軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-12 仁の想い

「ジン兄、一度聞いてみたかったんだけど」

礼子の代わりをどうするかと考え込む仁にエルザが尋ねた。

「レーコちゃんと同じ性能の 自動人形(オートマタ) を作らないのはなぜ?」

その質問に礼子がぴくりと震えた。

「レーコちゃん、勘違いしないでほしい。私は単に理由を知りたい、だけ。決して貴方を否定するとかそんなんじゃ、ない」

仁は礼子を手招くとその頭を撫でてやる。

「作らないわけ、か。簡単さ。俺にとって、礼子は一人でいいからだ」

そのまま仁は礼子を抱き寄せ、膝の上に座らせた。

「俺をこの世界に呼んでくれたのは礼子だ。正確には礼子の前身、だけどな。その礼子は先代の遺言に従って1000年、俺を捜し続けていた。そして 転移門(ワープゲート) の暴走で行方不明になった俺を必死に捜し当ててくれたのも礼子だ。今の俺があるのは礼子のおかげなんだ」

そう言いながら仁は礼子の頭を撫で続ける。礼子は目を細め、とてもうれしそうだ。

「俺には過ぎた娘さ。だから、同じ 自動人形(オートマタ) は作らない。作りたくない」

「……よくわかった。ジン兄、ごめんなさい。レーコちゃんも、ごめんなさい」

エルザは深く頭を下げた。

「旅を始めたばかりの時、ジン兄とレーコちゃんが仲良さげだったこと、思い出した」

「ああ、あの時な……」

人形性愛者と誤解されたときのことである。

「ま、まあとにかく、そんなわけで、俺は礼子は一人だけ、と決めているんだ」

「よくわかった。つまらないこと聞いてごめん、なさい」

再度謝るエルザを仁は制した。礼子も、

「……エルザさん、もう、お気になさらないで」

と、声を掛けたのである。

「さて、それで、ほんとにどうしようか」

再び考え込む仁。

「作るだけ作って、使わなくなったら休眠、というのも嫌だしなあ……」

そうやって悩む仁を見かねて、礼子から提案をしてきた。

「……お父さまが蓬莱島から一歩もお出にならないと約束して下さるならば、わたくしがまいります」

「そ、そうか。そうしてくれるなら助かる」

何といっても、礼子は仁の役に立つことがしたくてたまらないのである。

「よし、それなら最新の素材と技術でお前をグレードアップしてやろう」

「はい、おねがいします」

仁は礼子を作業台に横たえた。エルザも助手として仁を手伝う。エドガーは見学である。

「まずは骨格だ」

マギ・アダマンタイトをハイパーアダマンタイトに置き換える。比重は約10倍あるが、強度は20倍に向上した夢の素材だ。これは圧縮されたことで原子間距離が狭まり、結合力がアップしたためと推測される。単純計算通りにいかないのは 自由魔力素(エーテル) の働きだろうと考えられていた。

これを使えば重さを同じにしても2倍の強度が得られるということ。

「 魔法筋肉(マジカルマッスル) は、従来通り?」

「いや、 自由魔力素(エーテル) 含浸処理をしたものと交換する」

「含浸処理?」

「ああ。 自由魔力素(エーテル) ボックスで保存処理することで 自由魔力素(エーテル) の含有量が飛躍的に向上するだろう? あれさ」

使い勝手は変わらないものの、取り出せる力の上限値が倍以上になると言う。

「その分 自由魔力素(エーテル) を食うけど、北の地は 自由魔力素(エーテル) 濃度が高いらしいから、有効だと思ってな」

「納得した」

「あとは、いざという時のために『エーテノールタンク』を追加して、と」

以前搭載していた『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』よりも効率がいい。気体状の 魔力素(マナ) よりも、液体として 自由魔力素(エーテル) を含むエーテノールの方が利用できる魔力密度が高いためである。

「標準で重力魔法を使えるようにしないとな」

詠唱無しで発動できるよう、各種の魔法発動用魔導具を内蔵させる。

「 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) の容量も増やしておかないとな」

そして各補助機能も一新していった。

(ジン兄の作業はとても丁寧。レーコちゃんを大切にしているのがよくわかる)

助手とは名前だけ、この場では出番がないエルザは、仁の作業ぶりをじっと観察していた。

(私に出来ることは何かないの、かな? ……そうだ!)

