作品タイトル不明
11-33 ついに見つけた!
錬金術関連の本を読んでいたら、あっと言う間に時間は過ぎ去り、昼になってしまったようだ。
「ジン君、ラインハルト、一緒にお昼をいただきましょう」
そう言って皇帝陛下がやって来た。
「あんまり期待しないでね」
そう言った昼食の献立は質素ながらもそれなりに出来が良い。質実剛健、と言えばいいか。
が、一番仁の目を惹いたのは、どうみてもお粥にしか見えない一皿であった。ただ黒っぽいが。
「……これは?」
仁が尋ねると、そばにいた料理長が説明する。
「 禾(のぎ) の実で作った粥でございます。お客様が興味を持たれている、と教えてくれた者がおりまして」
ああやっぱり、と仁は思う。一昨日、応接室で執事と話をしたので、おそらく彼からの情報であろう。
「いただきます」
食べ始めはやはり粥からである。一口食べた仁は、わずかな食感の違いを感じる。とろみが無いのだ。
米には違いない。形も細長くはない。仁にとって馴染みのある種類の米であった。
「いかがですか? お客様が興味を持たれていると聞きましたので、少量を調理してみましたが……」
食べながら仁は、外米の食べ方を連想した。確か、父親に反発する新聞記者が主人公の、料理マンガで読んだ憶えが。
「もしかして、煮汁を一回茹でこぼしてませんか?」
外米はそういう炊き方をすると書かれていた。
「はい、そうです。そうしないと、べたべたかどろどろになるのです」
そう聞いた仁は、 禾(のぎ) を食べる歴史について聞いてみることにした。
「この 禾(のぎ) を食べるようになったのはいつ頃からですか?」
「そうですね、発見されたのは100年くらい前で、食べるようになったのはここ20年くらいでしょうか? 元々は家畜用の作物だったのですが、試しに食べてみたら食料になったと言うことで……」
馬に食べさせると、成長が早いと言うことで、ショウロ皇国南部で栽培されはじめ、実った実が食べられるのではないかと誰かが食べてみたらそこそこ食料になりそうだった。
それで、実は人間、それ以外は馬に、という区分けで栽培されるようになったのが20年前くらいだ、と料理長は説明した。
「ふうん……」
日本では、稲は米を収穫するためのものであるから農薬を使う。ゆえに家畜飼料にされることはあまりなかったくらいは知っていた。が、仁の興味はそちらではなく、 禾(のぎ) の方である。
「もしよろしかったら、この後で 禾(のぎ) を見せていただけませんか? そして俺に調理させてもらえたら……」
仁がそう言い出したもので、料理長は少し困った顔で皇帝陛下を見た。その皇帝陛下は興味深そうな顔で肯いたものだから、料理長も了解せざるを得なかったのである。
かつてあまり食べられていなかったトポポ(ジャガイモ)で美味しい料理を作った事を知っているラインハルトは内心期待していた。
「これが 禾(のぎ) です」
「……やっぱり」
見せられたのは玄米。玄米は炊くのが難しい、と院長先生からも聞いていた仁は、まずこれを白米にする所から始めなければ、と思った。
それで精米方法を考えてみた。
基本は玄米同士をすり合わせたりぶつけたりして表面の膜つまり糠を除去するのだが、これを急ぐと摩擦熱で発熱してしまい、味が落ちるのである。
「まずはオーソドックスに行くか……」
ということで、少々味は落ちても、市販精米器くらいの品質で、と考える仁。いつも以上に真剣なのはやはりお米のご飯が懸かっているせいか。
「とにかく米同士を摺り合わせればいいんだよな……」
つまり容器の中で米を攪拌すればいいということになる。この時発熱を抑えればなお良し。
仁は、中くらいの樽を用意して貰い、その中に 禾(のぎ) を半分くらい入れ、蓋をした。
「礼子、この樽をシェイクしてくれ」
ここで礼子の出番である。
「はい、お父さま」
「!?」
見ていた者達……料理長とその部下達は、女の子にしか見えない礼子が、20キロ以上はあると思われる、 禾(のぎ) の入った樽を軽々持ち上げるのを見て驚愕した。
「よし、やれ。……『 冷却(クーリング) 』」
礼子が樽をシェイクするのに合わせ、温度を下げる工学魔法を掛ける仁。
およそ5分で一度止めさせ、中を見ると、中の 禾(のぎ) は玄米状態から、かなり白米に近づいていた。
「よし、あと5分だ」
同様に冷やしながらのシェイク。これにより、ほぼ白米となった 禾(のぎ) 。
「できた」
「おお? ジン殿、これは?」
