軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-38 閑話27 船、その行く末

「それでは、お世話になりました」

「ああ、達者でな」

セルロア王国南端の町、クゥプの大商人、エカルト・テクレスは、1人の 魔法工作士(マギクラフトマン) を解雇したところである。

「ふう……また一から、か」

エカルトの夢は、船で各国を訪れること。

その船も、ただの船ではない。世界最大の大きさを誇る外洋船だ。

そんな船を建造し、乗り込み、世界を巡るのが彼の夢であった。30歳にして商売の天才と言われた彼がいままで財を蓄えたのは全てそのため。

だが、そんな夢も白紙に戻ってしまった。

エカルトの雇った現場主任を商売敵が囲い込み、破壊工作を企てたのだ。秘密にしていたはずなのに、どこからか漏れ出たその情報で、そんな大きな船で商売をされたら堪らないと思ったのであろう。

だが、その企ては半ばしか成功しなかった。折から訪れていた仁たちのためである。

本来なら作業の人夫や技術者も巻き込むはずが、1人の死傷者も出なかったのである。それどころか、船を壊す細工をしているところを見咎められ、現場主任はその場で捕まってしまう。

あとは芋づる式に、商売敵の名前が浮かび上がってきたのであった。

幸か不幸か、仁たちの救助活動のおかげで死傷者がいなかったため、犯人への刑はやや軽いものとなった。

首謀者である商売敵は財産没収の上、クゥプを追い出される重追放。

現場主任だった 魔法工作士(マギクラフトマン) は、家族を人質に取られた上で無理矢理破壊工作をやらされたことがわかり、かなり減刑された。

とはいえ、若干の金品を受け取っていたこともあって、これも追放刑となったのである。財産は没収されなかったのが救いだろう。

追放されるということは生活基盤のない土地へ行かねばならないわけだ。クゥプより100キロ以内に留まることはできないので、かなり厳しい。

おおまかにいうと、クゥプ北に 聳(そび) えるラウェイ山よりも北方へ行かねばならない。

「まあ、あいつならどこででもやっていけるだろう」

魔法工作士(マギクラフトマン) ならどこへ行ってもそれなりの仕事には就ける。だが商売敵の方は……エカルトにはもう興味もなかった。

* * *

「……」

屋敷内に建造した造船用のドック。

今はがらんとしているが、つい最近までは半ば完成した巨大船が鎮座していたのである。

金は没収した商売敵の財産から弁償してもらえたが問題はそこではない。

あと半年で完成というところまで漕ぎつけていた船が完全に破壊されたことが問題なのである。

最終的に修復不可能なまでに破壊したのは礼子なのだが、エカルトはそれを咎めることはしなかった。人命優先で作業していたし、何より仁たちにはその人命を救ってもらっていたのだから。

「まして、自分の命さえ危なかったのだ。咎めたら罰が当たるというもの」

そんな独り言を言いつつ、エカルトはドックをあとにした。

「旦那様」

「うん? なんだ?」

エカルトが屋敷に戻ると、執事が急いでやって来た。

「はい、 魔法工作士(マギクラフトマン) と名乗る方がお二人、雇ってもらいたいと」

「何! すぐに小応接間にお通ししろ!」

エカルトは喜びを顔に表した。現場主任だった男を解雇した今、優秀な 魔法工作士(マギクラフトマン) は喉から手が出るほど欲しい。

執事はすぐにその二人を案内してエカルトの待つ小応接間にやって来た。

「アルタフといいます」

「ギェナーですわ」

1人は30前後の屈強な男、もう1人は20代くらいの女性である。2人は夫婦だと言った。

「私がエカルトです。お二方はどんなことがお出来になります?」

この質問にはアルタフが代表して答える。

「そうですね、一通り何でもやりますが、私は大きな物、妻は細かな物を作るのが得意ですね」

「ほほう、それは心強い」

エカルトは、なんとなくこの2人が浮世離れ、というか人間離れしているような気もしたのだが、アルタフの次の言葉でそんなことはどうでも良くなった。

「助手ゴーレムがおりますので、作業も早いんですよ」

「なんと!」

ゴーレムを助手にしているような 魔法工作士(マギクラフトマン) はごくごく僅かだ。そしてそういう彼等は例外なく腕がいい。

「正直に言いましょう。エカルトさんが大きな船を作っている、ということを聞き、やって来たのです」

事故や商売敵の噂は既にクゥプに広まっており、今更否定も出来ないほどである。だが逆に腕のいい 魔法工作士(マギクラフトマン) が来てくれるなら、それは歓迎すべきことであった。

