軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-32 図書館

一方、仁はといえば。

老君がリシア達を密かに治療した日、つまり5月15日は、ショウロ皇国の宮城を案内してもらっていた。

案内役はラインハルトと……もう1人。

「ジン君、うちの図書室は、小群国にもないくらいに立派だと自負してるのよ」

ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ女皇帝であった。既に仁のことをジン君、と呼んでいる。何ともフランクな皇帝陛下ではある。

「…………」

今上陛下が同行しているのだから、どこでもフリーパスである。

衛兵も敬礼をして一行を通す。

図書室の最奥部、厳重に保護された資料庫も問題無く見せてもらえた。

「はい、どうぞ。私はこれから仕事があるからここにいられないけど、そうね、お昼までには戻ってくるわ。そうしたら一緒にお昼をいただきましょう」

「…………」

そう言うと、仁の返事も待たずに、女皇帝は資料庫を出ていったのである。

「…………」

「ふう……」

「ジン、何か言いたそうだな?」

先に口を開いたのはラインハルト。仁はそれを受けて返事を口にする。

「ああ。まさか、皇帝陛下自ら案内してくれるとは思わなかった……」

「はは、そういう方なんだよ」

「それにしても、異邦人のこの俺をそこまで信用してくれるのは嬉しいが、正直そんな甘いことでいいのか? って気にもなるぞ」

仁自身には他意はないが、もしも他の人間にも同じような接し方をしているとすると、非常に危険である。スパイやら暗殺者やら紛れ込む可能性だってあるのだから。

仁がそう言うと、ラインハルトは首を振った。

「その心配はあまりないんだ。というのも、陛下は話をした相手の本質を見抜けるんだ」

「何だって!?」

仁は驚いた。そんな能力があったら、支配者として最高ではないか。

「いや、あくまでも周囲の推測に過ぎないんだが」

と、ラインハルトは注釈を付け直した。

それはそうかもしれない。そんな能力もしくは特技があることを自らペラペラ他者に喋るとも思えない。

「ただ、今まで陛下が下した人物評価は間違ったことがないというのも事実だ」

「…………」

人を見る目がある人間は確かにいる。それを何倍か何十倍かしたような能力なのだろうか。もはや魔法と言うより超能力と言って良いのかも知れなかった。

が、心を読めるとかいうのとは本質的に違うらしい、とラインハルトは付け加える。それを聞いて仁は少し安心した。

昨日初めて皇帝陛下に拝謁したとき、孤児院の院長先生に似ている、等と思った事を読まれていたら堪らないからだ。それよりも仁が異世界の出身だという事を知られたらどうなるだろうか、と思う。