「俺の故郷では白米、と言ってます。こうすると調理しやすくなるんですよ。……『 分別(クラッシー) 』」
そう言って、仁は米と糠を分離する。
「こっちの粉が米糠。これはこれで使い道がありますから捨てては駄目です」
糠漬けに使うのだ。
「さて、これが白米。これを調理してみましょう」
仁は料理長と協力しながら米を研ぐ。
玄米は糠が出ないから洗うのが楽だが、白米は糠を落とす必要があるわけだ。
そしてとりあえず白粥を作る事にした。いきなりご飯を炊くのは仁にとってもハードルが高かったのである。
「水を多めに入れて、蓋をして……」
お粥を作るのはそれほど難しくはない。米の8倍から10倍くらいの水で煮ればいいのである。
ご飯と違って、水を吸わせる必要は無く、強火で煮立たせ、煮立ったら弱火にし、焦げ付きを防ぐために一度か二度かき混ぜてやればよい。
病気の子に作ってやったのでお粥なら仁は作れるのである。
ガスレンジでないので火加減が難しかったが、1時間ほどで最初のお粥がなんとか出来上がった。
「さあ、試食して見て下さい」
仁はそう言って、料理長とラインハルト、そして自分の分を小皿に取り、ちょっとだけ塩を振りかけた。
猫舌の仁はふーふー吹いて少し冷ましてから口に入れたが、料理長はすぐに味見。その結果はといえば。
「おお、これはおいしいですな! ジン殿、良いことをお教えいただきありがとうございました!」
そう言って喜んだ。ラインハルトも同様。
「ジン、 禾(のぎ) がこんなにおいしくなるなんて知らなかったよ!」
そして仁自身もそれを口にし、
「……あああ、懐かしい味だ……」
と涙を流さんばかりに感動していた。礼子はそれを大急ぎで老君に知らせる。
(『礼子さん、 禾(のぎ) 、ですか。それこそが 御主人様(マイロード) の探しておられた稲なのですね』)
(「そのようです。その調理法は今連絡したとおりです。まだ別の調理法もあるようですが、分かり次第連絡します。それよりも稲を入手して、蓬莱島で栽培しましょう」)
(『もちろんです。最大級の優先度です。手の空いている 第5列(クインタ) を総動員して確保します。ショウロ皇国南部でしたね?』)
(「ええ。そちらは任せましたよ。私は料理法などをもっとお聞きしておきますから」)
「塩だけでもこれほど美味しく食べられるんですね」
「漬け物があるともっと美味しいですよ」
途中で食べた塩漬けでも美味しいだろう。だが。
「この糠で漬けて作った物を糠漬けと言います。それもまた美味しいんですよ」
仁はそう言って糠の使い方を示唆した。
「残念ながら糠漬けの作り方は詳しくないんですけど、毎日かき混ぜること、糠からは酸っぱい匂いが立ち上ること、かき混ぜないと傷んでしまって匂いが酷くなること、くらいは知っています」
そう言って仁は作り方を示唆するに留めた。実際、仁自身は糠味噌漬けを食べたことはあっても作った事はなかったのである。
「あとは、一回糠を炒った方がいいのかな……で、塩水で粘土くらいになるまで練ってやって」
聞きかじった知識も一応披露しておく。何が参考になるかわからないからだ。
概ね合っていれば、あとは料理のプロがなんとかするであろう。
同時に礼子から老君に情報が送られ、ペリドたちが手ぐすね引いて米がくるのを待ち構えたのはまた別の話。
「ジン殿、貴殿の郷土料理についてのご教授感謝します!」
夕方までいろいろ話をした後、料理長はそう言って仁に感謝の意を述べてくれたのであった。そして最後に、
「今夜の献立、ご期待下さいよ」
とも言ってくれたのである。
* * *
「ジン君、これ美味しいわ」
夕食も皇帝陛下と一緒であった。その皇帝陛下は白米のお粥に大満足。また、塩漬けであるが、浅漬けの漬け物も添えられていた。
味覚や好みが自分に近いのかな、と仁もなんとなく嬉しくなったのであった。
「この 禾(のぎ) 、いえ、『お米』、ちょっと手間はかかるけど、収穫量が多いという話なのよ。麦だけでなく、大いに奨励しましょう!」
確かに、米と麦では単位面積あたりの収穫量が米の方が多いと仁も聞いたことがあった。
また、仁は理由は知らないが、水稲は連作が可能な事実は知っている。それも説明した。
「ふうん、『水田』ね。わかったわ、担当者を決めて、そういう研究もさせましょう」
事は食糧事情の改善なので、大乗り気の皇帝陛下。時期的にもまだ間に合うので、仁も自分の知る限りの稲作についてを説明したのである。