軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01-24 メイド

翌日の夜もまた研究所へと転移。仁は部屋を見回し、

「この広い研究所だ、礼子だけだと効率が悪いな」

仁がそう言うと礼子は、

「お母さまが存命中はメイドゴーレムが大勢いましたが、お亡くなりになってからは必要がないので停止させてしまいました」

「あ、ということは再起動させればいいのか?」

「そうです。確認されますか?」

そう言って礼子は地下の一室へ仁を案内した。

「ここです」

「うわっ……」

そこには20体ほどの女性型ゴーレムが横たわっていた。が、その大半は手脚のどこかが朽ちたり欠けたりしている。

「随分傷んでいるな」

自動人形(オートマタ) とは違い、ゴーレムは稼働して身体に魔力を循環させていないと劣化が早いのである。

「こりゃ新しく作った方が早いな」

「そうですね、管理が不行き届きで申し訳御座いません」

「まあいいよ。参考にするからそこの傷んでない1体を運び出してくれるか?」

「はい、おまかせ下さい」

礼子は通常でも成人男性の5倍の力がある。なのでゴーレムを軽々持ち上げて工房へと運んでいった。

「助かるよ。俺はなぜか鍛えてもちっとも筋肉が付かないからなあ」

何気なく仁がそう漏らすと礼子は、

「お父さま、自覚されていらっしゃらないのですか?」

不思議そうな顔で礼子がそう聞き返した。

「え?」

「お父さまのお身体はほとんどが魔力素で補完されているので、基本的に現在の状態が維持されるんです」

「ということは、いくら鍛えても筋肉付かないってことか?」

「はい」

「なんてこった……」

確かに、知識に照らし合わせて考えれば納得がいく。要するに仁の身体は魔力素の塊で出来ているようなものだ。

「あれ? だったらなんで喉が渇いたり腹が減ったりするんだ?」

「身体の機能は元のままですから、普通に水や栄養は必要とします」

「ああ、そうか。……あれ? そうすると、肉体強化系の魔法は?」

工学魔法の中に、肉体強化系のものもある。大きな物を作製する際には力が必要な事もあるのだ。

「お父さまの場合、あまり意味ありませんね」

「だよな」

確かに、カイナ村で肉体強化魔法を使ってみたことがあったが、本来の意味で言う肉体ではない仁にはほとんど効果が無かったので、自分には使えないんだと思い込んでいた仁である。

「魔力で身体を強化するよりも、体内の魔力を活性化させた方が遙かに効率がよいと思われます」

こういう発想は、まだ魔法というものに慣れていない仁には難しいものだ。

「なるほど、体内魔力の活性化、か。そんな魔法は無かったよな?」

「はい。でも、お母さまはいくつも新しい工学魔法を作り出されましたから、お父さまにも出来るかと」

「そう、か。まあ、ぼちぼちやってみるか。まずはこのゴーレムだ」

目の前の事から順に片付けようと、ゴーレムに意識を戻す仁。

「材料は……もしかして 真鍮(ブラス) か?」

「はい。作業用にはちょうど良いとお母さまもおっしゃってました」

錆びて黒くなり、ところどころに 緑青(ろくしょう) が浮いているゴーレムを見て、 分析(アナライズ) せずに仁は判断した。

「うーん、真鍮か。俺はどっちかといったら白銅のほうがいいと思うんだがな」

「白銅? それはどんなものですか?」

仁の言葉に、礼子が質問をする。礼子に仁の知識を転写した際に、全てを転写することは出来なかったので当然の疑問だ。

「白銅ってのは銅とニッケルの合金さ。真鍮より耐食性があって軟らかいから動きが自然になると思う」

50円玉、100円玉が白銅である。(新500円玉はニッケル黄銅)

「ニッケルですか? それはどういう?」

これもまた、礼子は知らない。つまり、先代も知らないということである。あるいは、礼子の失われた記憶領域にあった知識かもしれない。

「あれ? この前倉庫にいっぱい積んであったぞ?」

仁はそう言って、礼子を引き連れて地下倉庫へ。

「たしかここだ」

そこには銀灰色の金属インゴットが山になっていた。

「それがニッケル、ですか。それは確か、砒素を分離したあとに残った金属です」

「砒素って……こええな」

砒素は置いておき、隣に積まれたニッケルを運んでもらう。もちろん銅も一緒に。

「銅75、ニッケル25で混ぜる」

融合(フュージョン) で合金を作る。赤い銅の色が白銀色に変わった。

「これが白銅ですか。確かに、白い銅ですね」

黄銅(真鍮)は銅60もしくは70に亜鉛40もしくは30。それで赤い銅が黄色い黄銅(真鍮)になるのだが、ニッケルの場合は10パーセント程度でも白っぽくなるのだ。

「これを材料に使い、ゴーレムを作ろう」

ゴーレムと 自動人形(オートマタ) の1番の違いはその構造である。 自動人形(オートマタ) は人間程でなくても、骨格や皮膚を持つのに対し、ゴーレムは基本、素材と核で出来ている。

