軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-57 魔導人形競技

仁が広場へ行くと、まだ8時だというのにアリーナには人が溢れていた。

魔導人形競技(ゴンクレンツ) が行われるという噂が広まっていたのである。

「ふん、逃げずに来たな」

仁同様、ゲオルグ・ランドル子爵も来ていた。

「せっかくの 魔導人形競技(ゴンクレンツ) だから、あと数名、参加したいと言ってきたらしいが、構わんだろうな?」

「ええ、俺は、別に」

「ふん、いい度胸だ」

そこで身を翻し立ち去ろうとするゲオルグに向かって、仁は尋ねた。

「エルザはどうしてます?」

「ん? 気になるか? 元気だぞ……ほれ」

顎をしゃくり、彼方を指し示すゲオルグ。その方向を眺めやれば、子爵配下の兵士……いや、 自動人形(オートマタ) に挟まれたエルザが、アリーナ最前列に座っていた。

「私は皇国軍軍事顧問でもあるからな。最新式の 自動人形(オートマタ) やゴーレムも擁している。逃げるなら今のうちだぞ」

だが仁は僅かに口を歪めただけ。代わりに口を開いたのは、そばにいたラインハルトだった。

「叔父上、恥をさらすことになるのはそちらです。我が国の 自動人形(オートマタ) が束になってもジンの 自動人形(オートマタ) にはかないっこありません」

だがゲオルグは聞く耳を持たない。そのままもう振り向くことなく歩き去っていった。

「ジン君、聞いたわよ?」

仁が割り当てられた参加席に行くと、女皇帝陛下がやって来た。

「手違いがあったみたいね?」

仁は渋い顔を女皇帝に向けた。

「ええ、そうなんですよ。予定が狂いました」

「子爵の態度については、もう謝るしかないわ、ごめんなさい」

頭を下げた女皇帝陛下に仁は慌てた。

「あ、い、いえ、頭をお上げ下さい。俺は別に気にして……はいますが、陛下のせいではないので。俺が、子爵にきっぱり言えなかったのも悪かったんです」

「そう言ってくれてほっとしたわ。どうか、我が国を嫌わないで。子爵には法に則ってそれ相応の処置を下すつもりよ」

だが、今回の場合はそれほど重い処罰は出来ないと付け加えざるを得なかったが。

「一番の罪が、国賓への侮辱行為ですからね、その日に侮辱された本人からの申し入れがあったわけでもないし……」

仁も、そんなつもりはなかったので、何も言っていなかった。それは、同様にマルカスに馬鹿にされたアーネスト王子も同じである。

「でも、私としては、ジン君の実力を広く知らせることが出来そうだから、正直言って 魔導人形競技(ゴンクレンツ) 大歓迎なんだけど」

「その結果、お国のゴーレムや 自動人形(オートマタ) が負けてもですか?」

だが女皇帝は笑顔を浮かべたまま。

「敗北、それもいいでしょう。それはまだ伸び代がある証拠。更なる高みを目指せばいいだけの話」

「はあ、前向きなんですね」

渋い顔だった仁も、その笑顔につられて微笑んだ。

「ふふ、そうね。ショウロ皇国の女は前向きなのよ」

そのセリフを聞いた仁は、そういえばエルザも前向きだったな、と思い出した。

「それじゃあ、頑張ってね。エルザの件は、私も気に掛けているわ」

それだけ言うと、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ女皇帝は立ち去っていった。

いよいよ 魔導人形競技(ゴンクレンツ) 開始時刻である。

* * *

「さて皆様、技術博覧会3日目、特別企画としまして、 魔導人形競技(ゴンクレンツ) が行われることと相成りました!」

司会の声がアリーナに響く。

「発起人はゲオルグ・ランドル子爵、挑戦者はジン・ニドー!」

歓声が沸き上がる。

「更に、飛び入りで、エンガル・ヘルダス、テオロード・ガバナース、ケリー・ガルバーニの3名が参加します! 3名はいずれも新進気鋭の若手 魔法技術者(マギエンジニア) です!」

