで、仁がどんな風に改装したのか興味があるからやって来るのだろう。

「……陛下が……!?」

「えええ!?」

バロウとベーレも少し青ざめている。

「……ここはゴーレムメイドも呼んでおくか……」

何があるかわからないので、蓬莱島から5色ゴーレムメイドを1体ずつ呼んでおくことにする。

「いや、この際だからここ専用にするか」

来訪は10時頃らしいので十分時間はある。ということで、仁は単身蓬莱島へ跳び、自ら準備することにしたのである。