軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-24 サキとカイナ村

6月2日。仁とサキは、昼前にランドル伯爵邸を辞した。

「それじゃあラインハルト、また」

「ベルチェ嬢……じゃない、ランドル夫人、旦那様と仲良く」

「え、ええ」

言われて覿面に顔を赤くするベルチェ。仁は『ゆうべはおたのしみでしたね』と言いたいのを必死で堪えていたりする。

というわけで、仁とサキ、礼子、アアルは仁の馬車で移動である。

「ジン、今更だが、君の馬車は乗り心地がいいね。さすがだよ」

「本当に今更だな」

「面目ないと思っているんだから、そう言わないでくれ。前に乗せて貰った時は眼鏡が画期的すぎて、他の事に気が回らなかったんだよ。つまり君のせいでもあるんだ」

「屁理屈だな」

「くふ、そうとも言うね」

等という他愛ない話をしているうちにサキの家に着いた。

「それじゃあ、ボクはどうすればいいのかな?」

「ああ、手荷物だけ有ればいいよ。足りないものは作るか、取りに来ればいい」

「 転移門(ワープゲート) だっけ? 古代遺物(アーティファクト) をこの身で体感できるなんてわくわくするね」

サキははしゃいだ仕草でアアルと共に家の奥へ消えると、数分で戻ってきた。この早さの半分はアアルの手柄であろう。

そのアアルは黒い執事服を身に纏っている。サキはワイシャツ風のシャツに細身のズボンだ。汚れていないだけで普段の格好である。

仁は必要があれば向こうで何とでもなると思っているから別に気にしない。

「よし、行こうか」

仁はサキが仕度している間に、馬車を納屋の中へ入れておいた。入り口が小さくて入らなかったので、納屋の入り口を一旦壊して馬車を入れ、もう一度直したのは秘密だ。

「ふんふん、納屋に馬車を入れたのか。この納屋は使ってないというか入れる物が無いからちょうどいいね」

「スチュワード、馬車の管理は任せたぞ」

「はい、ご主人様」

そんな主従のやり取りを見たサキは、鋭い観察眼を見せる。

「このゴーレムも、見かけによらず高性能なんだろうね」

「まあな」

軽く仁は答え、馬車内部に設置した 転移門(ワープゲート) の扉を開いた。

「さあサキ、俺の手に掴まれ。礼子はアアルの手を引いてやれ」

「はい、お父さま」

「なるほど、ジンと同じ魔力パターンを持たないと利用できないと言っていたものね? ……しかし魔力とは何だろうね?」

錬金術師らしく、サキはそんなセリフを呟きながら、仁に手を引かれて 転移門(ワープゲート) をくぐった。

今回は特例として、中間基地を経由せずにカイナ村へ飛べるように調整してあるので、出た場所はシェルターである。

「ううむ、今のが転移かい! 何も感じなかった。なのにもう別の場所にいるとは!」

等と興奮していたが、やがてそれも収まり、周りを見る余裕が出たようだ。

「ほう、ここは?」

興味深そうなサキの声。中に人がいる事を感知して灯る魔導ランプのおかげで内部は明るい。

「カイナ村外れにあるシェルター……災害時の避難場所だよ」

「ふむ、地下に作った居住空間か。食料庫もあるようだし、なかなか考えられているね」

きょろきょろと周囲を見回していたサキは、シェルターの用途を分析している。

「さあ、外に出るぞ」

「うん。楽しみだね」

そして2人は外へ。

「おお!?」

まず目を惹くのは何と言っても目の前に聳える二堂城だろう。

「じ、ジン、この建物は?」

「ああ、俺の城、二堂城さ」

「お城なのか……」

「ああ。あとでゆっくり案内するから、まずは村へ行こう」

「う、うん」

二堂城が気になって時折振り返ったりしているので歩みが遅いサキを引きずるようにして、仁はカイナ村内に向かった。

カイナ村とバンネの時差は約3時間と少し。11時半過ぎに出たからこちらは午後3時前である。

村人はそろそろ仕事を終え、帰ってくる時間帯だ。

サキとアアル、そして礼子を引き連れて歩く仁を、目ざとく見つけたのは仕事帰りのロックだった。

「おっ、ジン、お帰り。そっちの人は?」

「ロックさん、ただいま。友達のサキさんですよ」

「サキです、よろしく」

「おう、俺はロック。よろしく」

他にも幾人かと会い、似たようなやり取りを交わす。そしてマーサ邸に着いた。

「あ、おにーちゃん、おかへりなさい」

