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作品タイトル不明

18-09 結婚式

10月10日。

ルイス・ウルツ・クズマ伯爵とビーナの結婚式である。

式はブルーランド領主、ブルウ公爵邸で執り行われることになっていた。

仁は『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』のロングコートを着て出席している。

「エゲレア王国も教会の権威はないんだな」

「それはどこも同じ。魔導大戦で教会の権威は失墜した」

仁の呟きに答えるエルザ。

神を信じていようがいまいが、いや、神官や聖職にあるものほど魔力が多かったため、『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』の被害を受けやすかった。

このため、神は信者を守ってくれないという認識が広がり、教会の権威失墜となったわけである。

* * *

結婚式は公爵邸の大広間で執り行われることになっていた。

エゲレア王国の結婚式は、上位貴族を立会人とし、夫婦になる報告をする、と言う形式である。

王族の場合は先代が存命なら先代が、いないなら肖像などに報告する形になるそうだ。

ショウロ皇国と基本的な考え方は変わらない。

クズマ伯爵家の場合は領主であるブルウ公爵ということになる。

「ただいまより新郎新婦の入場です」

案内の声が響き、それまでざわついていた人々の声が止む。

そして大広間正面の扉が開き、2人が入って来た。

クズマ伯爵は白と金の衣装、ビーナは純白のドレス。

列席者の間を腕を組んで歩んだ2人は、大広間最奥に待つブルウ公爵の前に立つ。

「エゲレア王国伯爵、ルイス・ウルツ・クズマ、本日ただ今よりビーナ・ロンズデールを妻と致します」

「エゲレア王国伯爵、バーナード・ハムス・ロンズデールの娘ビーナ、ルイス様の妻となることを誓います」

庶民であるビーナがクズマ伯爵と結婚するために、一旦ビーナはロンズデール伯爵の養女になったということらしい。

このあたり、江戸時代の武家と似たところがあるんだな、と仁は感想を持った。もちろん院長先生が好きな時代劇で見知った知識である。

「ルイス・ウルツ・クズマ、そしてビーナ・ロンズデール改めビーナ・クズマの前途に幸あれ」

ブルウ公爵が厳かに2人の結婚を承認すれば、式そのものは終わったと言っていい。

静まりかえっていた会場は拍手の渦に包まれる。

回れ右をした2人は、行きと違って拍手や歓声の中、出口へと戻っていくのだ。

「随分あっさりした式だなあ」

拍手をしながら仁が呟けば、エルザが解説してくれる。

「式そのものはどこも簡単に済ます傾向が強い。賑やかなのはこの後の披露宴」

「あー……なるほど」

思えば、ラインハルトたちの結婚式も、式そのものはそれほど長いものではなかった。

貴族の場合はそのあとに待つ披露宴が本番とも言える。

新郎新婦は来賓に挨拶したり、また贈り物のお披露目があったりで文字通りの『疲労宴』が待っているのだ。

(こっそりペルシカジュースを差し入れてやろうかな……)

などと心中密かに思う仁であった。

結婚式に出席した人々がそのまま大広間で待っていると、ブルウ公爵家の執事・侍女たちが総掛かりで披露宴の準備を整えていく。

料理・酒などを載せたテーブルが運び込まれ、花が飾られ、椅子が並べられていく。

そんな作業が慌ただしさを感じさせることなく、粛々と行われていく様は見ていてほれぼれするほどだった。

式終了後、およそ20分。

披露宴の準備が整ったところで花嫁花婿の登場である。

「それでは皆様、お待たせいたしました。花嫁花婿の入場です。拍手を以てお迎え下さい!」

進行役は公爵家の執事頭らしい。長身のナイスミドルである。声も良く通るバリトンで、侍女の幾人かが熱っぽい視線を送っていた。

参加者総勢51人が心からの拍手を送る中、豪華な衣装に着替えた2人がもう一度入場してきた。

「おお……」

「きれい……」

そんな呟きが会場のあちこちから起きた。

クズマ伯爵は黒を基調とした燕尾服のようなデザインの上下、ビーナは鮮やかな赤いドレスに身を包んでいる。

再び、ブルウ公爵の待つ一番奥まで進んだ2人は、そこに設えられた一段高くなった席に腰掛けた。

「さてご来席の皆様、まずは新郎新婦のなれそめからご紹介させていただきます……」

仁は内心うわぁ、と思った。どんな公開処刑だよ、とも。

地球にいた時は職場の先輩の結婚式に半ば強引に出席させられたことがあったが、その時、その先輩の学生時代の悪友たちが黒歴史暴露大会を開催して新婦側が思いっきり引いていた事を思い出す。

