軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-22 情報その2

翌朝、遅めの朝食を摂ると、仁たちはカトリーヌの元を辞去した。

「また来てちょうだいね」

カトリーヌは玄関先まで出てきて仁たちを見送ってくれたのである。

「いい人だったな」

「うん」

用意してもらった馬車の中で、仁たちはとりとめのない話をかわしていた。

具体的な話は、御者に聞かれたりすると拙いので、漠然とした話に留めおく。

この先どうなるかわからないが、この縁が良きものであるように、と思わずにはいられない仁とエルザであった。

「で、あのフェルナンとかいう男と会うのよね?」

シオンが仁に尋ねた。

「ああ、昼にホテル前の公園で、という約束だったな」

昨夜、フェルナンに付けたパンセとビオラからの報告で、特に不審な行動は見られない、とのことであったから、仁としても多少期待している。

パンセとビオラならフェルナンが得たのと同じだけの情報を仁にもたらすこともできるのだが、この先、どんな事で役に立つかわからないため、人脈作りと割り切って残りの金貨5枚を渡すつもりである。

「一度ホテルに戻って出直そう」

ちょうど馬車はホテル前に着いたところ。

仁たちは馬車から降りた。最後に降りたエルザは御者に礼を言い、心付けを渡す。このあたりはさすがだ、と仁は思った。

「へえ、内助の功、というやつね」

先に降りた仁たちのところへ小走りに駆け寄ってきたエルザを見て、シオンがぼそりと呟いた。

仁には聞こえなかったようだが、エルザには聞こえたらしく、ほんの少し頬を染めたエルザである。

* * *

ホテルで少し早めの昼食を済ませ、一同公園へ。

仁と礼子だけでいいと言ったのだが、エルザもシオンも聞かず、結果全員で出てきたのである。

「お、来た来た。おーい、旦那、こっちこっち」

既にフェルナンは来ていて、仁たちに手を振った。昨日とうって変わって綺麗な身なりをしている。

「今日はいい服を着ているじゃないか」

仁が指摘すると、フェルナンは笑ってそれに答えた。

「へへ、前金で誂えたんでさあ。情報源によっては汚い格好だと寄りつけもしない場所があるんでね」

それは彼に付けたパンセとビオラからも報告を受けていた。フェルナンは嘘をついていない。

「ぐふふ、とびっきりの情報を持って来ましたぜ。少し色を付けてもらえますかい?」

得意げな顔つきをしたフェルナンに、仁は少し演技を交え、見下すような表情で言葉を発した。

「情報次第ではね」

実は、張り付いていたパンセとビオラ、そして老君と礼子は既にフェルナンの知っている事と同じ情報を得ているのだが、仁は敢えて聞かずにいた。

「まず、2人の名前はイスタリスとネトロス、というらしいですぜ」

「うん、それで?」

まず第1段階は合格だ。

「魔族だと名乗って、何か話があったらしいんですがねえ。まあ、魔族の話なんて聞いても無駄だと、クターガっていうイーナクの代官が2人を罠に掛けてとっつかまえたそうで」

第2段階も合格。なかなか正確な情報を掴んで来たようだ。

「その時、礼物として、 魔結晶(マギクリスタル) やら黄金やら持って来たらしいんでげすが、代官が懐に入れてしまったそうでやんすよ」

第3段階も合格である。フェルナンは情報を歪めることなく正直に話している。

「で、魔族の拠点はどこか、とか、何を企んでいるか、とか、兵力はどのくらいか、とかを尋問するために王都へ運ばれたらしいんですがね」

ここまで、カトリーヌから聞いた情報と一致している。フェルナンは本当に情報通のようだ。

「ここからが問題でやんしてね。薬を使っているとはいえ相手は魔族だ。どんな力を持っているかわからねえ。また、仲間が助けに来ないとも限らねえ。ということで、場所を移したらしいんでさあ」

