軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16-24 老子、パワーアップ

『過激派への対処、そして『 負の人形(ネガドール) 001』への対処、そして穏健派への対処。この3つを並行して進める必要があります』

8月22日。蓬莱島では老君がその計画を仁本人に説明していた。

「それはわかる。でもまずは彼等の食糧事情が知りたいんだが」

仁としては魔族の食糧事情を改善しさえすれば、この騒動も8割方解決したことになるのではという思いがあった。

『そうですね、 御主人様(マイロード) の 身代わり人形(ダブル) が『森羅』氏族のところにいる間にその問題を解決してしまうというのもいいでしょう』

数秒検討した後、老君も賛成した。

「よし、2、3日はそっちを中心に動くことにする。老君は他の2点を見てもらえるか?」

『はい。何とかやってみましょう。つきましては……』

老君は、それぞれのリーダーとなるべき者がいない、と仁に訴えた。

「うーん、人員不足ということか?」

『戦力で言えば十分なのですが、リーダー的存在となりますと……』

「『老子』を使うか……」

ただ、今のままでは明らかに力不足である。最低でもランドより上の性能は欲しい。

「よし、決めた。『老子』をパワーアップする」

『そうしていただけますか』

老君は、セキュリティ上、『老子』の改造をすることはできないようになっている。ゆえに仁自身が行う事になるのだ。

こうして、仁は老君の移動用端末、『老子』を本格的に改造することにした。

とはいえ、礼子や他のゴーレムで行っている内容なので、機能を追加しても所用時間は1時間足らずである。

骨格・筋肉の全面的見直し、触覚の追加は当然の機能であるし、エーテルジャマーや重力魔法、それに攻撃魔法、防御魔法も同様。

魔力貯蔵庫(マナタンク) も備え、エネルギー的にも十分な備蓄を持たせる。

工学魔法も使え、治癒魔法も使用可能。正にオールマイティーな 自動人形(オートマタ) に仕上がった。

礼子もオールマイティーであるが、彼女の場合は攻撃力が突出している。老子の場合はバランスよく機能するよう調整がなされていた。

独自の機能として、体内に身長5センチの超小型ゴーレム、名付けて『フィンガーゴーレム』を5体内蔵していることが挙げられる。

これはミニ 職人(スミス) をベースにし、半分の5センチという大きさで専用に作られたもの。いわばハーフミニといった規格になる。

情報収集などに役立つだろう。その名もフィンガー1〜5となっている。

「老君、老子の具合はどうだ?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。文句の付けようがないほどの素晴らしい出来です。ありがとうございました』

老君は移動用端末である老子を動作させてみて、その出来映えに関しては申し分無いと仁に報告した。

『私は『 負の人形(ネガドール) 001』を追ってみるつもりです』

「わかった。注意しろよ」

『はい。過激派は当面、ランド隊を送り込み、密かに観察させることにします』

「うん、そうなるか。穏健派が落ち着いたら過激派に取りかかるからな」

『はい。その間、過激派におかしな動きがないかどうかも併せて留意します』

「わかった。ファルコン8〜10を付けよう。 自由魔力素(エーテル) が多いから空中待機も問題ないだろうしな」

こうして、『 負の人形(ネガドール) 001』には老君、過激派にはランド隊、穏健派には仁の 身代わり人形(ダブル) と礼子、アンが、それぞれ対応する事になった。

* * *

「私どもの農業事情、ですか」

仁(の 身代わり人形(ダブル) )は、『森羅』氏族の族長、バルディウスと打ち合わせをしていた。

「ええ。援助するのはもちろんですが、やはり自給できるようになるのが1番いいかと」

「確かにそうです。では、ロロナに案内させましょう。彼女はそういう方面に詳しいので」

ということで、イスタリスとシオンの母、ロロナが仁を案内することとなった。礼子は無言でそれに続く。

一方、アンはイスタリスとシオンに『森羅』氏族の居住地を案内してもらっている。その判断力で、改善点を洗い出してもらうためだ。

ロロナはイスタリスやシオンとそっくりな銀髪、水色の目、白い肌である。というか、『森羅』氏族はそういう外観の者が多い。

近親での結婚が多いのではないか、と仁は想像したが、今は農業のことに集中すべく、頭を切り換えた。

「作っている麦類は大麦がほとんどです」

案内されたのは、海が見える高台に拓かれた麦畑。かなり穂が出ているものの、カイナ村で見たものに比べて実の付きは悪いようだった。

因みに、大麦と小麦を比べると、大麦の方が塩害に対して強いという。ゆえに海岸縁の畑で大麦が作られているのは理に適っていると言えた。

「えーと、連作障害は何か対策していますか?」

「はい、一応、栽培していない時には腐葉土を入れるようにしています」

連作障害とは同一作物を作り続けることで特定の病気や害虫を増やしてしまう、土壌中のミネラルを収奪してしまう、などが原因で栽培作物の生育障害や収穫量減少を起こすことである。

