作品タイトル不明
16-22 情報交換
「『 傀儡(くぐつ) 』の氏族は中立、という建前なのですが、その実、内部は2つに分かれているのだ……です」
途中から口調を変えるベリアルス。どうやら仁に感謝しているのは本当らしい。
「内部分裂などお恥ずかしい限りですよ」
少し項垂れるベリアルス。
ありがちだ、と仁は思ったが口には出さない。代わりに別の質問をする。
「魔物や魔獣を操る事が得意、と考えていいのかな?」
「そうです。私は 地底這い虫(グランドワーム) を操るのが得意です。術者によって相性があるようで、1人でなんでも、という者はほとんどいません」
「なるほど……。そうだ、アルシェル、という者を知っているか?」
その名前を聞いたベリアルスは少し驚いた顔をした。
「どこでその名を? アルシェルは、私の妹で、1年前に行方不明になったきりです」
「ふうん? ……人間の国、クライン王国の北部にいたようだ。俺が直接出会った訳じゃないが」
「そうですか……」
心配だ、という顔をするベリアルス。だがそれを押し殺し、仁に説明していく。
「……彼女が得意とするのは『ギガントーアヴルム』です。しかも転移魔法も使えます」
『ギガントーアヴルム』とは巨大なハサミムシである。確かに、グロリアが襲われたのもそいつだったはずだ、と仁は思い出していた。
「『 巨大百足(ギガントピーダー) 』を得意とする者は?」
「 巨大百足(ギガントピーダー) ですか? いえ、済みませんが知りませんね」
念のため仁は聞いてみたのだが、 巨大百足(ギガントピーダー) そのものを知らないようだ。
「巨大な百足なんだが、知らないならいい」
もう一つ気になることがあったことを思い出す仁。
「あ、そうだ、あと一つ。 百手巨人(ヘカトンケイル) を操れる者を知っているかい?」
「ええ、それなら5名ほどいます。1月ほど前、『エンドゥス』という者がパズデクスト大地峡の向こうへ送り込んでいました」
仁の想像とは違い、知能があるほど操りやすいらしい。説明されてみれば当たり前とも言えるが、『意志』を操るためにはある程度の知能があった方が好都合なのだそうだ。
逆に、原始的な生物ほど操るのに適性がいるとのことだった。
「では、氏族の様子は?」
「好戦的な連中は居住地を出て行ってますから、残っている20名ほどは穏健派と考えてください。……しかし、おそらく全員『 操縦針(アグッハ) 』を埋め込まれているでしょう」
「そうか……」
少なくとも『 傀儡(くぐつ) 』の氏族、『森羅』の氏族は『 操縦針(アグッハ) 』の犠牲になっていると考えていい。
「問題は、今回停止させた 魔導機(マギマシン) がどのくらいの氏族を支配していたのか、がわからないことだな」
まずは、穏健派と言われる氏族は全員解放する必要があるのだが、手始めは『 傀儡(くぐつ) 』の氏族と『森羅』の氏族になるということだ。
「明日、早速出発するつもりだが、どっちの氏族が近いんだ?」
その質問にはイスタリスが答えた。
「それでしたら私たち『森羅』の方が近いですね。『 傀儡(くぐつ) 』の氏族の居住地はずっと西の方ですから」
「……そのとおりです」
残念そうな顔のベリアルス、だが致し方ない。
「よし、それなら明日朝、『森羅』氏族を訪れてみよう。解放されていたら『 操縦針(アグッハ) 』を抜き取る。解放されていなかったら……」
「どうするおつもりですか?」
「全員麻痺させて『 操縦針(アグッハ) 』を抜き取る」
もうこちらが『 操縦針(アグッハ) 』を抜き取れることは 負の人形(ネガドール) に知られているだろうから、と仁は付け足した。
それで打ち合わせは一旦終了となる。
「ファビウスさん、古い魔導具などを見せてもらえますか?」
仁(の 身代わり人形(ダブル) )は興味津々で切りだした。
「ええ、もちろんです。……動かないものもありますが。どうぞ、こちらです」
仁(の 身代わり人形(ダブル) )は、ミニ 職人(スミス) 4体を肩に乗せてファビウスの後に付いていった。礼子も一緒に行く。
「まずはこれです」
居住地の一番奥、窓がたくさんある魔導具。それこそが『福音の魔道具』であった。
「なるほど……触ってもいいですか?」
「どうぞどうぞ。ジン様ならばらしていただいても構いません」
仁(の 身代わり人形(ダブル) )は、その言葉に甘え、ミニ 職人(スミス) と共に、魔導具の外装を取り外した。