これは新情報であった。フェルナンの補足説明は理に適っている。

「で、どこに移されたかは……へ、へへへ。礼金をいただいてから、にしましょうかね」

「……わかった」

仁はあらかじめ用意しておいた金貨5枚をフェルナンに手渡した。そして、あと5枚をちらつかせ、

「情報の役立ち具合で追加枚数を決める。さあ、話してもらおうか」

「へへ、わかりやした。その場所はサンジェルトンの南にあるゲンフでしてね。あそこは監獄があるんでさあ」

ゲンフはサンジェルトンの南50キロほどのところにある町で、アスール湖に近く、凶悪犯・政治犯などを収容する監獄があるのだという。

「魔族を乗せた馬車が出たのが昨日の昼らしいんで、着くのはおそらく明日夕方でがしょうね」

これはいい情報であった。パンセとビオラが掴んだ情報を知っている筈の礼子も何も言わないので嘘はないということだろう。そこで仁はフェルナンに、手に持っていた金貨を5枚全部渡したのである。

「へえ! こりゃすげえや。気前のいい貴族さまだ。この先にもあっしに用があるときは、この公園にあるあの塔」

フェルナンが指差したのは公園中央にある日時計を支える塔。

「あの塔の下に、ハンカチでも服でもなんでもいいから青いものを置いてくだせえ」

「わかった。その時はな」

「それじゃ、どうもでした」

ぺこりと頭を下げたフェルナンはその場を立ち去っていった。去り際に、

「あ、そうそう、護送に付いているのは兵士が10人と騎士が2人だそうですぜ」

と言い、今度こそ姿を消したのである。

(お父さま、嘘はなかったようです。パンセとビオラが掴んだ情報と一致していますので)

(わかった)

仁と礼子は小声で囁き交わし、フェルナンの情報を元に計画を立てるため、ホテルの部屋へと一旦戻ることにした。

「さて、イスタリスとネトロスの消息がわかったところで、奪還の方法を考えないとな」

「その護送しているところを襲えばいいんじゃないのか?」

ルカスはどこまでも単純である。

「駄目よ、ルカス。そんなことをしたらますます人間と魔族の間に溝ができてしまうじゃない」

「う、そ、そうですね……」

シオンは一応、これからの2種族のことも考えに入れてはいるようだ。

仁としては、まだ魔族を全面的に信用出来るとは考えてはいない。むしろ警戒している。

ただ、シオンに関しては、それなりに信用できそうだとは感じていた。だが、個人と集団は別にして考えないと、思わぬところでトラブルが起きるかもしれない。

今のところ、イスタリスとネトロスに会って話を聞いてみたいと考えていたのである。

「角が立たない奪還方法はないものか……」

仁は考え込んだ。

そもそも奪還という方法自体、過激なのである。フランツ王国の面子というものもあろう。

「ダミーと入れ替えられるならいいんだが……」

2人の容姿を知らないからこの線は無理。

「ジン兄、死んだことにしたら?」

「ああ、そうか!」

エルザの助言に仁も賛成する。

「……どうする気?」

シオンは不安そうな顔だ。

「ああ、そうだな……『魔族を憎む、もしくは恐れた何者かが護送隊を襲って、魔族2人を焼き殺してしまった』ということにするのさ」

焼死体は魔物の素材を燃やすなりして作ればいいだろう、と説明する仁。

「問題は、入れ替えるところを見られないようにする方法だな」

「煙幕?」

「いやエルザ、それでは不確定要素が多すぎる。もっと何かいい方法は無いかな……」

「護送隊全員、殺してしまえばいいじゃないか」

「こら、ルカス!」

ルカスが過激な意見を言い、シオンが窘める。それを聞いていた仁は一つの案を思いついた。

「そうか、気絶させてしまえばいいな」

麻痺銃(パラライザー) を使えば、全員無傷で無力化できるはずである。

「そうなると、襲ったのが人間であるとはっきりわかるようにした方がいいな」

「それと、襲う場所」

エルザと仁はおおよその計画を立てていく。細部は老君に詰めてもらう予定だ。

「助け出したらどこへどうやって逃げるかも考えておかないといけないな」

仁とエルザの相談を聞いていたシオンの顔は次第に明るくなっていった。姉たちを助け出せそうだということが聞いているだけでわかってきたのである。

「よし、あとは老君に任せよう」

細部の調整や時間の選択などは、思考速度の速い老君の方が適任である。

仁自身は助けた後のことを考えておくことにした。

シオンは、仁が言う『老君』という単語はわからなかったものの、上手くいきそうな計画が出来上がったのでようやく安心できたのであった。