作品タイトル不明
13-34 クライン王国は……
話がかなりスライドしたものの、結局はクライン王国との付き合い方、という本来の議題に戻った。
「ジンはどうするつもりなんだい?」
「うーん……特に何もするつもりはなかったんだが……面倒臭いし」
その答えにラインハルトは笑ったが、次の瞬間には真面目な顔になると、
「それは駄目だ。舐められるし、クライン王国側は何も変わらない。変わらないってことは、また似たような事をする可能性があるってことだ」
と、仁を諫めた。
「ああ、そういうことになるんだな」
「考えても見ろよ? 今回の 巨大百足(ギガントピーダー) がカイナ村を襲って、被害を出したとしたら、そんな暢気なこと言ってられないだろう?」
その例えを聞いた仁は顔を引き締めた。
「確かにな。そうなると、毅然とした対応が必要となるんだろうけど……」
『 御主人様(マイロード) 、マキナの名を使いましょう』
老君が提案してきた。
『 御主人様(マイロード) は柔、マキナは剛。柔剛を使い分けましょう』
その発言を聞き、疑問を口にしたのはステアリーナだった。
「マキナ、というのは誰?」
『はい、 御主人様(マイロード) の別の 貌(かお) です』
「ああ、やはりそうなの。紛争の時に聞いたような気がしてたけど……」
納得するステアリーナ。
『王国の4人を救ったのはマキナ、ということになっていますから、マキナの名で王国に警告を出しましょう』
「その場合、ジンとマキナの関係を探られるかもしれないぞ?」
『そうですね、その場合、マキナが 御主人様(マイロード) の兄弟子である、というのはどうでしょう』
ラインハルトはちょっと考えた後頷く。
「そうだな、付け加えるなら、ジンとマキナはそれほど親しくないと言う設定にした方がいいと思うよ?」
『では、マキナが独立したあとに 御主人様(マイロード) が弟子になった、というのはいかがでしょう』
「そんな感じだな。まあ尋ねられることも無いと思うが」
『細切れにした 巨大百足(ギガントピーダー) の切れ端を幾つか送りつけるとしますか』
「当然、クライン王国のやったことを糾弾する文書も添えてな」
ラインハルトと老君はどんどん話を進めていく。
『破壊された汎用ゴーレムの一部も送りつけましょう。彼等の修理は5半ニッケル鋼でなく、18−12ステンレスで行う事にしますから』
外装の一部を送りつけることで、馬鹿なことをしたために貴重なゴーレムを失ったと言うことを思い知らせるのである。
『ついでといっては何ですが、トカ村にいる責任者たちも一緒に送ってしまったらどうでしょう?』
「ああ、それはいいな。えーと、ボールトンとハインツと御者と……バイヤー子爵だったな?」
『はい』
「よし、夜中にそっと連れ出してアルバンまで送りつけてしまえ」
壊れた汎用ゴーレムを目の当たりにした仁は内心かなり怒っていたようだ。
* * *
7月4日未明。
クライン王国王城へは転送機で送りつければいい。ポジションデータはアルバン担当の 第5列(クインタ) 、スピカ7が担当、誤差僅少で転移させることができた。
7月4日朝。
クライン王国首都アルバン、王宮前は大騒ぎであった。
「な、なんだ、これは?」
「百足の化け物か?」
「そこにいるのは誰だ? ……ボ、ボールトン殿? それにハインツ・ラッシュ!」
「バイヤー子爵まで!」
「……あとは誰だ? 御者、か?」
百足の切れ端、ゴーレムの残骸、そして要人が、気絶した状態でいつの間にか王宮前にいたのである。騒ぎにならないわけがない。
まして、小さいとはいっても元の体長は10メートルある 巨大百足(ギガントピーダー) の切れ端である。それなりに脅威だ。
「ここに書簡があるぞ? ……クライン王宛て? 差出人は……デウス・エクス・マキナ!?」
「宰相を呼べ! いや、お呼びしろ!」
「治癒班もだ! 急げ!」
その混乱が終わったのは3時間後。
王の執務室に7人が集まっていた。
クライン王国国王アロイス3世、パウエル宰相、グレン近衛騎士団団長、ベルナルド第2騎士団団長、ボールトン・オールスタット、ハインツ・ラッシュ、そしてバイヤー子爵である。
「さて、まずはバイヤー子爵、話を聞かせて貰おうか。ボールトンは、子爵の説明で間違いがあった時やあやふやな箇所があった時に指摘すること。ハインツも同様だ」
宰相の声。アロイス3世は無言で子爵を睨み付けている。ボールトンは 竦(すく) んでいる。ハインツも上司に睨まれ、少し緊張していた。