「それではそのゴーレムをお見せいただけますか?」

それで最終判断する、とエカルトは言った。それを受け、ギェナーが席を立って、表に待たせているゴーレムを連れに行った。

「いきなりゴーレムを同伴するわけにも行きませんからね」

とはアルタフの言葉。それにはエカルトも同意した。

「お待たせしました」

間もなく、ギェナーがゴーレムを連れて戻って来た。

「おお……」

息を呑むエカルト。そのゴーレムは、身長は160センチかそこらしかないが、艶消しの銀灰色をしており、人間そっくりなプロポーション。

普通、ゴーレムは用途に応じて体格やプロポーションを決める。戦闘用なら全体にごつくするし、ボートレース用なら腕を強化する。

だがエカルトの目の前に立つそのゴーレムは、服を着せ、顔に何か被せたら人間と見まがうほどの出来であった。

「いや、これを見たらあなた方の実力がわかるというもの。こちらからお願いします。是非協力して下さい」

こうして契約を交わし、アルタフとギェナー、そしてゴーレム1体が新たなエカルトのスタッフとなったのである。

「うーん、ちょっと強度が心配な気がしますね……」

今、アルタフとギェナーは船の設計図を見せられているところであった。

「……やはりそう思われますか?」

「ええ。とくに船底が」

エカルトは、先日、ジンという客が船底について言っていたことを思い出した。そして彼は、系統の違う2人の 魔法工作士(マギクラフトマン) が指摘するからには、その意見を反映させた方がいいだろうと判断した。

「少し見直しましょうか。何か御意見は?」

「ええ、ここに構造材を入れ、仕切りを増やします。この仕切りは強度の向上にも役立ちますので……」

そしてもう1人、ラインハルトという名の 魔法工作士(マギクラフトマン) が船内を細かく仕切るべきだと言っていたことも思い出す。

「そうですな、そこもお任せします」

こうして、設計を見直した結果、外形はそのままであったが、予想重量が少し増え、当初の240トンから300トンへと増えたのである。

「うーん、少し重くなりそうですね」

「ですが、安全には替えられませんよ」

「それはその通りですが……」

「推進力でそれは何とか出来るのではないでしょうか。どんなものを使う予定ですか?」

「ええ、風と魔法を併用します」

これは先任の 魔法工作士(マギクラフトマン) が思いついた方法なのですが、と前置きをして、エカルトは2人に説明を始めた。

* * *

「そうか! その発想は無かった!」

どこかで聴いたようなフレーズを口にしたのは仁。

実はアルタフとギェナーは仁が送り込んだ 第5列(クインタ) であった。

アルタフはレグルス50、ギェナーはデネブ30。彼等が連れているゴーレムは当然 職人(スミス) ゴーレムの1体、 職人(スミス) 40である

エカルトが心血注いで作っていた船を、仕方なかったとはいえ破壊したことや、彼の人柄が気に入ったこと、それにこれからの事を考え、密かに支援することとしたのである。

それはさておき、仁は発想の転換というか、推進方法の斬新さに感心していたのである。

「風魔法は反動がない。ということは、張った帆に吹き付ければ進むんだ……」

仁がかつて検証したように、通常の魔法には反動を打ち消す効果が付随している。

わかりやすい例えで言うと、帆を張った船に乗り、団扇で帆を扇いでも船は進まない。

それは、団扇で風を起こしたときの反動と、帆を推し進める力とが打ち消し合うからである。

だが仁が検証したところに依れば、風魔法・水魔法などは術者に反動を与えないように、打ち消す効果が付随していたのである。

その部分だけを削除して出来上がったのが 魔法型噴流推進機関(マギジェットエンジン) である。

しかしそのような事は一般に行えるものではない。逆説的ではあるが、反動を無くした通常の魔法で何とかするしかないのである。

この船を設計した技術者はこれを逆手に取り、帆に吹き付けることで船を推進しようというのであった。

「惜しいな、それだけの腕と頭を持ちながら不正に手を貸したなんて」

仁とラインハルトにも考えつかなかった方法。2人は、船尾の段差部分に魚の尾びれ状の推進機関を取り付けるのではなどと推測していたのであった。

『 御主人様(マイロード) 、航法をどうするか、長期航海での壊血病予防、それに予備の推進装置など、アドバイスすべき点はまだまだありますが』

「そうだな。それとなく、少しずつ示唆しておくとしよう」

『わかりました』

陰ながらの仁の支援により、エカルトが船を完成させたのはそれから4ヵ月後のことである。