今のところ知っているのはラインハルトとエルザだけだ。

「なんとなく、信頼できそうな気もするんだけどな……」

それが仁の直感なのか、それとも院長先生の面影があるからなのか、今の仁にはまだわからなかった。

「お父さま、時間も限られています。読みたい本がありましたら、急いで読みませんと」

礼子の声に我に返る仁。

「ああ、そうだな。それじゃあ有り難く拝読させて貰うとするか」

そう呟いて仁は本棚の物色を開始した。

「過去の戦争の記録もあるんだな」

「ああ。この国だって内紛がなかった訳じゃない。紛争が多かったこともあったそうだ」

ラインハルトもショウロ皇国国民として、過去の歴史は知識として持っている。

仁は興味無かったが、礼子に読んでおいてくれと頼んでおいた。礼子なら仁の10倍以上の速度で読み、情報を老君に転送して記録しておいてもらえる。

他にも、各地の産物が載っている本や、植物・動物に関する本を礼子には読んでおいてもらう事になった。

そして仁が探していた本はと言えば。

「これ、か……」

ずっと前に崑崙島の温泉でラインハルトから聞いた話。

「ん? ……ああ、それか。いつか話したっけな」

それは世界の始まりについて書かれた本。いわば伝説である。

太陽の向こうにもう一つ世界があって、そこから人間の祖先がやってきた、と言う伝説。

セルロア王国では語り部に出会えなかったので、ここショウロ皇国でそういう記録が無いか期待していたのである。

「どれどれ…………ふうん……」

記録は数ページほどでしか無く、内容的にもそれほど詳しくはない。

ただ、太陽のちょうど反対側にもう一つ世界があること、そこはここよりもっと大きな世界であること。

そこから、選ばれた人間の祖先が、天翔る船に乗ってこの世界へとやって来て、人間の祖先になった、ということが簡潔に書かれていた。

ラインハルトから聞いた話より詳しいのは、『もっと大きな世界であること』と、『天翔る船に乗って』やって来たということくらいだ。

仁は内心、宇宙船でやって来た植民者の子孫がこの世界の人間なのかも知れない、と想像したのである。

地球では、世界の始まりというのは、造物主や巨人が世界を作った、とするものが多い。それがここでは別の世界からやって来た、という。

ある意味、信憑性が高いのかな、とも思う。そうすると、宇宙船……『天翔る船』も過去に存在したのかも知れない。

仁はそんな想像をしてみたが、礼子に服の裾を引かれて現実へと戻る。

「お父さま、仰った本は読み終わりました。あとはどうしますか?」

「うん、そうか。じゃあこの本を頼む」

その本も残りを礼子に読んでおいてもらう。

『天翔る船』にも興味はあったが、さすがの仁にも宇宙船を建造するほどの知識はない。一番の問題は真空中で航行する手段が無いことである。

「まあ、必要なものじゃないしな」

作ってみたい気はするが、あくまでも自分の趣味の範囲である。とりあえずは身近な事から、であろう。

仁は、限られた時間しか無いので、図書室・資料室の本を次々に見せて貰っていく。

魔法技術(マギエンジニアリング) についての本も多数あり、仁はそれらにざっと目を通した。大半は知っていることであったが、幾つか興味深い記述もあったのは収穫である。

宗教に関する本もあった。この世界が、宗教がほとんど普及していないのが気になっていた仁はざっと目を通して見る。

「……なるほど……」

要は、宗教関係者は、ほとんど例外なく高位の魔導士であった。故に保有魔力が一般人よりも数段多い。

そのために、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) で大半が死亡してしまったのである。

また、宗教関係者が多く死亡したため、神の加護のようなものは無いんだ、ということが分かり、一般人の宗教離れも進み、現在ではほとんど土着の信仰くらいしか残っていないというわけである。

「やっぱり 魔素暴走(エーテル・スタンピード) か……」

宗教に関する本は他にもあったが、特に得るものはなかった。

魔素暴走(エーテル・スタンピード) の説明も書かれてはいない。

この点では収穫無しだが致し方ないだろう。

「よし、こっちを見てみるか」

今度は一般の方の本棚に取りかかる仁。

こちらは更に得るものは少なかったが、そんな中で、ちょっと気になったのは『錬金術』に関する本である。

「すまん、ラインハルト、前にもちょっとだけ聞いたかも知れないが、『錬金術』っていうのはどういう分野なんだい?」

仁に問いかけられ、 魔法技術(マギエンジニアリング) の本を読んでいたラインハルトは顔を上げた。

「錬金術かい? そうだな、薬草から薬を作るのも錬金術だし、海水を熱して塩を取り出すのも錬金術だな」

その説明に仁は、要するに化学に相当するようだ、と当たりを付けた。鉛を金に変えようとする学問では無さそうだ。

それで興味が少し湧き、『錬金術概論』と題された1冊を手に取り読んでみる。

「ふうん、なるほどなるほど」

やはり、最初の頃は鉛を金に変えたりすることや不老不死の薬を作ろうという試みもなされていたらしい。が、現代では次第に実用的な学問へと変貌しつつあり、ただ呼称が元のままである、ということなのだ、というのが第一章。導入部である。

二章では鉱石から金属を取り出す方法の概要が、三章では薬草から薬液を作り出す方法が、というように分類されていた。それなりに面白い。

「ジンは錬金術に興味があるようだな?」

熱心に読みふけっている仁を見たラインハルトが面白そうに言った。

「ん? ああ、俺の世界では錬金術という分野はなくなっていたからな。興味深いよ」

「そうだったな、科学、と言ったっけ。ジンの知識の源となっている学問は」

「ああ、そうさ。でも、錬金術は、その科学に変化しつつある、そんな分野のようだな」

仁がそう答えると、ラインハルトはにこりと、少し悪戯っぽく笑った。

「ジン、実はトア・エッシェンバッハと言う人物がいる」

そこで一端言葉を切ったラインハルトは仁に向かって、

「そのトア・エッシェンバッハと言う人物が、我が国の錬金術における第一人者だ」

と、仁にとって興味深い情報を教えてくれたのである。

「トア・エッシェンバッハか……どんな人だろう? 会えるものなら会って話を聞いてみたいな」

仁がそう言うとラインハルトは仁の肩を叩き、

「それは叶えてやれると思うぞ、ジン。なにせ彼はうちの領地に住んでいるのだから」

と言ったではないか。 件(くだん) の人物が、ランドル家領地に住んでいると聞き、仁は近いうちに会えるな、と、楽しみがまた一つ増えたのを感じたのであった。