軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-21 第一歩

明けて7月1日。

『たまたま』カイナ村に戻ってきていた仁は、租借地領主として、エリックを歓迎する旨を表明していた。

「エリック、カイナ村を豊かにする手助けをして欲しい。その見返りに、我々はラグラン商会に利益を上げさせる手伝いをしよう」

「ありがとうございます、ジンさん」

「……バーバラを不幸せにしたらもぐからな?」

「はい、……って、『何』をもぐんですか!?」

少し離れたミーネが苦笑してそれを聞いている。ミーネの隣にはエルザ。

「母さま、ジン兄は何を言ってる、の?」

どう答えようかと思案するミーネであった。

* * *

一方、ショウロ皇国。

ランドル伯爵家ではラインハルト・ベルチェ夫妻が出立の準備をしていた。

父ヴォルフガング・ランドル伯爵から分け与えられた領地、カルツ村へ向かうのだ。

エキシと、ここバンネの間にあるカルツへは馬車で2時間ほど。夫妻2人きりの道行きである。

補佐官などは自分で手配しろ、というのが父の言いつけであったため、執事さえ伴ってはいなかった。御者はノワールが務めている。

荷物を積んだ馬車が1台付いて行く。こちらの御者はネオン。

ところで、途中にはサキの家、エッシェンバッハ邸がある。

仁から 魔素通信機(マナカム) で連絡を受けていたラインハルトはエッシェンバッハ邸へ寄り道をした。

「やあ、ラインハルト」

そこには仁とサキが待っていた。

「ジン、もう用事は済んだのかい? サキ、久しぶりだなあ!」

「久しぶり、ラインハルト。ジンとエルザのおかげさ。リサが来てくれたからようやく祖父さんから解放されたよ」

また言葉づかいが戻っているサキであるが、どことなく嬉しそうなのは侯爵の容態が良くなったからであろう。

「ジンから聞いたよ。カルツ村へ行くんだって?」

「ああ、そうなんだ。厳しい話だけど、まずは我々2人で行かないといけない。補佐官とかは向こうで見つけろと言われた」

「なかなか君の父上も厳しいお方だね……」

苦笑しつつサキは言った。

「で、だ。ジン、向こうで僕たちが家を定めれば、そこを拠点にするといい」

ラインハルトの家に 転移門(ワープゲート) を設置すれば、心置きなく行ったり来たりできると言うもの。仁はありがたくその申し出を受ける。

「話によると、古い館が残っているらしい。さる貴族の別荘か何かだったらしいんだ。そこを手入れして住もうかと思っている」

「なるほどな、俺も手伝うよ」

「ボクも興味あるな。一緒に行ってもいいかい?」

ということで、こちらへ戻っていた仁の馬車で仁と礼子、サキ、アアルはカルツ村へ向かう事になった。ラインハルトとベルチェも仁の馬車に乗りたそうな顔をしていた。

午前10時、カルツ村着。

村長が出迎えた。

「これはようこそ。ラインハルト・ランドル様でいらっしゃいますか? 私はここカルツ村の村長を務めますボイドと申します」

壮年、中肉中背の男。茶色の目には覇気があり、やり手であることを伺わせる。

「ああ、僕がラインハルト・ランドル。こちらは妻のベルチェだ」

「奥様、よろしくお願いいたします」

そんな挨拶を交わした後、ボイドは背後の仁たちを見る。

「あの方たちは?」

「ああ、僕の友人たちだ。赴任を祝って付いて来てくれたのさ」

その説明に納得したボイドは、ラインハルトが言っていた元貴族の館へと案内した。ラインハルトも仁も、村長の歩みに合わせた速度で馬車をゆっくり走らせて付いて行く。

小さな村、歩いて10分くらいの場所にそれはあった。

「ほう、これはまた」

石造りの2階建て。こぢんまりしているが、重厚な造りである。壁には蔦が絡み、時代を感じさせる。

「案内ありがとう。まあ急ぐこともない、そうだな、明後日、改めて村のことで話をしようか。……ああ、馬だけは世話を頼みたい」

