軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-02 ラインハルトの実家にて

「礼子が走らせていた船というと……ああ、外輪船か」

港町ポトロックで仁が急造した推進器である。オールの代わりに外輪を取り付けたものだ。

左右を独立させ、ゴーレムに漕がせることで、舵も必要としない。

「そう、その外輪船だ。……帰ったら僕なりに作ってみたいんだ。いいだろうか?」

さすがラインハルト、家に帰るなり 魔法工作(マギクラフト) を始めたがるとは、と仁は半ば感心、半ば呆れた。

「もちろんかまわないさ。……だが、いいのか? ベルチェさんの事は?」

仁がそう言うとラインハルトは笑った。

「ベルのことなら気遣いはいらない。僕がこういう男だと知ってなお好きになってくれたんだから」

何のことはない、惚気だった。

「ああそうかい、ごちそうさま」

仁も苦笑してそう言い捨てたのである。

* * *

翌日22日。仁たち一行は、朝9時にコジュを出発し、対岸のバンネへ向かう。

ラインハルトが言ったとおり、幅広の浅底船だ。

そんな浅底船が3隻、数珠つなぎになって、先頭を行く、馬車を積んだ大型船に曳航されている。

速度はおおよそ時速6〜7キロ。3時間ほどの船旅となる。

乗っているのは仁、ラインハルト、礼子。そしてラインハルトの執事、クロードの4人。侍女のベスとドリーはラインハルトが許可し、とっくの昔に故郷バンネへ帰っていた。

「バンネは僕の実家、ランドル伯爵領の中心をなす地方都市だ」

船の上でラインハルトが仁に説明している。

「ジンはクライン王国の税制は知っているらしいな? 僕も、クライン王国は行ったことはないが、外交官としてあらましは知っている」

そうラインハルトは前置きをしてから説明を始めた。

「我がショウロ皇国は、幾つかの領地に分けられ、それぞれが独立して統治されている」

なるほど、地方分権か、とそれを聞いた仁は思った。

「基本的に税は領主に納められる。そして更に各領主が、一定の税を国に納めているんだ。もちろん国の直轄地もある。主な街道沿いなんかはそれだな」

地方分権にも、その反対の中央集権にもメリット・デメリットは存在する。傾向として小さな国は中央集権、広い国は地方分権になる傾向が高いようだ。少なくともこの世界では、と仁は、訪れた国を思い返していた。

「うちの領地は当然我が父、ヴォルフガング・ランドル・フォン・モルガンが統治している。その中に、エルザの父上であり僕の叔父上であるゲオルグ・ランドル・フォン・アンバーが小領地として、エキシという町を治めている。……エルザの実家があるところだ」

