軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-62 今後の方針

ショウロ皇国で 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の称号を受けた仁は、同日夜、一旦蓬莱島に戻って来ていた。

そして、かねてからの計画を蓬莱島を統括する魔導頭脳である老君と、仁の最高傑作である 自動人形(オートマタ) 礼子、それに魔導大戦時に作られた 自動人形(オートマタ) であるアンらと共に検討していた。

『そうですね、そのお考えはいいと思います』

「礼子、お前はどう思う?」

先代にも仕えていた礼子の意見も聞いてみる仁。

「はい、とてもいいお考えだと思います」

「アンは?」

「はい、ごしゅじんさまのお考えはよろしいと思います」

「そうか……」

仁の考え。それは、魔法工学の聖地を、国という枠組みを越えて一般公開するという計画である。

先代 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは、蓬莱島を魔法工学の聖地にしたいという夢を持っていた。

だが、その夢は実現することなく、失望のうちにアドリアナは没した。

そして1000年を経て2代目となった仁は、いつの日か先代の遺志を継ごうと心に決めていたのである。

その際、仁が今いる蓬莱島は、先代の時と違って、地殻変動で隆起し、広くなったことに加え、仁の知識も加わって世界有数の軍事力を持つに至っている。

ここを一般開放するというのは危険極まりない。

それで、以前蓬莱島のダミーとして仕上げていた崑崙島をこの際、正式に一般公開しようかという相談内容であった。

「ですが、崑崙島を、というのはいかがなものでしょうか」

「え?」

アンがまさかの異論を唱えてきた。

「お話を伺った限りでは、崑崙島でさえ、今の世界の標準を遙かに超えています」

「まあ、そうだな」

「一般公開したなら、どんな輩が出入りするか分かりません。高すぎる技術レベルは妬みを生み、紛争の種となりかねません」

「なるほど……」

どこかの国や組織、いや個人でもだが、独占欲の強い者というのはいつの世にも存在する。

蓬莱島・崑崙島に存在する技術や資材は各国垂涎の的であろう。

そうなると、どうしても自国の利益を優先する風潮が出てきても不思議ではない。

「魔法工学の聖地をお作りになるというそのお考え自体は素晴らしいことだと思います」

アンはそう前置きを置いてから、考えを述べ始めた。

「魔導大戦により、300年前に比べ、今の世界は文化・文明が後退してしまっています。それを大戦前の水準に戻すというのがあの『 統一党(ユニファイラー) 』の建前だったわけですね。ですが、300年前の世界、その全てが必ずしも素晴らしいとは限らないわけです。ですから、昔を振り返るのは 統一党(ユニファイラー) ……今の 懐古党(ノスタルギア) に任せるとして、ごしゅじんさまは未来をお考えになればいいのではないでしょうか」

「未来、か……」

アンの言いたいことはわかった。仁は、必ずしも先代と同じことをしようとせずともいいということだ。時代背景が違うのだから。

「そうすると、どうしようか……」

『 御主人様(マイロード) 、そういうことでしたら、絶対に領土主張され得ない場所を使えばいいということになります』

老君の言うことはもっともである。だが問題はそんな場所があるかということだ。

『一つは海の底です』

「何だって?」

老君が突拍子もないことを言い出したのでさすがに仁も驚いた。だが、 転移門(ワープゲート) の中間基地『しんかい』の例もある。それほど荒唐無稽な話ではない。

海の底なら、わざわざ自分の領土だと主張する国もないだろう。そもそも利用のしようがないだろうから。

『もう一つは空中です』

「はあ?」

今度こそ仁は驚いた。空中にそんな大きなものを浮かべることが……。だがさすが仁、すぐに驚きを克服し、老君の言わんとする事を察した。

「そう、か。重力魔法の解析が進んでいるんだな?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。 御主人様(マイロード) の知識にある『宇宙ステーション』ですか、あのような建造物を宇宙に作れば、どこの国も自分の領土だとは言えないでしょう』