案の定、壇上の2人は顔を真っ赤にしていた。

そんな羞恥心を抉るような時間が終わると、列席者が2人に言葉を贈る時間となる。この時に贈り物も一緒に披露されることが多い。

大抵の贈り物は大広間の片側の壁に沿って並べられているので、被せてある布を取るだけのことなのだが。

最初は当然、立会人であるブルウ公爵である。

「おめでとう、クズマ伯爵、そしてビーナ。これからは2人力を合わせ、国に尽くすと共に、よい家庭を築いていってほしい」

「ありがとうございます」

公爵からの贈り物は2羽の鷲をかたどった水晶製の置物。鷲は生涯決まった相手としか 番(つがい) にならないため、夫婦和合の意味があるらしい。

2番目は王家からの代理人という騎士。ブルーノ・タレス・ブライトと名乗る。確か近衛騎士隊副隊長だったな、と仁は思い出していた。

蛇足ながら王家からの代理人が2番目になったのは、ブルウ公爵が現エゲレア王の従兄という、王族に連なるものだからである。

贈り物は壮年の人物の胸像だった。聞くところによると、クズマ伯爵の今は亡き父親らしい。伯爵は感激して受け取っていた。

3番目はビーナの義父、バーナード・ハムス・ロンズデール伯爵と伯爵夫人。

「ルイス、おめでとう。ビーナ、おめでとう。これから先、何かあったらいつでも頼ってほしい」

「ありがとうございます」

ロンズデール伯爵はクズマ伯爵の父親と懇意にしていたため、今回は伯爵夫人と共に、2人の親代わりを買って出たということである。

2人からの贈り物は、クズマ伯爵には儀礼用の剣。そしてビーナには見事な装飾が施された短剣であった。

ビーナがその短剣を受け取るのを見たエルザは、仁から短剣をもらった時の事を思い出す。

あの時の自分は、いまから思えば世間のことを何も知らなかった、とわずかな悔恨を込めて思い返す。

「エルザ?」

エスコートしているため、仁の左肘にエルザは軽く手を添えているのだが、その手に力が加わった。

「あ……ごめん、なさい、ちょっと昔のことを思い出して……」

「……ああ」

なんとなく察した仁は、それ以上何も言うことなく再び壇上の主賓2人を見つめた。

同じブルーランド在住の伯爵であるガラナ伯爵家からは代理として家令が出席。

当主は例のゴーレム 園遊会(パーティー) での怪我が癒えていないと言うことであったが、どこまでが真実か。かつて襲おうとしたビーナが花嫁になる場に顔を出せないというのが本音ではないかと、事情を知る何名か———仁もその一人である———は推測をしていた。

それから十数名は、知り合い程度の貴族たちが続き、更には大商人が数名。これらの商人たちは皆、ビーナの魔導具で儲けさせてもらった連中らしかった。

「ショウロ皇国 魔法技術者(マギエンジニア) で、お2人のご友人、ラインハルト・ランドル・フォン・アダマス様」

ラインハルトからの贈り物が披露される。

「お?」

何やら四角い板のようなもの……と思ったら、目録みたいなものだったらしい。そこには馬車の絵が描かれていた。

「4人乗りの小型馬車であります。軽快で、乗り心地も良いとのことであります」

時間のあったラインハルトは何と馬車を贈り物にしたようだ。

「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン・ニドー卿。その妹君、エルザ様」

本当の最後の最後が仁とエルザであった。

『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』という称号が呼ばれた時、会場にざわめきが走る。

( 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ……あの者が?)

(あんな若僧が 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ?)

(いや、何でもクライン王国、ショウロ皇国からも 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) として認定されているそうだぞ?)

そんな雑音は聞き流し、仁とエルザは連れ立って奥の壇へ向かった。

「伯爵、そして伯爵夫人、本日はおめでとうございます」

この言い方で礼を失していないだろうかと考えながら、仁は祝いの言葉を口にした。

「ありがとう、ジン・ニドー卿」

「心ばかりのお祝いを贈らせていただきます」

そう言って手を向けた先にある布が取られた。取ったのは礼子である。

「おお!」

列席者は口々に、だが同じ驚きの言葉を発した。

そこにあったのはゴーレム。だが唯のゴーレムではなく、侍女服を着ていた。

デザイン的には蓬莱島で働いているゴーレムメイドに準じている。

更にその手には銀色のトレイがあり、トレイの上にはタンブラーとワイングラスがそれぞれ赤と青のペアで載せられていた。

「ゴーレムは私、仁が。タンブラーとワイングラスは妹、エルザからでございます」

赤はルビー、青はサファイア製。切子細工が施され、見事なデザインはエルザのもの。

ゆっくりと歩いてくるその動作には、ぎこちなさは微塵も無く、滑らかで人間そのもの。

「ううむ……さすが 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) とその妹御……」

溜め息にも似た囁きがあちらこちらから漏れた。

仁を最後に、披露宴は宴会となる。時刻もちょうどお昼。

「さあ、それでは皆様、お待たせいたしました、新郎新婦を祝い、祝杯を! そして存分にお楽しみください!」