軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-34 蓬莱島にて

翌日、仁は予定通りに、ラインハルト、ベルチェ、サキを蓬莱島へ連れていった。エルザとエドガーは言うまでもなく、アアルやノワール、ネオンも一緒だ。

蛇足ながらハンナは、お客様が来ているのだからと自ら断り、カイナ村に残った。

崑崙島を割愛して蓬莱島へ連れていったのは、ベルチェとサキを仁が信用したからに他ならない。

もちろん、何が来ても蓬莱島は揺るがないという自信もあったのだが。

「ここが、俺が師匠から受け継いだ『蓬莱島』だよ」

転移門(ワープゲート) の並ぶ広間に転移するなり仁は言った。

『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 。そしてお客様方、ようこそ蓬莱島へ』

老君の声が出迎えた。

「ジン、あの声は誰なんだい?」

不思議そうな顔でサキが尋ねた。ベルチェも同じく、どこから声がしたのかきょろきょろしている。

「この蓬莱島全般を統括している魔導頭脳、『老君』だよ。言うなれば自律型ゴーレムの頭脳をうんと高性能にしたものさ」

そう説明されたサキは概念としての理解は出来たようだが、ベルチェは駄目だったようだ。

そんなベルチェを見かねたラインハルトが小声で説明していたのだが、いつまでも 転移門(ワープゲート) 室にいても仕方ないので、仁は声を掛けて一行を外へと導いた。

「ようこそいらっしゃいました」

転移門(ワープゲート) 室を出た場所が玄関ホール。

そこには、まず老君の移動用端末『老子』、ソレイユとルーナ、5色ゴーレムメイドのリーダー5体、陸海空軍のリーダー各1体、 職人(スミス) 1、そしてバトラー1が一行を出迎えていた。

「うわあ……」

絶句するサキとベルチェ。以前蓬莱島に来たことがあるとはいっても、これだけゴーレムが揃っているのを見るのはラインハルトも初めてである。

「すごいな、ジンは……もう1国に匹敵どころじゃないな」

仁の保有する潜在的な力が、国を軽く凌駕していることを感じ取ったラインハルト。

「ジンが友人だったことが心から喜ばしいよ」

そんな一幕もあったが、まずは玄関ホールを抜けて前庭へ。

「うわあ、広いね。ここがジンの研究所か……うらやましい限りだね、まったく」

表に出たサキはあたり見回しそう言った。

「ジン様、あれは何ですの?」

ベルチェが指差したのは仁の家。平屋建ての日本家屋である。

「ああ、あれは俺の家です。蓬莱島にいるときはあそこで寝起きしてます。日本風の家なんですよ」

「変わってますのね」

「今夜はあそこに泊まっていただく予定ですので、後でご案内します」

そう言った仁にベルチェは、その中途半端な敬語はやめて、ラインハルト様と同様の話し方をして欲しい、と言う。

仁がラインハルトの顔を見ると笑って頷いた。

「わかった、ベルチェ。……これでいいかい?」

「はい、それでお願いしますわ。わたくし1人だけ、他人行儀なのは寂しいですもの」

仁は笑顔でそれに答えた。

「さて、それじゃあ、観光旅行らしく行こうか」

仁は礼子に頼んで、車庫から自動車を出してきて貰った。

エルザやラインハルトたちと旅に出る直前に開発した4連ゴーレムエンジンで動く自動車だ。

「お、おお、ジン、これは!?」

軽銀のボディにゴムタイヤ装備で6人乗り。製作時から少し手を加えられていて、サスペンションはゴーレムアームになっているし、 制御核(コントロールコア) 内蔵による自動操縦に切り変える事も出来る。