「それはそうだがな……」

さすがに大袈裟すぎる気もするし、いきなり宇宙ステーション打ち上げというのもどうかと思う仁である。

「大きな船の上というのは駄目なんですか?」

礼子が意見を言うが、老君は否定した。

『礼子さん、残念ですが、船ではどうしても揺れてしまうので、研究などをするには不向きなのですよ』

「ああ、そうですね……」

揺れてしまっては、精密な研究ができない。故に船という案は没である。

『もしも、ですが、もっと北の方、という選択肢もあるわけですが』

北の方、と老君が言ったそこは、つまるところ魔族の土地である。確かにどこの国の領土でもないが、現実的ではないだろう。

『そしてもう一つあります』

魔族の土地、というキーワードで、老君は新たな候補地を思いついたらしい。

「どこだ?」

『旧レナード王国です』

「ああ、あそこか……」

過日、クライン王国の貴族、ワルター伯爵の元にいた魔族、『 諧謔(かいぎゃく) のラルドゥス』を追いかけて行き、そこで知った事実。

そこに存在しているはずのレナード王国がとうの昔に滅びていたというのだ。

『滅びた国であれば、今はどこの国にも属していないわけです。いかがでしょう』

「うーん、そうだな……その前に、どうしてレナード王国は滅びたんだ?」

第5列(クインタ) を派遣して調査させていたわけだが、何か分かったのだろうか。

国が滅びただけでなく、人民までいなくなるというのは只事ではない。戦争、疫病、虐殺……いくつか考えられるが、そのどれであっても、ここまで徹底した滅び方にはならないだろう。

『はい、これまでの調査結果では、死んだわけでは無さそうなのです』

「何?」

『病気にせよ虐殺にせよ、死体や骨、遺灰などをあれほどにきれいさっぱり消滅させることはできない、というのが 第5列(クインタ) の調査結果から出した結論です』

老君は、例えて言うなら、まるで集団でどこかへ移住したような、そんないなくなり方だという。

『残された建物にも破壊の跡は見られませんでしたし』

「残っていた人間からは何か聞けなかったのか?」

『それが、元々の王国民ではないようなのです。他の国から移住してきたようで、何も知ってはいませんでした』

レナード王国滅亡の原因調査は袋小路に入ってしまったようだ。

「原因が分からないうちはおいそれと旧レナード王国に足を踏み入れるというのは避けた方がいいな」

『やはり、その方がいいでしょうね』

そうなると、なかなか良い候補地はないものである。

「ちょっと地図を見せてください」

アンの要望で、老君は現在できている地図を壁の 魔導投影窓(マジックスクリーン) に投影した。

それをじっと見つめていたアンは、一点を指差して言った。

「ここはどうでしょう?」

レナード王国東の海には小さな島が点在している。アンが示したのはそういう島の一つだ。明らかに旧レナード王国の領土内と判断できる位置であるし、大きさも崑崙島くらいで手頃だ。

『確かにそこは無人島ですね。危険な大型動物もいませんし、資源もそこそこ豊富です』

蓬莱島、崑崙島はだいたい北回帰線上にあるのだが、その島も同様にほぼ北回帰線上にあって、気候的には似通っていると言える。

「うーん、そこを開発して『聖地』にするのが一番よさそうかな?」

『はい、私も、いろいろなメリット・デメリットを考慮して、それが一番良いのではないかと思われます』

老君も最終的には賛成してくれた。

「よし。それじゃあ、蓬莱島は今のまま、俺の『ファミリー』だけが立ち入れることにしておこう。崑崙島は別荘という扱いだな。そしてその島……うーんと、『 扶桑(ふそう) 』とでも呼ぶか」

扶桑(ふそう) も、伝説上の仙人が住むという島である。

『はい。ではその 扶桑(ふそう) 島に、当初蓬莱島にあった研究所と同規模の物を建てる、でよろしいでしょうか』

「そうだな、後で増やせるように、最初から敷地は広く取っておいてくれ。それから船なんかも建造できるように、立地条件は考えて欲しい」

『承りました。扶桑島内の開発も適宜進めておいてよろしいでしょうか』

「ああ、そうだな。それと、専任ゴーレムも準備しよう」

『はい、お任せください』

仁は大体の方針を決め、詳細は老君とアンに任せる事にした。

これにより、魔法技術新紀元が近いうちに訪れることになろう。

研究所の窓から外を眺めた仁は、広がる夜明けの空を見て、これからまた忙しくなるな、と微笑んでいたのである。