軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-61 マギクラフト・マイスター

「いったい何があったんだ?」

仁は、エルザが落ち着いたところで、控え室に連れて行き事情を聞くことにした。

大方は 隠密機動部隊(SP) の報告を老君〜礼子経由で聞いていたが、当人の口から聞いてみたかったのだ。エルザの側から見たら新たな発見があるかも知れない。

「……あの、ね」

椅子に座ったエルザは、父親のことやマルカスの言葉を訥々と仁に説明していった。

「……人間たちの実力を計る、そう言ったのか?」

「……うん」

仁は、マルカスはおそらく魔族かその手先だったのではないか、と推測していた。

そちらは、後を追ったレグルス50からの報告を待つとして、気になったのはエルザの父親の件だ。

「突然倒れたって?」

「うん」

思い当たる症状は幾つかある。

脳か、心臓の障害。

脳なら脳梗塞、くも膜下出血など。心臓なら狭心症、心筋梗塞などが仁の知る病気だ。

「部下が連れて行ったんだな?」

「うん」

いくら気になっても、仁にとって、今はエルザの方が大事だ。

それでも仁は、心配そうな顔のエルザに向かって安心させるように、部下にも治癒魔法を使える者はいるだろうから、当面命に別状はないだろう、と言った。

「でも、落ち着いたら容態を聞いてみような」

「……うん」

そこへラインハルトがやって来た。

「やあジン、エルザもいるな」

彼は子爵に付いていき、その容態を確認してきた、と言った。さすが気が回る。

「今のところ、命に別状はないようだ。ただ、まだ意識は戻っていない。……前にも一度こんなことがあったんだが」

「前にも?」

「ああ。おととしくらいのことだったかな。一度倒れたことがあってね。その時はじきに意識は戻って、翌日には何でもないように振る舞っていたっけ。だから今回も大丈夫だろう」

「……そういえば、そんなこと聞いた気がする。あの時、私は確か旅行に行っていたから直接は見ていない」

「ふうん……」

なんとなく気にはなったが、今の自分たちにはどうしてやることもできそうもないので、仁は話題をマルカスの最後の言葉に切り替えた。

「侯爵へもよろしく、と言っていたというのが少々気になるな」

「……父と繋がりのある侯爵と言ったら、あの人しか、いない」

「ゲーレン・テオデリック侯爵、か」

「そう」

これについては後日、侯爵本人に尋ねてみるのが一番だろう、と仁は結論した。

いずれにしても、技術博覧会が終了してからということになる。

「まあ、この騒動は別にして、全体的に見たら大きなトラブルもなく済んだからな。もうすぐ、表彰が始まるんじゃないかな?」

「ああ、そうか」

参加者としては出ないわけにも行かない。仁、エルザ、ラインハルトは控え室を出て大ホールへ向かった。

「やあ、ジン、エルザを取り戻せたんだね。良かった良かった」

錬金術師たちの控え室から出てきたサキも合流する。

「ああ、何とか、ケリが付きそうだよ」

「何とか、かい? まあジンのことだ、もう心配はいらないんだろうさ」

「はは、その信頼には応えたいものだな」

* * *

「それでは、終わりに臨みまして、優秀者への表彰を行います」

技術博覧会最終日、その締めとして、特設ステージ上では参加者の表彰が行われていた。

エルザも落ち着き、仁やラインハルトと一緒に席に着いている。

「魔法技術の部。優秀賞、エルザ・ランドル・フォン・ラズーラ」

なんと、ここでエルザの名前が挙がった。

「『録音』の技術を開発し、『オルゴール』なる魔導具の宝石箱を作り上げた手腕を高く評価します」

「ほら、エルザ、行っておいで」

「……うん」

大勢が見つめる中、ステージに上がるエルザ。そこには女皇帝陛下、宰相、魔法技術相らがいて、彼等の前で記念のメダルが実行委員のクリストフから授与される。

銀色のメダルを首に掛けて貰ったエルザの顔は少し誇らしげであった。

「錬金術の部。優秀賞、ロエナス。興味深い現象を見せてくれました」

ロエナスは、紫ガンランの色素が、酢や灰汁で色がさまざまに変わるデモンストレーションをした男だ。

「来賓の部。優秀賞、セルロア王国、ステアリーナ・ベータ。そのゴーレムは見事の一言でした」

次々に表彰者が読み上げられていく。

「論文の部。サキ・エッシェンバッハ。『工学魔法の働きと魔力について』。その着眼点は斬新であり、魔法理論において、新たな分野を開拓したといえるでしょう」

認められたのが嬉しいのだろう、サキは珍しく頬を紅潮させて壇上へ上がった。

「ゴーレムの部。マルカス・グリンバルト。敗れたとはいえ、その巨大ゴーレムを作り上げた手腕は評価されるべきです」

だが、マルカスは現れない。エルザや仁はその訳を知っているが、実行委員らは、仁に負けたことで帰ってしまったと思ったようで、特に疑問には思わず、表彰式が進められていく。

