軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-08 ブルーランド観光

「お待ちしておりました」

仁、エルザ、礼子、エドガーの4人はクズマ伯爵邸を徒歩で出て、貴族街の外れでレグルス5=ビートと落ち合った。

仁とエルザはのんびりとブルーランド観光をする予定。案内人はレグルス5=ビートである。

今日のビートの外見は裕福な商人といったもの。ブルーランドの一部分はそういった富裕層の居住地である。

暗めの金髪に灰色の目。平凡な顔立ちは目立たずに活動するためのものだ。

「今日は案内を頼む」

「承りました」

5人はのんびりと歩いて行く。道を行く人たちは秋の装いに身を包み、しっとりとした雰囲気を纏っている。

「デザインセンスがいい。……あれは流行り?」

女の子らしく、エルザは一人の女性のファッションに気が付いた。

濃い紺色をした暗めのワンピースに少しくすんだ黄色系のカーディガン。そこまでは良くある格好だが、襟元にストールを巻いている。

そのストールがちょっと変わっていたのである。

虹色に光る生地。染めなのか織りなのか、とにかく目を惹く。

「あれは最近流行りの虹色染めですね」

光の具合によって色が変わる。玉虫色というよりオパールのような明るい虹色だ。

「パールカラー、といったところか」

そう呟いた仁であるが、エルザがまだその女性を目で追っていることに気付く。

「エルザ、あのストール、欲しいのか?」

「え? ……ううん」

否定しているエルザだが、その目はまだちらちらと横を見ている。

「ビート、ああいうものを扱っている店は?」

「はい、こちらです」

ビートは心得たもので、仁たちを洋装店へと案内していった。

「いらっしゃいませ。何をお探しでしょう」

20代半ばくらいの女性店員がやって来た。

「虹色染め、っていうのかな。ストールを見せて欲しいんだけど」

「かしこまりました」

仁が一言言うと、店員は奥へ引っ込み、すぐに戻って来た。その手には幾つかのストールが。

「こちらが今年の流行です。こっちはお若い方に人気のあるもので……」

先程の女性がしていたような無地のもの、薄い色で柄が入っているもの、落ち着いた色だが光の具合で虹色に見えるものなどがテーブルに並べられた。

(ふうん、生地は絹か。色素は……粒子が大きい。染料というより顔料に近いんだな)