これも拍手で迎えられる。

「競技種目は皆様お馴染み、徒競争、重量物投げ、遠泳、探索潜水、模擬戦の5種に加え、特別に、かの巨大ゴーレム、ゴリアスとの模擬戦も予定しております!」

ゴリアスは参加者であるマルカスのゴーレムである。そのような提案をするということはかなりの自信があるのだろう。

「さて、参加する 自動人形(オートマタ) またはゴーレム、進み出て下さい!」

審判役のクリストフ・バルデ・フォン・タルナート魔法技術省事務次官がそう言うと、それぞれの参加者の元から、 自動人形(オートマタ) やゴーレムが進み出た。

エンガル・ヘルダス、テオロード・ガバナース、ケリー・ガルバーニの3名の所からは2体ずつ、6体のゴーレムが。陸上用と水中用らしい。

ゲオルグ・ランドル子爵つまりマルカスのところからは2体の 自動人形(オートマタ) と2体のゴーレムが進み出た。陸上用・水中用・戦闘用であると言うことが一目でわかる外観をしている。

陸上用は軽装でスリムであるし、水中用は手足にヒレが付いていて、ぴったりとした水着を着ている。そして戦闘用は2体いて、1体は鎧を纏ったようなゴーレム。もう1体はごついが鎧は着ていないゴーレムである。

「ふん、やはり我がマルカスの勝ちは揺るがんな」

アトラクションと言うことで飛び入り参加も認めたが、見るからにまったく相手になりそうもないことが見て取れ、ゲオルグ・ランドル子爵はほくそ笑んでいた。

その時、割れんばかりの歓声が上がった。

「何だ?」

見れば、仁の陣営から進み出た 自動人形(オートマタ) を見た観客の反応である。

場違いとも見える、黒いワンピースに白いエプロンドレスを着た少女型の 自動人形(オートマタ) 。言わずと知れた礼子である。

そして仁が参加させてきたのは礼子1体のみ。

驚き、感心、困惑、期待……そんな感情が渾然一体となった末の歓声であった。

「ふん、あの格好で参加するとは舐めているのか、それとも自信があるのか。いったいどれほどのものか、見てやろうではないか」

そんな子爵とは違い、アリーナ最前席で見つめるエルザは水色の双眸を潤ませていた。

「ジン兄……」

目立つことを嫌っていた仁が、礼子を参加させた。それはすなわち必勝の態勢ということ。同時に、この競技後、仁は今までに無いほど注目されるだろうことが容易に想像できる。

そして、それもこれも、自分のため、と感じ取ったエルザは、胸に温かいものが流れるのを感じた。

「それでは、第1種目、500メートル走です!」

広場に引かれた白いライン。第1コースは礼子。第2コースはマルカスの 自動人形(オートマタ) 。第3、4、5コースは飛び入り参加のゴーレムである。

「位置について! 3、2、1、スタート!」

土埃が舞う。ズドンという音が響く。耳を塞ぐ観客たち。そして次の瞬間には、500メートル先のゴール地点に立つ礼子の姿が。

「な、何が?」

それは誰の言葉だったであろうか。

2秒足らずで礼子は500メートルを移動していたのである。そしてその10秒後、マルカスの 自動人形(オートマタ) がゴールした。そして更に10秒後、飛び入り参加のゴーレム3体が前後してゴールしたのである。

