作品タイトル不明
12-40 初夏の果実
それからというもの、仁、そしてエルザは半日をカイナ村、半日を蓬莱島で過ごした。そんなある日。
「おにーちゃん、プルメっていうの、これ?」
仁がカイナ村にカゴ一杯の果実を持って来たのである。
「ああ、そうさ。クライン王国のもっと南の方で栽培されていたんだけど、カイナ村でも栽培できると思う」
「おいしいの?」
やや黄色みを帯びた緑色の実。丸く、直径3センチくらい。
「うーん、このままじゃ酸っぱいかな。これは塩漬けにしたり砂糖漬けにしたりするんだよ」
プルメとは梅である。 第5列(クインタ) が見つけ、蓬莱島に大量に買い込んできた。もちろん梅干しを作るのだ。
仁が少しカイナ村に持って来たのは、梅干しなどが村人に受け入れられるなら村でも栽培したらどうかと思ったからである。
水で洗い、汚れを落とした後、雑菌を取り除くために焼酎で洗うのだが、仁は工学魔法『 殺菌(ステリリゼイション) 』で代わりとした。
そして、瓶などに入れ、梅の重さの18パーセントほどの塩をまぶし、重石を載せる。重さは梅の倍が基準。
何日かして梅酢が上がってきたら重石を減らす。
真夏になったら梅を取り出し、三日三晩干し、もう一度梅酢に戻せば梅干し(梅漬け)が出来上がる。
孤児院で何度も行った梅干し作りである。塩分は控えめにするとカビやすくなるが、この塩分量だと何年でも保つのである。
また、同様に洗って殺菌した梅を、同じ重さの砂糖でまぶして瓶などに入れ保存すると、浸透圧の関係で梅エキスが浸み出してきて砂糖が溶けてくる。
そうしたらカビが生えないよう、時々振って砂糖をまぶし、砂糖が梅のエキスで全部溶ければ梅エキスジュースの出来上がりだ。
これを冷水で割って飲むと、暑い夏にはことのほか美味しい。
仁はこの2種類を、蓬莱島だけでなくカイナ村でも作っていた。
実際にはサラに命じてやらせているのである。同時に、ミーネにも作り方を教えていた。
「ジン様、面白い作り方ですね。砂糖漬けは他の果実で作った事がありますが、塩漬けとは」
梅干しはミーネも初めて見るようだ。
そもそも、このプルメの実は、クライン王国南部ではジャムにしているのである。酸味のある果実はジャムにすると美味しい。
この他に、蓬莱島では、ワインを蒸留して焼酎に近い蒸留酒が生産され始めたので、プルメを使ったプルメ酒つまり梅酒も漬けていた。
そちらはまだカイナ村には伝えられない。度数の高い蒸留酒は、この世界では一般的でないためである。
閑話休題。
時間のかかる物ばかりだとつまらないので、仁は礼子に持って来てもらったもう一つの果実を取り出した。
『クェリーの実』、つまりさくらんぼである。
カイナ村周辺に生えているクェリーはいわば山桜で小さな実しか生らないが、仁が(礼子が)持って来たのは大粒のサクランボで、 第5列(クインタ) がレナード王国で見つけてきたものだ。
「ハンナ、これ食べてごらん」
「うん」
仁に言われたハンナはさくらんぼを一つ口に入れ、
「おいしーい!」
嬉しそうな声を上げた。
「いっぱいあるから、マーサさんにも分けて上げよう。あ、雪室で冷やすともっと美味しいぞ」
「うん!」
にこにこ笑うハンナを見て、仁も自然と笑顔になる。
その日のお茶の時間には、仁、ハンナ、マーサ、ミーネ、そしてエルザの5人でサクランボを堪能した。
「ジン、美味しいね。これもクェリーなんだって? 確かに似ているけど、粒が大きいねえ」
マーサも気に入ったようだ。
「ええ、同じクェリーですが、品種が違うみたいです。これ、カイナ村で作ってみたいですね」
「そうだねえ。あとで私が村長に相談しておくよ」
「お願いします」
村の農産物関連は仁よりも村長ギーベックの方が適任であるから、マーサから提案してもらえれば助かる、と仁は思った。
苗は数十本確保してあるし、成木も何本かあるから、あとで村に持ってこさせることにする。
