作品タイトル不明
02-03 赤い髪の少女
仁と礼子が 転移門(ワープゲート) から出たのは洞窟の中。そこから外に出ると、礼子の言ったとおり周りは深い森に囲まれていた。
「うーん、ここは蓬莱島よりも少し南になるのかな? いや、経度がずれたせいか」
「お父さま、どういうことですか?」
「ああ。太陽の位置を見て判断したんだ」
仁達が蓬莱島を出たのが午後3時くらい。ここは見たところ正午前の様である。太陽高度が違うのは当たり前だ。
「とすると、蓬莱島とここは経度で45度弱ずれている、と。距離がわかればこの世界の大きさもわかるな」
「?」
魔法工学師マギクラフト・マイスターならではの計測能力で方角と角度を算出した仁だが、礼子は理解できなかったようだ。
その辺の知識は礼子には転写されなかったようだが、時間がないので後で説明する、と仁は言い、森へと歩を進めた。
「さてと、どこからか助けを呼ぶ声がするとか」
「いえ、そんな声は聞こえませんが」
「……」
素で返されて返答に困る仁。
「ま、まあいい、それで、ブルーランドはどっちだ?」
「はい、こちらです」
先に立って仁を案内する礼子。下草は短く、歩きやすい。
「猛獣とかはいないのか?」
歩きながら仁が尋ねると、
「はい。私が確認した限りでは、草食の小動物がいるだけです。魔獣も見あたりません」
「そうか、なら安心だな」
「はい。とは言いましても、お父さまは私がこの体に代えましてもお守りいたしますが」
今の礼子なら楽に一国を相手取れるから大抵の事は脅威にはなり得ないのである。
30分ほど歩くと森が途切れ、草原に出た。彼方には城壁が見える。
「あれがブルーランドです」
「なるほど、城塞都市か」
周囲を石壁で囲まれた城塞都市、それがブルーランドであった。
更に20分程歩くとブルーランドの城壁が近づいた。城壁の周りにも露店が並び、賑わっている。
「都市に入るのには何か必要なのか?」
「申し訳ありません、前回は中には入らなかったのでわかりません」
「そうか。まあとりあえず、露店を眺めて情報を集めよう。道具のレベルとか通貨とかわかるだろう」
「はい」
それで2人は連れ立って露店を見て回ることにした。
それでわかったことがいくつか。
まず、言葉。仁が今までカイナ村で話していたものと同じ。
次に、通貨。これもトールで同じだった。
それから、この国はエゲレア王国といい、カイナ村の所属するクライン王国と同様、小群国の1つである。
そして、ここブルーランドはエゲレア王国の経済の中心と呼ばれている。
等々、情報を仕入れながら見て回っていると。
「おっ、 魔結晶(マギクリスタル) ? いや、 魔石(マギストーン) か」
様々な色をした 魔石(マギストーン) を売っている店があった。
「あまり大きいものはないな……げっ、1つ1000トール!?」
約1万円である。
「こんな小さいので1000トールか」
「おう、兄ちゃん、買うのかい?」
露店のオヤジにそう言われたが、
「いや、残念だけど持ち合わせがないんで」
と言って仁は逃げ出した。
「しかし、あんな 魔石(マギストーン) が1000トールもするのか。そしたらこの 魔結晶(マギクリスタル) なんて幾らになるのやら」
仁がお金にしようと持ってきた赤い 魔結晶(マギクリスタル) 。大体、相場では 魔石(マギストーン) と 魔結晶(マギクリスタル) では価値が10倍から20倍になるらしい。
「おいそれと売れないな……」
あまり目立つことは避けたかった。
「礼子、 魔石(マギストーン) は研究所にあったっけ?」
「使い途がないので廃棄されていた筈ですので、廃棄場所に行けばあると思います」
「あー、なんか無計画に売りさばくと市場が混乱しそうだな」
現代地球でもダイヤモンドシンジケートなどという組織があるとかないとか噂に上ったりしていた。仁は 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) であって、荒事は専門外である。
「売りさばくのは次回にするか」
今日の所はお金を手に入れるのは諦め、見て回るに留めることにした。
「魔導具を扱っている露店はあまり見かけないな」
これまで見た限りではそういった露店は目にしなかった。更に探そうとする仁に礼子は、
「お父さまは世界でただ一人の 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) なのですから、参考など必要ないのでは?」
「ああ、ありがとう。だけど、どんな所に面白いアイデアが転がっているかわからないからな。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) だからと驕らず、謙虚でいたいと思う」
「お父さまがそうおっしゃるのであれば」
どこまでも仁一筋な礼子であった。
そんな中、立ち並んだ露店の端に、魔導具を置いてある店を見つけたのだが。
「なんか、しょぼいな」
売られている商品を見た仁が呟いた。それは正直な感想だったのだが、
「何ですって!」
小さな呟きだったのだが、聞こえてしまったらしく、店番と思われる少女が激昂した。
「うちの品物にケチを付ける気?」
立ち上がり、仁を睨み付ける少女は、年の頃は15、6。仁より少しだけ背は低く、ウエーブした燃えるような赤い髪に赤い瞳である。顔立ちはきつめだが、10人中9人は美少女と言うだろう。
「何とか言いなさいよ!」
うっかり漏らした呟きを聞かれてしまったと悟った仁は、どう言い訳しようかと考えていた。
その仁が口を開くより早く、礼子が返答する。
「正直な感想を言っただけではないですか。本当のことを言って何が悪いのですか?」
そして火に油を注いでいた。
「悪いわよ! 買う人が減るじゃない!」
「見たところ、売れた様子は無いのですが。元々いないのですからそれ以上減ることはないと思いますよ?」
「ぬあんですってえええ!?」
「現実を直視せずに他人へと責任を転嫁するのはおやめになった方がいいですよ」
「言いたいこと言ってくれちゃってええ!!」
「いえ、言いたくはなかったのですが、あなたに説明するためにやむなく」
「この……!」
赤い髪の少女はどこからか棒を持ち出すと、礼子目がけて振り下ろした。