「船舶の部。ラインハルト・ランドル・フォン・アダマス。その船は、船の歴史に新たな1ページを加えてくれるでしょう」

ラインハルトは喜々として壇上へ上がっていった。

それからも数人が表彰されたが、仁の名前は挙がらなかった。

そしてそのまま表彰式は終わりを告げる。

「以上で、今回の博覧会における優秀者の表彰を終わります」

その言葉に、会場からざわめきが上がる。そう、仁が表彰されなかったことに関する疑問や不満の表れだ。

「お静かに。最後に、ショウロ皇国皇帝陛下より発表があります」

ざわめきが収まるのを待ち、女皇帝は話し始めた。

「今年の技術博覧会も大成功といえましょう。優秀な技術者が育っているようで、皇帝としてこれほど嬉しいことはありません。来賓の技術者の方々も、素晴らしい技術を披露して下さいました」

そこで一息入れ、聴衆を見渡した。

「おそらく皆さんは、『どうして彼の名が挙がらないんだ?』と思っているのではないでしょうか」

その言葉に一瞬ざわつく会場。

「最後に、『特別優秀賞』、ジン・ニドー。ミニ 職人(スミス) と飛行船、それは我々の常識を覆す作品でした。よってここに、特別優秀賞を与え、表彰すると同時に、ショウロ皇国の『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』なる称号と、名誉士爵位を彼に贈りたいと思います!」

その言葉を聞いた聴衆は、割れんばかりの拍手を送った。

何を言われたのかすぐには理解できず、席に座ったままの仁を、礼子が促した。

「お父さま、ステージへお上がり下さい」

そう言う礼子も嬉しかった。ついに、この場で、大勢の前で。父親たる仁が。アドリアナ・バルボラ・ツェツィの全てを受け継ぐ仁が。

ショウロ皇国限定とはいえ、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』の称号を与えられたのである。

「あ、ああ、そうか」

少し上ずった声で返事をし、立ち上がった仁はステージへと上がった。

「サー・ジン・ニドー殿、願わくば、その叡智の欠片なりとも我が国にもたらして下さらんことを願います」

女皇帝は仁の首に金色のメダルを掛けた。

この瞬間、ショウロ皇国内でとはいえ、公に認められた 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) が誕生したのである。

会場に集った人々は、世界にただ一人の 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、仁に向けて、惜しみない拍手を送っていた。

* * *

表彰式が済み、ショウロ皇国女皇帝が閉会の辞を述べれば、技術博覧会も終了である。

「おめでとう、ジン!」

「おめでとう、ジン」

「ジン兄、おめでとう」

ラインハルト、サキ、エルザはステージ上で仁に祝いの言葉をかけていた。

「お父さま、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』拝命、おめでとうございます」

礼子もそんな祝辞を述べた。

「まあ、役職じゃなく、称号なんだがな」

「それにしても大したものさ。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) は 魔法技術匠(マギエンジニア・マエストロ) よりも上だろう。何せ、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) は世界にただ一人なんだから」

仁と先代の事情を知っているラインハルトは、周りの人間に聞かれることを考慮してやや曖昧な表現をとった。

「それに名誉爵位とはいえ、士爵位も授かったんだからな」

「そうだね! 少なくともジンに匹敵、いや、ジンを超える実力を示さない限り、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) を名乗ることはできないということなんだから」

サキも称賛する。

「ありがとう、みんな」

「ジン君、すごいわねえ、よかったわねえ」

ステアリーナもやって来て祝ってくれた。そして更に。

「ジン殿、おめでとうございます」

「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ジン殿、以降よろしく」

「名誉士爵、ジン殿、よろしくお願い致しまする」

その頃になると、ステージ上にいた他の受賞者たちが仁に握手を求め、面識を得ようと群がってきた。いや、ステージ下からも次々にやってきていた。

礼子が、『いい加減にして下さい』と一喝しなかったら、その混沌がいつまで続いたかわからないほどであった。