技術博覧会の準備だけでなく、カイナ村のこともちゃんと考えている仁であった。
* * *
「うーん、難しい」
一方エルザは、蓬莱島で魔導具作りに行き詰まっていた。
「ジン兄なら、どうする、かな……」
聞いてみたいと思う、その欲求を抑え込む。
「駄目、何かあるごとにジン兄に頼ってばかりなのは」
自らに言い聞かせて、再度思索に戻るエルザ。
「うーん……」
エルザの呟きが静かな工房に響いていった。
「どうした?」
「ひゃいっ!」
いきなり後ろから仁の声がしたので、変な声を出してしまったエルザであった。
「……あ、ジン、兄……」
ドキドキする胸を押さえてエルザは振り向き、そこにいたのが仁であることに気付いた。
「すまん、そんなに驚くとは思わなかった。いや、何か悩んでるみたいだったから」
「え、えっと」
ここで仁に相談するかどうしようか、とエルザは悩んだ。そして、あまり我を張ってもいいことはない、と心を決める。
「あの、ね。特殊な宝石箱、を考えていたの」
「特殊な宝石箱?」
オウム返しに尋ね返す仁。仁には縁の無さそうなアイテムだ。
「うん。盗難防止、というほどじゃあないけど、勝手に開けられたら音がするもの、とか考えて……」
それを聞いた仁も何かちょっと思い出すような仕草をしたあと、
「……オルゴール、かな?」
と、ぼそっと呟いた。
「オルゴール……その手が、あった。ありがとう、ジン兄」
エルザにもオルゴールの知識は伝わっていたようだ。盗難防止に拘りすぎていた、とエルザは反省。
「あとは、自分で、やってみる。どうしても出来なかったら、聞きにいく」
それを聞いた仁は優しい微笑みを浮かべた。
「そうか、わかった。頑張れよ? でも無理は駄目だぞ。……エドガー、そのあたりはお前がちゃんと見ているんだぞ」
「はい、ジン様」
そばでエルザを見守っているだけだったエドガーも、仁の忠告に礼を言い、深々とお辞儀をした。
技術博覧会まで、あと1週間。
この時仁は、エルザとミーネ帰国のための計画を老君とアンの助言を受けて完成させており、エルザやラインハルトたちに知らせ、承諾を得ていた。
* * *
「……エルザも頑張っているなあ。俺も、もう一つ何か作るか」
仁もそう呟いて、構想を練り始める。
「やっぱりミニゴーレムだよなあ」
先日、サキが言っていた言葉。『掌に乗るような』という形容。
「文字通り、動く人形だな……」
実用的でないことから、ほとんど研究されていない分野であった。
「だが、偵察とか情報収集なんかにはもってこいだよな」
人目につきにくいという点では、小さい事は便利である。また、細かな細工をさせたりとかで使えそうである。
「まずは、 魔導装置(マギデバイス) をどこまで小さくできるか、か……」
仁は慎重に 魔結晶(マギクリスタル) を選定していくのであった。
その最中、ふと思いついたことが。
「そうか、俺が直接作らなくてもいいんだ」
仁が精密に作れる大きさが40センチくらいのゴーレムまでとすれば、礼子なら20センチくらいまでは可能。
「つまり、小型の『 職人(スミス) ゴーレム』を作れば……」
その考えに 則(のっと) り、仁は礼子を助手に、まずは身長40センチの 職人(スミス) を10体作り上げた。
「よし、『リトル 職人(スミス) 』と名付けよう。お前たちは、10センチのゴーレムを10体作って見せろ」
「はい、ご主人サマ」
小型なので、声が甲高くなるのは仕方ない。仁も目一杯声が低くなるように調整したのだが、それでも子供の声より甲高くなってしまっていた。
リトル 職人(スミス) は3時間ほどかけて、10センチのゴーレムを10体作り上げた。
「よーし、こっちは、そうだな……『ミニ 職人(スミス) 』と名付けるか」
「よろしくお願い致します、ご主人サマ」
更にキンキン声であるが、こればかりは致し方ないな、と思う仁であった。