軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-15 塵も積もれば山となる

翌日29日も仁とエルザは朝食後、蓬莱島へ跳んだ。

城へ顔を出さない主人ってどうなんだろう、と言う思いが一瞬仁の頭を掠めたが、そんな気持ちも研究所に着いたときにはどこかへ飛んでいってしまった。

「さて、昨日の続きだ。エルザ、何かわからない事はあるかい?」

「うん、やり方は昨日、だいたいわかった。あとは、素材に何を使えばいいか、教えてほしい」

マスコットに使う素材。ここ蓬莱島ならなんでもあるために、かえって決めづらいようだ。

「 自動人形(オートマタ) と同じ構造にしてみるといい」

「え?」

仁は、簡単な骨格の上に、中綿に 魔綿(まわた) を入れて、外側には 魔絹(マギシルク) で被覆すればいい、と教えた。

「ぬいぐるみ、っていう人形があってな。それに近いけど、骨格を入れることで、いろいろなポーズを取らせることができるぞ」

イメージとしては3分の1スケールのドールである。

「面白そう。ポーズが付けられるというのは斬新」

どうやら、この世界のドールはそこまでいっていなかったようだ。

骨格用に軽銀を出してやり、仁は暫くエルザの作るところを見ているつもり。

「頭身を考えた方がいいな」

「頭身……ああ、わかった」

知識転写(トランスインフォ) で得た知識は、一朝一夕で使いこなせるものではない。それは仁も通った道だ。

最初は頭の中に本がある感じで、ページをめくるのに時間がかかる。だが、一度使った知識は、次からはスムーズに使えるようになる。

エルザも同じで、仁に言われて初めて気が付く、の繰り返し。

経験者の仁は、上手くリードしてエルザの知識を引き出していった。

「4頭身から5頭身がいいと思う」

エルザも構想をまとめたらしい。

「関節は首、肩、肘、手首、腰、股、膝、足首にしたい」

「ああ、いいんじゃないか?」

「え……と、ぼーるじょいんと? にすればいいと思う」

仁はそれにも頷く。実は、これはゴーレムや 自動人形(オートマタ) を作るための予行演習みたいなものだ。

「身長は130センチくらいとして、3分の1だから……45センチにする」

部屋に飾る人形としては妥当な大きさだろう。

仁は頷いて、先を続けさせる。

「骨格は……これくらい。『 変形(フォーミング) 』」

「おお、上手くなったな」

エルザは一度でマスコットの骨格、その基本形を整形した。関節などはまだ無いが、頭部と四肢が揃っているのは上達を感じさせた。

「ほんと? 嬉しい」

エルザは微笑み、更に加工を続けていく。

「『 変形(フォーミング) 』。『 変形(フォーミング) 』。『 変形(フォーミング) 』」

関節ができ、指や足先の形が整っていく。仁は黙って頷いた。

「これに、中綿を取り付けていく。……それは少し手でやりたい」

別に全てを魔法で行う必要は無い。仁はそれも肯定した。

このように、仁に見守られて、わずか30分ほどでエルザは人形の基本形を作り上げたのである。

3分の1サイズとはいえ、これは驚異的と言ってもいい早さだ。作りたいものがしっかりとイメージできているからこそである。

「あとは目や髪の毛、それに服だな」

これは好みなので仁の出番は無い。

「……それじゃあ、俺は俺のやることやりに行くから、何かあったら呼んでくれ」

仁はそう言って礼子を連れ、2階の研究室へ向かった。

「礼子、どんな具合だ?」

仁はさっそく、礼子に組み込んだ『触覚付与装置』の調子を尋ねた。

「はい、仰る通り、動作には影響ありませんでした。そして、確かに『触覚』を感じられますが、なんといいますか、反応が鈍いというか、遅れる感じがします」

「そうか……」

感覚が遅れるというのは高速動作する上では致命的である。仁はその原因を考えた。

一つは、初めて組み上げた 魔法制御の流れ(マギシークエンス) だろう。まだまだ効率化の余地はあるというわけだ。

「あとは……やっぱりクロックアップ、かなあ」

魔法外皮(マジカルスキン) の反応は即時的であるから、知覚が遅れるというのは、読み取りと認識に時間がかかっているからだろう、と仁は結論した。

「うーん、今のところ、効率上げても倍がいいところだろうなあ」

魔法制御の流れ(マギシークエンス) を見直しながら仁は呟いた。『アアル』のように、人間と大差ない動作速度ならまったく問題は無い。

だが、礼子はいざとなれば人間の100倍近い速度を出すこともあるのだ。

「何か、効果的な速度アップの方法はないものか……」

仁は腕を組んで考え込んだ。

考えて、考えて、考えた結果。

「少しずつやっていこう」

が結論となった。つまり、一つのことで全部を解決するのではなく、『塵も積もれば山となる』の精神で、システムの各部分を高速化していき、結果的に全体の更なる高速化を目指すと言うことだ。

