軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-19 コーディネイト

仁はショウロ皇国、バンネ郊外にある森、そこに隠した馬車に転移した。

「スチュワード、変わりはなかったか?」

「はい、ご主人様」

馬車と、それを守るスチュワードは、仁がここを離れたときと同じ状態でそこにあった。

「さて、じゃあ行くか」

礼子とスチュワードが協力して、馬車に掛けられた擬装をどかしたので、1分弱で馬車は出発。2日前に来た道を今日は戻っていく。

サキの家の前に着いたとき、そこにはサキその人が待っていた。

「やあ、ジンお帰り。時間厳守だね」

庭の日時計を見てサキは言った。初夏の日は傾いてはいてもまだ十分明るい。

「今帰ったよ」

「まったく、良く見えると言うのはいいものだね。本当にジンには感謝だよ」

眼鏡の位置をちょっと直しながらサキが言った。

「ああ、役に立っているようで何よりだ」

仁は馬車から自分の荷物を出しながらサキの言葉に返事を返した。

その仁に続いて、礼子も降りてきた。エルザから託されたマスコット人形を抱えて。厳重な梱包のため、少々嵩張っている。

「ほう、それがジンの贈り物かい?」

礼子が抱えた荷物を見たサキが興味深そうに尋ねるが、仁はかぶりを振った。

「いや、これはエル……知り合いから頼まれた贈り物さ」

「エル? エルって誰だい? ジン、もしや……」

「あ、ああ」

仁は、サキもカイナ村に招待しようかと考えてはいた。

まだ出会ってから数日しか経っていないが、竹を割ったような気性は好感が持てる。

それに、政治的な興味は無く、実家であるテオデリック侯爵家とは距離を置きたがっている。立場としてはエルザとちょっと似ていた。

研究熱心だから、蓬莱島にもいずれ連れて行ってもいい人材でもある。

心を決めた仁は、

「大体お察しの通りだと思うが、もう少ししたらちゃんと説明する。今は深く聞かないで欲しい」

ただ念を押すに留めた。

「くふふ、わかったよ、ジン。彼女の事情はボクも聞いて知っているしね。……あの変態ジジイときたらまったく」

自分の祖父とはいえ侯爵をジジイ呼ばわりするサキであった。

サキの家に入った仁は、中がすっかりきれいになっていることに気がついた。

「おかげさまでね。アアルが全部やってくれたよ」

自動人形(オートマタ) アアルは、5色ゴーレムメイドと同じ技能を持っている。短期間でこれだけのことが出来ても不思議ではない。

「それは良かった。作った甲斐があったというものだ」

そこへ、そのアアルがやってきた。

「お帰りなさいませ、ジン様。サキ様、お食事の仕度が調っております」

「こうやって三度三度、ちゃんと食事の仕度をして貰えるというのはいいものだね。食材はラインハルトが分けてくれたからたっぷりあるし、当分飢えずに済みそうだ」

「いや、ちゃんと家計を管理すればそんなことはないと思うぞ……」

食堂へ向かって歩きながら仁が呆れたように言う。

「まあ、これからはアアルにやってもらうさ」

堂々と言い切るサキも大概である。仁は諦めたように溜め息をついた。

「ああそうだ、サキ、この贈り物だけど、明日までどこかに置かせてもらえないかな?」

「ん? そうだね、じゃあ今夜ジンに使ってもらおうと思っている客間がいいだろう」

そこで仁と礼子はその部屋に荷物を置いた。ここもきれいに片付いていた。

夕食は、仁が蓬莱島で食べていたような献立。

大麦の粥、野菜と肉のスープ、川魚の塩焼き、それにフルーツサラダ。

それらを食べながら、サキは笑って仁に尋ねた。

「はは、アアルの作る料理は美味しいね。ジン、これって、ジンが教育した結果なのかい?」

「ああ、そうさ。こういう知識は蓄えられるものだからな」

「ふむふむ、アアルの製作工程は拝見した。やはりその、何と言ったか……そうだ、『 制御核(コントロールコア) 』と言ったか、それが鍵なんだろう?」

