軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-59 礼子、その戦い

最初に動いたのは剣士ゴーレムの方だった。

礼子の背丈ほどもあるグレートソードを振りかざし、大上段から斬りかかる。

それを礼子は華麗なステップで躱した。

振り下ろした剣は即座に跳ね上がり、斜め下から礼子を襲う。が、既にその場に礼子はいない。

「素早さだけは突出しているな」

マルカスはそう呟くと、剣士ゴーレムに更なる指示を出した。

「ガルボリアル! 本気を出せ!」

その声に呼応して、剣士ゴーレムの速度が1段、いや、2段上がった。

400キロ以上有りそうな巨体が、人間を上回る速度で動き始めたのである。

その踏み込みに地面は抉れ、あるいはひび割れる。

「あの巨体でなんという速度だ……」

ほとんどの観衆はその動きに目を見張っていた。

だが、アーネスト王子は、隣に座るリースヒェン王女に向かって小声で囁く。

「大したことないね。ジンのレーコちゃんは、あの小さな身体で、暴走した戦闘用ゴーレムを数十体吹き飛ばしているんだから」

「 妾(わらわ) も見ておりますよ。50人の賊を一瞬で無力化したその場にいたのですから」

その言葉通り、礼子は剣士ゴーレム、ガルボリアルの猛攻をどこ吹く風と躱している。

「ふふん、逃げるだけしか能がないのか。やはり二流 魔法技術者(マギエンジニア) の人形だな!」

マルカスが呟いたその言葉は礼子の耳に入った。

「……お父さまのお言いつけだからあまり恥をかかせないようにと思いましたが、それすらわからないようですね」

礼子は足を止めると。襲い来るグレートソードを迎え撃った。

「お、おお!?」

観客は己の目を疑う。

礼子は、剣士ゴーレム、ガルボリアルが振るうグレートソードを、ある時は受け流し、またある時ははじき返し、そしてまたある時は真正面から受け止めた。

その膂力も信じられなかったが、礼子が手にする、太さがグレートソードの10分の1くらいしかない剣の強度にも度肝を抜かれた。

「なぜ折れないんだ?」

そんな声が観客席から漏れる。

「お父さまが私に作って下さったこの模擬刀が、簡単に折れるものですか!」

64軽銀は鋼鉄よりも強い。そして、今の礼子は衝撃を受け流す技能を持っている。真正面から打ち合っているように見えても、激突の瞬間に力を抜き、衝撃を緩和しているのだ。

「そろそろ反撃しますよ!」

礼子がその速度を更に引き上げた。

ガルボリアルの持つタワーシールドがまるで役に立たないほどの波状攻撃。タワーシールドが向いていない方向から礼子は斬りつける。それが桃花もしくは 超高速振動剣(バイブレーションソード) であれば、一撃で勝負は決していただろう。

だが礼子が手にしているのは刃が付いていない模擬刀。そこで礼子はダメージを蓄積させる戦法を選んだ。

重いタワーシールドを支える左腕、その付け根である左肩を執拗に攻撃する。全身鎧に覆われているとはいえ、関節などの可動部は比較的弱い。

10回を超える打撃で、鎧の一部が剥がれ飛んだ。更に10回を超える攻撃が加わり、左肩の 魔法筋肉(マジカルマッスル) に亀裂が入る。手にしたタワーシールドの重さも手伝い、その亀裂は次第に広がっていった。

そして更なる攻撃を受け、人間で言えば三角筋にあたる 魔法筋肉(マジカルマッスル) が断裂。左腕が上がらなくなった。

「終わりです」

タワーシールドを構えられなくなった剣士ゴーレムの喉元に模擬刀が突きつけられた。

「そ、それまで! 勝者、ジン!」

あくまでも製作者の名前が呼ばれるので、仁は少し礼子に済まなく思っていた。

カーテシーで観客に向かってお辞儀をする礼子には歓声が投げかけられていた。

「かわいー!」

「いいぞー、嬢ちゃん!」

「そのまま、完全勝利を目指せ!」

いつの世でも、美少女が活躍する場面は見ている者の共感を誘うようである。

「レーコちゃんは凄いなあ」

「まったく、怖ろしいものです……」

アーネスト王子とリースヒェン王女は、思った通りの礼子の活躍ぶりに快哉を送ると共に、幾ばくかの畏怖も憶えていた。

観客は、その脅威に気が付いているのかいないのか。興奮しているためによくわからない。

一方で、貴賓席最上段に座る女皇帝は頭を抱えていた。

勝手にルールを変更した上、あっさりと負けてしまっている。

仁に与えた印象は最悪。そしておそらく観客も不満に思っているだろう。

ただ一つ良かった事に、仁が圧勝したことで、ルール変更に対しての観客からの糾弾はおそらく無いと思われる。が、仁に仕官して貰いたい女皇帝としては泣きたい思いであった。

