軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-27 昔話

「え?」

仁の呟きを耳にしたサキが聞き返した。

「ジン、今、何て?」

「……レナード王国での話さ。どうして月に行く転移魔法陣なんてものがあるのか、って考えたらな……」

月が宇宙船だったとしたら、かなり筋が通った話になる、と仁は言った。

「なるほどね」

どうして戻ってくる者が誰もいないかはわからないが、少なくとも、月へ行くなんていう魔法陣が存在したその理由としては納得できる話である。

「まあ、検証はできないんだけどな……」

「……どういうことなんです?」

経緯を知らないヴィヴィアンが首を傾げる。

「あのね、この前、レナード王国に行ってきたのだけれど……」

そんな彼女に、ステアリーナが説明をしてあげるのだった。

「ふうん、そんなことがあったのね。ありがとう。すごくためになったわ」

柔らかく微笑むヴィヴィアン。そして一同を見渡す。

「まだ聞きたい話ってあるかしら?」

その質問に仁は即座に要望を口にした。

「……魔族について、何か伝承は無いんですか?」

魔族についての情報はあまりにも少ない。この機会にできる限りの情報を得たいと考えていた。

「魔族、ね。そうね……断片的な幾つか、なら」

ヴィヴィアンは少し考えたあと、また語り出した。

* * *

魔族が現れたのは魔導大戦の更に数百年前。

北にある大陸から南下してきた。

人類もそれより遙か以前に北を目指していたが、その人々がどうなったかはわからない。

魔族は人類を遙かに上回る強大な魔力を持ち、魔法技術にも長けていた。

最初から敵対的だったわけではなく、人類からは食料などを、魔族からは技術を。

そんな関係が築かれ、2種族は共存できるかと思われた。

しかし、ある時決定的な齟齬が生じる。

それが何かは伝わっていないが、人類と魔族を敵対させる何かだったことは間違いない。

以降、2種族の仲は険悪となり、やがて魔族は北へと退いていった。

* * *

「……これだけなのよ」

申し訳なさそうな顔のヴィヴィアン。

「それがおそらく1000年以上前の話。そして300年前の魔導大戦まで、魔族は人類と関わりを持たなかったようね」

「いえ、ありがとうございました」

仁は頭を下げた。

やはり、魔族の棲む大陸は北にあるがため、食料の自給が難しいようだ。

その一方で、魔法技術は進んでおり、魔力に関しても人類を凌いでいる。

「……あ、の、魔導大戦について、何か伝えられています、か?」

おずおずと、エルザがヴィヴィアンに問いかけた。

それは仁も聞いてみたいと思っていたこと。特に 魔素暴走(エーテル・スタンピード) の情報がなにか得られないか、と期待している。

「魔導大戦、ね……」

ヴィヴィアンは 三度(みたび) 話し始めた。

* * *

300年と少し前、魔族が再び南下してきた。

理由は不明。

今回の魔族はやたらと好戦的であった。北部の町は壊滅させられ、住民は皆殺しの憂き目にあった。

個別に対抗していた国々は、ディナール王国の主導で一つにまとまり、対抗する。

それでも人類不利で進んでいた戦争末期。

『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』により、攻め込んできた魔族のほとんどを滅ぼすことに成功。

しかし人類側魔導士の6割も同時に死亡。

未曾有の大惨事を以て魔導大戦は終わりを告げた。

* * *

「……これくらいしか伝わっていないのよ」

民間に伝わっている内容と変わらなかった。

「 魔素暴走(エーテル・スタンピード) について他に何かわかりませんか?」

気になる事項である。

「いいえ、何も。そもそも、『語り部』は庶民のためか、戦争の詳細は何も知らされていないの。知っていた魔導士たちもほとんどいなくなっちゃったし、ね」

「そうですか……残念です」

やはり当時の記録を探すしかないようだ。だが、それは 第5列(クインタ) たちがこれまで尽力してもなお、見つけることができないでいた。

「ありがとうございました」

仁は礼を言い、頭を下げた。他のメンバーたちも同様。

「ヴィー、ありがとうね。疲れたでしょう。これを飲んでみて?」

蓬莱島特産のペルシカジュースを差し出すステアリーナ。魔法瓶で冷やしてあるものだ。

「ありがと。……おいしい!」

とろりとしたジュース、濃厚な甘味。喉に良さそうだ。そして豊富な 自由魔力素(エーテル) は、飲んだ者に活力を与える。

「ああ、喉が楽になったわ」

「喉は大事にしないとね」

ステアリーナとヴィヴィアンは微笑み合った。

「さて、と。それじゃあ、猫を見に行きましょうか」

時刻はかれこれ8時といったところ。もうここクゥプでは問題にならない時刻である。

猫の動作を知るというもう一つの目的を果たしに行くことにする一同。

「何か手土産がいるかな?」

日本人らしい仁の気遣いに、ヴィヴィアンは笑って答える。

「国外からのお客の話を聞くのが好きだ、って言ったでしょ。皆さんが行けばそれだけで喜ぶわよ。安心してちょうだい」

そして自ら案内に立つ。

玄関のドアに鍵を掛け、一同は路地を辿り、大通りに出た。

先程とはうって変わって大勢の人が歩いている。魚を積んだ荷車も行き交っていた。生活感溢れる光景である。

荷車の邪魔にならないよう、端によって歩く。仁は、なんとなく元居た日本の道路を思い出していた。

大通りを10分ほど歩くと、付近は屋敷町といった雰囲気が漂い出す。

そして更に10分、一同は立派な門構えの屋敷に辿り着いた。

「ここがテクレス家よ」

敷地の広さは100メートル四方くらいだろうか、こんな辺境としては破格の大きさである。

しかも、使われている石材がほとんど風化していない。定期的に整備している証拠である。

大きな門の右側には門番が立っていた。

「おはようございます」

ヴィヴィアンは門番に挨拶した。

「おはようございます。おお、これはヴィヴィアン様、本日はどのようなご用件で?」

「外国からのお客様をご案内してきたの。エカルト様はご在宅かしら?」

門番とヴィヴィアンは知り合いらしく、親しげな口調で会話していた。

「はい、おられますよ。そうですか、外国からの……」

門番は仁たち一行を眺めやると、にっこりと笑った。

「ようこそいらっしゃいました。ただいま主人に取り次ぎますから、少々お待ち下さい」

門番は鈴を鳴らして使い走りの小僧を呼ぶと、何ごとかを告げ、それを受けて小僧は屋敷へと走り去っていった。