「エルザの……そうか」

領地を持たない貴族は、ショウロ皇国にも多い。そのほとんどは本家が統括する領地内に町を1つ程度もらってそこを小領地として治めていた。

「ちなみに、西隣がテオデリック侯爵領で、マテウスの家はその侯爵領でサギナとマハハマという2つの町を治めているんだ」

なかなか複雑である。仁はあらましを頭に入れ、将来への予備知識とした。

そんな会話の合間に、湖上からの風景を楽しみつつ、船は対岸へ近付いていく。

ショウロ皇国のこのあたりは大らかな平原で、北方に向かって緩やかにせり上がる起伏があるだけ。

湖を渡る5月の風は暑くもなく寒くもなく、さざ波の立つ水面を、船は滑るように進んでいった。

半分以上を過ぎた頃、対岸から近付いてくる船があった。今仁たちが乗っているものより一回りくらい大きい浅底船だ。

「あれは……」

「ラインハルトさまー!」

ラインハルトの婚約者、ベルチェであった。

「こちらのほうが乗り心地よろしいでしょう?」

今、ラインハルトと仁、そして礼子は、ベルチェが乗ってきた浅底船に乗り移っていた。荷物もあるので執事のクロードはそのまま残っている。

「ちょうどお昼ですから、用意もしてきましたのよ」

そう言ってベルチェは同乗している彼女の 自動人形(オートマタ) 、『ネオン』に命じて昼食の準備をさせていった。

食べやすいように小さく切られたパン、いろいろな果物のジャム。水筒に入れられたフルーツジュースは氷の魔法で冷やされている。

干し肉を炙ったものは、まだ調理して時間が経っていないように、温かさを保っていた。

そしてトスモ湖特産のピンクトロモンの塩焼きが出てきた。

どれも一流の味付けで、仁とラインハルトは満足したのである。

一同が食べている間、礼子は暇である。そこでネオンは礼子のそばににじり寄っていき、頭を下げた。

「れーこさん、ごきげんよろしゅう。わたくしのことおぼえていてくださいますでしょうか?」

「……ネオンさん、でしたね」

「はい、そうでございます。うれしいです、れーこさんにおぼえていていただけて」

「…………」

以前、リアレの町で言っていたように、ネオンは礼子と仲良くなりたいらしい。しきりに礼子の気を引こうと話しかけているが、礼子は当たり障りのない返事であしらっていた。

そのうちに食事も終わる。ネオンは片付けを始めた。礼子も手伝ってやることにした。

「れーこさん、ありがとうございます」

礼を述べるネオン。ベルチェは仁とラインハルトに会釈し、

「おそまつさまでしたわ」

とにこやかに言った。

その頃になると、対岸のバンネが近くなっていた。広い堀割が内陸まで続いている。

どうやらここも外壁でなく堀割で外敵を防ぐタイプの都市のようである。

堀割に入り、進むこと20分ほどで、一行を乗せた船は港に着いた。

「ラインハルト様、今日はお父上さまをはじめ、お兄さま方も皆様お集まりですのよ」

桟橋に船を寄せながら、ベルチェはラインハルトにそう言った。

「ああ、そうなのか。父上や兄上にもずっとお会いしてないからな」

船は桟橋に接舷。ラインハルトはいち早く上陸すると、ベルチェに手を差し出した。

ベルチェは微笑むとその手を取り、ラインハルトの横に上陸したのである。

それを見ていた礼子は仁に先んじて上陸し、手をさしのべたが、仁は何か違う、と首をかしげながらも礼子に引っ張り上げてもらうのであった。

港にはランドル伯爵家の馬車がすでに待ち構えており、仁と礼子はラインハルトとベルチェと一緒の大型馬車に乗り込んだ。

ベルチェが用意した浅底船の船足は速かったので、荷物や馬車を積んだ大型船はまだ到着していない。そういった荷物類や仁の馬車はランドル家が責任を持って届けるそうである。

港からは舗装された石畳の道を走ること15分、領主の館が見えてきた。

3階建て、がっしりした石造りの館だ。規模はロイザートにある 宮城(きゅうじょう) の3分の1くらいか。

両脇に尖塔が建っているところが大きく異なるが、他の部分は良く似ていた。

「ああ、久しぶりだな!」

久しぶりの我が家に歓喜するラインハルトを見て、ベルチェも微笑んでいた。

* * *

その夜はラインハルトの帰郷祝い、そして無事外交官としての務めを果たした祝い。更に客人である仁の歓迎会ということでいやが上にも盛り上がった。

仁はラインハルトの家に着いたときから、侍女・執事に世話をされ、辟易していたのだが、ラインハルトから『今夜だけ』と言われていたので我慢していた。

「ラインハルト、外交官としての務め、ご苦労だった」

そう言って乾杯の音頭を取ったのは彼の父、ヴォルフガング・ランドル。グレイの髪と目、というラインハルトに良く似た髪色、目の色だが、がっしりした体形は似ていない。

「セルロア王国におけるお前の 黒騎士(シュバルツリッター) の活躍、そしてエリアス王国でのローレライの活躍、耳にしているぞ」

そう言ったのはラインハルトの兄で、長男のレオンハルト・ランドル。父親にそっくりである。

「ジン殿、貴殿のことも聞き及んでおります。堅苦しいことはお嫌いでしょうが、今夜だけはお付き合い下さい」

仁にそう声をかけたのは次男のウィルハルト・ランドル。こちらはプラチナブロンドに青い眼で、母親似のようだ。

無口だが、ラインハルトの肩を頼もしげに叩いているのは3男のエルハルト・ランドルらしい。こちらは髪は母親似のブロンドで、目は父親譲りのグレイである。

当のラインハルトはベルチェを横に侍らせ、いちいち彼等に受け答えしていた。

仁はラインハルトの正面にいたのでそれらの様子が良く見えたのである。

「……家族、か。いいもんだな」

孤児院出身の仁には、普通の家庭というものがよくわからない。彼にとっての家族は、母親であり時には父親役もしてくれる院長先生と、年少の子供たちであったから。

「ジンさん、そうお呼びしてよろしいかしら?」

「あ、はい」

仁のそばにやってきたのは背が高く、出る所は出、くびれるところはくびれた美人。……ラインハルトの母親である。

「イゾルデ・ランドル・フォン・ターフルです。よろしくね」

「は、はい、こちらこそ、よろしくお願いいたします」

纏っている柔らかな雰囲気、そしてプロポーション。おそらくラインハルトの理想はこの母親なのではないだろうか、と仁は思った。

「旅の間、息子が世話になったそうね。あらためてお礼を言わせてもらうわね」

「いえ、お……私も、彼には随分とお世話になりましたから」

「うふふふ、あの子、ジンさんのことになると、それこそ自分の事のように喜々とした顔で話すのよ。そんなお友だちって今までいなかったわ。これからも仲良くしてやってちょうだいね」

「はい、それはもちろん。むしろこちらからお願いします」

「あらあら、嬉しいこと」

ラインハルトの母、イゾルデは、それから二言三言仁と話すと、会釈して、夫であるヴォルフガングの元へと戻っていったのである。

その後はレオンハルト、ウィルハルト、エルハルトらが仁に挨拶しにやってきた。そして最後にやって来たのはラインハルトの父、ヴォルフガング。

「ジン殿、息子からいろいろ聞いている。私から言えることは1つ。これからも息子をよろしく頼む」

「はい、もちろんです」

豪快な中にも気遣いが見て取れる仕草に、仁はラインハルトの父親に好意を持ったのだった。いや、家族みんなに、と言った方が正しい。

その一方で、エルザの事が頭を掠めた仁であった。