「まずは魔力伝達速度か」

今まであまり気にしなかったが、 魔結晶(マギクリスタル) の中を魔力が伝わる速度というのはどのくらいなのであろうか、と仁は自問した。

電子回路なら電気が伝わる速度すなわち電磁波の速度はほぼ光速……だったと思う、と仁は思い起こしていた。

音波は、媒質で速度が変わる。光も同じ。なら、魔力は?

その答えは『媒質で速度が変わる』。これは、魔力と同系統の 魔結晶(マギクリスタル) で魔力が若干偏向されるという現象が過去から観察されていると言う事実があったからだ。

プリズムと同じである。光は密度(より正確には屈折率)の高い物質中では速度が遅くなるということだ。魔力も同じらしい。

「と、いうことは、 魔結晶(マギクリスタル) によって変わるんだろうな……」

そう考えたとき、仁はサキの顔を思い出した。サキなら、こういう問題に取り組んだとき、どう考えるであろうか。

「……いずれ、蓬莱島に連れてくることもあり得るな」

思わず口から付いて出た言葉に、礼子が反応した。

「お父さま、それはサキさんのことでしょうか?」

「あ、ああ。聞いてたのか」

「はい。……サキさんは、ちょっとだけ、お母さまと同じような考え方をなさるときがあります。お父さまの研究に役立ってくれるかもしれません」

何と、意外なことを言い出す礼子。

「そ、そうなのか。……そうしたら、エルザも会いたがっていたし、近いうちに連れてくるかな……まあまずは崑崙島へ、だろうけどな」

「はい、それがいいでしょう」

サキの事は今は置いておくとして、処理速度向上のアイデア考案に戻る仁。

「 魔結晶(マギクリスタル) といえば、エルラドライトはどうなんだろうな?」

まだまだ謎の多い鉱石である。その効果は魔法や魔力の増幅と言われているが、それは正確ではない。

何も無いところから有は生み出せない。

「入って来た魔力を、そばにある魔力で増幅する、と言った方がいいんだろうな」

周囲の 魔力素(マナ) を使って(最も利用しやすいのは魔法を発した本人の 魔力素(マナ) である)、1の力しかない魔法を10から20にする。それがエルラドライトの特性である。

魔導士本人の実力以上の魔法を使えるということではなく、あくまでも効果を増幅するのだ。

「そうか!」

突然仁の頭にひらめくものがあった。

「触覚センサーで発生した魔力をエルラドライトの増幅効果で高めたら、もっと知覚しやすくなるんじゃないか?」

思いついたらさっそくやってみる仁である。

礼子の身体に装着した『触覚付与装置』を取り出し、知覚する前段階にエルラドライトを組み込んでみる。

効果を見るためなので、他の改造は一切しない。そう言うことをすると、どれが効果を上げたのかわからなくなるからだ。

「さて、礼子、今度はどうだ?」

再起動した礼子は、そこにあった工具や 魔結晶(マギクリスタル) を掴んだり持ち上げたりしてみて、

「お父さま、すごいです。ずっとはっきりしています」

と言って、大きな効果があったことを告げたのである。微小すぎて読み取りに時間がかかっていたのが解消されたと言うことだろう。

「そうか! 今、大体10倍に増幅しているんだが、十分そうか?」

「そうですね、あと一歩で、フルパワー時にも違和感が無いのではないかと思われます。試してみましょうか?」

礼子の答えに満足する仁。

「いや、今はいい。それじゃあ、また外すぞ。そして、 魔法制御の流れ(マギシークエンス) を見直す。そうすれば……」

総合的に見て、フルパワー時の礼子にも対応できるのではないか。

仁は期待を膨らませたのである。