だが先代の 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィはそんな単純なゴーレムは作らなかった。

「目にも 魔結晶(マギクリスタル) を使っていたよな」

「はい、お母さまは色を変えて楽しまれていました」

帯びる魔法の属性で 魔結晶(マギクリスタル) の色は変わる。以前礼子を作り直した時の仁はまだ意識しなかったが。

「よし、それじゃあ赤、青、緑、黄、紫あたりでどうだろう?」

「いいと思います。早速取ってまいります」

赤は火属性が強く、青は水属性。緑は風属性で、黄色は土属性だ。そして紫は雷属性、となる。

仁は元のゴーレムを参考に、5体の身体を白銅で作り上げる。内部は中空で、補強のための 小骨(リブ) が入っている。顔とかのデザインは壊滅的に駄目な仁なので、元のゴーレムとそっくり同じにしてある。目の色や服で区別するつもりだ。

「お父さま、お待たせしました。目に使うのにちょうど良い大きさのものがなかなか見つからなくて時間が掛かってしまいました」

「ちょうどこっちも身体が出来たところだ」

5体の白銅ゴーレムに目を入れていく。もちろん 魔導式(マギフォーミュラ) を刻み込んだ後でだ。

「よし、後はゴーレムの核だな」

ゴーレムは核に刻まれた 魔導式(マギフォーミュラ) に沿って、同じく核に込められた魔力で動くのだが、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは更に 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) も組み込み、半永久的に動くゴーレムを開発していた(ゴンとゲンやゴーレム馬もこの2つを持っている)。

核は乳白色の 魔結晶(マギクリスタル) 。全属性である。礼子に使った虹色は全属性の高位結晶で、乳白色は劣化バージョンである。とはいえ1個で屋敷が建つ程の価値があるのだが。

他にも細々した改良を施していく。一晩に3時間程度ではその夜のうちに完成することは無理なので、昼間はカイナ村で仕事をしたり遊んだり、そして夜は約3時間研究所に戻って制作。こうして何日かかけてメイドゴーレムを作り上げていった。

5日目の晩。

「これで完成ですね」

礼子がそう言うと仁は、

「いや、まだだ」

「え?」

「やっぱり服を着ていないと見ているこっちが落ち着かない」

仁がそう言うと、礼子は眉根を寄せ、

「お父さま、もしかしてわたくしに飽きられたのですか?」

ハンナの影響か、なんとなく感情が豊かになって来ている気もする仁。

「なんでそうなるんだ……ただ単に見た目の問題だよ」

「そうですか、安心しました」

そう言って、服の材料を取りに走る礼子、その後ろ姿を見ながら仁はぽつりと、

「ヤンデレにはならないでくれよ……」

簡単な下着、黒いワンピース、白いエプロンドレス。それにメイドの象徴とも言えるホワイトブリム(頭飾り)。仁がまず1つ作り、礼子がそれと同じものを作っていくことで5人分はすぐに完成した。

「ふう、やっとできた」

「お疲れ様です、お父さま」

「よし、それじゃあ『起動』」

5体のメイドゴーレムが起き上がった。

「はじめまして、御主人様」

5体が揃ってお辞儀をする。

「よし、それじゃあお前達の名前は……そうだな、ルビー、アクア、トパズ、ペリド、アメズだ」

それぞれの瞳の色に合わせてそう命名する。仁にしてはまあ許容範囲だろう。

「礼子、俺は帰って寝るけど、お前はもう少しここに残って彼女等に仕事を教えたり分担させたりしてくれ」

「はい、お父さま」

「よろしくお願いいたします、お嬢様」

仁の魔力に無条件服従する彼女等ゴーレムは、同じ魔力の波動を感じる礼子を上位存在と認識する。

とにかくこれで研究所の人手不足は少し解消され、室内の整備が進むこととなったのである。