こっそり工学魔法で分析する仁。一方エルザはストールを手にとって眺めている。

「これが似合うんじゃないか?」

今日のエルザはいつもの若草色のワンピースではなく、秋ということで黒に近い紫色をしたマキシ丈の長袖ワンピースにベージュ色の帽子。カーディガンは着ていない。

仁が選んだのは淡い水色がベースになっている虹色染めのストール。

なんとなく秋の空に合いそうだという理由からだ。

「そう? じゃ、これにする」

襟元に巻いたエルザは店員に告げた。

「ありがとうございます。とても良くお似合いですよ」

そのまま着ていく、と言えば店員は頷いた。

仁が代金を支払うと言うとエルザは少し遠慮したが、結局折れて素直に従った。

3500トール……およそ3万5千円。高いのか安いのか仁には見当が付かないが、染めの特殊さを考えると妥当な値段なのかもしれない。

「ありがとう、ジン兄」

店を出ようとした時、仁は毛織物と思われるストールを見つけた。ふわっとした手触りで、色は明るい茶色。

「これいいな」

仁はそれも購入する。こちらは1200トールだった。

「礼子、ほら」

「お父さま? わたくしは……」

何か言いかけた礼子を遮って仁は話を続ける。

「お前が寒くないのは知ってるよ。でも街を歩く時、これくらいしていた方がいいだろう?」

「……ありがとうございます」

そんな礼子にエルザも声を掛ける。

「レーコちゃん、ジン兄、優しい、ね」

「はい……」

礼子の黒のワンピースと白いエプロンに、明るい茶のストールは良くマッチしていた。

エルザもストールを首に巻いてご機嫌。

「次はどこへ行きましょうか」

「そうだな、日用品を扱っている店はあるかな?」

日用品には文化程度や人々の暮らしが反映されるので、仁としても興味があった。

「それでしたらこちらです」

ビートの案内で訪れたそこは、なかなか大きな道具店であった。魔導具と普通の道具、双方を取り扱っているようだ。

「お、冷蔵庫がある」

初期の四角いだけのデザインから、若干角が取れた丸みのあるデザインになったそれは、値段も少し下がって8万トール……約80万円となっていた。

「お客様、それは今度クズマ伯爵の奥方になられるビーナ様が作られた魔導具でしてね、今一番売れているんですよ」

店員が説明してくれた。

「それにこちらのライター。それに温水器。こっちは湯沸かし器。どれもビーナ様の作品なんです」

ビーナは一般の評判も悪くないようだ。ゴーレム 園遊会(パーティー) の後も魔導具の開発を続けていたようである。

しつこく冷蔵庫の購入を勧めてくる店員を、旅行中だからと振り切って外へ出た仁たちであった。

「ん、あれは?」

町の空き地で工事が行われていた、見覚えのある形の内装。平らな石を敷き詰めた床と四角い凹み……。

「温泉利用の公衆浴場ですね。ビーナさんが見つけ、クズマ伯爵が進言し、ブルウ公爵が音頭を取って進めているプロジェクトです」

屋敷のみならず、町中にも作っているという。これは住民への福利厚生という意味で良い事だ、と仁は思った。

「さて、どこかでお昼にしようか」

「それでしたら……」

ビートが案内してくれようとした時、目ざとくエルザがある露店を見つけた。

漂う香ばしい匂い。

「……ポップコーンか」

植物油でなくバターを使っていると思われるその香り。懐かしくなった仁はその露店へ向かった。

「いらっしゃい」

かつてビーナと店を出していた城壁の外とは客層も違うため、やや高級感のある店である。

ポップコーン製造器もこぎれいな外観だし、包装もパウノキの葉ではなく、 経木(きょうぎ) (ごく薄い木の板)を使っている。

値段も以前の5トールから20トール(約200円)になっている。高級食材であるバターを使っている以上仕方のないことであるし、富裕層ばかりの城壁内では当然である。

「うん、やっぱりバターだと風味がいいな」

「……おいしい」

仁はエルザの分と自分の分、合わせて2つを買い、歩きながら摘んでいく。植物油に比べ、バターを使っただけあって風味がいい。

「こうなったら露店で済ませようか」

串焼きの屋台を見つけた仁が提案すると、エルザも素直に頷いたので、ホットドッグのようなものを2つ買ってみることにした。

「おお、わりと美味い」

パンに挟んであるのはベーコンに似た肉であり、ソーセージではないが味のバランスはよく、これはこれで美味い。

エルザも気に入ったようで、あっと言う間に平らげてしまった。

「お父さま、どうぞ。……エルザさんも」

食べ終わると礼子がジュースを差し出してくれた。気を利かせて買ってきてくれたようだ。

「お、ありがとう、礼子。……うん、これも美味いな」

「おいしい」

フルーツ味のジュースであった。シトラン、アプルルその他をミックスしたものらしい。

「次は……」

「あれ、食べてみたい」

エルザが指差したのは茹でたトウモロコシ。

「よし、食べるか」

こんな風に、仁たちは観光を楽しんだのである。

「さて、贈り物は、と」

午後2時過ぎ頃。

仁は老君に指示を出し、荷物をこちらへ送らせる予定であった。だが。

「お父さま、老君から連絡がありました。もうクズマ伯爵邸内、お父さまの部屋に転送機で送ったとのことです」

「そうか」

老君の手回しの良さに仁は感心した。そちらには『 隠密機動部隊(SP) 』のうちの2体、リリーとローズが留守番しているはずなので受け取りに問題は無い。

これで明日の結婚式のお祝いが届いた。礼服も一緒に送ってきてあるだろうから、そちらも大丈夫。

「じゃあ、もう少しブルーランド観光を楽しむか」

「ん」

ということで、仁とエルザがクズマ伯爵邸に戻ったのはかなり日が傾いた頃であった。