* * *

「それでは! 最終戦! 格闘技による対決です!」

もう仁と礼子の圧勝であるが、規定により最後まで行うことになっているので、マルカスも憎悪の目を仁に向けながら、残った戦闘用ゴーレムを繰り出してきた。

今度のゴーレムは錘を投げたゴーレムだ。

鎧も着ておらず、無手であるが、体格だけはいい。身長は2メートルを超え、体重も400キロはあるだろう。腿だけで礼子の胴回りくらいはありそうである。

だが観客は、もはや礼子の勝ちを疑ってはいなかった。

「はじめ!」

掛け声と共に、ゴーレムは礼子目掛けて拳を繰り出した。当たれば普通の 自動人形(オートマタ) 程度、砕け散るような一撃である。だが礼子は小さく跳躍して躱した。

礼子が着地する、そのタイミングを狙い、ゴーレムの蹴りが放たれた。

当たる……と思われたが、礼子は身体を沈めてそれを躱す。頭のリボンが蹴りの余波で揺れた。

礼子は、何かを試すように、ゴーレムの攻撃を悉く躱していく。

「身体が思いのままに動きます。頬に当たる風、髪を揺らす風。そんな風が教えてくれます。そして地面を伝わる振動も、相手の動きを知らせてくれます」

『触覚』を持った礼子は、近接での察知能力が格段に向上しており、それを試すのにちょうどいい相手として、ゴーレムの攻撃を躱し続けていたのである。

「でも、そろそろ決めないといけませんね」

礼子は、ゴーレムの拳を躱しつつ前に踏み込んだ。そしてカウンターパンチを鳩尾付近に叩き込む。身長差があるので、そのあたりが精一杯なのもある。

もっとも、ゴーレムであるから、鳩尾は急所ではないのだが。

だが、抑えているとはいえ、礼子のパワーで放たれたカウンターパンチは、体重差10倍以上の相手ゴーレムを吹き飛ばすに足るものであった。

5メートル程も吹き飛んだゴーレムは、そのまま起き上がらない。どうやら内部の 魔導装置(マギデバイス) が損傷したようだ。

「い、一撃……」

「すごいなんてものじゃ……」

先程と同じように、カーテシーで礼子が挨拶すると、割れんばかりの歓声が沸き起こった。

完全勝利。それは、長い 魔導人形競技(ゴンクレンツ) の歴史上、初めての偉業でもあったのである。

「やったねえ、ジン。すごいよねえ」

「うむ、友人でなければ脅威じゃな」

仁の性格を知るアーネスト王子とリースヒェン王女は、のんびりした会話を交わしていた。

「ジン、おめでとう! レーコちゃん、凄いぞ!」

ラインハルトも手放しで喜び、褒め称えた。

「皆様! 結果はご覧のとおりであります! 魔導人形競技(ゴンクレンツ) 優勝はジン・ニドー! そしてその 自動人形(オートマタ) 、レーコ!」

会場の歓声がますます大きくなる。仁は、戻って来た礼子の頭を撫でてやった。

「礼子、ごくろうさん。凄かったな」

「お父さまのおかげです。『触覚』がこれほど役に立つとは思いませんでした。風や振動で相手の動きを察知でき、微妙な力加減も思いのままです」

「そうか、そうか」

思っていた以上の触覚の効果に、仁の顔も綻ぶ。後にそれを聞いたラインハルトは、 黒騎士(シュバルツリッター) に触覚センサーを搭載しようと心に決めるのだが、それはまた別の機会に。

「それでは、ジン殿、特別アトラクションとしての、巨大ゴーレムとの模擬戦はどうなさいますか?」

その質問に、観客は、

「やれー!」

「やってみせてくれー!」

との声一色。別に問題は無いので仁も諒承した。

「わかりました。……マルカス殿、巨大ゴーレムを動かしてもらえますか?」

マルカスは憎々しげな顔をしながら、絞り出すような声で言った。

「構わない。だが、ゴリアスは手加減が下手だ。万一のことがあっても知らぬぞ?」

そしていよいよ、礼子とゴリアスの一騎打ちが始まることとなった。

「それでは、始め!」

審判の掛け声が掛かり、いよいよ礼子とゴリアスの一騎打ち、その幕が切って落とされたのである。

「行きますよ……!」

礼子は静かな怒りを 裡(うち) に秘めていた。

それは、父親たる仁を貶されたためである。

魔法工学師(マギクラフト・マイスター) たる仁が、ただの 魔法工作士(マギクラフトマン) と一緒にされるのさえ気に入らないのに、そんな十把一絡げの輩から侮られたのである。

完膚無きまでに叩き潰し、仁を認めさせる。それが礼子の本心であった。

そして、この先、仁に対する干渉や嫌がらせなどを無くすために、ここで実力をはっきりと見せておく必要があるとも思っていた。

だが、仁は不必要な破壊行為を嫌う。目立ちすぎることも嫌う。礼子はそんな仁の性格をちゃんと理解していた。

そんな礼子が最終的にとった行動とは、仁に指示された通り、『派手な破壊をせずに圧倒する』ことであった。