「うーん、それが不十分なのか、それとも品種的なものなのかな」

二毛作(同じ耕地で一年の間に2種類の異なる作物を栽培すること)や二期作(同様に、同じ作物を作る場合)をしていなければ、半年以上土地を休めているし、有機肥料も与えているということで、仁の知識ではそれ以上の原因を思いつけなかった。

「他の作物はどうですか?」

それで、一通り見て回ることにする。

「はい、こちらです。ここではナツマメという豆を作っています」

仁の見たところ、エンドウ豆に良く似た豆であった。確かに、豆類の中では耐寒性がもっとも強い種類である。

だがそこも生育があまり芳しくないように見えた。

「甘味はこれで作ります。ビエトラといいます」

それはどう見ても砂糖大根、つまりテンサイであった。

「すり下ろし、汁を搾り、煮込んで砂糖を作っています。絞りかすは家畜の飼料です」

わずかに飼育している、カプリ(牛と羊の中間のような家畜)の飼料だそうだ。

そのあたりは仁の知るところと一致している。

「最後はこれです」

「え?」

一面に白い花の咲いた畑。その花に仁は見覚えがあった。

「……ソバ?」

近くによって見てみると茎の根本が赤い。間違いなくソバだった。まあ全部のソバが根元が赤くなるわけではないのだが、仁の記憶ではソバの根元は赤いということになっていたのである。

「クロムギといいます。雪の溶ける5月に種蒔きをして、9月に収穫します」

確かに蕎麦の実は黒褐色をしているが、麦とは別種の植物である。が、問題になるのはそこではない。

「このソ……クロムギの食べ方は?」

「はい、皮ごと挽いて粉にし、お湯で練って食べます」

要するにそばがきか、と仁は思った。

ソバの場合は麦と違い、挽きぐるみと呼ばれるような皮も一緒に挽いた粉も、香りが良いといって珍重される。それはいい。

「……蕎麦を打っても汁がなあ……」

醤油が無い場合、あまり食べ方の選択肢は広がらないのである。

「そば粉クッキーとか蒸しパン、か……」

孤児院時代に年越し蕎麦を何年か打ったことがあるので、本職ほどではなくとも、仁も蕎麦を打つことができる。が、魔族領ではそばつゆが作れないのでそっちは早々に諦めていた。

ベーキングパウダーは無くとも、重曹ならあるので、蒸しパンなら作れそうだった。

* * *

一通りの作物と畑を視察してきた仁(の 身代わり人形(ダブル) )は、『森羅』氏族の居住地に戻った。

応接室の椅子に座った仁は考え込む(実際は蓬莱島にいる仁と老君が考えている)。そして考えた末の結論を口にした。

「……まずは、人手の確保、そして作物と農業の見直し、かな」

「ジン殿? それはどういう?」

ロロナ、そして同席している彼女の夫、ラデオゥスもよくわからない、と言う顔をした。バルディウスは尚更である。

「農作業用ゴーレムを作りましょう。それからジャガイモの栽培。そして温室の活用」

考えていた案を開陳する仁。

「農作業用ゴーレムはわかります。ですが、ジャガイモとは? 温室というのは?」

その疑問に、仁は簡単に説明した。

「ジャガイモというのは、トポポともいって、寒冷地でも作れる芋です。調理次第で美味くなります。温室というのは、作物を透明な板で囲うんです。中は外より気温が高くなります」

「それはいいですね!」

農業に詳しいというロロナは、その説明だけでかなり理解できたようだ。

「ゴーレムの製作も含めて、資材は提供してもらいたいのですが」

「それはもちろん。早速準備します」

資材の方はラデオゥスが準備すると言って部屋を飛び出していった。

「それで、ジン殿への謝礼、といいますか、見返りはどのようにすれば……」

長、バルディウスが心配そうに言った。

仁の答えは、

「まずは、ソバ……クロムギの実を少しと、ビエトラの種を少し」

であった。