軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-32 現場検証

グロリアが村を出た直後、ハインツ・ラッシュがリシアに進言した。

「ファールハイト準男爵、グロリア殿1人で行かせるのはあまりに無謀です。伝令としても使えるよう、2〜3名同行させるべきだと思います。できれば自分も同行したいと思うのですが」

リシアははっとする。

「わ、わかりました!」

駐屯している兵達から馬に乗るのが上手い2人を選び、ハインツに付けて出発させることにした。

「ハインツさん、どうかお気を付けて」

リシアは携帯用食料である干し肉と、水の入った水筒を4人分差し出した。

「お心遣い、いたみいります」

それを受け取ったハインツ・ラッシュは兵2人に向けて、食料と水を渡し、

「グロリア殿に追いつくまで駆けるぞ!」

そう言うが早いか、馬に鞭をくれ、走り出した。兵2人もそれに続く。

彼等の姿が見えなくなるまで、リシアは心配そうに見送っていた。

「おーい!」

背後からの声に、グロリアは馬を止めて振り返った。

ハインツと兵士2名が馬で追いかけてきているのが見えた。そのまま止まって待つ。

「……ファールハイト殿からの指示だ。我々も同行する」

「わかりました、一緒に行きましょう」

グロリアとハインツは轡を並べて進んでいく。既に夜は明けはなたれ、夏の青空に白い雲が浮いていた。

ハインツは干し肉と水筒をグロリアに差し出す。

「ファールハイト殿の心遣いだ。朝食抜きではいざという時働けないからな」

「そのとおりですね」

2人とも騎士、馬上で食事を取るのに問題は無い。干し肉を食べ、水を飲みながらも手綱を緩めることはなかった。後続の兵達もそれに倣う。

「……で、ラッシュ殿、その怪物のことを教えていただけますか?」

食べ終わった後、グロリアはハインツに頼んだ。

「ああ。……自分も、途中から意識を失ったので詳しいことは言えないが、体長は50メートルはあったろう。目は4つ……だったかな。赤く光っていた」

「50メートル……ですか」

「そうだ。口から何か液体を吐いて、それが掛かったものは岩でも木でも、白煙を上げて溶けていたな……」

「そ、それは怖ろしいですね」

「自分が知っているのはそれくらいだな。その後、マキナ殿に派遣されたというゴーレムに誘導されて、銀色に輝く避難場所らしき所に誘導されたが、その後の記憶がない。気が付いたらトカ村にいたんだ」

「そうでしたか」

そんな怪物をどうやって倒したのか。グロリアは想像してみようとしたが、まったく思いつけなかった。

道は緩やかな上りになり、周囲の緑が減っていく。岩だらけの荒野を過ぎると急な上り坂になった。

「あと1時間くらいで現場だと思う」

馬の速度を少し緩め、警戒しつつ進むグロリアとハインツ。

「剣はいつでも抜けるようにしておいた方がいいでしょうか?」

「いや、剣であの怪物がどうこうできるとも思えない。その分周囲に気を配っていた方がいいと思う」

グロリアの問いにハインツは苦笑しながら答えた。

そして更に30分。2人は一旦馬を止めた。後続の兵も馬を止める。

「もう現場は近いはずだ。慎重に行こう」

ハインツの言葉に、更に気を引き締める一同。そして再び馬をゆっくり歩ませていく。

「……変な臭いがしますね」

グロリアが鼻に手を当てながら呟いた。

「これは百足が吐き出した液体の臭いだ」

ハインツも鼻を押さえながら答える。

慎重の上にも慎重になり、前後左右に気を配って進む4人。

そして道がカーブしているその先にあったものを見て、4人とも凍り付いたように動きを止めた。馬もまた怯えて歩みを止める。

そこにあったもの。それは地獄絵図であった。

体長10メートルくらいと思われる巨大な百足の死体が無数に転がっていたのである。

「ラッシュ殿! 5匹どころではないですよ!」

「あ、ああ……あの後、更に這い出してきたのだな……」

100匹以上ありそうなその死骸を見て、ハインツも背筋を寒くさせた。

馬に乗ったまま、一際大きな死骸に近付く。

巨大な剣で斬られたようにぶつ切りになっているのを見て、グロリアは目を丸くした。

「こ……これだけの大きさの怪物を断ち切ることができるのですか……」

試しに、グロリアは腰の剣を抜いて、その殻に斬りつけてみた。

かきん、という硬質な音が響き、剣の刃が欠けた。

「……剣で斬れるとは思えない」

今回携えてきた剣は、仁に作ってもらったものではなく、一般的な鋼の剣である。

その鋼の剣ではまるで歯が立ちそうもない百足の硬さ。マキナの実力は頼もしくもあり、脅威でもある、とグロリアは再認識した。

殻の中を覗き込むと黄色みがかった液体が溜まっていた。百足の体液らしい。グロリアは、何の気無しにその液体に剣を突っ込んだ。すると。

「うわああ!」

鋼の剣は、白煙を上げてあっと言う間に溶けてしまったではないか。

「グロリア殿! だから言った! 百足の吐く液はあらゆるものを溶かす、と。唯一、自分自身は溶かさないらしいが」

「……」

半分ほどになってしまった剣を見つめ、

「……ジン殿、頼んだら作ってくれるだろうか……」

と呟くグロリアであった。

* * *

『グロリアさんとハインツ、それに兵士2名が現場に着いたようですね』

監視システム『庚申』を通じて、イナド鉱山下の様子をモニターしていた老君が呟いた。

驚いているグロリアの顔が良く見える。

『彼等に見せてから片付けた方がいいでしょうからね』

甲殻はいい素材になりそうなので大半は回収するつもりの老君であったが、現場を見せつける意味で、最初に出てきた50メートル級5体以外はそのままにしておいたのである。

今、グロリアが剣で甲殻に斬りつけるのが見えた。そして更に、百足の残骸に残っていた体液に剣を漬けて溶かしてしまう場面も。

『ランドたちも少し溶かされてしまった体液です。ただの鋼が耐えられるわけありませんね』

老君には顔はないが、もしあったならば苦笑いを浮かべていたことであろう。もっとも移動用端末である老子の方はそういった表情を作る事は可能なのだが。

『百足の吐く液が揮発性だったので彼等は助かりましたね』

もし周囲一帯が体液の海と化していたら危険極まりないが、2時間ほどで、地面を覆っていた 巨大百足(ギガントピーダー) の体液の大半は蒸発していたのであった。残っていたのは甲殻の中に僅か。

それもあと数時間で蒸発してしまうだろう。悪用できなくなるので、それはそれでいい、と老君は判断していた。

50メートル級4体分で十分すぎるほどの体液は確保出来ているのだから。

『ふむ、一応鉱山の状況を確認するようですね』

戦闘現場から山へ登っていくグロリア達が見えた。

* * *

「……完全に廃坑、だな」

その惨状にハインツは天を仰いだ。どこが入り口だったかわからないほどに崩れた坑道、散乱する汎用ゴーレムの残骸。

「高価なゴーレムを犠牲にするほどの価値があったのでしょうか?」

誰に向かって、ともなくグロリアは疑問を口にした。

「自分にはわからない。上官の命令を遂行しただけだ」

騎士であるハインツにとって、命令拒否はしてはならない事であった。

「……戻りましょう」

力なくグロリアは言って、馬首を巡らせた。

ハインツ、そして兵2名もそれに続いたのである。