軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-55 父権

礼子の言葉に、エルザの父、ゲオルグは小馬鹿にしたように笑った。

「ふん、人形風情がなにをほざく」

「人形風情だと!?」

礼子の事を馬鹿にされた仁は怒りの声を上げた。礼子も驚いて一瞬怒りを忘れ、仁の顔を見つめる。

さらにマルカスは、

「 相変わらず(・・・・・) 人形の癖に娘を気取るのですね」

そんなセリフを漏らした。

「相変わらず?」

そのセリフが気になった仁がオウム返しに呟くが、その言葉にマルカスは答えず、

「一人前だというのなら、証明して貰いましょうよ、子爵」

そんな事を言って子爵を唆した。

「……なるほど、面白い。マルカス、お前が作ったゴーレムと 自動人形(オートマタ) 、最新のものは何体あったかな?」

「はい、巨大ゴーレムの他に5体です。 自動人形(オートマタ) 2体に軍用ゴーレムが3体」

それを聞いたゲオルグはにやりと笑う。

「……ジン・ニドー、エルザが貴様の弟子だというなら、師匠である貴様の腕前を見せてみろ。マルカスの作ったゴーレムと競い、勝てたなら、エルザの事は考え直してやろう」

「……俺の腕前とエルザの実力に何の関係が?」

「大ありだとも。見かけ倒しの 魔法技術者(マギエンジニア) の弟子では、到底一人前とは言えんからな」

「自信がなければ逃げてもいいのですよ?」

少なくとも仁がゲオルグ・ランドル子爵に認められない限り、話も聞いてもらえそうもない。

それに加えて仁は、礼子の事を人形風情と罵った子爵に対しかなり頭に来ていた。それでその挑発を受けることにしたのである。

「……わかりました。方法は? 日時は?」

「ふん、受けるか。いい度胸だ。方法はな、お互いにゴーレムもしくは 自動人形(オートマタ) を出し、 魔導人形競技(ゴンクレンツ) で競わせるのだ。日時は明日。見物客もいるしな、ちょうどいい」

「 魔導人形競技(ゴンクレンツ) ?」

「貴様は知らんか。我がショウロ皇国で行われているゴーレム競技だ。詳しくはそこにいる奴に聞け」

「え?」

騒ぎに紛れて気が付かなかったが、騒ぎを聞きつけたラインハルトが仁のそばにやってきていた。

「叔父上、ジンに挑んだりすれば、恥をかくことになりますよ?」

そう言って遠回しに諫めるラインハルトだが、子爵は取り合おうとしなかった。

「ふん、恥をかくのはどちらかな?」

一方、野次馬はそれを聞いて騒いでいる。

「おお! 魔導人形競技(ゴンクレンツ) だと!」

「1年半ぶりでしょうか?」

「あのジン・ニドーとマルカスが競うんですって!」

そこへ、技術博覧会実行委員である魔法技術省事務次官、クリストフ・バルデ・フォン・タルナートが騒ぎを聞きつけ、飛んできた。

「子爵、ジン殿! いったい何が?」

「実行委員か。何、明日、我が 魔法技術者(マギエンジニア) 、マルカスと、ジン・ニドーが 魔導人形競技(ゴンクレンツ) を行う事になっただけのことだ」

「え……!」

「私とジン・ニドーが 魔導人形競技(ゴンクレンツ) を行う事を宣言したことは、周りにいる方々が証明してくれる。今更後には引けんぞ」

ショウロ皇国の法によれば、5人以上の立会人の元、 魔導人形競技(ゴンクレンツ) を行う事を宣言した場合、それは公に認められることになる。

「ちょうど明日は技術博覧会最終日、相応しい出し物となるであろう」

「は、はあ……」

「……ということであるから、 魔導人形競技(ゴンクレンツ) 競技の準備を頼むぞ。エルザ、来るんだ」

再度エルザの腕を掴むゲオルグ・ランドル子爵。

「あ……」

エルザの顔が悲しげに歪む。それを見た仁は叫んだ。

「待て!」

「何だ? 私はエルザの父親だ。父が娘を連れて行くことに何の問題がある? そうだな、エルザ?」

「……はい」

ゲオルグに睨まれたエルザは項垂れながら頷いた。当のエルザが『はい』と口にしてしまったことは皆が聞いていた。衆人環視の中、仁もこれ以上何も言えない。

「明日、貴様が勝てば、先ほど言ったようにエルザの事は考え直してやろう。それは約束する。ではな」

それだけ言うと、野次馬をかき分けたゲオルグ・ランドル子爵は、エルザを引きずるようにして立ち去っていった。マルカスもそれに続く。

取り残された仁、それにラインハルトは呆気にとられていた。

「……ジン殿、申し訳ないが、事情の説明を願えるかな?」

技術博覧会実行委員、クリストフは、少し済まなそうに言って、仁たちを会議室に招いたのである。

「……と、いうわけで……」

仁が代表して事情の説明をした。

「なるほど、話を聞く限りでは、経緯はともかく、 魔導人形競技(ゴンクレンツ) は行わざるを得ないようだ」

「その 魔導人形競技(ゴンクレンツ) というのは?」

「ああ、ジン殿は知るはずがないな。それでは説明しよう」

魔導人形競技(ゴンクレンツ) は、言わばゴーレムもしくは 自動人形(オートマタ) の決闘である。

決闘とはいえ、壊し合いをするのではなく、性能を競う場である。

競技種目としては、

1.徒競争(500メートル走)