とあることを思いついたエルザは、懸命に作業を続ける仁のそばをそっと離れた。

魔法外皮(マジカルスキン) にも 自由魔力素(エーテル) 含浸処理を施し、礼子のグレードアップは終了した。体重は上手く調整した結果、前と変わりなく仕上がっている。

そしてようやく仁はエルザがいない事に気がついた。

「エルザ?」

すると、今しも工房の外から戻って来たエルザと顔があった。エドガーも一緒である。

「あ、ジン兄、改造終わった、の?」

「ああ、たった今。……その手に持ってる物は?」

何やら畳まれた布のようなものをエドガーが持っていたのである。

「これ? レーコちゃんの新しい服。 自由魔力素(エーテル) 含浸処理をした 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸で、作った」

「お、ありがとう。それはいいな。今の服も大分着ているからな」

「ん」

エルザが差し出したのはドロワーズ、シュミーズ、ワンピース、エプロン、リボン。

今まで礼子が着ていたものと色・デザインは同じ。これは礼子が気に入っているものを自分の趣味で変えたらいけないと判断したためである。

念のため仁は寸法チェックをする。数ミリの誤差であったので、ほんの少しだけ調整を入れて完了。

「さすがに上手くできてるな。 自由魔力素(エーテル) 含浸処理していると多少加工性が変わっただろう?」

「うん。でも、ちょっとやっていれば慣れる程度」

「はは、もう1人前だな。よし、俺は靴を新調してやろう」

「あ。靴と靴下、忘れていた」

服ばかり気にしていた、と恥じ入り、少し頬を染めたエルザ。

「いいさいいさ。俺なんてしょっちゅううっかりしているしな」

笑いながら仁は、 自由魔力素(エーテル) 含浸処理した 海竜(シードラゴン) の革を取り出した。

「じゃあ靴下を作ってやってくれよ」

「うん」

仁は靴を、エルザは靴下を。すぐにそれらは完成した。

それらを動作前の礼子に着せてやれば全て完了だ。

「起動」

魔鍵語(キーワード) に反応して礼子が目を覚ます。

「どうだ、調子は?」

礼子は作業台から飛び降りたあと、ゆっくりと動いて自己チェックをしていたが、

「はい、とても良い調子です。ありがとうございます」

と言って一礼した。

「そうか、それは良かった。服はエルザが作ってくれたんだ。俺もちょっとだけ手伝ったが」

「……そうでしたか。エルザさん、ありがとうございます」

「うん」

付加した新機能を説明し、問題なく使えることを確認すれば礼子の方はこれで万全。

「あとは明日にしようか」

少し遅い夕食を食べ、仁とエルザはそれぞれの部屋へ引き上げた。

礼子とエドガーもそれぞれの主についていく。

「レーコちゃん、か」

敷いた布団に横たわり、エルザが考えるのは仁と礼子の事。

「……本当に大事に、してる」

もちろん仁が大切にしているのは礼子だけではない。

気を付けてみていれば、食事一つ取っても出来るだけ残さないように食べているのがわかるし、素材からいろいろな部材を作り出すときにも出来るだけ無駄が出ないようにしていることが見て取れる。

物を無駄にしないことと礼子を大事にすること。似ているようで異なり、異なるようで似ている。

それは日本に生まれ育った仁の『もったいない』精神かもしれないし、物を大事にする気持ちかも知れない。

「ちょっと、レーコちゃんが、うらやましい」

そんな想いを抱いて、エルザは窓の外を眺めやる。暗い夜空には無数の星が瞬いていた。