作品タイトル不明
11-29 印象
「やっぱり驚いたかい、ジン?」
皇帝陛下の前を下がった仁とラインハルトは先ほど仁が案内された応接室で寛いでいた。
「ああ、皇帝陛下が女性だったとはね」
「うん、それは別に秘密ではなかったんだが、慣例として外国には知らせない事になっていたんでね、僕としても口にするのは憚られたんだ。気に触ったら済まん」
ラインハルトが謝るのを仁は手で制した。
「いや、気にするな。俺としては、陛下があれほど率直に話してくれるとは思っていなかったから、そっちの方が驚きだよ」
今日会ったばかりの仁に、皇帝の継承に関わる事を教えた。そして何より、わずかにとはいえ国のためにという理由で仁に向かって頭を下げたこと。
「陛下は、『大切なもののために頭を下げることを厭いたくない』と普段から仰ってるからな」
「……」
「まあ、僕が饗応役になったからな、しばらくはここに泊まり、明日、明後日くらいはロイザートを案内しよう。そしてその後はまた相談、かな」
その後の夕食は豪華なものだった。
基本は仁とラインハルトの2人で、給仕役の侍女が各2人、執事が各1人付いた。
「大勢でなくて落ち着くよ」
とは仁のセリフ。
「はは、そうだろうと思って僕が進言しておいた。明日午前、多分宰相や魔法技術相が来るけどそれは我慢してくれ」
「まあ、なあ……国としての対応だろうからな」
そういう式典は気詰まりなので苦手な仁である。それを知ってか、ラインハルトは朗報も口にした。
「その代わりと言っては何だが、明日午後、例の巨大ゴーレムを見学できるようになったから」
「ホントか!」
その1点で仁は気分が上を向く。堅苦しい場は苦手だが、こと技術的な事になると話は別だ。
その後もラインハルトからいろいろと国や組織の話を聞きながら夜は更けていった。
ちなみに、『私がおりますから侍女は必要ありません』と礼子が主張したため仁に専用の侍女が付くことはなかったが、宮城内の案内などがあるので、控え室にいる数名の侍女を必要に応じて使って良いということで落ち着いたのである。
翌日14日。
朝食後、仁は宰相『ユング・フォウルス・フォン・ケブスラー』と魔法技術相『デガウズ・フルト・フォン・マニシュラス』の2人と話をしていた。ラインハルトも同席している。
「あらましはラインハルトから聞いているし、ハタタ、アンベルク双方の 互助会(ギルド) からも鳩で連絡が入っている」
今話しているのは宰相のユング。ラインハルトと似たような体格、つまり相当痩せている。
「貴殿は我が国に多大な貢献をしてくれた。よって、『名誉市民』として遇したい」
「ジン、我が国の場合、名誉市民になっても納税の義務は発生しない。ただし、あくまでも名誉称号だから、居住権は無い。が、いろいろな施設への立ち入りなどはかなり緩和される」
ラインハルトがそう補足説明してくれた。
「つまり、『例の』遺物を見るためには必要な措置なのさ」
最後の一言は小声だった。仁は、それで納得がいく、国宝、いや国家機密をおいそれとただの外国人旅行者に見せるはずがないから、この措置は必須なのだ、と。
「有り難くお受けします」
仁はそう答えた。宰相は無言で頷く。
次いで口を開いたのは魔法技術相のデガウズ。金髪碧眼の44歳。大きな鷲鼻が目立つ。
「ジン殿は我が国の 古代遺物(アーティファクト) に興味がおあり、とラインハルトから聞き及んでおります。今日の午後、お連れしようと思います」
「ええ、楽しみです」
仁はそう答えた。自分が作ったタイタンやダイダラとどう違うのだろう、と思うとわくわくする。
それからは雑談的な話に終始し、宰相は途中で抜け、結局午前中は魔法技術相との懇談会のようなものとなったのである。
そんな話の中からも魔法技術相は何かを仁に感じ取ったようで、
「ジン殿、貴殿を我が国にお招きできたことはまったく幸運だった」
と去り際にデガウズは呟いたのである。
仁が正当に評価されている、と感じた礼子は終始無言ではあるものの、機嫌は良かった。
黙って会話内容を老君へ流していたのである。
老君もその会話を分析して、
『裏はないようですね。今まで訪れた国の中でも良い方だと言えましょう。ですが、まだ完全に安心は出来ません。礼子さん、 御主人様(マイロード) をお頼みいたします』