「ふうん……」
「おお、こうなっているのですな。……だが、私には何が何やらわかりませんが」
外装を外した魔導具。基本的な 魔法制御の流れ(マギシークエンス) は、仁が 懐古党(ノスタルギア) を通じて各国に贈った 魔素通話器(マナフォン) と酷似していた。
一通り観察した後、外装を戻す。基本設計データは老君がしっかりと記憶している。
「他にはどうですか?」
「それはこちらです」
ファビウスは別の部屋へと仁を誘った。
「私どもが使役しているゴーレムです」
黒灰色のゴーレム。先日仁たちを襲い、礼子とアンに撃退された物と同型だ。それが14体。
「20体有ったのですが、ご存知のように先日6体がジン様に破壊されまして」
「あー、なんだか申し訳ない」
こんなセリフが出るのも仁ならでは。老君が動かしていたら絶対に出ないセリフである。
「2体はどうも動かなくなってしまっておりまして」
「見せてください」
ゴーレムや 自動人形(オートマタ) には特に興味を持っている仁。早速動かないという2体の解析に取りかかった。
まず材質。この世界では未知の合金だが、仁にはその正体がわかった。
ステライト。コバルト、クロム、タングステンから成る高硬度合金。耐摩耗性・耐食性・耐熱性にすぐれる。
この世界、というか、この星にはタングステンはほとんど無い。代わりにアダマンタイトが存在するのだが、それからするとこのゴーレムを作っている金属は別の星……『ヘール』から持ち込まれたのかもしれない、と仁は考えた。
筋肉組織はなく、魔力で直接動かしているようだ。動作がぎこちないのも無理はない。 自由魔力素(エーテル) 濃度の高いこの地ならではの方式と言える。その代わりに耐久性は高い。
仁として参考になったのは材質だけである。
動かなくなったのは年月を経て 魔素変換器(エーテルコンバーター) が劣化したからであった。
「 魔素変換器(エーテルコンバーター) はこの頃から使われていたんだな……もしかすると先代も学んだのかもしれない」
そんな事を思いながら、仁は 身代わり人形(ダブル) と礼子、それにミニ 職人(スミス) に手伝わせてゴーレムを修理していった。
まだ動くゴーレムも、かなり 魔素変換器(エーテルコンバーター) が劣化していたので交換しておいた。
因みに、この地では 魔結晶(マギクリスタル) が豊富に産出していたので、部品には事欠かなかった。
「ジン様、ありがとうございます!」
残った14体がまともに動くようになったので、ファビウスは再三再四頭を下げていた。
次は入り口付近の照明である。
エーテルジャマーの照射で一部動作しなくなった際に無事な部分に過負荷が掛かったらしく、魔導回路が破損していた。
これは簡単に修理できた。
そしていよいよ幻影結界である。
「……これは……」
原理は立体映像に似ている。2個あるいはそれ以上のプロジェクターから、魔力を利用した波動を放射する。
別のプロジェクターからの波動と交わった部分に、目で見える『点』が描かれるのだ。
この『点』の集まりが幻影である。3次元映像であるから、どの方向から見ても違和感が出ず、触らない限り幻影とはわからない。
更に、幻影表面は音波もかなりの帯域に渡って反射する性質を持っていた。
これにより、聴覚も誤魔化せることになり、より隠蔽力が高まっていたのである。
仁が感心したのは、魔力の使い方。
ここで言う『魔力』は、広義の意味『魔法の力』ではなく、狭義の魔力であり、『磁力』などと同義の用法である。『魔力線』といった方がいいかもしれない。
『魔力線も光のように空間を伝わります。変調も掛けることができるのです。そして2つの魔力線が交差したところでは干渉によって可視光が発生しています』
データを解析した老君の説明である。
とにかく、この解析結果により、蓬莱島の防衛網がより充実していくことだろう。
これは大きな収穫であった。
これらの作業中、転移マーカーと思われるものが2つ見つかり、仁はそれを取り除いておいた。これで奇襲は防げるだろう。
この他にも、珍しくないものも含め、十種近くの魔導具を修理していく仁。
こうして動作不全に陥っていた 魔導基板(プレート) や魔導回路を仁が全部修復したので、ファビウスは何度目になるかわからないほどに感謝の意を述べたのであった。