一度見ただけで、サキは 自動人形(オートマタ) 製作の概念は把握したようだ。

それから食事のあと、そして寝るまで、仁とサキは 自動人形(オートマタ) の概念について話し合っていた。

「お父さま、明日は何時に起きますか?」

寝る前、礼子が確認するように尋ねた。

「ああ。6時に起こしてくれ」

仁は礼子に指示すると、布団に身体を横たえた。

目を閉じながら、サキが言っていた言葉を思い起こす。

『小さい……子供という意味じゃないよ? そう、それこそ掌に乗るような 自動人形(オートマタ) って言うのは作れないのかい?』

その言葉は、仁に、自分も先入観に囚われていたな、と反省させるに十分であった。

(文字通り動く人形か。面白そうだな)

そんなことを考えていた仁はいつしか眠りに落ちていったのである。

* * *

翌朝6時に礼子によって起こされた仁は、そっと外に出てみた。

そこには予定通り、梱包された布団とベッドが、荷車に乗せて置いてある。

いきなりラインハルト邸へ送りつけると騒ぎになりそうなのでこちらに運ばせたのだ。

荷車は仁も指定していなかった。老君の配慮である。

「お父さま、昨日の夜遅く、ファルコン3が運んできました」

礼子が報告した。

「うん、そうか。これで準備は調ったな」

仁は空を見上げた。今日もいい天気になりそうである。

ラインハルト邸へ向かうのは9時を予定している。7時半、アアルに起こされたサキが眠そうな目を擦りながら起きてきた。

髪はぼさぼさ。ベルチェに整えてもらった時が嘘のようだ。

「おはよう、ジン」

「おはよう」

サキはアアルが汲んでくれた水で顔を洗った。それで完全に目も覚めたようだが、髪が酷い。

「サキ、今日はラインハルトの結婚式なんだから、ちゃんとした格好しろよ?」

さすがに仁もそんな言葉が口をついて出る。

「ああ、わかってるって」

アアルが用意してくれた朝食を食べ、仁は着替えることにした。

一応、エゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) として出席するつもりだ。

ズボンは黒く染めた 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸製。これなら薄手なので、初夏の今でも涼しい。

仕度を整え終わったのが8時半。サキはどうしているかと様子を見に行くと、ドアを開け放ったままであれこれやっていた。

別に下着姿とかそう言うことではないが、仁としては部屋に足を踏み入れるのは躊躇われる。それで礼子に言って様子を伺わせることにした。

「おやレーコちゃん、どうしたんだい?」

「サキさんが仕度に手間取っているのではないかと、お父さまが私を寄越したんです」

「ああ、それはありがたい。ねえ、どんな格好していけばいいんだろうね?」

サキは洋服ダンスを開け、中に掛かっているドレスを指し示しながら尋ねた。さすがにアアルにも助言できなかったようだ。

「そうですね、サキさんの髪の色が赤茶色ですから、それに合う色と言いますと、ラベンダー系の落ち着いた色がいいのではないでしょうか」

礼子に女の子らしさを付けようと仁が尽力した結果のセリフである。一番苦労したのは仁ではなくそういう情報を仕入れてきてくれた 第5列(クインタ) であるが。

「らべんだー?」

その単語は仁由来なのでサキには通じなかった。中途半端である。

「ええと、明るい青紫色ですね」

「ふむふむ。……これ、か。……」

洋服ダンスの中に、そう言う色のドレスがあるにはあったのだが、サキはそれを手に取るのをちょっと躊躇っていた。

「どうされました?」

「……いや、このドレス、ちょっといわく付きというか、祖父がくれた服だからと言うか」

サキは祖父、テオデリック侯爵に対し、あまり良い感情を持っていないのである。

「でも、服に罪はありません。拘りはサキさんの気持ちの問題でしょう?」

「……なるほど、ボクの気持ち、ね。レーコちゃん、ありがとう。それじゃあこれを着ることにしよう」