マルカスの 自動人形(オートマタ) は確かに早かった。

が、音速を超えた礼子に敵うはずはない。礼子のいたスタート地点は大きくえぐれており、礼子の踏み出しがどれほどのものだったかを物語っていた。

「信じられん……」

自分の目が信じられないというように、ゲオルグ・ランドル子爵は何度も目を擦った。

そして数十秒遅れで満場の拍手。皆、礼子の凄まじさに反応を忘れていたのである。

「……やっぱりレーコちゃんは凄いね!」

貴賓席にいるアーネスト王子である。礼子の活躍を直に見ていた王子は、この結果を当然のものとして受け止めていた。

「しょ、勝者、ジン・ニドー! 次点、マルカス・グリンバルト! ……」

自動人形(オートマタ) ではなく製作者の名前が挙げられていく。

マルカスの顔は憎々しげに歪んでいた。

「第2種目、重量物投げです! 今回は3種類の錘を用意してあります! これらを投げて、飛んだ距離を競います。その際、重さと距離を掛けた数値が成績となり、最も大きい数値になった者が1位です」

司会が説明している。

「では、5位から順に投擲してください。投げる方向はトスモ湖です」

距離は湖に浮かぶ数十体の水中用ゴーレムが測定するようだ。

最初のゴーレムは、3種の錘を手に取り、比べていたが、一番軽い10キロの球を選んだ。直径は約10センチ。おそらくアダマンタイトに匹敵する比重の金属であろう。投げた際に見やすいように黄色く塗られていた。

結果はと言えば、およそ50メートル。砲丸投げと直接比べることはできないが、質量×距離で比べると、地球での世界記録の3倍くらいである。

4位、3位のゴーレムも大差なかった。

そしてマルカスの番である。ごつい方の戦闘用ゴーレムが進み出、直径17センチほどもある、20キロの球を選んだ。これは桃色に塗られている。

それを砲丸投げのようなフォームで投擲。記録は約75メートル。会場から歓声が上がった。

「凄いわね、新記録じゃない?」

見ていた女皇帝も感心する記録である。

「ふん、どうだ、エルザ? 我がマルカスの新型戦闘用ゴーレムの力は? 今までの記録を10メートル上回ったぞ?」

アリーナ最前列、エルザの隣で観戦していたゲオルグが誇らしげに言う。だがエルザが返した答えは至極冷静なものだった。

「……レーコちゃんはあんなものじゃない。父さま、見ていて。驚くから」

「何だと?」

今、礼子はそこにあった一番重い球、すなわち30キロの錘を持ち上げたところ。ほぼ礼子の体重と同じ重さである。こちらは白く塗られていた。

「ほう、あれを持ち上げるか。まあ、そうでなくてはな」

それを見ても余裕を見せるゲオルグであったが、更に礼子がその錘を片手で支えたのを見て、思わず目を剥いた。

そして礼子は、砲丸投げのフォームで投げるかと思いきや、ボウリングのボールを投げるようなフォーム、すなわち下手投げで無造作に放り投げた。

だが、白く塗られたその球は、アリーナの観客の視界からあっと言う間に消えてしまったのである。

その軌道は直線に近く、しかもほぼ水平であった。斜め上に投げられたらどれほど飛んだか、ちょっと見当が付かない。

「……」

司会も審判も言葉がない。礼子は仕方なく、審判のそばまで歩いて行き、ちょんちょん、とその背をつついた。

それでやっと正気に戻った審判、クリストフ魔法技術省事務次官は、慌ててトスモ湖のゴーレムを呼び返し、いろいろ尋ねていた。

そして10分後。

「い、今の投擲は残念ながら正確な距離はわかりませんでした! 記録は、100メートル以上! 錘は30キロ! よって、成績は3000ポイントオーバー! ジン・ニドー、1位です!」

ゴーレムが配備されていたのは100メートルまでだったのだ。おそらく、500メートルは飛んでいたはずなのだが、そんな飛距離が出るとは誰一人として思っていなかったのである。

それが発表された途端、アリーナにいた全員が立ち上がり、満場の拍手が沸き起こった。

「信じられん……」

ただ1人、いや2人、ゲオルグ・ランドル子爵とマルカス・グリンバルトを除き、観客達は惜しみない拍手を送っていた。