館の修理や引っ越しは自分たちでできるが、馬に関してまでは手が回らない。ラインハルトは村長にその旨を伝えた。

「わかりました。お預かり致します。では、明後日」

ボイドは馬4頭を連れ、戻っていった。おとなしめの馬とはいえ、4頭を引き連れていく手際は良く、安心して馬を任せられそうである。

ラインハルトは改めて館を見た。少し手を入れれば十分使えそうだ。

「さて、ベル、ここがこれから僕らの家になるんだよ」

「ええ、まずはお掃除ですわね」

そんな2人に仁も声をかける。

「ラインハルト、俺も手伝うよ」

「ああ、大助かりだ」

館の周囲は大木が立ち並び、よく言えば静か、悪く言えば寂しい。

だが人目がないという意味では好都合。

仁は、馬車に内蔵された 転移門(ワープゲート) を使い、蓬莱島から 職人(スミス) ゴーレム10体とゴーレムメイドのペリド10体を呼び寄せた。

「お、おお?」

その存在は知ってはいても、まとめて呼び出されると多少の驚きがある。

「さてラインハルト、家の補修箇所は 職人(スミス) に指示してくれ。ベルチェ、家事についてはペリドたちに指示を頼む」

職人(スミス) は傷んだ壁、軋む床、壊れた階段、穴の開いた天井などをてきぱきと修理していく。

ペリドたちはベルチェの指示に従い、台所、応接間、居間、客間、寝室、納戸などを掃除し、整備していった。

その手際は素晴らしく、1時間で全ての作業は終わり、館は見違えるようになった。

蔦はできるだけそのまま。窓を塞いでいるところだけ刈り払い、あとは残した。

「うーん、なかなかいいな」

「赤御影石だったから、蔦とマッチしているよな」

館を造っているのは、この地方では珍しい赤御影石。花崗岩は雲母・石英・長石・角閃石などの造岩鉱物からなる岩石だが、その中の長石が赤いものを赤御影と呼ぶ。

蔦の緑といい対比だ。秋に紅葉すれば今度は同系色同士でまた映えるだろう。

この先、この館は『 蔦の館(ランケンハオス) 』と呼ばれるようになる。

掃除が終われば荷物の搬入だが、今回運んできたものはそれほど多くはない。

寝具と若干の着替え、そして事務用品が少々。馬車で片道2時間であるから、また改めて必要な物は取りに行けばいいし、現地調達もありだ。

むしろ、ラインハルトの実家があるバンネよりも、エキシの方がやや近いので、そちらへ買いに行くという手もある。

「まあ、こんなものか」

とりあえず荷物の搬入を終え、一息つく。もう昼時である。

「このまま蓬莱島へ行かないか?」

仁が提案した。

「いろいろと話したいこともあるし」

「そうだな、そういうことなら」

「わかりましたわ」

2人とも承知してくれたので、仁の馬車備え付けの 転移門(ワープゲート) で蓬莱島へ向かった。 職人(スミス) 、ペリドたちも一緒に帰島する。

「いずれは館の1室に設置して欲しいなあ」

とはラインハルトのセリフである。地下室でも作り、そこに設置すればいいのでは、と仁も考えていた。

時差は5時間半くらい、蓬莱島ではそろそろ夕方だった。

『 御主人様(マイロード) 、お帰りなさいませ。ようこそ、皆様』

「とりあえず食事にしたいんだが、できてるか?」

『はい、ミーネさんとエルザさんが仕度なさっていました』

「ああ、もう来てたのか」

食堂へ行くと、蓬莱島は夕方であるが、昼食に相応しいような献立が並んでいた。

焼きたてのパン、ワイリージャム、シトランマーマレード。

飲み物はミルク、ペルシカジュース、シトランジュース。

サラダと軽く焼いたベーコン。

「ありがとう、ミーネ、エルザ」

「いいえ、とんでもない。私たちも軽くお相伴させていただきます」

カイナ村と蓬莱島の時差は2時間、ミーネたちはおやつ程度にパンをつまみ、ジュースを飲んだ。

そして食事後、仁が切りだした。

「みんな揃ったところで話したいことがあるんだ」