ちょうど外にいたハンナが仁に気付いた。歯が抜けた状況に慣れたのか、発音が大分ましになっていた。

「ただいま、ハンナ」

「おきゃくさま?」

今度はサキが自分から挨拶する。

「こんにちは、初めまして。ボクはサキ。お嬢ちゃんはハンナちゃん、でいいのかな?」

「うん……じゃなくてはい、あたし、ハンナです」

「そう、よろしくね。……ジン、かわいい子だね。君の妹さんなのかい?」

にこやかにハンナと言葉を交わしたサキは仁に質問する。仁は笑って答えた。

「ああ。血は繋がってないけど。……そういう子がもう1人いるんだ」

「ふふ、そうかい、それは楽しみだ。早く紹介して欲しいね」

庭でそんな会話をしていると、声を聞きつけてエルザが顔を出した。

「ジン兄、帰ってたの? ……え? サキ、姉?」

「……エ、エルザ?」

サキとエルザは言葉を失った。お互いにこんな場所で出会うとは思っていなかったのだ。

「サキが言っていたように、ラインハルトと相談して、俺がエルザを匿っているんだよ」

仁の言葉に、サキがようやく反応した。

「そう、か。やっぱりね。……エルザ、久しぶりだねえ。大きくなった」

「サキ姉……!」

エルザはサキに駆け寄り、抱きついた。サキはそんなエルザを抱きしめ、頭を撫でる。

「済まない、エルザ。あのスケベ侯爵のせいで、隠れ住むことになってしまって」

「ううん、気にしないで。私はランドルの姓を捨てた。今はこの村で暮らすただのエルザ。母さまも一緒だから寂しくない」

「母さま?」

「うん。ミーネ母さま」

それを聞いたサキは納得がいった顔になる。

「そうか、ミーネがエルザの母さんだったのか。なんとなくそんな気もしていたが……」

ちょうどそこにミーネが戻ってきた。手には野菜の入った籠。

「サキ、様?」

「ミーネ! 久しぶり! 元気そうだね」

「本当に。旅に出る前にお会いして以来ですね。2年ぶりくらいでしょうか?」

「ああ、そのくらいかもね」

「さあ、立ち話もなんだから、続きは中でおやりよ」

庭が賑やかなので様子を見に出てきたマーサに、仁が事情を説明していたのである。

その言葉に従い、一同マーサの家へ。

ちょうどお湯が沸いたところということで、お茶の木、つまりペルヒャのお茶をマーサが淹れた。

お茶うけは干しワイリー。ワイリーは野生のイチゴで酸っぱいが、干すと甘みが出て食べやすくなる。

仁は一昨日出掛けてからのことを簡単に説明した。

「サキ姉は、故国で私がお世話になった人。錬金術師でいろいろな事を知っている」

エルザもサキについて紹介をする。

「ふふ、エルザ、そう言ってもらえるのは嬉しいが、ジンと出会ってしまってからは、自分がいかに未熟だったか思い知らされる毎日だよ」

そう言って眼鏡を外し、テーブルの上に置いた。

「これだってジンが作ってくれたんだ。眼鏡という。これをかけると、今までぼやけていた世界が良く見えるようになった。まったく、感謝してもしきれないよ」

「ジン兄はそういう人」

「うん、エルザはジンの妹分か。幸せそうで安心したよ」

ペルヒャのお茶を飲んだサキの注意は、エルザの斜め後ろに立つエドガーに向いた。

「ところでエルザ、その 自動人形(オートマタ) は?」

「ん? この子のこと? 私が初めて作った 自動人形(オートマタ) 。名前はエドガー」

「エドガーと申します、以後お見知りおきを」

それを聞いたサキは相当驚いたようだ。

「なんだって!? エルザが作った? エルザ、 魔法技術者(マギエンジニア) になったのか?」

「うん。ジン兄に教えてもらった」

その答えにサキは納得し、何度も頷いた。

「そうかそうか。そうだろうな。ジンが師匠なら、上達が早いのも頷けるというものだ」

「サキ姉の後ろの 自動人形(オートマタ) は?」

今度はエルザがアアルを見て尋ねた。

「ああ、この子はアアル。ジンとラインハルト、それにボクの3人で作った……とはいっても、ほとんどジンが作ったんだがね」

「アアルです、よろしくお願いいたします、エルザ様、皆様」

ミーネの後ろにはサラ、仁の傍らには礼子。そしてサキの従者アアル、エルザに付き従うエドガー。

兄妹、従姉妹、とでも言うべき 自動人形(オートマタ) とゴーレム。彼・彼女等も、通じ合うものがあるのか、目で挨拶を交わし、無言で語り合っているかのよう。

それはとても和やかな空間であった。