と礼子に告げていた。
「もちろんです」
そう答えた礼子は、周囲に潜む 隠密機動部隊(SP) と共に、何があっても仁を守る所存である。
そんな事とは知らない仁は、
「いよいよ巨大ゴーレムというのを見る事ができるのか、楽しみだな」
と、わくわくしながらラインハルトと話をしていた。
* * *
いよいよその日の午後。
仁と礼子、そしてラインハルトは、宮城の地下に通じる階段を下りていた。
古代遺物(アーティファクト) である巨大ゴーレムは地下にあるらしい。
「楽しみだ」
本日何度目かの仁の呟き。
「はは、やっぱりジンだなあ。でもその気持ちは分かるよ。僕も初めて見せて貰える事になった時はそんな感じだった」
ラインハルトが初めて宮城にやってきた時の事だそうだ。
「ジン殿といえど、驚かれると思う」
先導しているのは魔法技術相のデガウズ。他には2名、警護の兵士が末尾を歩いている。
デガウスの手には魔導ランプ。 光の玉(ライトボール) より暗いが、デガウズの説明によると、宮城の地下では魔法が極端に使いづらくなるからだそうだ。
(何か発動を阻害するものがあるのか、それとも……)
地下3階を過ぎたところで、仁は空気が変わった事を感じる。というより、明らかに 自由魔力素(エーテル) が少ない。
魔法が使いづらいというのはこのせいだろう。一方で、蓄えた魔力を使う魔導具は正常に動作するわけだ。
(礼子、 隠密機動部隊(SP) には下まで来させるな)
誰にも聞こえないような小声であるが、礼子にははっきりと聞こえる。その礼子は頷くことで返事とした。
礼子には 自由魔力素(エーテル) が少ない場所でも大丈夫なように 魔力貯蔵庫(マナタンク) が組み込んであるが、 隠密機動部隊(SP) にはない。
このまま下まで付いてくると、動作が停止する 虞(おそれ) があるので、仁は止めたのだ。
そしてついに地下5階に到達した。そこには巨大な鉄の扉があった。
「この向こうにそれはありましてな」
そう言ってデガウズは 魔結晶(マギクリスタル) を手にして、扉の脇にある穴に嵌め込んだ。
するとゆっくりと扉が左右に開いていった。
(なるほど、 自由魔力素(エーテル) のほとんど無い場所でゴーレム動力の扉を動かすためには外部から 魔力素(マナ) を補給してやるという訳か)
仁は一目で開閉の仕組みを見破っていた。
「さあ、ジン殿、どうぞ中へ」
先に中へと入ったデガウズが手招きをしている。仁は早足で中へ。
「おお……」
そこには広い空間があった。おそらく、今いる地下5階から、地下3階くらいまで突き抜けた、吹き抜けのような部屋であろう。
そして、魔導ランプの薄暗い明かりに照らされて浮かび上がるのはまさしく巨大ゴーレム。
その高さは20メートルはあろうか。
仁が作ったタイタンよりも大きい。その点は素直に評価する。
が。
(鉄……か。もしくは鋼)
表面には赤錆が浮いており、腐食が始まっている。
おそらく地下5階という湿度の高い環境のせいだろう。鉄は湿気に弱いのだ。
形状はギガースに通じるものがある。つまり、下半身が異様に大きい。これはバランスを取るためと思われる。
(でも、重心が高い方が動的バランスを取りやすいって面もあるんだよなあ)
動かない置物なら、重心が低い方が確かに安定はしているだろう。が、動くものならどうか。
『これを動的安定性という』
定時制高校の物理教師の言葉が耳に蘇る。動きながらバランスを取るには、接地点と重心間が離れているほどやりやすいのだ。
『おまえら、掃除の時一度は箒を掌に何秒立てていられるかやったことがあるだろう。あれだ。箒ならできても、ブラシは難しいぞ』
振り子と同じ。接地点と重心までの距離が長いほど周期が長くなり、ゆっくり動くから、リカバリーしやすいのである。
(まあ、動くことはもう無さそうだけどな)
錆の様子からいって、内部の骨格が(あったとしても)かなり傷んでいて、連続動作には耐えられないように見えた。
「いつ見ても圧倒されるなあ」
素直に感激するラインハルトには悪いが、昨日拝謁した女皇帝の方が印象深かった、と思う仁であった。