精神的混乱も収まり、頭の傷も治癒して貰ったバイヤー子爵だが、居心地の悪さに顔色が悪い。だが問われたからには沈黙を続けるわけにもいかず、おずおずと口を開いた。
「は、はい……まずわれわれはイナド鉱山で……」
赴任してからの経緯を 訥々(とつとつ) と説明していく。所々でボールトンが補足を入れ、ハインツがそれを裏付ける。
そして百足が現れた所に差し掛かる。
「……坑道奥から巨大な百足が這い出してきまして、我々はなすすべもなく退却せざるをえませんでした」
即座にボールトンが付け足す。
「我々を救ってくれたのはデウス・エクス・マキナ殿であり、百足を退治してくれたのもマキナ殿です」
その言葉を聞くバイヤー子爵は唇を噛み、身体を震わせていた。
「馬鹿者め。ジン殿からの信頼を失うような真似をしたのみならず、自分たちで解決できぬような災害を招き、あまつさえそれをクライン王国の人間ではないマキナ殿に解決してもらうとは」
王からの罵声が飛んだ。
「あの怪物を本当にマキナ殿が退治されたのですか?」
半信半疑のバイヤー子爵。
「そうだ。お前たちと一緒に置かれていた百足の残骸を見たか? 試しに剣で斬りつけたら剣が折れた。それを見ても、あの怪物が我々の手に負えるものではないことがわかる」
アダマンタイトの刃物を使って、ようやく切り裂けるのである。 超高速振動剣(バイブレーションソード) でもない限り、易々と、とはいかないのだ。
「破壊された汎用ゴーレムの一部も送られてきていた。一度に10体もの汎用ゴーレムが失われたのだぞ! ……書簡によれば、ジン殿も憤っていると言うことだ。当然だろう。鉱山を与えると言っておきながら、密かに採掘を続けていたのだから。おまけにその鉱山から怪物が出て来た上、今は廃坑になってしまっているというのではな」
王の声は悲痛なものになった。
「……愚かだった。信用を失い、貴重なゴーレムを失った。最早ジン殿に追加で同じものを作って欲しいなどと言えぬ」
仁にわからないようこっそりと資源を採掘していた鉱山を与えるということ自体が背信行為だというのに、どの面下げてゴーレムをまた作って欲しい、と言えるというのか。
「……この上はカイナ村を租借地でなく、譲渡することも考えなくてはな……」
頭を抱えるアロイス3世であった。
「極めつけはマキナ殿の心証も悪くなったであろうことだ……」
たったの1日、いやそれ以下でトカ村からアルバンまで人間や百足の残骸を運ぶことができる手段を有するデウス・エクス・マキナ。
仁と何らかの繋がりがあると思われ、できれば友好の度合いを深めたかったというのに、その正反対の事件が起きてしまった。
「……何が悪いのだろうか」
クライン王国国王アロイス3世は悩み抜いた末、己の優柔不断さ、そして言うべきところで言えなかったことを反省する。
が、そうしたところで今の体制が一朝一夕に改善されるはずもなく、悩みは一層深まるのであるが。
それでも、責任者としてのバイヤー子爵を処分することくらいはできた。
これが根本的な解決になっていない事は承知の上。せめて、旧貴族がこれを戒めとして自重してくれれば、と願わずにはいられない王である。
「バイヤー子爵は財産没収の上、爵位剥奪。首都より追放とする」
王自ら処断を言い渡す。ピンハネまでしていたのだから当然の処置だ。
一方、ボールトン・オールスタットとハインツ・ラッシュは叱責と1年間の減俸で済んだ。
そして、数日後に戻って来た4台の荷馬車に積まれたイナド鉱山由来の資源はそっくりそのまま仁に譲渡することに決まったのである。
更に、カイナ村を租借地でなく、領地とすることも検討されていくのだった。
* * *
クライン王国のそんな動向は、全て老君の知るところとなっていた。
『まあ、妥当な線でしょうかね』
カイナ村が租借地でなく、仁の領地となる。それはすなわち独立した領土、ということになるわけだ。
『まだ決定ではないようですが』
かなり可能性が高いと言える。まあどうしても欲しいわけではないが、もらって邪魔になるものでもない。
『その場合、クライン王国とは無関係でなければなりませんね。……そうなれば、文字通り 御主人様(マイロード) が一国一城の主になれるのです』
老君は密かに喜んでいた。
『そうなったらカイナ村を堂々と開発できますし』
今のうちから開発計画を立てておこうとする老君であった。