「自動車、というんだ」

飛行機を使うことも考えたが、さすがにオーバーテクノロジー過ぎると、珍しく自重した仁であった。

それに、蓬莱島をゆっくり見て貰うには地上を行く方がいいとも言える。

「さあ、乗ってくれ」

6人乗りなので、アアル、エドガー、ネオン、ノワールはもう1台の自動車で行くことになる。島内での移動用に同型の物が3台作ってあった。

そちらの運転は礼子に任せた。なんとなくネオンが嬉しそうに見える。

「お父さま、お弁当です」

ソレイユとルーナが大きなバスケットをいくつも積み込んでいく。お昼が楽しみだ。

カイナ村を出たのが朝8時、時差が約2時間なので今は10時半くらい。

研究所から、目的地であるタツミ湾までは約25キロ。時速30キロくらいでゆっくり走るのにはちょうどいい距離だろう。

「それじゃあ、出発」

整地し、硬化させた道路は走りやすい。川沿いに着けられた道は緩やかにカーブしながら海を目指していく。

川と言っても幅は20メートルから30メートル。対岸も良く見える。

「あら、このあたりは麦畑ですのね」

「おお、向こうは果樹園か。ペルシカらしい実がたくさん生っているなあ!」

ちょっとした田園風景、ドライブにも適したコースである。何体かのメイドゴーレムが草取りなどの作業をしているのが見えた。

「おや? この辺は湿地かい?」

道は湿地帯にさしかかる。そこには田植えしたばかりの稲、いや『 禾(のぎ) 』が。

「あまり見たこと無い植物だな……いや、まさか?」

ラインハルトが、そこに植えられている作物に気が付いた。

「ジン、もしかしてこれは 禾(のぎ) かい!?」

「ご名答。稲、つまり 禾(のぎ) だよ」

「いったい、いつの間に……いや、ジンのことだしなあ」

1人納得するラインハルトであった。

道は緩やかに下っていき、1時間弱で海が見えてきた。それを見て一番はしゃいだのはサキである。

「お、おお! ジン、あれって、海なんだろう!? うんうん、広いね。青いね!」

車から乗り出すようにして眺めている。

「危ないぞ。もうすぐ着くからおとなしくしてろ」

仁が注意するとサキは照れたような顔をしてシートに座った。

「くふ、お恥ずかしい。ボクは国から出た事が無かったものでね。まあ故国にも海はあるわけだが、そんな遠くまで行ったこともなかったしね。トスモ湖周辺くらいしか知らないんだ」

そう言ったサキはエルザをかえりみる。

「エルザはポトロックでゴーレムボートレースに出たって言ってたね」

「うん。あの時は楽しかった。ライ兄の船とローレライで、私が操縦して。……でも、ジン兄のチームに負けたけど」

懐かしそうな顔で話すエルザ。仁もポトロックを思い出す。ラインハルトもそうだったらしく、

「ああ、懐かしいな。思えば、あの競技が無ければ、ジンと出会うことも無かったんだな」

と、海を見つめながら言った。

そうこうするうち、自動車は海辺近くに到着した。礼子達が乗る後続車もすぐに到着。

「ああ、なんだか匂うね。これが海の匂いなのかな?」

サキは小走りに浜辺へと駆けていく。アアルが後を追う。仁たちも少し遅れてそれに続いた。

「礼子、運転ご苦労さん」

歩きながら仁は礼子の頭を撫で、労う。礼子はいつも以上に嬉しそうだ。触覚が付加されたことで、より仁を身近に感じられるようになったからだろう。

「れーこさんにうんてんしていただけてうれしかったです」

ネオンもベルチェにそんな話をしている。同じくエドガーはエルザと何か話していた。

黒騎士(シュバルツリッター) ノワールはラインハルトの横を寡黙に歩んでいる。

先行していたサキは砂浜に足を踏み入れ……こけた。砂に足を取られたらしい。

「サキ様!」

サキの顔が砂に触れる一歩手前でアアルがサキを支えた。

「アアル、ありがとう。くふ、ちょっとはしゃぎすぎたようだね」

「おーい、サキ、大丈夫か!」

ラインハルトも心配して声を掛けた。サキは手を振って答える。

「ああ、ボクは大丈夫だよ。アアルが助けてくれたからね」

そして海を見つめるサキ。その顔は実に満足そうな笑みをたたえていた。

「うーん、聞いたとおり、水平線が丸いね。この世界ってやっぱり丸いんだね……」

仁もラインハルトも、サキもベルチェも、もちろんエルザも、この世界が丸いということを知っている。が、知っているのと実感するのはまた別だ。

「本当に丸いですわ……」

ベルチェも海を初めて見たらしく、感慨深げに呟いた。

「ああ、早く外輪船を作りたくなったよ」

工作馬鹿の面目躍如、ラインハルトが口にしたのはそんなセリフであった。