軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-20 2つのはじまり

クララ・ミレスハンは優秀な治癒師であった。

最上級の治癒魔法、『 完治(ゲネーズング) 』と『 全快(フェリーゲネーゼン) 』を使いこなす治癒師。彼女の手にかかれば死人も生き返る、とさえ言われていた。

だがそれはもちろん誇張であり、死んだ者は生き返ることはないし、治せない病人や怪我人も存在した。

それでも彼女が最優秀の治癒師であることに変わりはなく、更には貴族庶民関係なく診療すると言うことで、特に庶民からの人気が高かった。

そんな彼女が救った赤ん坊。8ヵ月ほどで生まれた未熟児(正確には早産児)。

身体の異常は無かったが、身体が小さく、なかなかお乳も飲まず、母親をやきもきさせた。折悪しく、はしかが流行っていた時期で、その子供も例に漏れず感染。

だが、クララのおかげで一命を取り留め、その後は順調に成長したのである。

「……それがわたくしの母、らしいですわ」

らしい、というのは全て聞いた話だからである。当然だが。

「そうだったのか……初めて聞いたよ」

「うふふ、あまり自慢できるお話ではありませんものね」

「いや、ありがとう、ベル」

甘い雰囲気を出す二人だが、仁の言葉がそれを中断させる。

「……悪いけど、それで? そのクララさん、にいったい何があったんだ?」

「あら、失礼しました」

確かに腕はいいし、患者に分け隔てもしない。人気が出るのは当然……とはいえ、それは庶民からの話。

貴族にしてみれば、庶民と同じ診療内容であるということがまず不満の種である。

「庶民に触れた手で触るな」

と言う者をはじめ、

「庶民と同じ扱いを受けるのが気にいらん」

と公言してはばからない者さえいた。

この流れは旧態依然とした貴族に多く、そういった貴族は得てして爵位が高いのである。

そして起こるべくして起こった事件。

「……とある公爵家の第2夫人の病を治せず、死に至らしめてしまったのだそうですわ」

当然非難されることになる。それはただの非難ではない。公爵家が『悪意』を持って発した非難は、そうした旧態依然とした貴族全部がクララを糾弾する事態を作りだした。

その結果、ショウロ皇国にいられなくなった彼女は、娘を連れて姿を消した。

「その娘さん、というのがサリィさんではないか、と思ったのですわ」

「……なるほど」

「付け加えるなら、クララさんが治癒師になった切っ掛けというのが、旦那様を病気で亡くしたためだとか」

「ふうん……」

母子2代に渡って病気や怪我に立ち向かっているのか、と、仁はサリィの苦労を思う。

そういう人なら、是非とも『ファミリー』として、世界のために研究をして欲しいとも思う。

そして仁は気が付いた、自分が集めるべき人材に。

不屈の意志、尽きぬ興味、見果てぬ夢、譲れない想い。

枯れない情熱、限りない 志(こころざし) 、至高を目指す向上心。

そんなものを持つ同志。それが『仁ファミリー』なのだ、と。

今いる同志、ラインハルトとベルチェにそれを言うと、

「なるほどなあ、確かにそうかも」

「ジン様、いいですわね!」

と、二人とも賛同してくれたのである。

仁は、侯爵に扶桑島構想を否定されたときから心に澱んでいたものが消えるのを感じた。

* * *

一方、時間は少し戻る。同日、6月29日、昼。場所はカイナ村。

「サリィ先生はやっぱり凄いですね。いらして下さって助かりました」

村長ギーベック宅でサリィ、ミーネ、エルザが話をしていた。

サリィは村中の家を一通り回り終えたところである。

「先生、その節は母がお世話に、なりました。恩に着ます」

エルザが改めてサリィに礼を言っている。

「いやいや、治癒師は患者を治すのが仕事だ。礼を言ってくれるのはありがたいが、恩に着てもらおうとは想わない」

サリィは笑って受け流した。

「でも、ジン様が先生をお連れになった時はびっくりしました」

「ああ、私もだ。でもすっかり健康になったようだね」

「ええ、ジン様と、ここでの生活のおかげです」

サリィは差し出されたお茶を一口飲み、楽しそうな口調で言う。

「ふふ、ここはいい村だ。それにジン君、か。不思議な男だな」

「ええ、本当に」

サリィとミーネはなかなか気が合うようだ。仲の良い姉妹、といった雰囲気である。

「しかしエルザ、だったか。その若さで最上級の治癒魔法を使うとはね。末恐ろしいよ。経験を積めば、私なんかより遙かに優れた治癒師になれるだろう」

「それもこれも、ジン兄のおかげ、です」

「ふふ、君もやっぱりジン君、か。そういえば彼はどこへ行ったんだろう?」

朝から姿が見えないようだが、と付け加えた。

「ジン兄はきっと、どこかへ出掛けたんだと思い、ます」

「ふむ、そうか。 古代遺物(アーティファクト) を持っているんだったな。それで租借地をほったらかしか。お忙しいことだ」

そう言いながらもサリィの顔は笑っている。

そんな時。

「村長、ラグラン商会のエリック殿がお着きになったようです」

バトラーAがやって来て報告している声が聞こえた。

「おお、そうか。予定通りだな。こちらに来たらジンが用意してくれた店兼住宅に案内してくれ」

「かしこまりました」

バトラーAはそれで退室したが、聞きつけたサリィは疑問を抱く。

「誰かが来たのかな?」

「エリック、と言ってましたね」

「多分、バーバラの恋人」

サリィ、ミーネが疑問を呈し、エルザがそれに答えた。

「ああ、聞いた事あるわね。そうなの、こっちにお店を出して、バーバラと一緒になるのね」

「ふうん? バーバラというのは……ああ、あのお嬢さんか。村長さんの姪御さんだったんだね。まあ、住人が増えるのはいいことだ」

それからしばらくして、バーバラが息せき切って駆け込んできた。

「叔父様、エリックが来たのよ! 何で教えてくれなかったの?」

「教えたはずだがなあ。お前、ちゃんと聞いてなかったんじゃないのか?」

「う……そ、そんなことないもの!」

「ふふ、賑やかですね」

「……バーバラ、嬉しそうな声」

「若いというのはいいものだなあ」

村長宅から歩いて数分のところに、ラグラン商会カイナ村支店になる建物はあった。

「ええっ、ここを使っていいのかい?」

「そうよ。ジンさんが用意してくれたのよ!」

「そ、そうか。あのお城といい、ジンさんっていったい……」

「ジンさんはジンさんよ。一々驚いていたらこの村でやっていけないわよ!」

「はは、ごもっとも」

バーバラとエリックの笑い声は、抜けるような夏の青空に吸い込まれていった。