2.重量物投げ(指定の重りを投げ、その距離を競う)

3.遠泳(今回はおそらくトスモ湖往復)

4.探索潜水(水中で探し物をする)

5.戦闘技術(剣を使う、もしくはレスリングのような無手での格闘技)

の5種競技からなるということである。

まれに、対戦者が相談の上、他の競技を加えることもあるそうだ。

「それぞれ別々のゴーレムか 自動人形(オートマタ) を出してもいいし、全部1体で行ってもいい」

ラインハルトが補足した。

「ラインハルト殿が前回の覇者だったな。 黒騎士(シュバルツリッター) とローレライ、と言ったか」

ラインハルトとエルザが旅に出る前に開催された 魔導人形競技(ゴンクレンツ) でラインハルトが優勝したという。

「遠泳と探索潜水はローレライ、それ以外は 黒騎士(シュバルツリッター) が活躍したんだな?」

見当を付けた仁が尋ねると、ラインハルトは当たりだ、と言って頷いた。

「では、明日9時から、今日屋外発表を行った広場で行う。遠泳と探索潜水は当然トスモ湖で行うからそのつもりで」

仁に念を押し、クリストフ・バルデ・フォン・タルナートは会議室を出て行った。

「……やれやれ、侯爵の方は円満に収まったというのに」

思わずそんなぼやきを漏らしてしまう仁。

変装をし直して部屋を出れば良かったのだが、今更後悔しても遅い。

計画では、3日目が終わり、参加者の評価が発表された後に名乗りを上げる予定だったのだ。

公的に、皇帝陛下から直々に認定されてしまえば、エルザが一人前であるということを疑うものはいなくなる。

が、今日の段階で、ゲオルグに父権を主張されたら、逆らうことは難しい。そもそもゲオルグがこの場にいることは予想外であった。

「すまん。僕の情報収集が足りなかったようだ」

そもそも、この技術博覧会にエルザの父が出るという情報はラインハルトも知らなかったのである。

てっきり長男のモーリッツが来ると思っていたのだ。何故ならば、過去の技術博覧会にゲオルグ・ランドル子爵が出席したことはなかったからである。

そのため、さすがの老君も、ゲオルグ対策を盛り込めなかったのであった。

「さっきアリーナで見かけたんだからもっと注意しておくべきだったな……まあ、実の父親のところなんだから、なにかされるとか、そういう心配がないのが救いだな」

統一党(ユニファイラー) に囚われたときとは比べられない。

溜め息を1つ吐いて、ラインハルトはもう一つ、気になっていた事を口にした。

「それでジン、侯爵の方は上手くいったんだな?」

「ああ」

仁はラインハルトに説明をした。

「そうか、そっちは思ったよりいい方向に収まったんだな。だが、毒か……」

エルザの事で忘れがちだが、侯爵に毒を盛ったらしい者がいる可能性が高い。それもまた問題であった。

「あー、厄介だな……」

「まったくだ……」

しばらくは仁もラインハルトも無言であった。

そしてその沈黙を破ったのは仁。

「なあラインハルト、エルザの父親って、言動が少し異常な気がするんだが」

仁の言葉にラインハルトも同意する。

「うん、僕もそう思う。……やはり、フリッツと同じように『 暗示(セデュース) 』にでもかけられているんだろうか?」

「それはわからないな。……礼子、お前の意見はどうだ?」

礼子もあの場にいたのだから、仁が気付かなかった何かに気付いたかも知れない。

「ゲオルグ・ランドル子爵にはおかしいところは無かったですね。それよりも、マルカスという男は少しおかしいと感じました」

「マルカスが?」

「はい。何と言えばいいでしょうか……そう、記憶を弄られたような、と言いましょうか。時々漏れ出てくる魔力パターンが虫食いなのです」

「虫食い?」

表現としてはわかるのだが、何故そうなるのか、見当が付かない。

「先ほど老君に連絡を取って、相談して見ました。老君によると、禁呪『 強制忘却(アムネジア) 』を使って記憶を消し、その後で新たな記憶を与えたらそうなるのではないかと言っています」

「何だって?」

知識はともかく、体験した記憶まで消してしまい、代わりの記憶を与えようとしても、おいそれと出来るものではない。どうしても抜けが出来てしまう。

その抜けが、不安定要因となって、魔力に表れたのではないかと、老君は推測したとのことであった。

「だとしたら、マルカスの記憶を弄ったのは誰だ?」

ラインハルトが当然の疑問を口にする。だがそれはわからない。

そこで仁は、エルザに付いているはずの 隠密機動部隊(SP) に調べさせるよう、礼子を通じて老君に指示を出したのである。